紫輝
2023-11-10 23:11:53
5605文字
Public リオヌヴィ
 

【リオヌヴィ】コラム:『公爵』から見た最高審判官〜その人となり〜【原神】

なおこの記事は非公開とする。
壺中で見かけたリオヌヴィがあまりに仲良しでびっくりしたシャルロットちゃんがセスリ殿と話す機会ができたのをいいことに雑談を振ってみる話。
この後そういう目線でヌヴィ様見て(ほんとだこの人思ったよりふわふわだ…!)って思って欲しいし単騎出撃の時は最高審判官なの見て(あっ違う公爵が近くにいる時だけふわふわなんだ…!)って微笑ましくなって欲しい。リオヌヴィ一日密着取材するシャルロットちゃん見たいなってずっと思っています

 どこまでも続く異境の空の下で私は一人の『仲間』を見つめていた。全身を彩った黒に赤を差した、フォンテーヌではあまり見ない色を持つ男だ。狼の耳を思わせる独特な立ちあがり方をした黒髪にはシャドウブルーが混じっている。彼の持つ神の目は氷元素だからそれでかもしれないし、その髪色に惹かれて氷の力が宿ったのかもしれない。深く掘り下げることではないから割愛するけれど。
 さてこの男は私と同じ異邦の旅人の協力者で、母国の重要人物でもある。メロピデ要塞の最高責任者、『公爵』リオセスリ――それが男の名だ。男の事は母国でもその名と立場くらいしか知られていない。旅人がメロピデ要塞へ行った事は聞かされていたがまさかその結果が公爵本人の助力とは思わなかった。これは予想外すぎる。私も旅に同行するのを決めて、塵歌壺、という不思議な道具の中で彼を目にし、旅人に素性を聞いてそれはもう飛び上がるくらい驚いたのだ。というか飛び上がった。こんなところでフォンテーヌを陰から支える超重要人物に会えるとは思わないじゃない?
 要塞という名の監獄を取り仕切るだけあって筋骨逞しい身体を古傷で飾った公爵は、けれど全く粗暴さを感じさせない紳士的な人だった。というか顔がいい。フォンテーヌでこの顔と張り合えるのはヌヴィレット様くらいだろう。あの方は美人系だけど。
 そういう職務でない事も謎を謎のままにしておく方が効果的なこともある立場なのも分かっているけれど、勿体無い、と思ってしまうのは世間一般の乙女の総意として許して欲しい。公式行事とか出ないのかしら。盛り上がりそうなのに。
俺に興味があるのかな、お嬢さん」
 つと公爵の顔がこちらを向く。この人声もいいわね。本気になれば十人や二十人位の骨一気に抜けそう。なんて考えている場合じゃなかった。せっかく話す機会が出来たのだから活かさないと。
「失礼しました。初めまして。私はシャルロット、スチームバード新聞社で記者をしています」
「ご丁寧にどうも。俺の事を知っているようだから自己紹介は不要かな。君の名前は知っているよ。いい記事を書くなと思っていたんだ」
「わあ励みになります、ありがとうございます!」
 穏やかに笑むその顔には噂に聞く苛烈さのかけらも見えない。やっぱり噂は噂よね、と言う気持ち半分、『顔』の使い分けが上手な人なんだろうなと言うのが半分。どちらかだけで、フォンテーヌの上層部になんていられるわけがないのだから。
「『公爵』様に会えるとは思っていませんでした。旅人の人脈には本当に驚かされます」
「俺もだよ。彼、各国の神と顔見知りってだけでとんでもないのに、その国の有力者達とももれなく友人関係築いてるものな。恐れ入るよ」
 公爵が愉快げに笑う。本当にその通りだ。塵歌壺の共用スペースが国際会議の場かと錯覚するような光景が日常に溶け込み始めていて怖い。国際部の記者なら涙を流して喜ぶだろうな、と思うけれど、ここに集っている間は皆『旅人の友人』だ。公的な立場の話題しごとのかいわはご法度というのが自然に出来たルールだった。それは母国の有力者と一般人の間であっても例外ではない。だから聞けるのだ。絶対に、母国では聞けないことでも。もしかしたらこの人なら答えてくれるかしら。いえ、『公爵』としてだったら答えてくれないわねきっと。旅に着いてくって決めてよかった。幸運を噛み締めて、言葉を重ねる。
「先ほど興味があるのかとお聞きになりましたよね」
「ああ」
「『公爵』に興味のないフォンテーヌ人はいないと思うんですけど、それとは別で、これは私の旅人の仲間同士としての個人的な興味です。ここで聞いたことは絶対に公にしませんし、答えたくないことに無理に返答いただく必要もありません」
「つまり仲間同士の雑談、って事だな。喜んで付き合おう」
 どうやら「雑談」の相手をしてくれるらしい。身体ごとこちらへ向けてくれた公爵はやっぱり標準より恵まれた体格をしている。仕事柄取材する事もある冒険者でもここまでの体躯の人にはあまり会ったことがない。本当に勿体無い。紙面を飾ってくれたら絶対に売れるのに。異例の重版、なんて文字をかき消して、私は口を開いた。
「ここにお二人が揃っているのを見て驚いたんです」
「ヌヴィレットさんのことかい?」
「あ、はい、そうです。すみません、気持ちが先に出てしまったみたいで」
 首を傾げられて我に返った。質問事項を述べる際は正確・簡潔に。仕事の基本がつい置き去りになってしまった。だって衝撃だったのよすごく。パレ・メルモニアとメロピデ要塞が協力関係にある事はみんな知っているけれど、特に頻繁に交流してるってわけでもなさそうだし。本当に「国政を安定して回すための歯車同士」みたいな関係だと思っていたから。ここで会ったパレ・メルモニアのトップとメロピデ要塞のトップが慣れた感じでお茶してるなんて考えもしなかったのよ。
