望月 鏡翠
2025-01-12 14:23:39
972文字
Public 日課
 

#1602 「セロリ」「一年」「筆」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題話

 引っ越しをした。
 新しい家というは、わくわくする。
 内見のときから、部屋の間取りをどうするかあれこれと思案を巡らせていたが、実際にそこにものを配置するときがきたのだ。せっかくだから新しい家具を買おうとか、家電を新しくしようとか、色々考える。
 しかし資金と時間の関係で、結局半分くらいしか実現しない。
 これからの生活を思って部屋を一つ一つ整えていくが、途中で今の私の生活をしなければならない。食事をしなければお腹が空いてしまう。
 コンビニで適当なものを買ってきて済ませてもいいのだが、今の私は野菜が食べたい気分だった。
 キッチンを見る。
 すぐに料理はしないだろうと思って、ろくに荷解きも済んでいない。
 火も電子レンジも使わないでできるもの。
 駅前には、スーパーの他に昔ながらの八百屋もあった。私の足はそこに吸い寄せられて、りんごとセロリを手に取っていた。
 一緒に食べるつもりでいたわけではない。ただ、その二つなら洗って切るだけで、そのまま食べられると思っただけだ。
 スーパーに行って、調味料も買う。塩や砂糖といった大袋で買うもの以外は、概ね使い切ってきたから、何を買い足したとして困りはしないだろう。
 荷物の中から、まな板と包丁、お皿だけはなんとか見つけてくる。
 食べやすい大きさに薄く切って、塩胡椒とオリーブオイル、リンゴ酢で味を整えたら少し贅沢なサラダができる。
 ここまでするならいっそトマトやえんどう豆も買ってきて、鍋も探してお湯を沸かしてもう少し本格的なものを作っても良かったのかもしれない。
 今更言っても始まらない。
 残りを明日にとっておいて、明日やればいい。
 半分にラップをかけて、冷蔵庫にしまう。新居の冷蔵庫、最初のお客様は自作サラダだ。
 小腹が満たされるとやる気がが途切れてしまい、私は比較的片付けが進んでいる寝室で、そのまま休憩をすることにした。部屋には、ベッドと机がある。クローゼットに衣類を詰めれば、それだけで部屋はいっぱいだ。今は衣類が段ボールに詰めたまま積み上げてある。
 机の上に、真新しい日記帳を広げた。どうせ続かないことがわかっているから、日付や年度が入っているものは使っていない。前の日付を見ると一年前だった。
 今日からまた始めればいいのだ。
 私は筆を手に取った。