紫輝
2024-05-19 13:12:02
3422文字
Public リオヌヴィ
 

【リオヌヴィ+スキュラ】今代様は少々危うい【原神】

なれど愛い。王様と謁見の叶ったスキュラの話です。龍種に対する夢と浪漫と妄想を詰め込みました。このあと半分孫感覚になるんだろうなと思うと大変微笑ましい。いっぱい会いに行ってあげてほしい。
Q.お爺ちゃんイコル体だけど泡とか出せるの?
A.出そうと思えば出せることにしておいてほしい

※まだまだスキュラお爺ちゃんまわりに関する解釈が甘いので細かいことは目をつぶって下さい

 ――スキュラ、遊びに来たよ。調子はどう? 久方ぶりに目にした太陽の色を映したような、黄金の少年が言う。変わりなく健やかだと答えると良かったと笑った少年は、今日は友達を連れてきたんだと後方へ手を振った。
 揺蕩う蒼銀と、母なる胎海を宿す瞳。人の身に収まっているのが不思議なほどの強大な龍の気配と、渦を巻く水元素。
 ゆっくりと近づいてくる『友達』の姿に、失くしたはずの血潮が凄まじい速さで巡るような、心地が、して。
「おお……おお…………!」
 嗚咽は往日の海を揺らし、金管楽器のような低く深い音を響かせた。少年の隣、己の顔のそばで動きを止めた『友達』に向かって、老ヴィシャップはその頭を下げる。
「拝謁を賜り恐悦の至りにございます、陛下。我が名はスキュラ、先代様の逝去ののち、プリンケプスとして御一族を率いておりました。本来ならばワシが出向かねばならぬところ、陛下に足労をかけるとは誠に不甲斐ない思い。申し訳もございませぬ」
いや。彼に話を聞き、貴方に会いたいと我が儘を言ったのは私の方だ。こちらこそ、一族の尊老とこうして言葉を交わせる事を光栄に思う。スキュラ殿」
 若輩者ゆえ、これからもご指導頂ければ幸甚だ――そう微笑んだ若き新たな龍王から、現代の様々な事柄を聞く。人の世ではヌヴィレットと名乗り衆の水の僭主の民たちを庇護している事、裔は地上で健やかに暮らしている事、自身は『メリュジーヌ』なる新しき種族を眷属と定めた事。大きく様変わりしているらしい地上の話は興味深く、若き王の人に寄り添おうとする姿勢に過去の己を見て、老ヴィシャップはこぽりと泡を吐いて笑う。き王が生まれたようだ、と。
 今後も折を見て訪っても良いだろうかという問いに一も二もなく是を返して、先よりの気掛かりに触れる。
「ところで、陛下」
「なんだろうか」
「あの若者は御配下でございますか?」
 視線を向けた先、黄金の少年の隣で狩猟刀エイを見事に氷漬けにしている黒い青年へ水を向けると、王はぱちりと胎海の瞳を瞬いた。
「いや。彼は、その、……友人だ」
「なるほど、御友人でしたか。お許し頂けるのならあの若者と話をしてみたいのですが、構いませぬか?」
「私に貴方の望みを妨げる権利はない」
 距離があるから呼びに行こうと止める間もなく身を翻し離れていった王は、黒い青年と何事か言葉を交わす。青年の顔がこちらを向き、水を蹴ったのを見て取ってちょいとひれを振れば、召喚された海流が青年を包み込んでこちらへ引き寄せた。一足飛びで間近に迫った青年が澄んだ蒼の中に月の色を宿した不思議な色合いの瞳をぱちくりと瞬いて驚いているのに思わずふぉふぉと笑うと、青年はやれやれと肩を竦める。水龍は規格外ばっかりだな、と呟いた声を聞き取って、近づいたことでより鮮明になった『気』の色に確信を得て。
「申し訳ない。少しばかり気が逸ってしまってな」
 ウン千年振りに人と話すのでついとまずは謝罪を送ると、青年はなら仕方ないとからりと笑う。好感が持てる。大変よろしい、と心中で頷きながら言葉を交わした青年は、ここには及ばぬまでも深い水の底で、衆の水の僭主の民が暮らす都――今はフォンテーヌと呼ばれているらしい――の秩序のり役を務めているらしい。そんな大層な役目じゃないさと若者は笑うが、都の秩序を保つための機関は都が大きければ大きいほど重要であること、若者の働きは王の助けとなっているはずだと確信を持って告げると、若者はその瞳を細めて笑う。――そう有りたいと思ってるよ。
 ひどく穏やかにこぼされた言葉に、こぽこぽこぽ、と気泡が昇る。それらは嬉しいと輝いていた。ああ、あの若き王は、誠に。
「良き御伴侶を、得られたようだ」
「うん?!」
