紫輝
2024-07-13 12:40:15
2148文字
Public リオヌヴィ
 

【リオヌヴィと鍾離】ステッキはリミッターらしい【原神】

セスリ殿に関する(悪意ある)事物への沸点が低いヌ様とドラゴンムーブに慣れてきたセスリ殿とヌ様のそれに隠れがちなセスリ殿の『愛』に触れて楽しくなっちゃう鍾離先生の話。ラブコメのつもりだったんですけどリ殿のせい(言い方)でシリアルになっちゃった

 ひらりと揺れる黒い外套、がしゃりと無機質な音を響かせる得物。見慣れた精悍な面差しに表情はなく、実際にこちらが視界に入っているのかいないのか、硝子玉のような虚ろな瞳がただこちらを向いていた。
 今回の未調査秘境は『パーティを分断して幻影をぶつけてくるタイプ』だったようだ。今ここにいない残りの二人も、この秘境のどこかで同じように自分たちの幻影と相対しているのだろう。心配はしていない。彼らの強さは折り紙つきどころか桁違いなので。むしろ不安なのはこちらと言えるかもしれない。
 やっとの思いで(ヌヴィレットは「予行演習だ」なんて言っていたけれど)『岩王帝君』の幻影を打ち破ったところに現れた『公爵』に、せめて休憩が欲しかったなと心中で嘆く。どう考えても連続で戦端を開いていい相手ではないのだ、あちらの編成が。いやまあ一人ずつ来てくれるだけ有情なのかもしれないけれども。
 俺から仕掛けるのでいいかな、と、ヌヴィレットにかけようとした声は音になる前に消えてしまった。ここにいる人から聞こえたとは思えない音が耳に入ったからだ。意識が確かに聞き覚えのある「それ」の、出どころが隣の彼であるという事実を全力で否定したがっている。
 ヌヴィレットが『公爵』を、その目を見た瞬間、ちっ、と、響いたそれ。きっとフォンテーヌの誰もが――メリュジーヌたちは勿論フリーナでさえ――聞いたことがないであろう、いかなる時も優雅で、悠然とした態度を崩さない彼から発された、舌打ち。
……醜悪な」
 次いで空気を揺らしたその声は、正しくテイワットの元素のひとつを統べる王者の威圧感をもって響いた。横で聞いているだけなのにプレッシャーがすごい。圧し潰されそうだ。これを直接向けられたなら、敵意などその瞬間に霧散してその足下で許しを請うだろうと確信する。
 龍王の威圧 そんなものを真正面から浴びてなお平然としているソレはやはりただの影なのだろう。わかりきっていたことだけれど。
 す、と上がった指が天を指し、振り下ろされる。瞬間、凄まじい量の水が影に向かって降り注ぎ、その姿をかき消した。ヒエ、と、引きつった悲鳴がこぼれる。煌めき、弾け、散った水の先には何もなかった ・・・・・・。影を形作っていた、何らかの力の片鱗すら。
 銀髪を彩る二筋の青と纏った装束が輝く様は『遺龍の栄光』を遺憾なく発揮したそれだ。はて元素反応など起こっていなかったけれどと、過ぎったそれは瞬時に気付かなかったことにした。
 胎海を宿した瞳が水たまりを冷たく見下して、そして。
「私のリオセスリ殿はもっと良い男だ」
 それはもう不快だと、不機嫌だと、感情を悪い方向で大いに揺さぶられたらしいヌヴィレットの、あまりの鋭さに攻撃力さえありそうな声がそう紡いだ――


「ははは、君のつがい殿はいつも熱烈だな」
「オソレイリマス
 その一部始終を目にできたのは幸運だったのか不運だったのか。少し離れた場所で足を止め、笑みを隠さず隣の偉丈夫に水を向けると彼は片手でその顔を覆っていた。いつも悪いな旅人、と聞こえる声に、ある種の『慣れ』が滲む。
「容赦が無くて複雑か?」
 深い溜め息に首を傾げれば、顔を上げた偉丈夫はいいやと否を返じてきた。
「似てなさ過ぎて怒ってくれたんだろう? それだけ惚れてもらえてて嬉しいね」
 男冥利に尽きるよ。にやりと笑んだ偉丈夫が己を追い越しヌヴィレットの元へ歩いて行く背を見つめながら思い返す、合流する前の出来事。
 自分たちの前に現れた幻影は旅人とヌヴィレットで。ふうん、と呟いた偉丈夫は旅人の幻影を自分に任せると逡巡も見せず、氷元素の刃でその喉を掻き切った。驚愕に目を見開いた幻影が消えていく腕の中を見下ろして、彼はやっぱり幻影だよな、と呟いたのだ。あのひとなら褒めてくれるだろうから、と。
 その言葉と行動に思わず瞬いた自分に、まがい物でもあの顔を殴るのはちょっとな、と方向音痴の回答を寄越す偉丈夫に先の発言の真意を問えば、彼はその天藍石を瞬いて。
「俺がヌヴィレットさんを手に掛けるとしたら、それはヌヴィレットさんが大事にしているものを、あのひと自身が壊してしまいそうになったときだからな」
 決意を宿した瞳でそう答えたのだ。
 腑に落ちた。なるほどそれでと。岩の如く磐石で、海の如く深い想いが眩くて目を細める。つがいにここまで想われている。あの水龍は本当に幸せだろう。
 人とは強い生き物だ。何度でも実感させられる。その感嘆を込めた溜め息に「でもやっぱり大分堪えるなこれ」と少々力ない声が被さったのに、早く合流しようとその肩を叩いたのだった。
 ああ、リオセスリ殿。
 偉丈夫に気付いたヌヴィレットの声音に、先までの棘はない。
 怪我はないだろうか。無事で何よりだ。私の方は君とは似ても似つかないモノを処理したくらいで五体満足だ。私の幻影が出た? まさかうつつを抜かしてなどいないだろうな――出会った頃に比べれば随分とわかりやすく表情の変わるようになった水龍と、彼を手慣れた様子であやして宥めるそのつがいを見つめて、貴金の龍は肩を振るわせる。
 ああ、相変わらず、本当に、水龍とそのつがいは面白い――と。