紫輝
2017-03-31 23:17:14
1987文字
Public しょくんば(刀剣乱舞)
 

【しょくんば】ぷれみあむふらいでー。【現パロ】

リーマン×喫茶店バイトのしょくんば現パロです。タイトル通りのなんのひねりもないアレ。『花唄恋愛綺譚』の設定を引き継いでますが未読でもなんの問題もありません。

 都会の一角、刻に取り残されたように佇む小さな喫茶店。
 『花唄』と書かれた看板の横を通り抜けドアを開けば、涼やかなベルの音が客を出迎える。
 隠れた名店として最近ひっそりと知られ始めたそこを切り盛りするのは年齢不詳のマスターと、アルバイトの少年だ。
「プレミアムフライデー?」
 少年――国広が首を傾げて呟いた言葉に、マスターがうんとうなずく。月末の金曜日は退社時間を繰り上げて買い物や外食に充て、経済を活性化させようとかなんとか、そんなことだったはずだ。ニュースで見た記憶がある。・・・同時に、月末の金曜なんて一番忙しい時に早上がりなんて出来るかと肩を竦める企業戦士たちの声も思い出したけれども。
 ほらと指された指の先には卓上式のカレンダー。今日の日付を見れば、なるほど『月末の金曜日』だった。
「まだ始まって間もない試みだけれど、せっかくだからうちも乗ってみようかと思って。とりあえずこんな感じで」
 言いながらマスターが取り出した一枚の紙には、月末の金曜日に限り十五時以降からコーヒーや紅茶を手ごろな価格で提供する旨と数種類の限定メニューが記されている。
「わかりました。今日から・・・ってことでいいんですよね?」
「ああ。様子を見ながら、内容を変えるなり取りやめにするなりしようと思うよ」
 会計間違えないようにね、と微笑むマスターにわかりましたと再度うなずいて、報せを出してくるよと店の外へ向かったマスターを見送り、店内のテーブルへ即席の限定メニューを置いていく。
 最近は女性客が増えてきたように思う。プレミアムフライデー、とやらが本当に機能しているのなら、そしてその恩恵がこの店にもあるのなら、近いうちにまたケーキの種類が増えるかもしれないななどと考えながら見上げた時計は十五時まであと十分と言ったところだった。

 耳馴染みが良く、思考や会話を妨げることのない穏やかな曲が流れる店内は、今のところ通常通りの賑わいだ。時刻は十五時を四十分ほど過ぎた頃だろうか。まあこんなものだよな、とグラスを拭きながら店内に目を配っていた国広の耳が、来客を知らせるベルの音を拾う。
「いらっしゃいませ・・・あ」
 声を放った先、開いたドアの向こうにはこの時分には珍しい常連が立っていた。
「やあ」
「・・・こんにちは、光忠さん」
 仕立ての良いスーツに身を包み小さく手を挙げて微笑む美丈夫はこの店の常連で、国広の恋人でもあった。曰く「一般企業」に務めている彼が店を訪れるのは決まって昼休みで、夕方とも言えるこの時間帯に顔を出すのは珍しい。
「出張だったんですか?」
 運良く開いていた指定席へ落ち着いた彼に尋ねれば、ううん、と否定を返された。
「今日は『プレミアムフライデー』だからね」
 もう終業。
 心なしか機嫌よさげにいつものをください、と告げられて、すっかり手に馴染んだ器具たちの元へ向かう。芳香を纏いゆらゆらと揺れるコーヒーを前に、国広を見上げたその人はふふと笑った。
「少しだけ期待してたんだ。約束はしてないけど、もしかして逢えたりしないかなぁって」
「・・・そうですか。あの・・・月末は忙しいって聞きますけど、大丈夫だったんですか?」
「うん、上司が・・・鶴丸さんなんだけど、あの人、こういうイベント事大好きな人でね。今日のために根回ししてたみたいで。残ってる人もいるみたいだけど、僕のいる部署はほとんど十五時でめでたく退社だよ」
 この人の笑顔を真正面から見つめるのはまだ照れくさい。意味もなく前髪に触れながら気になっていたことを尋ねてみると、その人は小さく肩を震わせる。その口から出た名には覚えがあって、確かにあの人なら率先してこういう事を楽しみそうだなと妙に納得してしまった。
「いい上司、ですね」
「うん、本当にね。・・・国広くんは、バイト何時まで?」
「今日は十七時までですけど」
「明日の予定は?」
「いえ、特には・・・」
 差し迫った課題もなく、友人と出かける用事もなかったはずだ。頭の中にスケジュールを描いて首を横に振ると、店内照明を写し込んで穏やかに輝く黄金の瞳が嬉しげに融けた。
「よかった。それじゃあ、時間まで待ってるよ。夕飯一緒にどうかな?」
「は!? あ、ええと、その、・・・はい」
「・・・君たち。僕の大事な店で、路地裏の如何わしい店で交わされるようなやり取りをするのはやめてくれないかい」
 突然の「お誘い」に思わず頓狂な声が出てしまう。驚きはしたものの断る理由があるはずもなく、素直にうなずいた国広に楽しみだなぁと朗らかに笑ったその人の向かい側から、マスターの呆れたような小言が飛んだ。

このあと限定ケーキセットとかで売り上げに貢献して、食べに行く?食べに来る?とかきゃっきゃ会話しながら帰りました。お粗末様でした。