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蒼風小話
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小説 オリジナル
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Knight's Heart
王女に剣をささげて国を守る戦いで行方知れずになった騎士と、彼の忠誠と面影を胸に玉座で待ち続ける王女の半生。
大昔にやってた創作サイト(2006年以前…)の産物。20年以上前ということで、拙さと甘さも若さということで一つお許しください…
『我が命は このフィリーランドの大地に
そして我が剣は メイフェリン 貴女に』
1.
この国の最高位の騎士の座だけが空いているのが、不思議ですか?
私はある人物と約束をしたのです。私に忠義を捧げてくれた騎士に、戻ってきた暁には最高の名誉と称号、それからこの国でもっとも広大な領地をやると。
ええ、そうです。お若いのに、よくご存じね。その人物とは、かつて私の側に控えていた、騎士クライヴェスのことです。
クライヴェスですか?
彼は
……
やや礼節に欠けたところはありましたが、確かに優れた騎士でした。
人が互いに信じあい、支え合うとき、何を基盤にするのかは分かりません。
ただ私は彼と共に過ごしてきた時間と、騎士としての彼を信じました。
まっすぐに私に視線を向け、剣を捧げると告げた、あの視線と態度。
彼はこの国に命を捧げ、この私に剣を捧げると言いました。騎士としてのクライヴェスに応える証として、ここは空いているのです。
2.
彼と私が出会ったのは、お互いに8歳のときです。
可笑しい話ですが彼はそのころからいっぱしの騎士気取りでした。庭で木製の剣を振り回して遊んでいるところを、私が見つけたのです。彼はそのときたまたま、父親に連れられて、城の中庭に来ていたのですね。
何を遊んでいるのかと尋ねたら、真っ赤になって怒りました。
「遊んでいるんじゃない、稽古をしているんだ!」
後で聞いた話だと彼はようやく剣の師匠を紹介されたばかりだったそうです。新しいおもちゃをもらって喜び勇むところが、子供らしいでしょう?
ええ。あの人には、どこか子供らしい、そんな実直さがありました。それはずっと成長しても変わりませんでしたね。
次に出会ったとき
――
正式に紹介されたのは10歳のときです。
当時家臣であったクライヴェスの父親と国王は懇意にしていました。お互い性質が似ていたからでしょうね。それで、その子供たち同士も、と。
子供が一度出会ったきりの相手です。
とっくに忘れてしまっていると思っていたら、彼はしっかり覚えていました。
何でもひらひらとした派手なドレスを着て、つんと澄ましていた私の様子が、焼き付いていたそうです。
ええ。今の台詞をそっくりそのまま、私に告げたのですよ。これだけでも、礼節には欠ける騎士でしょう? もっとも、側にいたクライヴェスの父親がそんな息子の言葉に、あわてふためいて、がつんと息子の頭を殴って、無理矢理に頭を下げさせましたけど。
「馬鹿者! お前は将来目の前のこのお方、メイフェリン王女様の騎士としてお仕えすることになるんだぞ!」
その話を聞いた途端、彼はぽかん、と口を開けました。
「
……
この子が王女さま?? 僕が仕えることになる相手?」
「そうよ。私はあんたよりもずっと偉いのよ」
「これ、メイフェリン!」
「あんたが立派な王女様になったら、僕も立派な騎士になって仕えてやってもいいと思うけどさ。今のまんまじゃなあ」
もうクライヴェスの父親は、隣で青くなるやら白くなるやら。
私は憮然とし、父上はその言葉にお腹を抱えて笑い転げました。
「そなたの息子は、将来立派な騎士になれそうだな。楽しみなことだ」
クライヴェスは12歳の時には父親と共に城にあがるようになりました。
確かに私はクライヴェスと共に成長したようなものです。
十代の半ばには彼は私付きの騎士として、外へ出るときはいつも護衛役を務めるようになりましたし、同じ教師から共に机をならべて学術の手ほどきも受けました。
でも、仲むつまじかったわけではありません。
クライヴェスは言いたいことを、つい言ってしまう人ですし、私は私で負けず嫌いな性格でしたから、いつも互いに言い合ってばかり。喧嘩
――
とも違うのですけど、周りからは兄妹みたいだと言われました。それで、どちらが兄か姉かで揉めたこともあります。
そのころはまだ、このフィリーランドは本当に小さな小さな国でした。
家臣と王族の間にもそう大きな格差があったわけではなく、国王も家臣も国民も皆が互いに結びついて、国を支えていたのです。小国ゆえに身分の格差が緩かったこと
――
近隣の大国のように国王が頂点に立ち、国を統制しようとはしなかったこと
――
が、もしかしたらこの国が小国であり弱国であった要因かもしれません。
けれど専制政治を行い、権力を振りかざして国の兵力と財力を富ませるやり方は私の性に合いませんし、おそらくは父上もそうだったでしょう。私たちは国の象徴として上に立つ者ではありますが、私たちもまたこの国に身を捧げる一人にすぎないのです。
『我が命は国に 我が剣は女王メイフェリンに』
ええ。騎士たちは忠誠を誓ってくれる際、そう唱えます。
私もまた、その誓いに対し『我が命はこの大地に 我が心は民に』と答えます。
……
クライヴェスもまた、あの激動の最中で私に誓ってくれました。
『我が命は、このフィリーランドの大地に。
そして我が剣は、メイフェリン、貴女に』
3.