 歳に似合わぬ泰然とした態度はどこへやら、驚愕に声をひっくり返した若者に、老ヴィシャップはそのひれを揺らす。
「貴殿は氷の僭主の眼差しを受けておられますな。なれど御身に宿る水の気配はそれと同等に濃く、何より強い龍の気が混ざり合わんばかりに貴殿の魂に寄り添っております」
 記憶にあるつがいたての同胞たちが持っていた、懐かしくも愛おしい輝き。それをまた目にできるとは夢にも思っていなかった。
 ここまでの深い繋がりは数百年ものだ、ヴィシャップ同士であれば。青年は人であるからそこまでの時を王と過ごしているはずはなく、であればあの若き王のそれだけ深く大きく強い想いが、この若者へ注がれているという証左に他ならない。
「ぞっこんなのですなぁ」
 睦まじくて大変よろしいと笑う老ヴィシャップに、片手で顔を覆った青年の唇から大きな気泡が昇る。どうやらため息をついたようだった。耳が赤く染まっている。人間がこうなるときは確か、そう、照れているのだったな、と、初々しくも思えるその様にこぽりとまたひとつ気泡を昇らせて。
「アビサルヴィシャップの長老としては、大事な王様の伴侶が人間でもお許しいただけるものなのかね」
 やがて顔を上げた若者が探るようにそう口にするのに呵呵と笑う。
「我々龍の一族が最も重きを置くのは魂の在り方。あの方が貴殿のそれに寄り添いたいと願ったのであれば、ワシに否やはありませぬ。魂のあとについてくる気性やら器量やらに屈託がある場合も勿論ございますが、その点においても貴殿には何の憂慮もありませんな」
 王の助けになれていたら嬉しい、先にそう口にして微笑んだそれだけで、己としては十二分であるので。
 足りぬと言われれば人間の物差しで測れば恵まれているのだろう体躯であるとか、人には不慣れであるはずの水中にあってなおその高さを感じさせる戦闘能力であるとか、王の統べる街での方に任じられた秩序の守り役という務めを立派に果たしている誠実さであるとか、まあ色々なくはないけれども、そんなものは全て後付けだ。そもそも。
「先に申し上げた通り、陛下は既に貴殿を選ばれたのです。人間の世界には何やらしがらみがあると聞きますが、それは我らには預かり知らぬこと。陛下がそう決めたのならワシは我々は、それを言祝ぎお二人を支えるまで」
 最早本来の龍体すら失った身ではあるが、望まれるのならば昔話くらいは語れよう。それが少しでも、若き王とその伴侶の助けになればと今は願うばかりだ。
「人と交わり生きているあの方には、ワシになど思いもつかぬような御苦労も有りましょう。我が王をどうかよろしくお頼み申し上げる。王配殿下」
……ああ。あんたの認めてくれた魂を懸けて誓おう」
 老ヴィシャップの願いに真っ直ぐな瞳で頷いた青年が直後に『殿下』はガラじゃないと頬を掻いて笑う。のに、これだけは譲れませんなぁと笑み返して。
リオセスリ殿、スキュラ殿」
 互いに往日の海を揺らしていると、黄金の少年と共に趨勢を見守っていた王がするりと青年の傍へやってきて、その好音 こういんで己と青年の名を紡ぎ。
 各々を伺うように見て口を開く。
その、水を差してしまったならすまない。話は一区切りついたのだろうか」
 躊躇いの色濃い問いかけにはてと浮かぶ疑問符。直後目に入る、青年の装束の端を控えめに握る指。小さな意思表示に言いようのない微笑ましさを覚えた。
「お陰様で有意義な時を過ごせました。感謝いたします、陛下」
「そうか。それはよかった」
「どうかまたこの老体に会いに来て下され。王配殿下と、お二人で」
「おうは?!」
 こぽりと笑んで口にした言葉に、先の若者のように頓狂な声を上げた王が肩を跳ね上げる。
ヌヴィレットさん、繋ぐならこっち」
 装束が引かれたのに気づいた青年がそこへ目を落とし、その瞳を融かして。裾を引く手を掬って指を絡め微笑むのに、王は白皙を淡く染めた。
「リオセスリ殿、」
「俺は何も言ってない。が、秒でバレたぞ」
「御伴侶様を『友人』と紹介されたのにはこのスキュラ、些か傷ついてしまいましたなぁ」
「す、すまないその、」
 くつくつ、からから、青年と作るさざ波に王がぽつりと起こした「貴方に芳しくない反応をされたらどうしようかと考えてしまって」なるもうひとつの波に、どうかくれぐれもと青年へ、再度の念押しをすることになった。