「構わないさ。フォンテーヌの人なら驚くのも無理ない」
 気持ちはわかるよと公爵が肩を揺らす。何せフォンテーヌの公平の体現者として、厳格で絶対の法律の守り手として、徹底的に『わたくし』を秘匿している人だ。最高審判官としての職務のために必要であればお茶会だってするのだろうけれどここでそれをする必要はないし、あの雰囲気は純粋にお茶と、それを囲む人との時間を楽しんでいるそれだった。意外だ。本当に。
 ヌヴィレット様と同じようにフォンテーヌを支える大役についている人になら、私たちには見せないような一面も見せたりするのかしら。だとしたらそれはとても興味深いわ。
 むむと唸る私を、公爵は楽しげに見ている。多分これは何か聞かれるのを待っている顔ね。答えてくれる気があるのかしら。だったらもう少し踏み込んでみても良いのかな?
 雑談の定義を見失いそうになりつつ、聞きたいことを聞くための言葉を考える。いくら公の場でないとは言え、礼を失していいわけではない。今日の「雑談」が、今後の仕事に関わってくる可能性だって大いにあるのだから。
「あの、ヌヴィレット様については誰に聞いても同じことを言いますよね」
「公明正大、公平無私、フォンテーヌの『法』と『正義』の体現者、物凄い美人とかその辺りかな」
「概ね合ってます。ヌヴィレット様本当に美人ですよねじゃない、いやそうなんですけど、『公爵』を賜るリオセスリ様から見てもあの方ってそう見えるのかなって思って」
 ごく自然に俗っぽい単語が混じっていて驚く。恐らくこの人は交渉にも長ける人なのだろう。しれっと来たから思わず広げようとしちゃったわ話を。
 私の質問に、公爵は少しだけ悩む素振りを見せて。
「俺の印象か。そうだなぁ可愛い人だよな」
「へっ?!」
 瞳を細めて答えてくれた、その内容が。
 予想と期待の斜め上に跳んで三回転半捻って遠くに着地したようなものだったので。
 私は今日一番の驚きを得ることになった。
 例えるなら遺跡守衛をダウンさせるために眼を狙ったら本体が爆散したような、そんな感じ。
「おっと、切り口を間違えたか? 仲間としての雑談だと言うからこっちを選んだんだが。やっぱり魅力的な人の方がよかったか」
 うーん、と唸ってみせる公爵のそれは絶対にポーズだと分かってはいるけれど、ここはあえて乗る。だってこれは絶対面白い話が聞けるに違いないからだ。私の記者としての勘がそう言ってる。
「いえ大丈夫です差し支えなければもう少し詳しく伺っても? あっ雑談なので! どうぞご心配なく!」
「君は面白いなぁ」
 公爵はまるで合格だと言わんばかりにからりと笑う。その笑みをそのままに、続けて口を開いた。
「あの人割と好奇心旺盛でな。フォンテーヌでは最高審判官としての立ち居振る舞いを心掛けてるがここではその必要がないだろ?」
「はい」
 どうしようもう突っ込みたい。好奇心旺盛。あのヌヴィレット様を評するのに。好奇心旺盛。そんなことある?
「旅人の力で他所の国に日帰りとかも珍しくないだろう」
「そうですね」
 午前中モンド、お昼を稲妻でとって、午後はスメール――なんて訳の分からないスケジュールがここでは罷り通ってしまう。記者や商人が泣いて喜ぶだろうなといつも思っているのだ。かく言う私も、少しだけこの幸運を享受させてもらっている。各国の新鮮な話題がリアルタイムに手に入る最高の環境だ。割と真面目に彼をスチームバード新聞社で雇いたい。無理だとわかってはいるけど。
 頷いた私に、公爵は浮かべた笑みに少しだけ弱ったような色を乗せて。
「行く先々で目に付いた水場、片っ端から入りたがるんだよなぁ
「水場」
「普段は好きにさせてるんだが、この間は無想刃狭間に入ろうとしたんで流石に止めた」
「正しい選択だと思います」
 水の近くを歩くのは好きだと、以前初めて受けてもらえたインタビューで答えてくれたことを思い出した。お洒落な人は趣味もお洒落なのねなどと納得したものだけれど、公爵の口ぶりだともっと可愛らしい何かに聞こえてくるから不思議だ。それはそれとして止めてくれてよかったと思う。危うく『好奇心』で母国の大切な最高審判官様が大変なことになるところだったようだ。どうやらフォンテーヌを陰から支えてくれるこの人に私たちはまた人知れず救われたらしい。
「困った人だよ」
 肩を竦めて言う公爵の、台詞と表情が一致していない。大切なものを見るような、やわらかくて温かな眼差し。少しだけ上がった口角と、ふわりと耳を撫でるような声音。
 それこそ他国の人が聞けば何かを感じたのだろうけれど、その時の私にはフォンテーヌ人としてのフィルターが勝ってしまった。後に猛反省するのを、勿論今の私は知らない。
「あの、お二人はどういった御関係で?」
 少なくとも母国で常識とされているようなドライな関係ではなさそうだ。ただ友人、と言うのもちょっと違う気がする。じゃあなんだろう。フィルターに気付かない私は考えて、そのまま疑問を口に出した。ありがとう「雑談」。
 答えにくいかもしれないと思った質問の答えを、どうやら公爵は既に持っていたようで。
「うん? 『個人的な付き合いがある』ってだけさ」
 ゆるりと、フロスティブルーが笑う。背筋がそわっとした。そこで旅人に呼ばれてしまったので、残念ながら深掘りは出来なかった。