最初は近隣の大国の内乱が原因だったといいます。けれどその内乱に乗じて隣の国がその国へと攻め入り、それを見て、更に別の国もまた侵略を始め、あっというまに戦火は広がりました。我が国もそれに巻き込まれた形ですが
……
哀しいことに国内にも他国の王と手を結び、内通していた者がいたようです。
とにかく何もかもが混乱の極みにありました。
どこの国がどの国を攻めているのか
――
それすらも分からなくなり、国境は日々かわる有様。気がつけば、国境も君主も曖昧なまま、戦だけが繰り返され続ける。私の父である国王はその混乱の最中に命を落としました。
私も危ういところでしたが幾人かの心ある者たちに救われ、何とか命からがら逃げ出すことには成功しました。
私を救い、私を取り巻いた騎士たちの中には、当然と言うべきか、クライヴェスも居ました。
……
ああ、そう言えば、私とクライヴェスは共に育ってきただけでなく、父を亡くしたのも同時ということになるのですね。私の母はとうの昔に亡くなっていましたが、クライヴェスはそのとき両親を一度に亡くしたのです。
結局その戦は十年ほど続いたのでしょうか。
その間私たちは国を取り返すべく、何度も首都奪回をめざしましたが、それはたやすくはいきませんでした。そして、ようやく激しい戦火が収まる気配を見せはじめたころ
……
戦を終結させるための最後の激しい総力戦があちこちで行われたのです。
私たちもギリギリの瀬戸際にいました。
この総力戦で勝利を得ることができれば、再び祖国をこの手に取り戻せる。
けれど敗退すれば、おそらく私たちは国土も騎士も君主も、何もかもを失うだろうと。
みな、そのころにはすでに疲弊しきっていました。仲間も一人、また一人と命を落とし、あるいは一人二人と抜け落ちていましたし
――
勝利と終結とどちらを望んでいるのかも分からなくなってしまいそうでした。
この最後の戦局でクライヴェスが名乗りをあげたのです。自分とその配下数名が先に立って戦をしかけ、徐々に後退しながら相手を引きつけて相手の戦力を削ると。
……
要するに少数精鋭で切り込み、敵の大半を引きつける囮になると告げたのです。
4.
戦が始まったころ私たちは20歳になる直前でした。
そして10年の歳月。いつのまにか、私たちの若い時代は、戦の中で終わりかけていました。それでも残っている者の中では、クライヴェスが一番若く
……
一番強い騎士でした。
もし最後の大勝負に出るとしたら、クライヴェス以外には託せない。それは周りにも本人にもよく分かっていたのです。
決行前夜、私はクライヴェスの側にいました。
この策がどんな意味を持っているかなんて、分かりすぎるほど分かっていました。このうえなく危険で捨て駒のようなもの。けれど、だからと言って彼を止めることも許されません。
王女とは、どんな立場でどんな責任を負う存在なのか。
そして騎士は、どんな意味を持つから、騎士なのか。
ましてや国を奪われ、まさに真の意味でそのことを問い直されていたときのことです。自らにそれを課していなければ、すぐさま全てもろく崩れ去るでしょう。
「メイフェリン様、昔、私があなたに失礼なことを言ったのを、覚えていますか?」
「失礼なことならたくさん言われました。一体、どのことですか?」
私の答えにクライヴェスは口を大きくあけて、笑いました。
「本当に幼かった日のことですよ。貴女が立派な王女であるなら、私も立派な騎士になってお仕えすると。果たして貴女に見合うほどの騎士になれたかどうかは疑問ですが」
「自分を卑下するのはおよしなさい。そんなことを言われたら、私もまた自らに疑問をなげかけなくてはならなくなります。クライヴェス、あなたたちのような優れた騎士が、私に剣を捧げるというからこそ、私は捧げられるにふさわしい器であらねばならないし、そうありたいと願う。それだけのことです」
「
……
貴女は、聡明で、強いお方だ。貴女が毅然と前を向いていてくださるからこそ、みな諦めずにここまで来れたのです」
「珍しいこと。あなたがそんなことを言うなんて。裏に何かあると勘ぐりたくなってしまいます。それとも明日は雨かしら?」
「かもしれないですね。ちなみに私だって、ただ忠義や義務から決戦に臨むわけではありません。見返りは期待しているのですよ」
「富と名誉?」
「まあ、そんなところです。でも仕えるべき主人と、いただける国土がなければそれも叶わない。だから行くんです」
「いいでしょう。約束しましょう。騎士クライヴェス。フィリーランド王女メイフェリンの名において、戻ってきた暁には最高の名誉と称号、それから我が国の中で諸侯に授ける領土のうち、もっとも広大な地をあなたに授けます」
その言葉に満足そうにクライヴェスは微笑みました。
