紫輝
2024-02-12 17:25:57
2536文字
Public 水龍様と御伴侶の話
 

【リオヌヴィ】#02 躊躇いが欠片も見えなかった【原神】

もう何を恐れることも隠すこともないのでナチュラルにいちゃつく、現代から1000年後くらいの世界で健やかに国家元首とその伴侶やってるリオヌヴィの話その2。海灯祭すごすぎて手が滑りました。ヌ様が贈った石ば…法典に関する話です。
石板だもの2000年くらい軽く保つよね+体験で作るサイズならそんな大きいものじゃないよね=見えるところに飾って時々癒されてて欲しいな まで思考が飛んでしまいました。ずっと幸せでいてくれ

 この国は水龍に守護されし国だ。約千年程前、先代の守護者である水神様からそのお役を引き継いで以来、水龍様はこの国を導いて下さっている。御名おんなをヌヴィレット様。我々『人』と同じ姿で我々に寄り添って下さる、たっときお方である。
 水龍様には御伴侶がいる。この国が沈みかけた『予言の日』を、共に乗り越えた人だという。この国の秩序と工業の根幹である『メロピデ要塞』を今に繋がる形に整えた、当時の管理者。千年前よりその爵位を賜った人間はおらず、この先も現れないだろうと囁かれる『公爵』位を持つ方。水龍様と愛を交わしその生に寄り添う方の名はリオセスリ様。今日こんにちまでのこの国の平穏は、ひとえにお二方のご尽力によるものである。

***

 足元から上がる硬い音。揺らぐ視界。空気を切り裂く文房具――まるでコメディ映影のような出来事が、まさか自分に降り掛かろうとは夢にも思わなかった。
 整理整頓。この四文字を、今日ほど噛み締めたことはない。
 痛む後頭部と、散らばった文房具。床に転がるマシナリーの部品と思われるボルト。それから、
「絵に描いたような転倒だったな。大丈夫かい?」
 目の前で左手を差し出してくださる公爵様。その右手が赤く染まっているのに気づいて、差し伸べられた手を取るのも忘れて青褪めた。
「もっ、申し訳ありません公爵様! 私のせいでお怪我を!」
 うん?と首を傾げた公爵様は、ああ、と呟いて苦笑する。
「今のは誰がどう見ても事故だ。君が気にすることじゃない。これに関しては俺がちょっと冷静さを欠いただけさ。これも君のせいじゃない」
 手が先に出た、と私を立たせてくださった公爵様は言う。救急箱を抱えて駆け寄ってくる同僚にその手を預け肩を竦めた公爵様がどこか安堵したように見つめる先には石板があった。石板。モノだけ見れば執務室にはあまりそぐわないような気がするけれど、何故かそこにあるのが当たり前であるように静かに公爵様のデスクの傍に鎮座していたそれ。今のいままで全く気づかなかった。周りの皆も似たような顔をしているから同じような印象を抱いたのだろう。
 床に落ちていたボルトに足を取られてひっくり返った私の手から飛び出した文房具の中にはハサミもあった。それが一直線に飛んだ先にその石板があって、公爵様は――この方の動体視力と反射神経ならハサミを掴んで止めることだってできただろうに――石板を守るようにその手を差し出したのだ。結果としてこの方の手のひらに切り傷を作るに至ってしまった。あまりにも申し訳ない。
「歴史のある物なんですか?」
 集まってきていた同僚達が首を傾げるのに、あるっちゃあるな、と瞳をゆるめる公爵様のお顔と声音で察する。これはヌヴィレット様に関係のある物なのだろう――と。まじまじ見れば石板にあしらわれているのは天秤の模様だ。この国を、ひいては最高審判官であった頃のヌヴィレット様を象徴する、私たちにとっては馴染みのあるそれ。
「失礼する。リオセスリ殿は
 お話聞かせてくださいと誰かが口にする前に、凛とした声がその場に響く。室内の全ての目が向いた先に立っていたヌヴィレット様は、すっ、と目を細めて真っ直ぐに公爵様へ歩み寄った。
「怪我をしているのか」
 血の匂いがする。呟いたヌヴィレット様に、全員が心中で感嘆する。これだけ血の通った生物がいる中でよく流された血の持ち主がわかるな、と。やはり御伴侶は特別なものなのだろう。
「あー、ちょっとヘマをしてな。かすり傷だから」
 対する公爵様は笑みを浮かべる。曰く「冷静さを欠いた」のが負傷の原因だと知られたくないのかもしれない。公爵はカッコつけなのよと、定期検診を担ってくれているシグウィン看護師長が教えてくれた。
「君が戦闘に出たとは聞いていない。この組織に君に届く斬撃を放った者がいたのか?」
「いやその」
「私には言えないことなのか?」
あーー……
 職種とご自身のその戦闘スタイルから負傷することは珍しい職場ではないけれども、「公爵様が」「戦闘でもないのに」負傷したとなればヌヴィレット様も心配なさるだろう。食い下がり、食い下がり、しょんぼりと(不敬とわかってはいるが現状を表せる単語はこれ以外にないと思う)眉を下げるヌヴィレット様に、公爵様が観念したかのように呻く。
「申し訳ありません、ヌヴィレット様!」
「?」
「公爵様のお怪我の原因を作ったのは私なんです!」
 のを見て、これ以上黙っていることなどできなかった。
というわけなんです。その石板は、歴史のあるものだからと」
 今し方ここで起こった珍事件を聞き終えたヌヴィレット様は、「石板」の単語と実物を見て何故か眉を寄せる。
……君は……まだ持っていたのか。これを」
 絞り出すような声に、公爵様はくつくつと肩を震わせて。
「そりゃな。あんたの初めての冗談が形になったモンなんだから」
 聞けばこの石版は、約千年前、ヌヴィレット様が公爵様へウィットに富んだ贈り物をと考えて手ずから創られた物らしい。なるほど「歴史があって」「ヌヴィレット様に関係のある物」だった。
………いい加減忘れては、」
「忘れないよ。あんたに関することはな」
 これを作るために当時ワーカホリックの化身と言われていたヌヴィレット様が半日の休暇を取り、しかもメロピデ要塞まで届けに来たのだと、公爵様がそれはもう愛おしげに話してくださる間押し黙っていたヌヴィレット様の力ない呟きに返る彼の方の声といったら、その表情も相まって煮詰めたジャムのようだ。一般市民が耳にしたら気絶しかねない。なお私たちも耳慣れているわけではない。視界の端に胸を押さえる同僚が見えた。
……
 それを真正面から受けたヌヴィレット様が頬を淡く染めてうぅ、と唸る様は(口には出せないし出さないけれど)大変お可愛らしい。しばらく社内の話題はこれで持ちきりだろう。
 後日「備えの必要性を痛感した」と公爵様により耐火・耐衝撃性能のあるケースに丁重に収められた石版を見たヌヴィレット様が物凄い顔をしていて愉快だったと、公爵様が笑いながら話してくださった。