* * *

 有意義すぎた「雑談」を経て仮の拠点である塵歌壺に帰還した私たちを、意外な人物が待っていた。
「リオセスリ殿」
「ヌヴィレットさん」
 かかった声に表情を和らげて、公爵がそちらへと歩いていく。その先にいたのは母国の表の有力者、最高審判官ヌヴィレット様だ。歌劇場やパレ・メルモニア以外でこの麗しい立ち姿を見るのはまだ違和感がある。そのうち馴染んじゃうのかしら。それはそれで怖い。
「ご苦労いや、この場合において的確な言葉選びではなかった。すまない。お疲れ様」
 公爵を迎えたヌヴィレット様はどことなく柔らかな雰囲気を纏っている。そこから紡ぎ出された言葉もまた、母国ではあまり聞かない音律で。
「ああ、ありがとう。シャルロットちゃんもお疲れ様。楽しかったよ」
「あ、はい! こちらこそ!」
「次のコラムも楽しみにさせてもらうよ」
「が、頑張ります!」
 過ぎった違和感を捕まえる前に公爵に水を向けられて背筋を伸ばした。有力者だから、ではなく、この人のような才ある人に記事を認められるのは記者として頑張りがいがある。
随分盛り上がったようだ」
 ふるり、と大気が揺れて、思わず上向く。この場所は気候に左右されないからそうしようと思わなければ雨は降らないよと、旅人は言っていた。けれどなんだか一雨来そうな、そんな気配を肌で感じたからだった。
「あの場所では彼女としか出来ない話ではあったかな」
……内容を、聞いてもいいだろうか」
「あんたの事だよ」
「わたしのこと」
「あんたを知ってる人とあんたの話をできる機会なんてそうそうないからな」
 私よりよほど感覚が鋭そうな公爵は何事もなかったかのように会話を続ける姿勢のようだ。大変有意義だったあの「雑談」は、確かに母国でできる話ではなかった。ヌヴィレット様のイメージが百八十はちょっと無理かもだけど、九十度くらいは変わりそうな感じの。もちろん良い意味で。
あまり公務に差し障るようなことは」
 柳眉を寄せてヌヴィレット様が言う。その辺りは安心してほしい。私にも記者としてのプライドがある。嫌がる相手に付き纏って無理やりスクープを得たり、嘘をついて情報を引き出すような、そんな低俗なことは絶対にしない。し、なんと言うか、あれは本当に内緒話だと、私は思ったので。
「その辺りの線引きはちゃんとできてる子だよ。今日した話はあくまでも仲間内の雑談だ。あれを外に出されると俺も困る」
 なぁ?と言わんばかりにちらと公爵がこちらを見るので、勿論ですと親指を立てて見せる。今日の「雑談」、外に出て困るのは多分公爵の方だ。困ると言うか、怒る、のほうが近いかもしれない。きっとあの話は、彼しか知らないヌヴィレット様の話だったと思うから。誰かに話したいけど誰にも知って欲しくない、そんな類の内緒話だ。
「いったい何を話したのだ」
「だからあんたの事だよ」
「リオセスリ殿」
 くっくっと、楽しげに笑う公爵と、なんだか拗ねているようにも見える最高審判官、という、母国でまずお目にかかれない並びのお目にかかれるとは夢にも思っていなかったやり取りを回廊の植え込みになった気持ちで聞いていて、やっと気付いた。
 あれ? もしかして私、物凄く盛大に惚気られた