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紫輝
2024-08-31 16:51:47
4009文字
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リオヌヴィ
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【リオヌヴィ(と空)】結局居着いてしまったらしい【原神】
成り行きで助けたコホラ仔竜に懐かれるセスリ殿の話です。張り切るヌ様を添えて。小さきものに懐かれる推しカプが好きすぎるので書かずにいられなかった。
とた、とた、とた。とた、とた、とた。拙い足音が着いてくる。
それにじわりじわりと歩幅を詰めさせられながら、空は隣を歩く男と顔を見合わせた。
「
…
ねえ公爵」
「ん?」
「絶っっっ対君に着いてきてると思うんだけどどうするのあの仔」
「俺はあんたに着いてきてるモンだと思ってたが」
嘯く男に鼻を鳴らす。彼が龍
――
厳密にはナタの龍は”竜”と称するらしいが細かい事情を空はまだ知らない
――
に、特に『水龍』に並ならぬ思いを
抱
いだ
いていることなど空はとっくに見通しているし、背後でどたんっ! と音がするたびにぴくりと肩を震わせているのに気づいていないとでも思っているのだろうか。
「俺はトドメを刺しただけ。最初にあの仔の危険に気づいてカッコよく一発殴ったのは君」
「その仔」を見つけたのはトヤック源泉地の、水場から少し離れた林の中だった。肌を刺すぞわりとした、覚えのありすぎる気配にそこへ分け入ってみれば、この世のモノならざる黒い狼が今まさに「その仔」へ爪を向けているところだったのだ。男の
――
リオセスリの行動は早かった。ナックルを喚び出し、氷元素を纏わせて狼の側頭部へ叩き込む。超電導反応が辺りを蒼白く染める中、空はその眉間に剣を突き刺し狼を撃退したのだ。
仔の傍には親がいるもの。人間が近くにいては迎えにも来られまいと「その仔」に外傷がないのを目視してすぐにその場を離れたのだが、どうやら当てが外れたようで。
林を出た辺りで隠し方もわからないのであろう気配とひどく危なっかしい足音、同じくらい危なっかしい鳴き声に気づいて今に至るのだ。ちらと目をやった背後の足音の主はやはり「その仔」
――
コホラ仔竜だったが、アメヤルコの水域や『流泉の衆』の集落で見かける個体よりも二回りほど小さく見える。言葉のとおりの「生まれたて」なのかもしれなかった。仔がここまで巣と思しき場所から離れても親の気配がしないところを見ると、悲しいことだが親は既にこの世に亡いのかもしれない。
つかず離れず、転びながらも鳴き声を上げながら一生懸命に後を追ってくるその行動に空の胸はさっきからギリギリ言っているわけだが、リオセスリは何故行動を起こさないのだろうか。ぴしりと指摘してやるが、彼の反応は芳しくない。
「そろそろ源泉地の外に出ちゃうんだけど」
ナタの竜たちの縄張り意識についてはまだ詳しくないが、そもそも(恐らく)生まれたての仔竜の身で水もない洞窟だの岩場だのを越えるのは無茶が過ぎるだろう。そんなことはさせたくない。
「俺に言われても困るんだが」
同じ思いのはずのリオセスリはここに至っても追ってこられているのが自分であるという自覚がないようだ。やれやれと溜め息をひとつ。
「わかった、ならちゃんと確かめよう」
くるりと振り返る。その場に屈んで、ぴたりと止まったコホラ仔竜に向かって空は両腕を広げた。
「良い仔だね、こっちにおいで」
仔竜は首を傾げただけで動かなかった。ちら、と横へ目線を流せば、リオセスリは肩を竦める。
「
…
おいで、おちびさん」
きゅるる!
仔竜は今度は弾んだ鳴き声を上げてとてとてと近寄ってきた。空に倣うように伸べた腕の中へ収まった竜の仔に、リオセスリはなるほどと観念したように全身で溜め息をつく。
「水龍をオトすプロがいて俺についてくるわけないでしょ。異議は?」
「ない」
「よろしい」
「が、俺がオトしたい水龍はひとりだけだって弁明はさせてくれ」
「認める」
「ありがたい。
…
で、旅のプロとしてはこのおちびさんはどうすべきだと思う?」
仔竜を抱いて立ち上がったリオセスリが首を傾げる。これまでの行動と今現在彼の腕の中で安心しきったように、半ば液体と化しているようにすら見える仔竜の様子に、空はとりあえずこの小さな
客竜
きゃくじん
を
拠点
塵歌壺
に連れて帰ることを決めた。
壺中に転移したとき特有の靄に包まれるような感覚から醒めた先、見慣れた邸宅のドアを開けると、談話スペースには客人がいた。室内照明に煌めく銀髪と、流麗な雰囲気。空を認めて立ち上がり、お邪魔している、と告げた彼は、次いでリオセスリを見つめてその瞳をゆるめた。
「おかえり、リオセスリ殿」
「ただいま、ヌヴィレットさん」
ごく自然にその四文字を交わし合う二人の様に、少しだけ前のことを思い出す。
大切な人が自分の所に無事に戻って来てくれて嬉しい、っていう気持ちを表した言葉だもの。イレモノは関係ないと思うわ
――
シグウィン看護師長からそう聞いたヌヴィレットが
塵歌壺
ここ
で発した「
おかえり
