紫輝
2024-05-25 16:10:49
3513文字
Public 水龍様と御伴侶の話
 

【リオヌヴィ】#5 後日草神様からお詫びの品が届いたらしい【原神】

もう何を恐れることも隠すこともないのでナチュラルにいちゃつく、現代から1000年後くらいの世界で健やかに国家元首とその伴侶やってるリオヌヴィの話その5。夜会で「御伴侶」の身分を知らないレディに粉かけられるセスリ殿を目撃した淑女の話です。
本国では二人がつがいなのは常識だけど外国には「水龍には伴侶がいる」ってことしか知られてないかもしれない。リ殿イケメンなので夜会で声かけられたりしているかもしれない。それに対して堂々と「私のだが?」って言いにくるヌ様可愛いねっていうアレでした。セスリ殿ならなんとでもできるの知ってるけどでもつがいとしては面白くないのでって いう
ここまでやって「慌てちゃった」って二段構えしてくるのがヌ様の凄いところですすーぐセスリ殿コロしに来る

※ご都合主義しかないので深く考えたら負けです

 この国は水龍に守護されし国だ。約千年程前、先代の守護者である水神様からそのお役を引き継いで以来、水龍様はこの国を導いて下さっている。御名おんなをヌヴィレット様。我々『人』と同じ姿で我々に寄り添って下さる、たっときお方である。
 水龍様には御伴侶がいる。この国が沈みかけた『予言の日』を、共に乗り越えた人だという。この国の秩序と工業の根幹である『メロピデ要塞』を今に繋がる形に整えた、当時の管理者。千年前よりその爵位を賜った人間はおらず、この先も現れないだろうと囁かれる『公爵』位を持つ方。水龍様と愛を交わしその生に寄り添う方の名はリオセスリ様。今日こんにちまでのこの国の平穏は、ひとえにお二方のご尽力によるものである。

