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ぷの
2025-01-12 19:14:27
5863文字
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レイチュリ🍰
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レイチュリワンウィーク - 添い寝・お揃い
雷に怯える🍰たちの話。
季節の変わり目の雨が雷を伴って荒ぶっている。
天気予報によれば雷雨は小一時間でおさまる見込みだというけれど、運の悪いことにレイシオの帰宅の足は欠航になった。その後の便も順次欠航になっていて予断を許さず、すでに行列が出来ているキャンセル待ちは望み薄。早々に見切りをつけたレイシオは、アベンチュリンのオフィスにやって来た。
「帰宅の運転手を募集していないか?」
「いいところに来たね、ちょうど貼り紙を出そうと思っていたところだよ」
これまで何度かそうしたように、雨が苦手なアベンチュリンの帰宅の運転手をしてもらう代わりに、一夜の宿を提供することになった。今日レイシオが技術開発部にいることを知ってから、アベンチュリンは外出の仕事をひとつ明日に延期した。そんなことをするから、ただの雨に雷が加わったのかもしれない。仕事を延期した辻褄が合うように。それから、レイシオと会う理由ができるように。
人を泊めるには足りない食料を買うため、帰りにちょっと寄り道をした。外は激しい土砂降りで、傘をさしていても、舗装された地面で跳ね返る水飛沫には無力だ。駐車場から店までのわずかな距離を歩いただけで、膝から下がびちょびちょになった。サンダル履きのレイシオは車に戻る頃には無の表情になっていて、悪いけどちょっと笑った。
「備蓄の心得について説く必要があるな」
「寄り道させて悪かったよ。たまたまストックを全部片付けたところだったんだ。消費期限切れは許せないだろう?」
「当然だ。管理が甘い」
「ハイハイ、おっしゃる通り」
濡れた寒さのせいではない震えにアベンチュリンが腕をさすると、レイシオは文句を切り上げて車を出した。バチバチと車の屋根を叩く雨音と頭の中に響く耳鳴りで声が聞こえにくくなっていたから、家に着くまで無言でいてくれて助かった。
車を地下駐車場に入れてしまえば、もう部屋まで雨に当たるところはない。買い込んだ食料を持って玄関ドアを開けると、悲痛な鳴き声が二人を迎えた。慌てて荷物を下ろして玄関の床に膝をつき、両手を広げる。大きな瞳を潤ませた創造物たちが廊下を猛スピードで跳ねてきて、アベンチュリンの腕の中に転がり込んだ。
「こわいよ」
「おおきなおとがずっとしてる」
「びりびりってするのきもちわるい」
防音の効いた室内は人間の耳にはとても静かだ。雨の音も雷の音も聞こえない。けれど、人よりはるかに感覚に優れる創造物たちにはわかるらしい。また雷鳴が聞こえたのか、三匹揃ってぶわりと尻尾を膨らませてビクッと体を竦めた。アベンチュリンにすがりつく前足は、普段は気をつけて引っ込めている爪を立ててしまっている。真ん丸に見開いた目にじわじわと涙が盛り上がってぽたりと落ちた。
「そうか、雷は初めてなんだね」
ごめんね。寄り道なんてしてないで早く帰ってくればよかった。アベンチュリンは三匹を腕の中に囲いこんだ。
創造物たちが生まれた宇宙ステーション「ヘルタ」には空がない。はるか高いところから空気を震わせる轟音を初めて味わっているなら、さぞ恐ろしいことだろう。年間を通して天候の穏やかなピアポイントの首都で、雷が発生するのは年に数回ほど。なかでも今日は特に荒れている。
「大丈夫、家の中にいたら安全だよ。みんなで一緒にいよう。今日はレイシオもいるから心強いだろう?」
創造物たちに語りかけながら客人をチラッと見上げて、目配せで作り付けの棚の扉を示す。そこから取り出したタオルで濡れたところを拭き、レイシオは先に廊下に上がった。買ってきた物を全部拾い上げて勝手知ったる奥に運ぶ。
一方アベンチュリンは、雷の仕組みを噛み砕いて説明しながら、震える三匹を撫でてあやした。正体を知ることで少しでも恐怖が和らぐといい。この子たちは賢いから、物語に包んで擬人化するより、現象を理解する方がきっと効果がある。
荷物を置いて戻ってきたレイシオは、創造物たちをまとめて抱き上げてリビングに運んでくれた。今日は本当にいてくれて助かった。もし一人だったら、しばらく玄関で身動きがとれなくなっていただろう。あんなに怖がる三匹を見たのは初めてで、アベンチュリンも表には出さずに動揺していたのだ。
立ち上がってタオルを取り出したところでバチンと家中の明かりが一斉に消え、蓄電で光るフットライトが点いた。あ、この建物に落ちたな。数拍置いて、玄関ドアの防音をすり抜けて凄まじい雷の轟音の欠片が耳に届いた。と同時に、ひときわ甲高い悲鳴がユニゾンで響き渡った。