出迎え
」を、初めて受けた時のリオセスリといったらそれはもう面白かった。彼の名誉のため詳細は伏せるが、看守の皆さんや囚人連中には見せられない顔をしていた、とだけ言っておく。
閑話休題。
本日も
恋人
つがい
への帰還の言祝ぎを恙なく終えたヌヴィレットが、リオセスリの腕の中を見てぱちりと瞬く。
「
……
その仔は?」
「公爵が助けたんだけど、懐かれちゃったみたいで」
「ほう
…
これがナタの
…
ああ、水の竜なのだな。確かコホラ竜、といったか」
「うん。その幼生」
興味深いとでも言うような口調でその正体を言い当てた彼にさすがと笑ったところで、翡翠の瞳を真っ直ぐにヌヴィレットへ向けていた小さな竜がするんとリオセスリの腕の中から這い出て、とてとてとヌヴィレットに向かっていく。
きゅい、きゅるる、くるるるる。愛らしい鳴き声は何かを伝えようとしているようだ。ふむと呟いたヌヴィレットは、竜の仔と目を合わせるように片膝をつく。
「確かに私は彼のつがいだが私は君の母君ではないし彼も君の父君ではない」
耳のような、ヒレのような器官の根本を指先で掻いてやっているヌヴィレットからやわらかく響くテノールに、隣のリオセスリが喉を詰まらせたような奇妙な呼吸音を立てた。厳然たる事実を口にするときの彼の中に、恥じらいの四文字は存在しない。空も、当然リオセスリもそれをわかっている。わかっているのと無反応でいられるのとは別なだけだ。
苦笑する空と自らの心中との殴り合いを繰り広げているのだろうリオセスリを置き去りに、ヌヴィレットと仔竜の交流は続く。
「彼から竜の匂いがした? そうだろうな。だが彼はれっきとした人間だ。匂いの原因は私だな。因果が逆なのだ。そもそも君の
齢
よわい
の竜が親もなしに巣の外へ出るなど本来ならばあり得ないはずだが、何故
…
」
「あー、ヌヴィレットさん、それなんだが」
すりりと身を寄せてくる仔竜を構ってやりつつ考察の体勢に入ろうとしたヌヴィレットを、内面との殴り合いに勝利を収めたらしいリオセスリが呼び戻す。空も一緒になってこれまでの経緯を説明し終えると、ヌヴィレットはその美貌に影を落とした。
「そうか
…
弱肉強食は自然界の常ではあるが、此度の状況はそれには当たらないな。水の龍王としてこの仔の力になってやりたい気持ちはあるが
…
」
「フォンテーヌの生態系と
…
ヴィシャップたちのご機嫌を損ねないようなら
メロピデ要塞
俺のところ
でしばらく預かってもいいが」
ある程度大きくなればナタで暮らしていけるだろ?
もう撫でてくれないのと言わんばかりにヌヴィレットを見上げる仔竜を抱き上げ、ついでにヌヴィレットも立たせて首を傾げたリオセスリの提案にしばし黙した彼の銀髪がさらりと揺れる。
「そうだな
…
この仔、だけであれば、問題はないだろう。ヴィシャップたちには私が話を通しておく。君の負担にはならないだろうか
…
?」
「俺から言い出したことだ。おちびさんが要塞暮らしを了承してくれるなら、にはなるが、仮の“父親”として面倒を見させてもらうとも」
きゅるる、と上がる鳴き声とふりふりと揺れる尾に、聞くまでもなさそうだと
氷色
ひいろ
と暁が絡んで融ける。
「リオセスリ殿の言うことをよく聞くように。フォンテーヌには君の近縁種が暮らしている。君を傷つけることがないよう言い聞かせておくが、無闇に彼らの縄張りに入らぬようにな」
きゅい! なる元気な応えを聞いたヌヴィレットは良い仔だと微笑みその指で仔竜の頭を撫でて。
「私も仮の“母親”として力を尽くそう。困ったことがあれば言いなさい。リオセスリ殿も、何かあれば知らせて欲しい。できる限りのことはしよう」
「水の龍王サマの庇護が約束されてるだけでこの仔の無事は確実だな。
…
ところでヌヴィレットさん」
「何だろうか」
「俺の気のせいだったら申し訳ないんだが、あんた随分
…
なんというか、張り切ってるな?」
力強く頷きながら言葉を紡ぐ声が心なし弾んでいるように聞こえたのは空の気のせいではなかったようだ。リオセスリが言うのだから間違いない。
「そうだな
…
『君のつがい』として役割を振られたのが初めてなので、その
…
少し、浮かれてはいるかもしれない」
そうだろうか、と首を傾げたヌヴィレットがふふとはにかんで落とす
無意識の爆弾
殺し文句
に天を仰いだリオセスリがその痩身を抱き寄せる。二人に挟まれる形になった仔竜が嬉しげにきゅるると鳴いた。
数季後『リフィー地区近郊で目撃情報の多発しているヴィシャップ亜種の調査』の依頼が舞い込んでくるとは夢にも思っていない今の空は、戯れる二人と一匹
――
いや一人と二匹
…
? の光景を「家族みたいだなぁ」なんて呑気な感想を抱きながら眺めていたのだった。
「ところで結局この仔、最初なんて言ってたの?」
「ああ
…
『ととのニオイがする、ととのつがい? ぼくのかか?』と」
「破壊力~
…
」
「破壊力?」
「ごめん気にしないで。公爵は頑張って息して」
ーーーーー
なおヴィシャップたち、王様と王配様が知らない仔を連れてきてちょっぴりショックだった模様(可愛い)
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