***

 色とりどりの硝子が緻密な計算のもと配置された屋根が頭上を覆う。同じ技術で作られたフロアランプはこの国を象徴する蓮の花を咲かせ、やわらかな光を振りまいていた。どのような技術なのか、広間の中央では噴水が、硝子屋根から降る月光を反射してきらきらと歌っている。そんなエキゾチックで麗しい、スメールでの夜のこと。
 華やぐ夜会の中心地から離れた会場の片隅で、私は一組の男女を見つめていた。
 恵まれた体躯を包む黒い装い。差し色の赤が精悍な面差しに映える偉丈夫。対するはこの夜への並ならぬ気合いを感じさせるドレスに身を包み あでやかな笑みを浮かべる迫力のある美女だ。あの顔には見覚えがあった。確か最近スメールで頭角を現し始めた香辛料の商人だ。
 左手に持った扇子で慎ましやかに口元を隠した彼女が言の葉を紡ぐ。「お会いできて光栄ですわ」から始まって。自らの事業についてとその展望、少しばかりの支援を賜りたいと歌う彼女は暝彩鳥もかくやの勢いだ。偉丈夫は適度に相槌を打ちながら彼女が囀るに任せている。綺羅綺羅しく飾り立てられた目をすいと流し、彼女は続けた。
「貴方のような素敵な方と、もっとお近づきになりたいわ」
 ――それを耳にした瞬間、淑女の嗜みを捨てて割り込みそうになった。
 夜会の場はビジネスの場であり、男女の出逢いの場だ。ビジネスの一環として別室へ消えるカップルもいる。自分もフォンテーヌ貴族だ、それは重々承知しているし各々の行動を留め立てするなどそれこそ品位に欠けることだと理解している。けれどあの偉丈夫だけは。あの方だけは駄目だと心が叫ぶ。だってあの方は我らが水龍様の、大切な御伴侶様であらせられるのだから。
 偉丈夫に――公爵様に『仕事の話』を持ちかける人間は数多い。実際そのお眼鏡に適った幾つかのプロジェクトには公爵様の融資が――個人名義だと彼の方は明言している――入っているという話も聞く。面会を取り付けて本格的に交渉する前にこういった場でお近づきになっておきたいという人間は沢山いるのだった。『仕事の話』を持ちかける人間の中には勿論女性だっているけれど、本国で彼女のような『条件』を提示する人は皆無だ。あの方の隣が誰のものであるかフォンテーヌの国民なら皆知っているし、彼の方以外にその場所に相応しい人を私たちは知らない。
 夜会の開始を告げられる前にお二人のお名前とご身分は紹介されていたはずなのだが、彼女はその場にいなかったのだろうか。だとすればこの状況を作り上げてしまったのは私たちだ。つい先ほど公爵様にご挨拶させていただいたから。その時に『公爵』の部分だけを、彼女は拾ってしまったのかもしれない。そもそも公爵位はあの方以来フォンテーヌでは叙爵の記録がないのだけれど、その辺りも含めてまだまだ勉強不足と言うことだろう。
 それはそれとして。
 どうしよう、品位を捨てて割り込むべきだろうか。いまだなんの反応も見せていないが公爵様のことだからきっと何かお考えがあるはず、であれば下手に口を出すのも。
 静かに慌てる私の鼻を、澄んでいながらどこか甘い、水の香りが抜けていく。
 ――失礼、レディ。
 その香りの如く透き通った声が響き、何かを言いかけて口を開いていた公爵様の言葉を遮り。
 細くしなやかな腕が公爵様の右腕に絡む。
「彼は私の伴侶だ」
 凛、と空気を震わせた言葉に、彼女が息を呑んだのがわかった。
「商いの話は大いに結構だが、『距離』を見誤らぬよう注意して欲しい。貴女のような才ある商人には不要の戒飭 かいちょくかもしれないが」
 どこまでも穏やかに声は響く。気持ち公爵様へ声の主の頭が傾ぐと、その銀糸に華を添える髪飾りがしゃらりと音を奏でた。
 その音が呼び水になったようにヌヴィレット様、と彼の方の御名を呟いた彼女は、すぐさま「分を弁えぬ振る舞い、大変失礼いたしました」、そう述べて腰を折り、その場を辞していく。その姿は程なくして人々に紛れて消えた。
やはり君はもっと「顔を売る」べきだと私は思うのだが」
「「売れてない」方が色々やりやすいってあんたも納得してくれただろ?」
 あんたとフォンテーヌを守る盾は大きければ大きいほどいいんだから。
 微かに眉尻を下げたヌヴィレット様へ、「助けてくれてありがとう」、そうゆったりと笑む公爵様の言葉の意味は私には解せないけれど、きっと公爵様は人知れずヌヴィレット様と我らが祖国のためにその力を行使してくださっているのだろう。メロピデ要塞を統治していたかの時代からずっと。
 ほう、と、胸のつかえを吐き出すように、ヌヴィレット様が息をつく。絡めた腕を抱きしめるように、四分の一歩、お二人の距離が縮まった。
「ヌヴィレットさん?」
「君が、」
 喧騒の中でも不思議と通りの良い声が呟く。
「君が女性に秋波を送られているところを久方ぶりに目にしたのでその、少し、慌ててしまった」
 思わず。
 思わず手にした扇子を力の限り握りしめてしまった。あの優雅な所作と言葉で御伴侶様を窮地から救った――公爵様ならばご自分でなんとでもされたかもしれないけれども――方が口にした最初の言葉が。「慌ててしまった」。不敬を承知で、淑女としての慎みを一旦脇に置いて、娯楽小説の言葉を借りるならば「あまりにも可愛いがすぎる」のではないだろうか。
 ふは、と、公爵様が笑う。その唇がヌヴィレット様のこめかみに軽く触れて、左手が腕に絡む彼の方の手を包むように握って。
「ヌヴィレットさんっていう最高の伴侶がいるのに余所見なんて勿体ない事しないよ」
 俺の水龍は可愛すぎて困る――はちみつを落としたロイヤルミルクティーのようなとろりと甘い声音が落ちる。声色と、内容と、公爵様の つややかな美声。揃ってしまえば破壊力は推して知るべしで、真正面から聞いたなら誰もが崩れ落ちるだろう。立っているのがここでよかった。
 「真正面から聞いた」ヌヴィレット様がぴくりと背を跳ねさせ、宝石の瞳が一瞬見開かれ、視線がちらりと周囲を走って、美しい曲線を描く眉が寄るのに公爵様は肩を振るわせる。
「リオセスリ殿」
「うん」
「君は時々わかってやる」
「うん」
 ごめんなと落ちるあまり誠意の感じられない謝罪に小さく吐息を漏らしたヌヴィレット様は。
腕だけでは足りなくなってしまう」
 どうしてくれるのだと言わんばかりの口調で呟いた。違う意味で崩れ落ちそうだ。扇子が小さな悲鳴を上げる。
 公爵様はと言えば、ぱちりと氷色の瞳を瞬いたあと、左手で顔を覆って深いため息をついていた。心中が察せてしまう。完全になんて烏滸がましいことは勿論言わないけれど。
「風に当たりに行かないか、ヌヴィレットさん」
ああ、良い考えだ」
 公爵様の提案に、意図を汲んだのだろうヌヴィレット様がゆるりと微笑んで。
 黒と白の一対がカーテンの向こうに消える。
 そこまでを見送って大きくため息をついた。安堵と、良質の映影を観たような満足感がほんの少し、いや正直を言うと割と結構。偶然とはいえ素敵な光景を――盗み見なのであまり褒められたことでないのは理解している――目にできたことと、御伴侶あってのお二人なのだと確信を更に強固にできた心がどうしようもなく躍ってしまう。どうかいつまでも幸せであって欲しい。
「マイレディ、そろそろ僕の腕にも、お二方への思いのほんの少しだけでも向けて欲しいのだが」
 諸々の感情でどきどきと高鳴る胸に任せて微笑みを浮かべていると、傍らから苦笑交じりの声がかかって。
「ご、ごめんなさい貴方!」
 そこで初めて、一連の出来事の間サスペンス映影を見る時の如く夫の腕を抱きしめてしまっていたことに気づいた。