紫輝
2017-02-14 21:54:14
837文字
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【露紅】霜月十四日の話【文アル】

バレンタインデーに呼吸するようにいちゃつく夫婦の小話です

「知っているか? 露伴」
 現代にはバレンタインデーなる行事があるらしいぞ。
 向かいに腰掛けた紅葉が楽しげに肩を揺らす。
「自らの想いを小さな菓子に託すとは、なかなかこの国らしい、いじらしい行事であるな」
「そうだな。・・・こら、行儀が悪いぞ」
 間近でその様子を目に出来ないのが少々残念だ、と含み笑う紅葉が手にした金色のフォークをふらふらと揺らすのを咎めてやると、うむ、と、存外に素直な答えと共にフォークが大人しくなる。
「まあ西洋では贈るものは花が主流だそうだし、男から女に贈るのが一般的なようだがなぁ」
 所謂『日本式バレンタインデー』は某(なにがし)という菓子会社の販売戦略である、というのがもっぱらの噂だ。西洋の物品や文化を取り込み、民族性に合うよう作り替える能力は未だ健在らしいなと苦笑すれば、紅葉は朗らかに笑った。
「よいではないか、どちらでも。おおっぴらに好意を伝える機会はいくらあっても良い。それに助けられている者たちも多いのではないか?」
「そうだな。大衆に受け容れられたからこそ、現代まで残っているんだろうからな」
「うむ。・・・ところで、」
 そのショコラは美味いか?
 さらりと黄金の髪を揺らして、紅葉が首を傾げる。その瞳に宿るのは確かな自信と微かな不安、それから幾ばくかの期待で、それらを午後の光と共に内包してきらきらと輝く新緑の宝石に目を細め。
「お前が淹れたんだ、美味いに決まってるだろう。お前こそどうなんだ、さっきから手が止まっているようだが口に合わなかったか?」
 芳醇な香りを漂わせるカップを手にくつりと喉を鳴らし、逆にいまいち減りの遅い皿を示して問いを投げ返す。
「・・・察しの悪い。食べるのが勿体無いという思いも汲めぬか」
「わかってて聞いてる」
「お主という男は・・・」
 もういい、などと口では言いながら、生クリームの添えられたガトーショコラを大切そうに少しずつ口へ運ぶ愛しい恋人の様子に、露伴は吐息だけで笑うのだった。