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紫輝
2023-12-18 20:37:44
2984文字
Public
リオヌヴィ
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【リオヌヴィ/現パロ】同棲カウントダウン【原神】
誕生日に何が欲しいか聞いてみたら合鍵って言われたセスリ殿の話です。喫茶店マスター×リーマンを想定していますが隠し味程度。
このヌ様はセスリ殿に胃袋掴まれてたりお付き合い始めて健康的になったって言われたりしていますがその辺りはいつか形になったらいいなの気持ちです
「欲しいもの?」
十二月二週目の某日、カウンター席の隣で首を傾げるヌヴィレットに、リオセスリはああと応える。
「もうすぐ誕生日だろ。色々悩んではみたがどれもしっくりこなくてな。邪魔になるようなものを押しつける事になるくらいなら聞いたほうが早いかと思って」
恋人は名のある企業の役職付きである。自分の手が届いて彼のそれが届かない物は無いに等しいのだろうと思えば何を贈るのも躊躇ってしまうというものだ。いっそ消え物、とも考えたが、それでは自分が寂しいので却下した。記念日に贈るものだ。この人の手元に残るものがいい。
放った問いに、ヌヴィレットは困ったように口元へ手をやる。
「欲しいものと言われても
…
衣食住に困りごとはないし、君も傍に居てくれるから、現状私は満たされているのだが、
…
あ」
「
………
何か思いついたのかい?」
危うくコロされそうになりつつ平静を装った自分を褒めてやりたい。この人は前触れなく軽率にこういう事を口にするので困る。心臓がいくつあっても足りない。ちなみに既に過去何度かコロされている。どうでもいい話だが。
「君の家の鍵が欲しい」
「鍵」
ひとつまたたいたヌヴィレットがぽそりと呟く。のに、思わず頓狂な声が出てしまった。純粋に予想外だっただけで他意はなかったのだが、胡乱に思われたとでも感じたのか彼は慌てたように言葉を重ねる。
「その
…
最近、ひ、一人の家で過ごすのが、寂しく感じてしまい
…
そういうときに君の家で、君の存在の欠片でも感じられたら良いと、思って。室内の物には触れないしプライバシーを侵害することはしないと約束しよう」
やはり難しいだろうか。
終わりに近づくにつれ早口に、かつもにょもにょとらしくなく窄まる言葉は、けれど余すところなくリオセスリの耳に届く。この内容を、淡く染まった頬と、今にも泣き出しそうにすら見える表情でこの世の何よりも愛している人から繰り出されて天を仰がない男がいるだろうか。いたら見てみたい。情緒に欠陥があるんじゃないかと伝えたい。全力で。
俺の愛しい人がこんなに可愛い。脳内で天を仰ぎながら、リオセスリはゆっくりと息を吸う。そうでもしないと無様を晒しそうだった。答えを言う前から肩を落としてしまったヌヴィレットの、こぼれ落ちた銀髪を背に流しながらその頬に触れ、階調の瞳と己のそれを合わせ。
だらしなく緩んでいると思われないように願いながら笑ってみせる。
「わかった。そんなもので良ければ是非貰ってくれ。当日までに準備しておくよ」
それくらい明日にでも渡すよと言いかけて思い直した。殊更に家事を無精しているつもりはないが、この人の目に行き届いていない部分を見られるのは避けたい。
楽しみにしている、と、もうプレゼントを手にしたように瞳を輝かせる麗しい人に頷いてやりながら、今日から大掃除だなと決意を固めた。
そんなやり取りからはや一週間。店に貸切の札を掛け催したヌヴィレットのバースデーパーティーは終始和やかな空気で終わりを迎え、両手に溢れるプレゼントにまだ少しばかり戸惑っている彼を伴って帰宅して、こんな夜に相応しいミルクティーを一杯。ヌヴィレットがほう、と息をついたところで小箱を取り出す。
「約束のプレゼントだ。誕生日おめでとう、ヌヴィレットさん」
