紫輝
2024-01-13 01:28:57
2890文字
Public リオヌヴィ
 

【リオヌヴィ+フレミネ】睡に添う人【原神】

セスリ殿の肩で熟睡するヌ様を見てびっくりするフレミネ君の話です。ヌ様はネテルダケ。もっとふんわりした話のつもりで書き始めたのにセスリ殿に懐くフレミネ君可愛いなの気持ちが抑えきれなくて真面目な話になっちゃった 以前書いた『眠り護る人』(https://privatter.net/p/10653397)とふんわり繋がっていますが未読でも問題ありません(多分)

 塵歌壺、なる不思議な空間の、とある居室の前に立ち。
 コンコン、とノックを二回。
「失礼します
やあ、フレミネ君」
 そろりと室内を覗き込むと、いつものように穏やかな声が迎えてくれ――はしたのだけれど。
 その人の様子はいつもと違った。ソファに掛けるその人の隣に、今日はもう一人。清流の如き銀の髪と、玲瓏なるかんばせ。不思議な色合いの瞳を長い睫毛に縁取られたまぶたの向こう側に隠し、腰に回ったその人の手を抱えるように握って、その人に身を預けて穏やかな気息を立てる人がいた。
……えっと」
 前と逆だなぁと、これはこれで絵画のような光景を前に立ち尽くすフレミネに、絵画の一部――リオセスリがちょいちょいと手を振る。
「入ってくるといい。この状態なんでなんのお構いもできないが」
 また招かれてしまった。おずおずと絵画の前へ腰を下ろしたフレミネに、ほいとばかりに押し出されたのは小ぶりのタンブラーグラスだ。すぐ横には氷元素を纏わせたピッチャーがある。深い橙の水色に、もしかしなくても中身はこの人の好む紅茶なのだろうと分かった。
「好きなだけどうぞ。すまないな、お客人にサーブさせて」
「いっいえ、あの、ぼく出直したほうが、」
 絵画のもう一部――フォンテーヌ最高審判官ヌヴィレットがこうして眠っているところなど見たことがない。多忙を極める人だと聞いているし、知ってもいる。その休息を破ってしまったらと考えるとあまりにも居た堪れない。
 そんなフレミネに、リオセスリは氷色の瞳を細めて吐息で笑う。
「こうなったらしばらく目を覚まさないから大丈夫さ。それと君の気配は海に近いとヌヴィレットさんが言ってたが、俺もそう思う。このひとの障りにはならないと思うよ」
 そうして囁かれた言葉にどきりとした。海を司る人と海に一番近い人にそう評されたのだと思えばなんだか誇らしい。深呼吸をひとつして、アイスティーを頂くことにする。足しましょうかとそっと申し出てみると、助かるよと差し出されたグラスと合わせて二杯分、ピッチャーを傾けた。
「美味しい
「それはよかった。良いアールグレイを手に入れたんで、水出しにしてみたんだ」
 普通に淹れたものより口当たりがやわらかいだろ?と楽しそうにリオセスリは言う。紅茶は奥が深い。
「水出しだと尚更水選びも大事になりそうですよね」
「ああ。ヌヴィレットさんがそれはもう生き生きと選んでくれるよ」
「ふふ」
 当然だがこれがよく当たるんだと笑う穏やかな表情に釣られて肩を揺らしたところで、リオセスリの肩口に懐いていたヌヴィレットが小さく唸った。む、だか、んぅ、だか、表現しづらいそれは幼いきょうだい達が朝方むずかる時のそれに似ていて、この人もこんな風になることがあるのだなぁと驚く。
「はいはい、ここにいるよ」
 リオセスリはと言えば、慣れた調子で右手に力を込めたようだった。唯一動くのだろう親指がとんとんと、あやすようにヌヴィレットの手を撫でている。
……やっぱりお疲れですよね」
 幸いにも眠りを破るには至らなかったらしいその波を見送って呟く。踏み込んで聞いてはいないけれど、『予言の危機』後、ヌヴィレットが輪を掛けて忙しくなったのは知っている。この人でなければとっくに押し潰されてしまっているだろうことも。
