紫輝
2021-07-28 00:25:12
2059文字
Public レオヴィル(ツイステ)
 

【レオヴィル】獅子は天使の夢を見る

お誕生日当日の早朝、天使と出会ったレ様の話です。両片思い風味。いつも通りの夢見がちなアレ。ちょっとだけルーク。

*レオナ3年ヴィル2年、二人称等は全て妄想です

 目が覚めたら天使がいた――なんてチープな台詞が、まさか己の脳裏に浮かぶとは思わなかった。サバナの朝焼けにキラキラと輝くブロンドと、夜の名残を残したかのようなふたつのアメジストを見上げながらレオナは考える。夜と朝を纏った真白い肌の天使がらしくなくはにかんだのを至近で目にして断じた。これは夢だ。
 レオナが知る天使と全く同じ見目をした人物が、少なくともレオナの前でこんな風に笑うことはない。自信に満ち溢れたそれか、勝ち誇ったようなそれならよく目にするけれど。
「おはようございます、レオナ先輩」
 ならやっぱり眼前の彼は天使で、自分の叶うはずもない願いを、行き場のない想いを受け止めにきてくれたに違いない。そう仮定すれば、天使が甘く名を呼びやわらかに朝を告げる理由にも納得がいく。
随分都合の良い夢だな」
 顔を合わせれば何故か北風が吹いてしまう彼と、一度くらい何でもない会話を、穏やかに交わしたい――などという、レオナ・キングスカラーにあるまじき慎ましい願いは、この先ずっと叶うことはないのだろう。だって彼は自分を嫌っている。怠惰は罪だと、そう言って。
 理由を話す気もないし、話したところで理解が得られるとも思っていない。それに自分が全てを諦めてここで燻っているという事実に変わりはない。そもそもそこまで踏み込んだ話をするような関係性を築けていない。それすら諦めているのだけれど。
 ブロンドに触れる。指の間をさらさらと流れるそれは思ったよりも癖になりそうな手触りで、ずっと触れていられたらと思ってしまう。くすぐったいのか小さく身じろいで瞳を細める様は猫そのものだ。くつりと鳴った喉に我に帰ったようにアメジストを見開いた天使が振り切るように息を吸う。
「お誕生日おめでとうございます、先輩」
 まるでそれを言いにきたのだと言わんばかりの唐突さが夢らしい。し、よりによってその文言を選ぶのかと、自分の深層心理の理解不能さに笑みが浮かんだ。アレに祝われたいとは思ってないはずなんだがと自問するレオナの表情に何を思ったか、天使は瞳を逸らし。
「一番に、なんて思ってはいないですけど。今なら学園で一番くらいには、なれると思って」
 ぽつりと落ちた言葉を獣人の耳はこぼさず聞き取って、さすがに耐えきれず吹き出した。腐っても深層心理だ。自分のことを、きっと自分以上にわかっているのだろう。
 どうせ夢だ。そんな思いが背を押して、髪を撫でていた手に力がこもる。こつりと合わさった額。絡む睫毛と、間近で煌めくアメジストと、息を呑む音。吐息が唇に触れる距離で、レオナは囁く。
「そうだな。文句なしの一番だよ。誕生日ついでに祝福の一つでもくれねェか」
 全てを諦めることが運命づけられたこの生が間違いじゃないと思えるように。
 夢ですら口にできないよわは、幾ばくか瞳にでも滲んでいたのだろうか。何かをこらえるように眉を下げた天使は、泣き笑うように口角を引き上げる。
「今日一日が、素敵な日になりますように」
 額へのやわらかな感触とやさしい声音を最後に、レオナの意識は朝焼けに溶けた。

* * *

 同日、ポムフィオーレ寮。
「お帰り、ヴィル。目的は果たせたかな?」
 くるりと返り友人へ向けた笑顔に、返ってきたのは深い深いため息だった。おやと翠緑を瞬き差し出したアイスティーを、友人にしては豪快に、けれど一般的に見れば優雅に煽って彼はその美貌を覆う。
「開口一番『都合のいい夢だな』って言われたわ
なるほど?」
 ぱちり、またたく間にも彼は言葉にならない言葉を何事か呟いていて。
「何かこう、特別な日の勢いってあるじゃない? それでイケるって思ったのよ。でも『夢』なんて言われたら、もう『夢』を演じる以外ないじゃない!」
 呻くようにテーブルへ懐く友人の肩は震えている。現実ですって言えば済んだのに、だとか、渡しそびれたこれどうしたらいいのかしら、とか、一人反省会を繰り広げる友人の耳は何故か少し赤い。それに気付いて、ルークはフフと笑う。
「君のことだ。夢の精よりも夢の精らしく、即興劇を演じきったのだろうね。獅子の君にはご満足いただけたのかな?」
格好良かったわよ。十割増しくらい」
 何を思いだしたのか赤みで彩られた目元を少しだけ上げてもごもごと呟く様は、常の彼を知る人全員が頬を抓りそうなくらい以外で、けれどとてもとても魅力的だと思う。これが少しでもの君に伝われば、と思ってから、獅子が口にしたという言葉を思い出して杞憂かなと思い直した。
「そう気を落とさずに。プレゼントは改めて渡せばいいさ。寮生に託したっていい。まずは君が一歩踏み出した快挙に乾杯しようじゃないか!」
 にっこりと、笑みをひとつ。
 かれこれ二年半、片思いを続けている友人が、少しだけ勇気を出したこの輝かしい日に祝杯を。
 掲げたグラスに浮かぶ氷が澄んだ音を響かせた。