けろか
2025-01-11 19:43:10
7317文字
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EDリーマン久々知がマッサージ師竹谷に開発される話①

疲れた久々知さんを竹谷がとろっとろにとろかすタイトルまんま🔞話の冒頭です。
兵助がモブ♀と過去付き合ってたって話に出てきます。
リアクション押してくれる方いつもあざます大変励みになってます🫰
②→ https://privatter.me/page/678cd7017ae5c

完結しました→ https://t.co/UD2rAJgZG4

「で、またフラれたってわけ」
 ガヤガヤと騒がしい居酒屋の一角、油の焦げる匂いと喧騒に包まれた中で、親友の勘右衛門はビールのジョッキを一息であおった。置かれたグラスからドンっと乾いた音が立った勢いそのままに指差される。
「今度は何が原因なのさ」
 尻尾についたお気の毒ぅの言葉は心がこもってない。お通しの枝豆が兵助の分までひょいひょいと口に放り込まれた。
黙ったまま、手酌で注いだ二杯目のビールをちびちびと口に運ぶ。グラスの内側に泡が広がり、やがて消えていく。
言いにくい、言いたくない。

 でも今回誘ったのは兵助の方である、勘右衛門だって慰めるためにわざわざ時間と場所まで作ってくれたのだし、自分が話さなければ始まらない。
 意を決して重たい口を開いた。
――『なんか思ってたのと違う』って」

「……うん?前の人もそうじゃなかった?」
 それだけかと知った顔で促される。
 黙っていると、勘右衛門が大仰に肩をすくめ、ため息をついた。その音がやけに耳に響いて、兵助の胸の奥がきゅっと縮む。

「わざわざ兵助が俺を呼び出したんだからそれだけなわけないだろ」

「勘右衛門……
 彼が、眉を少し上げて微笑む。いつも変わらないその余裕のある表情が、己の視線を捉えたまま、次の言葉を待っていた。
 炭酸の抜けたビールをぐっと飲み下し、兵助は小さく息を吐いた。視線をまっすぐ勘右衛門に向ける。こうなったら言うしかない。
「その、する時に」 
「する時ってセックスって認識でいい?」

「そう。その時に……
「ほう」
「なんか、出来なくて」
「あー勃たなかった?なるほど!まあでもそーゆー時って誰にでもあるじゃん?それだけでダメになっちゃったの?」
 軽く受け流すような声色だった、そうしてくれたのだろうが何となく目を合わせにくくて、兵助は手元のタッチパッドに視線を落とした。
 メニュー表を意味もなくスクロールし、条件反射のように冷奴を探し当てる。指が勝手に動いて、気づけば注文ボタンをタップしていた。
「なんか……もう分かんないんだけどほかにもいろいろ積み重なってたみたいで」
「なるほどねぇ〜」
 声は変わらず軽やかに返ってくる。それでも、向けられる丸い瞳は妙に鋭い。きょろっと動くその双眸がこちらを捉えると、視線の中に自分の表情筋ひとつひとつがさらけ出されている気がする。
 人懐っこい薄笑いを浮かべ、能天気に見せながらも鋭く相手を観察する――それが彼の性分なのだろう。
――その女にフられたことはそんなにショック受けてるように見えないけど。他になんかあるでしょ」
「っかんえもん……」
 
 名前を呼んだ瞬間、目頭が熱くなった。うるっと来てしまい、思わずテーブル上の勘右衛門の腕に縋る。昔からこうだ。この友人には、不思議と弱さを晒してしまう。
 勘右衛門の手が兵助の手を軽く叩きながら、よしよしと宥めるように動く。その仕草に、促されるように重たい口を開いた。

……勃たなくて」
「うん?」
「調子が悪いんじゃなくてずっと勃たない」
「え、あ――いーでぃーってやつ?」
 ゆっくりと顔を上げる。そこには深刻でも軽薄でもない、ちょうど真ん中の表情をした勘右衛門の顔があった。どうってことない日常会話の延長のようで、けれども確かに自分の話を聞いてくれている目だ。
勘右衛門のこの、己とのことを承知した上での気安い扱いは兵助にとってありがたい。本当に。
……夢精とかもしないの?」
「いや、それはする。だからこそ困ってるっていうか……
 ガラッと個室の扉が開く。
冷奴を乗せたトレーを持った店員が、軽快な足取りで入ってくると、無言のままテーブルに小皿を並べ始めた。その動作が妙に丁寧で、さっきまでの空気に微かな綻びが生じる。
 