「ぼくにも何かできること、ないんでしょうか」
 自分はあまりにも非力だ。分かってはいるけれど、母国のためにこうして心を砕いてくれる人のために何かしたいと思ってしまう。
「心強いな」
 くしゃりと顔を歪めたフレミネに、リオセスリは噛み締めるようにそう答えた。
「君はマシナリーに関連する知識や面白い視点を多く持ってる。借りたい知恵がたくさんあるんだ。今俺が考えていることが実現すれば、少なくともこのひとの負担の三分の一は減らせると思ってる」
「え?! えっと、あの、そんな大切なプロジェクトの役に立てるとは、」
「君一人に全部押し付けようってわけじゃない。考えるのは俺を含めた皆だ。そこに少しだけ君の力も借りたい。そういう話さ」
 どうしよう、思ったより大きな話になっている。もしかしてあまりにも大それたことを言ったかもしれないと下げた眉に、リオセスリは明るく笑う。だから協力してもらえたらとても助かると。君のようにフォンテーヌの未来を担う子がそう思ってくれるのが何より嬉しいと。
 やるべきことは山積みだが、まずは『これ』をなんとかしたい。決意を滲ませたテノールが耳を打つ。
 ぼくで力になれるなら。口を開こうと息を吸ったフレミネの前で、リオセスリが微かに寂寥感を滲ませて。
「俺がいつまでここにいられるかも分からないしな」
 その言が空気を揺らした瞬間、ヌヴィレットの柳眉が寄り、閉じたままの眦が下がる。ただでさえ白い指先が色を無くしていた。よほど強く力を込めているのだろう。指を絡められているリオセスリが、いて、と呟いて宥めるように左手での人の指を撫でる。
「悪かった。謝るからそんな不安そうな顔しないでくれ、ヌヴィレットさん」
 消えたりしないよと囁くやわらかな声にひとまず安心したのか少しだけ力の抜けた表情に愛おしげに瞳を細めたリオセスリが、フレミネへ向き直り。
「このひと妙に鋭いんだよな、この手の話」
 起きた時は覚えてないんだけどなとばつが悪そうに笑うので、援護射撃を試みてみる。
「そんな悲しいこと言わないでください貴方はフォンテーヌに必要な人です。ぼくぼくも貴方にはまだ教わりたいことがたくさんあるんです」
 マシナリーの話だって聞きたいし、元素の扱い方だってこの人から学ぶことは多い。この間リネットに褒められた紅茶の淹れ方だってちゃんと聞いてみたいし、それから、それから。
「はは、君のような優秀な子にそう言われると照れくさいな」
 必死に言葉を紡ぐフレミネに、リオセスリはありがとう、と笑ってくれる。大きくて、深くて、やさしい人だ。ヌヴィレットとは違う意味で、海のような。だからきっと。
 フレミネは顔を上げる。
「それにヌヴィレット様が一番頼りにしてる人は貴方だから。貴方にはここに居てもらわないと困ります」
 そんなリオセスリだから、ヌヴィレットもこうして微睡めるのだろう。きっとこの人の傍は、彼の人にとって唯一――少なくともフレミネはそう思っている――『最高審判官』でなくていい場所なのだ。
そう見えるかい?」
「はい」
 先日の、ヌヴィレットの膝で眠っていたリオセスリの事を思い出す。フォンテーヌを裏と表から支えてくれているこの人たちが安らぎを得られる場所が互いの傍だなんて、なんだかいいな、と思う。とても素敵な関係だと思います、とは恥ずかしすぎて口にできなかったが。
「そうか。そいつは光栄だ」
 ありがとう、と、再度口にされる言葉とともに頭を撫でられて知らず前のめりになってしまっていたことに気づいたけれど、あたたかい手のひらがなんだか心地良くて、フレミネは小さく笑った。