紫輝
2016-12-13 21:05:02
1143文字
Public 鶴江(刀剣乱舞)
 

あしあと

雪が降った日に書いた鶴江の小ネタです

 雪の降った次の日の朝の話である。
 すっかり雪化粧した本丸の庭を、江雪は鶴丸と二人散策していた。今年の初雪だ。朝餉が終われば、短刀たちがこぞって外へ飛び出し賑やかに景色を彩るのだろう。
 今はまだ二人きりの庭で、江雪は鶴丸の白い背を追う。その首を冷気から守る鮮やかな赤い襟巻きがともすると白銀の中へ消えそうな彼の存在を生き生きとしたものに変えていた。
「いやあ、積もったなぁ!」
 はしゃぐ鶴丸は足元の雪を物ともせず器用にその上を歩きながら奥へと進んでいく。その背をゆっくりと追いながらふと足元に目を落とし、江雪は思わずふふと笑みを漏らした。
「・・・どうしたんだい、江雪」
 弟に「兄様のことに関しては地獄耳ですよ、あの人」と称された鶴丸が、言の通りその微かな音に反応してくるりと返り首を傾げる。いえ、とこちらも首を振ってみせて。
「こうしてみるとまるで並んで歩いているようだと思って」
 雪の庭に、点々と付いた足跡。実際の身体は少し離れた場所を歩いているのに、足跡だけを見るとまるで寄り添っているようだ。面白いですねとそう言いたかっただけなのに、鶴丸はなぜか不機嫌な表情で黙り込んでしまう。せっかくの楽しみに水を差してしまっただろうか。よくよく考えれば、この手の戯言を口にするのは今でなくてもよかったかもしれない。
 眉を吊り上げ気味に、雪を蹴りながら戻ってくる鶴丸にかける言葉を探す間もなく江雪まであと一歩に迫った鶴丸は足をそこで止め、彼にしては珍しくやや強い力で江雪の腕を引いた。突然の暴挙に反応できるほど今更鶴丸への警戒心があるわけもなく、引かれるままに収まった白装束の胸元からは荷葉の香りがする。
「俺は殊更に伊達男を気取るつもりはないが、きみにそんなことを言わせるほど甲斐性がないつもりもない。だが結果的にきみを不安にさせてしまったことは反省するし謝る。すまない」
「は・・・? いえ、私は・・・」
 そしてするりと髪を撫でてくれた鶴丸はひどく真剣な目でそんなことを言い出したものだから、江雪は呆気にとられるしかない。存外に誠実なところのある恋人は、どうも自分の言葉を違う意味に解釈したようだ――そう気付き弁解を試みるも無言に制されてしまう。
「まあ、なんだ。あんまり寂しいことを言わないでくれ。俺ときみは恋仲なんだし、きみが望めば俺はどこまでもきみの隣を歩くから」
 囁くように言葉を紡ぎ蜂蜜色の瞳でにこりと笑った鶴丸は、江雪の指を絡め取って小首を傾げた。
 そんなに重い話ではなかったのだけれど。
「・・・はい。ありがとうございます、鶴丸」
 雪景色に夢中な鶴丸が少々面白くなかったことも確かなので、認識の相違はそのままに鶴丸の指を握り返して微笑む江雪だった。