紫輝
2024-03-14 19:02:28
2006文字
Public リオヌヴィ
 

【リオヌヴィ】告白カーテンコール【原神】

あのひとのことだしバレンタインデーとか認識しかしてないだろって軽い気持ちでチョコレートフレーバーの紅茶供したらホワイトデーに私も好きってお返事されるセスリ殿の話です

 リオセスリは首をひねっていた。「このあと少し時間をもらえないだろうか。先日の件の返答をしたい」。しばし待つように言い残して席を外しているヌヴィレットからはそう言われたが、肝心の『先日の件』に全く心当たりがない。そもそもどの「先日」なのかすらまず不明だった。この日までに持ち込んだ案件についてはその全てに答えを得ているとリオセスリは認識しているが、もしかして忘れているものがあるのだろうか。だとすれば失態になりかねないとこうして唸っているわけだが成果は芳しくない。
 記憶の引き出しを片っ端から開けては閉めるのを幾度か繰り返して諦めのため息をつく。思い当たることが何もない。
 となれば正直にどの件か聞くしかない。のひとの前ではできる男でいたいなどと言うちっぽけな矜持で業務の円滑な遂行を妨げるなどそれこそあってはならないことだ。
 己が不甲斐なさに密かに落ち込んでいたリオセスリに戻ってきたヌヴィレットが差し出してきたのは書類ではなく小さなギフトセットだった。ナルボンヌエリアで見かけたことのある店のロゴが銀色で箔押しされた黒い箱に青いリボンがかかっている。なんだかこの人っぽい色合いだな、などと考えつつ促されるままに開けた箱の中には晶螺マドレーヌが行儀よく並んでいた。隣には色とりどりのキャンディが入った瓶が収められている。
「ええとあんたに菓子を貰うような特別なことをした覚えがないんだが」
「これをもって一ヶ月前の返答とさせて欲しい」
 すまないがと前置いて意図を尋ねたリオセスリに返されたのはそんな答えで、一ヶ月前、と鸚鵡返して記憶を遡る。一ヶ月前。二月のこの日。十四日。――まさか。
 そんなまさか。六文字が脳内でぐるぐると巡る。
 二月十四日。世間でバレンタインデーと呼ばれ街がどこか浮き足立つその日、リオセスリはヌヴィレットにとあるフレーバーティーを供した。彼は件のイベントを認識はしていても気に留めはしないだろう。それでいい。元より想いを遂げるつもりもない。そんな風に考えつつも目に入ってしまってつい買い求めてしまった、ほのかにチョコレートの香りを纏うそれを、彼は気に入ってくれて。
 珍しくポット二つ分の紅茶を二人で干したのだった。
 託すつもりなどなかった想いを看破されていたのだとしたら。
 その上であれだけ喜んでくれて、わざわざ「今日」、「返答として」、この菓子達を選んだのだとしたら。
 あまりにも己に都合が良すぎる。し、遅まきながら自分の行動が青臭すぎて恥ずかしくなってくる。
「本当はあの紅茶を口にした日に返事をしたかったのだがバレンタインデーに贈られた想いはこの日に返すのが作法と聞いたのでな。こうして一ヶ月待ったのだ」
 そんな作法あったかな、とは思ったが、待ち遠しかった、とうつくしい瞳をゆるめるそのひとを前に何を言えるわけもなく、問うまでもなくこれを渡された意図もわかってしまって。
「バレンタインデー知ってたんだな、ヌヴィレットさん」
「人の世について教示してくれる友人達がいるのでな」
 私も日々学んでいるのだ。
 代わりに口にした間の抜けた言葉にヌヴィレットは笑った。どこか得意げにも見えるそれに可愛いなぁ、なんて浮ついた感想を抱きながら、箱を飾っていたリボンに触れる。
 意気地のない告白はどうも愛しの君に伝わってしまっていて。
 喜ばしくも熱烈な想いを菓子の形で返された。
 大団円の恋愛劇だけれど、男というものは惚れたひとの前では格好つけたい生き物なので。
 カーテンコールをさせてもらってもいいだろうか。
私は何か間違えただろうか」
 回していた思考に声が割り込む。目を上げた先の美貌にうすらと影が落ちていてすぐさま首を振った。
「違うんだ。自分の腰抜けっぷりに呆れてたのさ」
 「うっかり伝わってしまった」想いを対価にこのひとからの想いを受け取ろうなんてぼったくりが過ぎる。今更にはなってしまうが筋は通させて欲しい。そんな思いで席を立ち、ヌヴィレットの傍らへ跪く。その手をとって唇を寄せ、階調の瞳を見上げた。
「ずっと好きだった。俺の恋人になってくれないか」
 空気を揺らした言葉にぴくりと震えた指先が、きゅ、とこちらの手を握り返して。
「喜んで。私も君の恋人になりたい」
 好きだ、と、微かに揺れる声が囁いた。淡く染まった顔でとろけるように笑うそのひとがあまりにも愛おしくて思わず胸の内に囲ってしまう。すこしくるしい、と、笑み混じりに言われるまで、そうして鼓動を重ねていた。

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※お返しのお菓子の意味に関しては某百貨店のホームページから拝借しました 好き/特別な関係になりたい を想定していますが諸説あるのかも
このヌ様リオセスリ殿も私のこと好きなんだ!ってそわそわ花飛ばしながらこの日を迎えたんだと思うと本当に可愛い