星の光も届かぬ木々生い茂った山の中を、国広は歩いていた。半歩ほど前を行く光忠の装束を飾る金属が、葉を透かして辛うじて伸ばされる月光に輝く。
視界は悪いが、足下はそう悪くない。木の根や這う蔦などに気を配らなくても良いだけでも随分と気が楽だった。
「少し登るよ。足下、気をつけて」
返った光忠がその手を伸ばし、注意を促してくる。数度またたき、その手に己のそれを重ねてから、国広は肩を竦めた。
「気をつけるのはあんたの方じゃないのか」
ぐ、と引かれる力に従うと、確かにそこはごく小さな崖になっているようだった。崖、と言うよりも、段差と評した方が近いかもしれない。引かれるまま近付いて、胸が触れそうな距離で見上げた金眼は光を湛えていた。まるでそこにもう一つ月があるように。
「心配してくれてありがとう。何も見えない訳じゃないんだ。ただ「視る」事に集中しないといけないから、立ち回りはできないんだけどね」
「・・・だったら、明かりの一つでも持ってくればよかったものを」
ふふと笑う吐息が耳をくすぐるのがこそばゆくて、そもそも何故明かりもなしにこんな場所に連れてきたのかと今更な問いを発すれば、光忠はちゃんと理由があるんだよ、と楽しげに声を弾ませる。仕込みは上々、と、真白い鶴の声が聞こえた気がした。
「・・・さあ、着いた。・・・見て」
どこを、などと問う必要はなかった。藍に包まれた森の中、淡く輝く薄桃の花弁。どうやらそれ自体が発光しているらしく、その桜樹の周りだけが仄かに明るかった。目を見開いた国広を満足げに見下ろして、光忠は更に歩を進める。
「この間偶然見つけたんだ。目が光に慣れていない方が綺麗に見えると思って、明かりを持ってこなかったんだよ」
大正解だったみたい。
細まった月色の瞳に映る桜の色は言葉では表せないほどに美しくて、国広は思わず口角を引き上げる。
「・・・綺麗だな」
「うん。綺麗だよね」
それが桜のことだと疑う様子もない光忠の答えに心の内だけで小さく笑って、国広は二つの花見を楽しむのだった。
-・-・-・-・-・
さすがに戦えはしないけど実は結構見えてたりしないかなー・・・ という 妄想も詰め込みました
二人の目は暗いところで見るととても綺麗なんだろうなぁ
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.