紫輝
2023-12-23 22:07:07
2226文字
Public リオヌヴィ
 

【リオヌヴィ+フレミネ】眠り護る人【原神】

ヌ様のお膝で安眠しているセスリ殿にびっくりするフレミネ君の話です。
いつも見てたセスリ殿の寝顔が実は珍しいものだったことを知ってつい隠しちゃうヌ様が見たくてヌ様の情緒レベルをちょっと上げたら長年連れ添った夫婦みたいな雰囲気になってしまって予想外
セスリ殿とフレミネ君は仲良くなれそう。なってくれ。うちでは仲良いです。ヌ様と仲良くなれる素質もあると思ってるのでその内ヌ様とも仲良くなって欲しいです(願望)

 塵歌壺、なる不思議な空間の、とある居室の前に立ち。
 コンコン、とノックを二回。
「失礼します
 そろりと室内を覗き込むと、「やあ、フレミネ君」と穏やかな声が迎えてくれる――のが常だった。
「君は
 今日はいつもと違っていたけれど。
 ふわりと持ち上がりこちらを見る美貌。宝石のような瞳が驚いたように見開かれる。いつでもしんと落ち着いた、深海のような人。有事の際は嵐の海のように、対する者を裁く人。
「あっ、」
 前触れなく えっする最高審判官の姿に思わず立ち竦んだ。見慣れた紺碧の上衣を脱いでいても、この人の持つ雰囲気はフレミネには少し強すぎて。立ち尽くすフレミネを、最高審判官――ヌヴィレットがそっと手招く。
「こちらへ。それと扉を閉めてくれると嬉しい。喧騒が入ってきてしまう」
「あ、はい! すみません」
 招かれてしまった。おずおずと室内へ足を踏み入れ、扉をそっと閉める。さざめきが消えて、室内が静けさを取り戻した。ありがとう、と囁いたその人の視線が自身の膝へ――正確にはその上に寝転がる人の顔へ――向けられたことで現状を理解する。
 尋ね人はどうやら休息中のようだった。強い光を放つ氷色の瞳は今は閉じられ、逞しい胸が緩やかに上下している。吐息は恐ろしく静かだが、その眠りはそれなりに深く思われた。
「お休み中、なんですね」
 フレミネでなくてもきっとぱちくりと瞳をまたたいただろう。
 この人がこうして眠っている姿を見るのは初めてだった。旅人に助力するにあたりやむを得ず野宿となった経験が何度かあるが、この人はその度に率先して見張りを引き受けて周囲へ気を配ってくれる。フレミネたちのように一般的な括りでは「子ども」と表される同行者が多いときは尚更で(勿論侮られているわけではないことはちゃんとわかっている)、そんな時は「態度の割に繊細なんだね、あの人」なんて憎まれ口を叩くリネを手伝って拠点周りのトラップを少し多めに仕掛けるのが常だった。休めましたかと聞いてもいつもはぐらかされて、分不相応と理解しつつ心配していたのだ。
「ヌヴィレット様の傍だと安心して眠れるんでしょうね」
「ふむ万が一の備えとして充分な力を持っていると自負はしているが」
 と言うような事を四苦八苦しながら、己の中の緊張と戦いながら話したフレミネに返った言葉はそれで、思わず泣きそうになってしまった。そういえばヌヴィレットは大真面目からくる天然ボケだよと旅人が言っていたっけ。こういうことか。
「あっそういう意味じゃなくて、いえヌヴィレット様が強いことはわかっているんですけど、えっと」
冗談だ」
 伝えたいことは別にあるのだと、伝わって欲しいそれをなんとか表現する言葉を探すフレミネに、まるでほころぶようにやわらかく、ヌヴィレットは笑って見せた。
「う……
 どうやら揶揄われたらしい。やられた、という気持ちと、見たことのない表情に驚いた気持ちに、あまりにも綺麗なそれに見惚れてしまった気恥ずかしさをまぶした複雑な感情が頬に血を集める。
 視線の逃げ場を探して俯いた先で、公爵は相変わらず寝息を立てていて。
 思わず安堵の息をついた。
 この人は期待するなよなどと言いながら、手の届く範囲のものを力を尽くして守ってくれようとする人だとフレミネは思っている。母国でもそうして、裏から皆の日常を支えてくれているのだろう。そんな人が、こうして休める場所がある。それがわかって、なんだかとても嬉しい気持ちだった。
「よかった」
 心からの声がこぼれたのとほぼ同時に、その人の顔に白い手が翳される。逃げていた視線をヌヴィレットへ戻せば、眩しそうだったのでな、と囁き。
「あの、急ぎの用事ではないのでまた次の機会を待ちます」
 公爵へ落ちる穏やかな眼差しに、これ以上騒ぎ立てては眠りを破ってしまうかもしれないと、遅まきながら思い至る。
「リオセスリ殿が起きたら君が訪ねてきたと伝えておこう」
「はい。よろしくお願いします」
 フレミネの申し出に小さく頷きを返してくれたヌヴィレットにぺこりと頭を下げて、フレミネはそっとその場を後にした。


 お邪魔しました、と行儀良く告げて静かに部屋を辞した少年を見送ってしばし。
子供じみたことをしてしまった」
「俺は嬉しかったけどなぁ」
 ぽつり、と落とした呟きに、くつくつとさも楽しげな笑い声が返る。目を覆っていた指先に羽で触れるように口づけられて、覗いたフロスティブルーは上機嫌ですと語っていた。
「この間看護師長に、「ヌヴィレットさんのところにお泊まりした次の日は目に見えて顔色が良い」って言われたんだよな」
 だからフレミネ君の言ってたことは間違いじゃない。
 指を絡めるように繋ぎ直してにぎにぎと遊びながらリオセスリは喉奥で笑う。ちょっと格好つかないが多分気が抜けてるんだろうな、と。
 ふわりと、心が浮き立つ。想いを寄せた人が自らの傍で心安くあってくれる、そんな事実を知って喜ばない生き物などいるだろうか。思わず力を籠めてしまった指へ揶揄うように、愛おしげに唇を寄せられるのが無性に恥ずかしいが、それには気づかない振りをして。
「では今後も君の穏やかな眠りを守れるよう努めよう」
 取り繕ってはみたものの隠し切れず喜色が滲んでしまった表情と囁きに、リオセスリはよろしく頼むよとその瞳を融かした。