「「「ミギャー!!!」」」
暗がりの向こうでドッドッドッと重たいものが弾む音がする。アベンチュリンはタオルを放り出し、床に胡座をかいて両手を広げ、受け身をとれるように柔らかく身構えた。ドムドムドムと廊下を跳ねて勢いよく飛び込んできた創造物たちを案の定受け止めきれず、いっしょくたに玄関の床に倒れた。上に乗って震える三匹をぎゅうっと抱きしめる。
「あはは、びっくりしたね!」
みゃうみゃうと口々に「こわい」「きらい」「どっかいけ」を繰り返す三匹は、家の明かりが戻っても、迎えに来たレイシオが促しても、しばらくアベンチュリンから離れなかった。
レイシオと交代でシャワーを浴びて、キッチンではなくリビングで食事をした。三匹はアベンチュリンとレイシオのそばを片時も離れようとしない。ソファに並んで座る二人の間に体をねじ込んで隙間を広げ、ぎゅうぎゅうにかたまって隠れるように収まった。そうしてくっついて雷鳴のたびに竦みあがるものだから、二人は空がどれほど荒れ狂っているかを逐一体感することになった。そのたびに一匹ずつ、アベンチュリンはよしよしと撫でて、レイシオはぽんぽんと軽く叩いてやっていた。
二システム時間ほど続いた雷が落ち着いても、三匹は二人の間から出ようとしない。程度の差こそあれ三匹とも「こわかった」と目を潤ませて、ときどき恐怖を思い出してはぶるっと震えている。
おかげでアベンチュリンの雨への複雑な思いはどこかに追いやられた。怯える子たちが心配でそれどころじゃない。ときおりレイシオがこちらを窺う気配は感じていた。大丈夫かと尋ねるように、創造物たちの合間にアベンチュリンの手の甲を叩いて軽く握ってきた。やせ我慢じゃないとは言いきれないものの、おおむね問題なし。いつもより冷えていない手で軽く握り返すと、レイシオもアベンチュリンのことを後回しにしてくれた。
「ケージで寝るのは
……
無理みたいだね」
レイシオが家に泊まるとき、三匹にはケージに入ってリビングで寝てもらっている。まあその、寝室に来られては困るので。いつもならぐずったりしないのに、今日は小さな前足でアベンチュリンとレイシオにしがみついた。「やだ」「はなれないで」「おねがい」と訴える目が必死だ。とても突き放せない。
アベンチュリンは隣のレイシオを見上げた。
「頼みがある」
「そうしよう」
さすがこの子たちのかかりつけ医。アベンチュリンが一匹、レイシオが二匹を抱えて、寝室に移動した。横たわる二人の間に三匹を挟んで、上掛けをすっぽりとかけた。しかし、ベッドに入ってからしばらく経ってもぷるぷると震えている。眠れないことがもどかしいのか、うにゃむにゃとときおり小さな鳴き声をもらしながら。
アベンチュリンは横向きに体勢を変えた。創造物たちを抱え込むように軽く体を丸める。一番ビクビクしている子を抱き寄せてお腹に密着させた。パジャマのボタンを上から二つ外してその子の前足を取り、素肌の左胸に肉球を押し当てた。
「ここの奥、わかるかい?」
「うん」
「この音に集中して」
アベンチュリンが雨の夜にレイシオから与えられるもので頼りにしているのは、頭が馬鹿になるほど追い上げてくれる丁寧さや、寝落ちするほど疲れさせてくれる体力もあるけれど、なにより腕の中に閉じ込められて聞く鼓動だ。人体のエンジンである不随意運動は、レイシオが先に眠ってしまってもずっと寄り添っていてくれる。揺るがない命の力強さが、何にも勝る安心をくれる。
あの心強さをあげられたなら。胸の上に置いた小さな前足を指先でさすり、目を閉じてアベンチュリンの胸の奥に耳を澄ませている子の安寧を願った。
それを横目で見ていたレイシオも、もぞもぞと体勢を変えてこちらを向いた。二人の膝がこつんと当たった。レイシオが残る二匹に手を伸ばす。すると、一匹がもう一匹をレイシオのお腹に押し出して二人の顔の前にずり上がった。
「ぼくはいい」
それを聞いたレイシオは、強がりを言った子をわしわしと撫でた。アベンチュリンのところからは大きな手だけが見えた。その撫で方知ってるよ、髪がくっしゃくしゃになるんだ。手が離れると、照れたその子はぷいっとレイシオに背を向けた。そして、向かい合ったアベンチュリンと目が合った。今度はアベンチュリンが笑いかけてよしよしとおでこを撫でる。逃げ場がないと観念したのか、ムズムズと動く口を前足で隠して目を閉じた。尻尾でするりするりとアベンチュリンの手首に触っているから、嫌がってはいない。
うちの子たち、ほんっとに可愛いよね。くっついているレイシオの膝に自分の膝をすり寄せて同意を求めた。すりすりと同意が返ってきて、可愛いの中にレイシオも加えた。創造物たちが間にいてレイシオの顔は見えない。両手がふさがっていて手を繋ぐこともできない。雨の夜に隣で寝ているのに膝しかくっついてないなんてね。しかもパジャマ越しだ。それでも心は満ち足りていて、いつになく穏やかだった。
