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紫輝
2024-07-27 20:37:21
2455文字
Public
リとヌと御仔の話
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【リオヌヴィ】あめふり【原神】
※二人に普通に仔がいます※
予報にない雨が降ってきたある日、歌劇場裏までセスリ殿をお迎えに行くヌ様と御仔の話。
――
あめあめふれふれ とうさんを
――
じゃのめでおむかえ うれしいな
我が仔の愛らしい声が、同じ歌を繰り返す。ひょこひょこ揺れる水色の傘。全体が海中を表現しており、傘の下から見上げればのんびりラッコと目が合うそれは息子のお気に入りだ。歌は稲妻に伝わる童謡らしい。先だって旅人の助力に稲妻へ出向いていたシグウィンから教わったのだという。易しいメロディと語感の良い歌詞で瞬く間にそれをマスターした息子は雨が降るたびとても楽しげにそれを口ずさむので、ヌヴィレットも、リオセスリもこの歌を覚えてしまった。そんな息子の『公演』を大きくなったらスポットライトが待ってるかもな、なんて呟きつつ目を細めて見守るリオセスリの様は完全に「親ばか」のそれだ。自分も同じようなことを思っているので彼を揶揄うなんてできないけれど。
「ピッチピッチ、ちゃっぷちゃっぷ、」
らんらんらん! 歌い終えると同時にぴょんと跳ねた小さな体が器用に水たまりを飛び越す。水龍の裔たるこの仔も水が好きで、本当は
飛び越す
「ぴょんする」
よりも
飛び込みたい
「じゃぶんしたい」
ようだが、父親との「こんな楽しい事他の子にバレたら勿体ないだろ」という『家族だけの秘密』に目を輝かせて以来、人目があるときは飛び越えるだけになった。その分人目がないときの勢いが凄まじいのだが。
「とうさま、じゃのめってなあに?」
水たまりの向こうでくるりと振り返った息子がそういえばと言わんばかりに首を傾げるのに、今か、と、ヌヴィレットは小さく笑う。追いついて、差し出される手を握り、記憶を紐解いた。
「じゃのめとは『蛇の目』、言葉の通り蛇の目を意味する。ここで言う蛇は神
――
魔神や精霊の使いであり、魔除けの意味が込められている」
「
…
??」
見上げてくるアイオライトに色濃い困惑を見て取って、ヌヴィレットはまたやってしまった、と思う。知識をかみ砕いて説明するのが、ヌヴィレットは苦手だった。適度に省いて、知りたがっていることだけを教えてやればいいのさ。興味が尽きないようなら都度深度を上げてやればいい
――
リオセスリは言うが、どこを省いて、何をどう平易にしたらいいのかを咄嗟に判断できない。この仔が今知りたがっていることはなんだろうか。少し考えて、歌の歌詞を思い出す。
「
…
ここでのじゃのめとは『蛇の目傘』のことだろう。稲妻の伝統的
…
昔からある傘で、木や竹の骨組みに、紙を貼って作られたものだ」
「かみ? ふにゃふにゃになっちゃうね
…
」
「水を弾く、特別な紙が使われているのだよ」
驚きに瞬く大きな瞳とぽかりと空いた口が愛らしい。自分の顔と頭上の傘を見比べる仕草に、フォンテーヌで蛇の目傘の見られる場所はあっただろうかと思案する。かの有名な『千織屋』の店主は稲妻出身と聞くし、手元にありはしないだろうか。それよりも旅人に依頼する方が確実だろうか。
「じゃのめ、いなずまにいったらみられる?」
きゅ、と力のこめられた手と好奇心と期待に煌めく瞳に、脳裏に小旅行の文字が翻る。つい先頃まで同じような境遇であった自分の言えた柄ではないがこの仔も生まれてこの方フォンテーヌを出たことがない。良い機会だし、三人で少しばかり遠出をするのも悪くないかもしれない。
「見られるとも。パパと相談して良い日を決めて、皆で見に行こう」
「
……
うん!」
心躍る思いつきにゆるりと目を細め答えるのにこくこくと頷いた幼仔がその日を待ちきれぬとばかり、繋いだ手をゆらゆらと振って大輪を咲かせた辺りでルキナの泉を通り過ぎた。歌劇場の正面階段を視界に入れた息子が目に見えてそわつきだす。早く早くと引く手に従って(アイフェちゃんこんにちは! と眷属への元気な挨拶を忘れないところはさすが自分の仔であると言えるだろうか)歩幅を少し広げ後に続けば目前に広がる見慣れた一本道。ここまで来れば息子はもう半分駆け足で、転ぶぞ、と掛ける声も今は聞こえていないのだろう。
一本道の先、メロピデ要塞へ向かう巡水船のポートへ繋がる昇降機乗り場から上がってきた人影を視認して、息子はヌヴィレットの手を離し(ついでに傘も放り投げて)その人影へと突進する。
「パパ!」
「レヴィ? と、ヌヴィレットさん?」
弾丸フジツボの一撃の如く飛び込んできた息子を難なく受け止め、なんで、と呟きながら巡らせた視線で雨に気付いたのだろう。息子と自分の顔を確かめるように見て肩の力を抜くリオセスリに、ヌヴィレットは小さく笑う。彼のやさしさが嬉しい。放り出された小さな傘を拾い、己の傘をリオセスリへ差し掛けてその頬へ唇を寄せた。
「この通り「水の上」は俄雨なのでな。この仔が「君が濡れては困るから迎えに行きたい」というのでこうしてやってきた次第だ」
しとしとと降る雨はフォンテーヌの風物詩とすら言える。ひどくもならずいずれ止むとわかっているそれだが、父親を思う我が仔の願いを無碍にする理由などヌヴィレットには存在しない。意を察したリオセスリがふっと笑んだ。
「そうか。ありがとな。傘は下に置いてきちまったから、お前ととうさまが来てくれなかったらびしょ濡れで帰らなきゃならないところだった」
くしゃりと頭を撫でる指先と父親からの言葉に、息子は誇らしげにくふりと笑う。
「ぼくのかさいれてあげるね!」
せがんだままに父親に抱き上げられて満悦な様子の息子の手へ帰った傘はその頭上で再度開いた。微笑ましい光景ではあるが、体格がよいリオセスリの肩は小さな傘からはみ出してしまっている。ふむ、と一考。
彼は気にしないだろうしこの程度の雨がその健康を害せるとも思えないけれど、自分が気になってしまうので。
ぱちん、と指を鳴らせば、水元素のショールがその肩を覆う。ありがとう、と声なく細まった瞳が告げるのに笑みを返し、ヌヴィレットは伴侶の隣にそっと寄り添うのだった。
※御仔の名前はレヴィアタン=レヴィ君 です ひねりなくてごめんね
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