紫輝
2024-10-26 13:39:28
2652文字
Public 水龍様と御伴侶の話
 

【リオヌヴィ】#06 ジンクスはねじ伏せるものだとお二人は笑った【原神】

もう何を恐れることも隠すこともないのでナチュラルにいちゃつく、現代から1000年後くらいの世界で健やかに国家元首とその伴侶やってるリオヌヴィの話その6。青少年たちと初恋の話です。押しも押されもせぬ国一の鴛鴦ふうふが初恋実らせて現在まで睦まじくいるって知ったら励まされる人たくさんいそうって 思って
この世界線の二人は普通に結婚式お呼ばれしてくれるんですが、その先でいつも同じ事言われてンンン…ってなっています。貴方たちの歩みの結果なので。慣れて(イイ笑顔)

※ご都合主義しかないので深く考えたら負けです

 この国は水龍に守護されし国だ。約千年程前、先代の守護者である水神様からそのお役を引き継いで以来、水龍様はこの国を導いて下さっている。御名おんなをヌヴィレット様。我々『人』と同じ姿で我々に寄り添って下さる、たっときお方である。
 水龍様には御伴侶がいる。この国が沈みかけた『予言の日』を、共に乗り越えた人だという。この国の秩序と工業の根幹である『メロピデ要塞』を今に繋がる形に整えた、当時の管理者。千年前よりその爵位を賜った人間はおらず、この先も現れないだろうと囁かれる『公爵』位を持つ方。水龍様と愛を交わしその生に寄り添う方の名はリオセスリ様。今日こんにちまでのこの国の平穏は、ひとえにお二方のご尽力によるものである。

***

 僕たちにとって、水龍様と公爵様は小さな頃から優しく、温かく、大きく自分たちを見守ってくれている、両親の次に『頼れる大人』だ。こんなことを言うと大人達は「畏れ多い」とかなんとか慌てるけれども、下手をすれば年に数回くらいしか会わない親戚よりも小さな頃から折に触れて声を掛けてくれるお二人の方が身近に感じるのは当然のことだと思う。勿論十代を半分過ぎた今はお二人の立場も払うべき敬意もきちんと理解しているけれどそれはそれとして。
 何百年もの間この国を護って下さっているお二人は、その知識の種類も量も広く深い。目線を合わせて、わかりやすい言葉を選んで、聞いたことには何でも答えてくれるのが格好良くて、何より話ができるのが嬉しくて、フォンテーヌの子ども達はよくお二人にまとわりつきにいくのだ。そう、ちょうど今の僕たちのように。
「『初恋は実らない』って本当だと思いますか?」
 休日、賑わう市場の一角。小休憩や屋台の軽食を楽しむために整備されたテーブルセットが並んだその場所で、いつものようにお茶を楽しまれていたお二人に僕たちは声を掛ける。お時間よろしいですかと聞いて、構わないと許可をもらって、それから皆でかけた問いに、お二人は顔を見合わせた。
「リオセスリ殿」
「あー、確か結構前からそういうジンクスがあるな」
「そうなのか」
「そうなんだ」
 どうやらジンクスの存在すら知らなかったらしいヌヴィレット様がふむと黙り込む。何を言うでもなくカップを傾けている公爵様は、きっとヌヴィレット様が何かを言おうとしているのがわかっていて、それを待っているのだろう。
「あくまで私個人の意見ではあるがそうとは限らない、と思う」
 思考を終えたらしいヌヴィレット様が首を緩く振り、涼やかなテノールが空気を揺らす。
「私に『恋』を教えたのはリオセスリ殿だ。私は学んだ『恋』をリオセスリ殿に差し出し、彼はそれを受け取ってくれた。私に関して言えば、「初恋が実った」と表現して差し支えないだろう。ゆえに、『初恋は実らない』と言い切ってしまうのは早計に思う」
 ほのかに熱を帯びた煌めく眼差しを受け止めた公爵様が、ゆったりと笑んでうなずく。
「俺も同感だ。夢を壊すような話にはなるが単に対人関係の経験値の問題って印象だな。夢のある話だと俺がここにいる事が反証になる。ヌヴィレットさんじゃないが、俺も初恋が実ったおかげでここにいるからな」
 え、と。よく通るその声をうっかり耳に入れてしまったその場の誰もが呟いた。公爵様がヌヴィレット様の御伴侶となった時のお姿を今に引き継いでいるのは国民全員が知るところだけれど、だとすれば推定三十代前半まで恋に全く興味がなかったことになるのでは。そんな公爵様に何があってこんなことに。予想もしなかったヌヴィレット様の初恋事情も相まって周囲がそわつきだす。通行人の歩みが遅くなり、呼び込みの声が心持ち小さくなり、お二人の奥側のテーブルの女性達が妙に真剣な顔つきになる中口火を切ったのは公爵様ではなかった。
「聞いていないき、君は私が初恋なのか?」
 何故か人々に交じって先の一文字を呟いていたヌヴィレット様が、どこか呆然とした声音で言う。
「あれ、言ってなかったっけ」
「一目惚れとしか言われていない!」
「そっか。じゃあ今言おう。俺の初恋はあんただよ、ヌヴィレットさん」
 俺の明星 みょうじょう
 それにおやまあとでも言わんばかりに首を傾げた公爵様がとろりと笑って囁いたその表情 かおと音律に、横で聞いているだけなのに顔が熱くなってしまった。格好いい。こういう男になりたい。公爵様はそういう、男の憧れを集めて形にしたみたいな人だと思う。純度の高い『格好いい』からの、ある意味二度目の告白を一身に受けたヌヴィレット様がほわりと顔を赤くして俯く。
その、そうか、うん。嬉しい」
 それからじんわりと笑って小さく呟いたヌヴィレット様は、何かに気づいたように顔を上げ、なんだか不満そうに眉を寄せた。
『星』とは手の届かぬものというのが通説だな」
 氷雪の瞳が瞬く。公爵様の手がヌヴィレット様の左手を取って、しろい薬指を飾るリングへその唇が落ちた。
「通説は通説だろ。俺は『星』を手に入れた幸運な男だったってわけだ」
 ヌヴィレット様の手を取ったまま、かの方を半ば見上げるように瞳を細めて公爵様は笑う。
 預けた左手で公爵様の手を握り返し、ならば良いのだ、と満足げに微笑むヌヴィレット様を見つめる眼差しは優しくてあたたかくて、やっぱり格好いい。こんな男になれたら初恋も実るのかな、なんて、友人達の誰からともなくため息をついたのだった。


で、そのあと勇気を出した結果が今日の結婚式です」
 着慣れない白いフロックコートに身を包み、その節はありがとうございましたと笑うと、お二人はあの日のように顔を見合わせる。自分たち以外にも周りには初恋を実らせましたというカップルが結構いて、お二人に背を押されたんですよと続ければお二人はむず痒そうに表情を崩した。
「あー、フォンテーヌ国民の幸福に貢献できたようで何よりだ」
「奥方を大切にな」
 寄り添うお二人に頭を下げて、パートナーの元へと向かう。
 ヌヴィレット様と公爵様のようにお互いを慈しみ、尊重し、末永く寄り添って生きていきたいと思います――お二人の姿はフォンテーヌの全てのカップルの憧れで、理想だ。不思議なところではにかみ屋のお二人はきっとくすぐったそうな顔をすると思うけれど、このあとのスピーチでは絶対こう言おうと、彼女と決めていた。