紫輝
2024-03-02 09:15:49
2499文字
Public リオヌヴィ
 

【リオヌヴィ+空(ヌ様不在)】余計なお世話とわかっていても【原神】

言いたくなってしまうことはあるもので。ヌ様の好きを見せつけられた空くんがセスリ殿の背中を押しに行く話です。弊ワットのガイアニキとセスリ殿は飲み友です 壺でよくお喋りしてる

「ヌヴィレット、思っっったより君のこと好きだよね」
 びっくりした。
 舌の上の甘さを転がしながら口にすると、溜めたな、と笑った偉丈夫がその心はと首を傾げるので。
「『法典』もらったでしょ」
「ああ、うん。もらったな」
「ヌヴィレット、それのために休み取ったんだって」
 パイモンに先を越されて終ぞリアクションを取れなかった衝撃すぎる事実を音にする。海灯祭を見てみたかった、現地の水を味わってみたかった、とも言っていた彼の今回の弾丸旅行での重要度の比率は不明だけれど、まさか陶芸体験のために他国に出向いたそもそもの理由が目の前の偉丈夫にウィットに富んだ贈り物をするためとは思わないだろう。半日の休暇を「称賛すべき大進歩」と評される彼の人にそこまでさせたのだと、これだけは伝えておかねばと、謎の使命感に駆られて空はここにいる。
 果たして察しの良すぎる偉丈夫がごほごほと咽せたのによしと心中で拳を握って茶碗――まさか公爵の執務室でこれに触れるとは思わなかった――を傾ける。
 鼻を抜ける緑の香りと微かな渋み、舌に残る甘みまで、現地で口にしたそれと遜色ない沈玉仙茶(件の『松蘿仙芽』だろう)を味わいつつ「十缶丸々渡されたんでしょ」、そう告げれば、胸をさすっていた偉丈夫が深いため息をついた。
「耳が早いな」
「全部引き取ってあげる辺りほんとヌヴィレットに甘いよね君」
「まああんな顔見せられたらなぁ」
 脱力した笑みがだらしなく見えない。美形って得だなぁ、なんて思いつつ、「あんな顔」に思いを馳せるのはやめておく。ヌヴィレット本人から聞いた偉丈夫とのメモリアルで割とお腹はいっぱいだ。これでくっついてないなんて信じられない。
「頼られてるよね」
「嬉しい限りだ」
 なんて、本当に誇らしげに言う偉丈夫の様を、ヌヴィレットは知らないのだろう。知ったとしても「君にそう思ってもらえて私も嬉しい」くらいさらっと言いそうだけれど。
 時として自分を挟んでお互いに対する好意で殴り合いを始める自称ビジネスパートナー達に常々感じている、勘弁してほしいさっさとくっついて幸せになれというやけっぱちの激励を、飲み頃になった松蘿仙芽と共に飲み下す。
ヌヴィレットさんは随分あんたに気安いようだ」
 やっぱり美味しい。あとでおかわりを淹れてもらおう――そんなことを考えていた空の耳を打った声にはほんの微か、爪の先ほどの羨望が感じられた。
「そうかな? ヌヴィレットにとって二人目の「個人的な付き合いのある人間」だからかも」
 恐らく、いや確実にヌヴィレットにとってめちゃくちゃ気安い人にそんな事を言われましても。出かけた台詞を飲み込んで答える。考えてみればヌヴィレットがわざわざあんな言い方をしたのも妙だな、と思わなくもない。一度目はともかく、二度目のあれは果たして必要だったのだろうか。要塞の管理者が頭の切れる人物であるとこちらに伝えるだけなら個人的な付き合いがある事を蒸し返す必要はなかったのでは。
「一人目がいるのか」
 もしかして牽制だったのかな。無自覚の?うわぁ。
 気づかなければよかったことに気づいてしまったかもしれない。なんて事をしてくれたんだと十秒前の自分に恨み言を呟いていると聞こえる常より低まった声。
 ヒヤリと肌を指す冷気に、やれやれとため息を一つ。
 ぴ、と目の前の偉丈夫を指差してやれば、彼は口元に手をやりふいと顔を背けてしまった。俺かぁ、とこぼれ落ちた言葉がなんともこそばゆい。ヌヴィレットのことになると思いの外余裕がなくなるようだ。
「押したらいけると思うんだけど、俺」
 遠回しに言うのはやめた。動詞と接続詞しかないそれが誰に対するどんな行動なのかなんて、目の前のこの人がわからないはずはないのだから。
 気持ちいいくらいストレートに来たなと笑った偉丈夫が小さく息をつく。
「あのひとが俺に向けてる感情 ものが友情なのか愛情なのかはっきりするまでは動けない。ここに至るまでそこそこ苦労したからな」
 今の関係を壊したくない、臆病者の誹りは甘んじて受けようと肩を竦められてしまえば、空に言えることはもうない。多分絶対ヌヴィレットは偉丈夫の――リオセスリのことが好きだけれど、その好きは懐くと読むのでは、と問われてしまえばそうかもしれないと思ってしまうのも事実だ。ヌヴィレットの純粋培養っぷりを甘く見てはいけないと、今の空は知っている。
「余計なこと言ってごめん。あ、そうだ。さすがに十缶は多いよね? 一缶くらいなら引き取れるけど
 愛情だったら丸く収まるんだけどなぁ、なんて勝手なことを考えながら、どこかに山になっているだろう松蘿仙芽の消費に助力しようかと提案してみると、リオセスリは首を振り。
「せっかくの申し出だが遠慮しておくよ。あのひとが俺にくれたものを他人に渡すのはちょっとな」
 ゆるりと瞳を細めてそう言った。相変わらず愛が深い。し、人によっては重いと顔を顰められそうではあるけれど、ヌヴィレットがあれだけふわふわなのだ。やっぱりリオセスリくらいの人が彼にはぴったりなのではと思ってしまう。
「そっか。じゃあこれだけ置いていかせてよ」
 テーブルへ置いた紙束(小冊子と言った方が近いだろうか)にひとつ瞬いたリオセスリは、そこに書かれた文字を視線でなぞって首を傾げた。
「何かのレシピかい?」
「そう。俺もね、「買いすぎた」知り合いからお裾分けされてさ。飲みきれる量じゃなかったから料理に使って消費したんだ」
 その時のメモ書き。
 少し前の苦労を思い出して若干遠くを見つめてしまった空に、リオセスリは「ありがたく活用させてもらおう」と愉快げに肩を揺らしたのだった。
 「ヌヴィレットさんから相手が俺の恋愛相談をされたと公爵殿が顔を覆っていた」とガイアから聞かされたのがそのしばらくあとで。
 「リオセスリ殿と恋仲になった」とふわふわを通り越してふわっふわな、彼が草龍だったなら花でも舞っていただろう調子でヌヴィレットから報告されたのが更にそのもう少しあとだった。