「ありがとう。開けてもいいだろうか」
そわそわと音がしそうなほど華やぐ雰囲気に思わず吹き出してしまった。なんの変哲もない鍵をそんなに楽しみにしてくれていたのかと思えば愛おしさも増すというものだ。
「それはもうあんたのだからな。どうぞご随意に」
リオセスリが頷くまでをきちんと見届けてから、白い指先が小箱へとかかる。紙ごと取っておく気かな、と思ってしまうほど丁寧に包装紙を剥ぎ、蓋を開け、取り上げた鍵を見た階調の瞳がぱちりと瞬いた。
「この石は」
「鍵だけじゃ安上がりすぎるからな。一緒に貰ってくれ。マリンスノーっぽくて結構綺麗だろ?」
鍵につけたキーホルダーの、藍色の石に触れてヌヴィレットは瞳を細める。
「私も同じ事を考えていた。ありがとう、リオセスリ君」
そうしてふわりと浮かぶ笑顔に、専門店を端から回った甲斐があったなとここ一週間を噛み締めて。
「これを渡すにあたって言っておきたいことがあるんだ」
肝心な事を伝えなければと開いた口に、ヌヴィレットが背筋を伸ばす。予想通りの反応に笑いそうになる表情筋を引き締めつつその手を引いた。
「冷蔵庫はここだ。使い道の決まってるものには印がつけてあるから、それさえ避けてくれれば自由に使ってくれて構わない。あ、ミネラルウォーターはここにまとまってる。食器類はここ、あまり種類がないのは目をつぶってくれ。男の一人暮らしだしそんなものだろ」
冷蔵庫のドア側半分を占領するラベルを異にするボトル達は何度見ても圧巻だ。彼のコレクションには並ぶべくもないが、気に入るものがあればいいけれど。
ちらと見たヌヴィレットは戸惑いの色を濃く浮かべている。気付かないふりをしてキッチンを離れた。
「バスルームはもう知ってるよな。タオルは鏡の上の戸棚にある。ああ、アメニティは持ち込んだほうがいいかもしれない」
それなりに良い物を使っている自負はあるもののヌヴィレットと自分の髪質が違いすぎる。用意してもよかったが流石に引かれそうで思い止まった。
「オーディオ関係はここ。あっちが寝室だな。面白い物はないはずだが興味があるなら物色してくれても、」
「リオセスリ君、」
先から繋いだ手を引いたり口を挟もうと試みていたヌヴィレットがついにリオセスリの名を模った静止を音にする。なんだいと口を閉じれば、困り果てたように柳眉が下がっていた。
「待ってくれ。君にここまでさせるつもりではなかった」
そんなつもりではなかったのだと萎れるヌヴィレットは、きっとここで過ごす上での禁則事項でも並べ立てられるのだと思っていたのだろう。本当に真面目な人だ。そこがたまらなく可愛くて、少し寂しい。
「ヌヴィレットさんは俺の家で瞑想でもする気だったのかい?」
「いや
…
その
…
」
ヌヴィレットの提示してきた『条件』でできる事など瞑想か床で寝ることくらいしかない。もしかしたらこの人は本当にそれで満足なのかもしれないが、他のどこでもなく己の家で、愛しい恋人がそんなふうに過ごしていると考えただけで目眩がしてくる。悪い意味で。
「俺はさ。折角あんたが来てくれるならくつろいで欲しいと思ってるんだ。プライベートに踏み込まれたくなきゃ打診された時点で断ってる」
揺れる瞳を覗き込み、所在なさげに落ちる空いたままの片手もとって。
「自分の家だと思って、とまでは言わないが、俺の家で過ごすことであんたが元気になってくれるならそれだけで俺は嬉しいのさ」
握った両手に力を込めて、彼が安心すると言ってくれる笑顔で言う。
はたり、と深海の色のまつ毛が羽ばたいて。
「
…
わかった。君の厚意に感謝する」
良いプレゼントを貰ったと花咲くように笑うヌヴィレットに、リオセスリは想いを込めて唇を寄せる。
約一ヶ月後、予想よりも足繁く通ってくるヌヴィレットにもう一緒に住むか、と声を掛ける事になるのを、この時は想像すらしていなかった。
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