ろくでもない男に引っ掛かる女を嘲笑っていた奴が、いざ自分がろくでもない男に引っ掛かった時、どんな言い訳をするのだろう。自分は周りが何をしようと好きにすりゃいいと思っていたから馬鹿にするようなことはしなかったはずだ。それでも何処かで愚かだと下に見ていた気がするのも事実だ。
四つ折りにしていた紙を広げるといくつかの文字と数字が羅列されている。それを見て溜め息を吐き、今度は財布の中身を見てまた溜め息を吐いた。紙の中には「キス一回千円」「口と手五千円」「セックス一万円」と走り書きされている。エレンの小遣いは月に五千円だ。昨日貰った紙幣が財布に入っているが、キスを五回ねだるか、口と手にするか、我慢して来月セックスをしてもらうか、毎月頭を悩ませている。
エレンはまだバイトも出来ない年齢の自分に金を集るような、ろくでもない男と関係をもっていた。
エレンは自分の性的嗜好に悩んでいた。思春期にはどうしたってついて回る問題だ。
恐らく自分は性的対象が男で、猥談や恋愛話に興味が持てず、友人達がふざけて「お前ホモだろう」と言うのを傷つきながら否定する。きっと自分の様な男がどうしても避けて通れない、苦痛と不快感だ。
自分が男が好きだと理解したのは、幼い時から面倒を見てくれていた一回り年上の男が好きだったからだ。近所に住んでいた男で、母親同士が仲が良く面倒を見てくれていた。リヴァイが家を出た後も連絡を取り合い、よく家にも呼んでくれていた。知らない一面を見るほど好きな気持ちが抑えきれなくて、ついにぼろを出してしまう。
中学三年生、好きな相手の私物に囲まれ、つい魔が差してしまった。鞄の中に忍ばせた、リヴァイの下着を見つかってしまったのだ。リヴァイに見つかった時に、血の気が引くというのを実感した。
言い訳もできずリヴァイへの好意を口にして、その下着で何をするかまでを聞かれてもいないのに喋った。もう二度と会う事もないだろう。リヴァイが気味悪く思うことをしておいて、彼に罵倒されるときっと深く傷つくのだ。勝手な話だ。けれど涙が止まらなかった。
「三千円」
「は?」
「三千円払ったら、お前にそれやるよ」
エレンを見下ろしているリヴァイの表情からは何も読み取れなかった。軽蔑も憐みも見えない。エレンにはいつものリヴァイに見えた。それからリヴァイは小さな紙に料金表を走り書きし、エレンに手渡す。その日から、エレンは男に貢ぎ続けている。
リヴァイの誕生日が近づいていたある日。エレンは金の使い道に困っていた。当日は無理でも特別な意味を持ってエロいことはしたい。それが片想いだとしてもだ。
けれど彼にプレゼントを用意したいが、残念なことにリヴァイとエロいことをするには金が必要なので、プレゼント代をどう工面するか迷ったあげく、エレンは父の書斎を訪ねた。
「何か手伝うことない? 小遣いほしいんだ」
「今月の分、カルラから貰ってただろう」
「ら、来月に…ちょっと…」
うまい言い訳が思いつかず言い淀んでいるとグリシャは特に言及はせず、何かを納得したようだった。「それじゃあ本を片付けてくれ」と山積みにされた本を指差し、エレンは一瞬顔を歪める。
「お前が来てくれて良かった。これでカルラに叱られずにすむ」
「もっと暇そうな時に声かけるんだった…」
何度か手伝いをしたことがあるので勝手は分かるが、何せ量が多い。ぶつぶつ文句を言いながらもエレンは片付けを始め、ついでに散らかっていた書斎を掃除した。
「お前のそれはリヴァイ君のおかげかな」
「…そうかも、な」
紛れもなくそうだ。リヴァイが綺麗好きだからエレンも掃除を苦と思わない。そうしなければ側にいられない。
数時間もするとカルラが二人を呼ぶ声がする。扉の隙間から夕飯のいい匂いが微かに漂っていた。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
「うん」
「さて、今日の対価だ」
グリシャがエレンの手の平に握らせたのは一枚の紙幣だ。いつもよりも多い金額に思わずグリシャの顔を見上げる。
「父さんもエレンくらいの時は見栄を張りたがったものだよ」
きっとグリシャは来月のクリスマスシーズンに、エレンが相手の子に見栄を張りたいから小遣いをねだったのだと思ったのだろう。当たらずも遠からず、エレンが否定も肯定もしないでいると肩を叩いてにやにやとしていた。父親は息子の成長を喜んでいるようだったが、本人はリヴァイとのセックスで頭がいっぱいだった。父の思いやりは年上の男に貢いで消えていく。
***
リヴァイはエレンが成長するにつれ、自分に興味が無くなっていくことに苛ついていた。だからリヴァイの下着を盗んだのを見つけた時は心の中は喜んでいた。エレンが差し出した三千円で、それはさらに明確になる。
高額過ぎてはいけない、支払う前から諦めてしまうからだ。エレンが友人と遊ぶのを諦めれば捻出できなくもない、そんな金額を提示すれば彼は翌月から小遣いを握りしめてくるようになった。
月の小遣いは五千円、臨時で手伝いをすれば少し貰える。リヴァイに性的なことを頼むエレンは律儀に金を持ってくるから、学友との金のかかる付き合いは殆ど断っているのだろう。そしてそれはリヴァイの望んだことだった。学友の話を家で聞く度に、愉悦を感じている。
エレンはああ見えてエロい事に興味津々で、二ヶ月我慢すればセックスできるのに耐えられたことがない。あんなに解してやっているのに使わないのは勿体ないと思うが、本人が堪え性がないのでどうしようもない。
「リヴァイさん、来月の誕生日前後、時間もらえませんか」
「別に構わねえが」
今日もエレンは律儀に千円支払い、先程までキスに没頭していた。股間が膨らんでいたので今日の夜はリヴァイを想って自慰にふけるのだろう。そうやって毎日自分のことで頭をいっぱいにしていればいい。
「実は親父から多めに小遣いもらえたので…」
そわそわと落ち着きのない様子に、何を言わんとしているのか理解した。彼の父親もまさか男に貢ぐために小遣いをねだったなんて思うまい。聡明な彼の父親のことを憐れんだが、この遊びを辞めるつもりもなかった。
「そうか。二十五日空けておく」
「え…」
「お前、冬休み入ってるだろ。違うのか?」
「いえ! 入ってます!」
にやついた顔を隠しきれず、口が引き攣っている。誕生日なんて正直どうでも良かったがエレンが有り金をはたくのだ、そのくらいおまけしてやっていい。
「楽しみだな」
エレンの金も体も心も搾り取ってやる。きっと彼は増々自分に夢中になるだろう。
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