「おやすみ」
「おやすみ」
残るものは声だけ。精一杯のやわらかい声でレイシオの耳を撫でるつもりで囁いた。お返しもまた存分にやわらかく、アベンチュリンの耳から入って胸の奥を撫でた。どうしよう、眠れるかな。仄かに灯った火を大きくしないように、けれど消えないように、大切に守って目を閉じた。甘いお菓子の香りが鼻をくすぐって、アベンチュリンを眠りの方へそっと押しやった。
アラームで目覚めた。お腹に抱えていた創造物の温もりがない。目を開けると、同じくアラームで起きたらしいレイシオがゆっくりと瞼を持ち上げているところだった。二人の間を隔てるものはなく、パジャマの胸元がはだけてしどけなく横たわる姿を特等席で眺められる。レイシオはいつも先に起きてベッドを出てしまうから、貴重なひとときだ。
「おはよう」
「おはよう」
レイシオの手が伸びてきて、アベンチュリンの前髪をかき上げた。輪郭を辿って首に触れ、頸動脈で止まった。
「起きて最初にすること、それ?」
「眠れたようだが、昨晩は雨だったからな」
「そういえばそうだったね」
珍しく夢も見ずにぐっすり寝た。雨じゃなくたってここまで熟睡することは滅多にない。
アベンチュリンを仰向けに転がして覆い被さってきたレイシオが胸元に顔を埋める。鎖骨の辺りを強く吸われた。おはようのキスにしては不届きなんじゃないの、と思っていたら、レイシオはアベンチュリンの胸に額をつけてくつくつと笑い出した。
「ちょっと、なんなんだい」
「見てみろ」
レイシオの指でパジャマの前を広げられ、胸元があらわになった。そこには、ピンク色の可愛い肉球の痕がくっきりと。
「えっ、こんなに綺麗に付くもの?」
「長時間圧をかけ続けるとなるらしい」
「ということは君も?」
今度はアベンチュリンがレイシオの胸元を広げてさらす。そこにもくっきりと同じ形の痕が残っていた。
「あははっ、お揃いだ!」
どのくらいで消えるものなんだろう。今日は胸元の空いたシャツは着ない方がいいかもしれない。
「お揃いには足りない」
レイシオはトントンと自分の鎖骨を指で叩いた。腕を引かれてころりと体勢を入れ替えられ、アベンチュリンがレイシオの上に乗った。腰を掴まれていて逃げられない。まあ逃げる気はないんだけど。
しっかりと浮き出た鎖骨の下に唇を寄せて、強く吸った。良くできましたと頭を撫でた手に引かれるままに顎を上げる。朝に相応しいおはようのキスを数度交わした。
そうしながら今日一日の予定を思い浮かべ、それから昨日の夜のことを思い返していたアベンチュリンは、なぜレイシオがこの家にいるのかを思い出した。さらにこれまでの雨の夜のことを思い出して、叫びそうになって堪えた。
「あのねレイシオ、辛い現実に気づいちゃったんだけど」
「そうだな」
さすがの察しの良さだ。この場合喜ばしいかどうかはともかく。
創造物たちはとても耳がいいと感じてはいた。けれど、あれほどまでとは想像していなかった。防音の家の中から外の雷の音が聞こえるなら、寝室の声や音がリビングからでも聞こえていただろう。なるべく声を殺していたつもりだけど、できなかったこともある。
「あの子らに寝室でのことについて聞かれたことはないが、近いうちに時間を設けて話をしよう」
なにを? なんて!? それに、今までそっと黙っていてくれた理由を掘り下げるのが怖い。あの子たちは何を思って沈黙を選んでいるのか。
「下手にぼかすより、きちんと説明した方があの子らは納得するだろう」
その見解には同意だ。あの子たちは賢いから、ごまかしたっていずれ察するだろう。ただ、アベンチュリンが己の迂闊さと恥ずかしさに耐えられないだけ。レイシオだって同じ気持ちに違いない、とても複雑な顔をしているから。
「
……
外に出たとき誰かに話しちゃったりしてないかな」
「その聞き取りは必要だな。今後についてもしっかり念を押そう」
なんだろう、これは普通の飼い主の悩みではない気がする。どちらかというと子供をもった気分なんじゃなかろうか。しかも成長が早い。アベンチュリンの心の準備が間に合わないほどに。
「嘘だろ
……
」
スヌーズで再びアラームが鳴った。日常は無慈悲にやってくる。アラームを止めて、レイシオと顔を見合わせる。取り返しのつかないことをぐじぐじ悔やむのは時間の無駄だ。まずは現状把握、それから相談して今後の方針を決める。
「巻き込んでごめん」
「忘れたのか、あの子らの里親に君を勧めたのは僕だ」
そういえばそうだった。ならいいか。責任、半分持ってくれよ。
もう一度おはようのキスをして、二人は頭を切り替えた。
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