やあ、君か。・・・うん? 俺が一人でいるのが珍しいか? はは、いやなに、江雪に振られてしまってな。・・・いやいや、さすがの俺も兄弟水入らずを邪魔するなんて野暮はしないさ。今頃は甘味処で限定の団子でも食べてるんじゃないかな。
・・・そうか、君は江雪が苦手か。まあ顕現して日も浅いしな。あれは少々超然とした雰囲気を纏っていることが多いからそう思うのも無理はないなぁ。
でもな、あれがここに来たばかりの頃はもっと近寄りがたかったんだぞ。常に身の回りに冬の風を吹かせてる感じで、極端に口数は少ないし。弟たちでさえ遠巻きにしてたくらいだ。いつも悲壮な顔してるからちょっとでも気が紛れるように色々やったな。いやあ、あの頃はよく呆れられた! つかれた溜め息の数なんて数え切れないくらいだったな! さすがの俺もへこんだものさ。
・・・けど、回数を重ねていくにつれて段々あれに変化が出てきてな。俺の方もどんな事ならあれが心動かすのかわかってきていたから、それに沿って作戦を立てたりして。初めて笑顔を見た時はそりゃあ嬉しかった。思わず見惚れてしまうくらいに綺麗に笑うんだぞ、あれは。美人だからな、憂い顔も悪くはないが、やはり笑顔がよく映える。まあ、それまでの苦労は吹き飛んだな。
その後まあ、なんだ、色々あってな。今に至るわけだが。江雪はあの頃に比べると随分丸くなった。なんだかんだ慕ってくる奴には優しい奴だからな。弟たちとも上手くやっているようだし、甘やかされるのは中々に心地いいものだぞ。それに、笑顔が増えた! 表情筋が動きやすくなったんだろうなぁ。あとは、小さな幸せに気づける余裕が出てきたか。綻んだ蕾とか、雑穀をついばむ小鳥たちとか、奇妙な形をした雲とか――そんなのを見るとな、やわらかく笑うのさ。居合わせれば幸運だし、そうでなくてもあれは俺に見つけた幸せについて話しに来てくれるからな。どちらにせよ俺には得しかないってわけだ。
・・・入れ込んでる、か。ははは、反論できないなぁ。これに関しては、俺が一番驚いてるよ。最初はあの沈んだ顔がなんとかならないものかと思っていただけだったんだがな。気づいたら一日の半分はあれのことを考えてるんだ。いやはや、心というものは驚きに満ち溢れてるな。
・・・・・・おっ、帰ってきたか。出迎えに行くとしよう。君も行くかい? ・・・馬に蹴られたくないって? 失敬な、これでも平安刀だぞ。時と場所をわきまえる位の分別はあるつもりだ。・・・ああ、わかったわかった。その気遣いに感謝する――と、言っておこう。一応な。それじゃ、またな。
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鶴様が第三者の前では江雪さんのこと「あれ」って表現してくれてたら最高だなって思っただけでした
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