そうですね。それは、かつての少年のときのような微笑みでしたね。
「ああ、それで私も心おきなく、明日の決戦に臨めます」
あの言葉の真偽なんて確かめようもないことですが
――
。
果たしてクライヴェスは本当に報酬を望んでいたのかどうか。もちろん戻ってきたら、当然のような顔でそれを受け取るでしょう。
私は君主です。
上に立つ存在として、常に前を向き、颯爽としていなければなりません。そうしなければ全軍の士気に関わります。ええ。泣いた顔、負ける顔なんて見せられないのですよ。
騎士はそんな私を守る存在です。
それが騎士の騎士たる所以であり、たとえ命をなげうっても私を助けようとするでしょう。それがひいては国土を守ることになるのなら。
――
私たちは、互いに互いの立場を理解していました。
けして逃げることは許されない王女と、死地に向かわねばならない騎士として。
けれど、なんて言ったらいいのでしょうね。それはそれで哀しいことなのですよ。
自らの立場が分かっていて、それはどうにもならないことだと、はっきり悟っています。どうしようもなく動かないものです。嘆くのではありませんし、諦めているわけでもなく、つらく苦しいわけでもないのですが
……
ただ、悟っているが切ない。そう思うのです。
だから、あの「戻ってきたら報酬を」との言葉はクライヴェスなりの気の使い方ではないかと。
そうすれば私たちは互いに、少しだけ心の荷を軽くできるから。
今、こうして私がこの国の玉座に座っていることで、このときの戦いの顛末、戦の終結後のことはおわかりいただけるでしょう?
クライヴェスたちは、本当によくやってくれました。
けれど
――
彼は戻りませんでした。
5.
ずいぶん長くなってしまいましたが、これが騎士クライヴェスのことと今でも最高位の騎士の座が空いている理由です。いつまで空いているかは、私にもわかりませんけれどもね。
戻ってきたら、という条件付きでしたもの。さすがに死者に対して、いつまでもこの座を空けておくのは、勿体ないと思います。
そうね。骨でも見付かったら、あっさり諦めると思いますけどね。生死が分からない以上、私の方から一方的に約束を反故にするわけにもいかないではありませんか。
ええ。戦争が終わってから、もう20年です。
あの戦いのあとのクライヴェスの足取りは行方不明のまま。あのときは何もかも混乱していましたから。戦の最中に命を落としても、その確認ができない者は数多く居ます。
……
それでも女王は、クライヴェスが戻ってくると信じているのかと?
ああ。それはもう色んな家臣たちから尋ねられました。ずいぶん下世話な勘ぐりがあったことも私自身知っています。私がクライヴェスに特別な感情を抱いているからだとか。
ああ、ごめんなさい。そんな困った顔をなさらないでください。
そうね。これは誠実さの問題かしら? 信じている、とは少し違うのです。戻ってくる、戻ってこない、という点が問題なのではなくて
……
。
彼は騎士として私に尽くしてくれました。だから私は女王として彼に応えたい。その一つが、この約束を果たすことと私自身が思っているから、だからこの座は空いている、とそう思って頂くのが一番近い気がします。
ああ、だから彼が死んだときだけでなく、私が死んだときにも、この約束は反故になりますね。だって私はメイフェリンの名をもって、彼にこの約束をしたのですから。
ところで、わざわざこの国をお訪ねになって下さったのですが、私はあなたのお顔には見覚えがないのです。
ですが、あなたの上着についている紋章。それには、見覚えがあります。
実は内心悪い知らせを持ってきたのかと、ドキドキしていたのですよ。けれどあなたはクライヴェスのことを聞かせてくれと言いました。まだ騎士の座が空いている理由も尋ねられました。そして今誇らしげな顔をされているので
――
私も安心することができました。
色々あなたにお聞きしたいこともあるのですが
……
むしろ、本人から直接聞きたいですね。一体二十年もどこでどうしていたのかと。ええ、きっと色々辛く、大変だったのでしょう。だから、それに応えるためにも、本人から聞かなくては。
二十年経って、焦土と化していたこの国も、ようやく緑豊かな元の地の面影が見えるようになりました。あなたにも潤いのある地が授けられそうです。
私の方はすっかり潤いのない肌になりましたけれども。ええ、歳を取ったのはお互いさまですけれどね。
だから私が生きている間に会いにこいと
――
そうあなたの主人に伝えて下さい。せっかく使いとして来ていただいたのに、すぐに舞い戻れというのも申し訳ないのですけれど。
クライヴェスに、あなたのための座はまだ空けてあると。
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