ゆっくりと開いた視界に映る、火の灯っていないシャンデリア。カーテンが引かれているのだろうか、外からの光もないその部屋にはやわらかな暗さで満ちている。
そんな暗闇の中茫と浮かび上がる二つのひかり。森深くに横たわる湖のような、地底で密やかに息づく翡翠のような、それは美しい碧(あお)色のひかりだった。
「・・・目が覚めたか」
ひかりの持ち主の囁きが暗闇を揺らす。肯定の証に目を細めれば、『彼』は呆れたような、そしてどこかほっとしたような調子で細い肩をすくめた。
「この大馬鹿が」
「ひどいな、・・・っげほ、」
昏倒する直前にも聞いた気のするやや烈しさの足りない罵倒に、笑おうとした喉が引き攣った。差し出されるままに含んだ水に声を取り戻し、暗闇の中はっきりと像を結ぶ愛しいかんばせに微笑む。ひたりと胸に手をやれば、ナイフで突いたはずのそこには傷ひとつなかった。元は滑らかだったはずのシャツの生地に見事に開いた穴さえなければ、そこについ今しがた(正確な時間の経過はわからないけれど)まで深い刺し傷があった事などとても信じられないだろう。
「・・・なんだか不思議な感じだ」
思わず漏れた呟きに、白い手が伸びてくる。ひやりとした感覚と共に己のそれが導かれたのはこちらもひんやりとした『彼』の白い頬で、つめたいな、と囁いた『彼』はずるずると、己の胸へと頭を預けた。しばらくその宝玉の瞳を隠していた瞼がゆるりと持ち上がると、柳眉が下がり調子の弧を描く。
「俺、好きだったのにな。あんたの、心臓の音」
ぽつりと落とされた寂しげな声音にふふと苦笑し、胸の上の金糸をそっと梳く。
「ごめんね。けど、君の好きなものを捨ててでも、僕は君と居たかったんだ」
これからずっと。
音にしなかった想いを汲み取ったらしい『彼』は、大馬鹿が、と二度目の罵倒をくれてから。
「・・・・・・ありがとう」
まるで泣き笑いのようなくしゃくしゃの顔で、震える声で、小さく小さく、そう口にした。
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