 店員が一礼して出て行き、ようやく静寂が戻ると、勘右衛門がちらりと冷奴を指差しながら、ええ、俺の分も冷奴頼んだのかよ片眉を上げてこちらを見やる。茶化しとは別に少しの気遣いが滲んでいた。
「心因性ってやつじゃない?兵助、疲れてるだろ。なんかこう、体もだけど、心の方も」
「うん……
 心当たりがあることだらけだ。迫る納期、進捗報告、仕事を増やす年上の部下。上司のどや顔と気の早い新年会のスケジュール管理、慣れ親しんだとも苦々しいとも言える神経をすり減らす毎日。年度が開ければ楽になるだろうが、とりあえずは今が辛い。
「まあ、それで病院行くにしても、保険効かないんだよな、あれ。自由診療になるから結構高いぞ」

「知ってる」

「まー彼女もいなくなったんだしオナニーのためだけに薬飲むのもなぁ」
 ちびちびと冷奴をつつきながらぼやく。兵助も冷奴を一口すくったが、喉を通る気がしなくて箸を置いた。
勘右衛門はうん、兵助の作った方がよっぽど美味しいやと普段言わないようなことを漏らしてから、じっとこちらを見つめてきた。
瞳は黒く丸い。自分の顔の険が、その小さな瞳にそのまま映っているようだ。

 ふうっと息をつく。お腹からしっかりと力を込めて吐いたそれは、少しだけ身体の奥に滞っていたものを押し流してくれた気がした。
……ありがとう、勘右衛門。ちょっと話聞いてもらっただけで、楽になったよ」
 肩の力を意識的に抜きながら言葉を紡ぐと、勘右衛門は一瞬きょとんとした顔を見せ、それから瞳以外も丸みのある顔のパーツを緩ませた。口角が柔らかく上がり、頬にほんのりえくぼが灯る。

――抜くオカズ変えてみたら?」

「は?」
 突拍子もない言葉に兵助は思わず間抜けな声を上げてしまう。呆気に取られる自分を尻目に、勘右衛門は手元のビールをぐいっと飲み干し、テーブルに置いてからにかっと笑った。先ほどまでの沈んだ雰囲気を全て払拭するような明るさが満ちている。
「いや、夢精するってことは機能的には問題ないわけで……目先を変えてみたら?って。ほら、たとえば最近流行りの――食べ物とかさ。なんかえっちに食べる漫画とか流行ってるじゃん。それとかいいんじゃない?」

……俺、食べながらシモのするの無理だって知ってるだろ?それにほら――
 グラスを振って見せる。先程の冷奴には手を付けていない。勘右衛門も兵助の手元をちらと見やると、ああそうだった、と書いてあるような呆れ顔をした。
「今話してる間も酒しか飲んでない」
 はぁ〜っと本日ニ度目の大袈裟なため息が吐かれたかと思うと、彼はそのまま兵助のグラスを奪った。
気の抜けた不味いであろうそれをごくごくと飲み干し、ドンっと置いてこちらを睨め付ける。上目遣いなのがわざとらしい。
「兵助。いいものあげる」
 隣に置いた鞄の中に手を差し入れた。革やら布やら紙やらが擦れゴソゴソと音が立つ、好奇心が微かに刺激されたが何か言う気にはなれず、ただじっと待った。
きっと散らかっているであろうそこをあれでもないこれでもない、と探るつむじが揺れる。
 あ、あったー!ほらこれ!とようやく彼が差し出したのは、一枚の紙切れだった。
『リラクゼーションサロン』と薄手の安っぽい紙に印字されたそれは、この近くにある店の広告らしい。
 勘右衛門はその折り目を軽く押さえながら広げ、指でびしっと示した。
「今キャンペーン中なんだって。この前もらったんだ、チラシ。行ってこいよ」

 え正直行きたくない、美容院だって得意じゃなくて前髪はセルフカットで持たせてるし、でもせっかく彼がくれたものだし――などと思っているうちに勘右衛門は畳み掛けた。
「兵助、こーゆーの行ったことないだろ。体験しといた方がいいって絶対」
 はいこの話はおしまーい、シモの話もおしまい!と小鉢を兵助の方に押し出す。やっぱり手をつける気にも、彼の提案にも乗る気になれず無言でいたら、有無を言わさない口調で「な?」と念押しされた。
気圧されて渋々頷くと、彼はまんまるな瞳を細めて、いいことあるよ、絶対!と白い歯を見せ笑った。
 頼んだ冷奴は、いかにもチェーン店の味がして美味しくなかった。

(来ちゃった……けど、これって……)
 そこは小綺麗なマンションの五階にあった。看板も特に立てられておらず一見しただけではそういう店とはわからない。
きょろきょろと挙動不審に周りを伺って、バクバクに胸の音を鳴らしながらインターホンを押したら、出てきたのはガタイのいい男性だった。
日焼けした顔、人好きのする目元、ぴょんっと跳ねた前髪。濃い眉毛が主張して、こちらに向けて全開の笑顔を向けてきた。

 スポーツ選手とかにいそうな爽やかなタイプだ。――兵助個人としては得意ではない、でもどこか憎めない子犬を思わせるような容姿のその男は、たけやはちざえもんです、予約したくくちさまですねーと慣れた調子で兵助をリビングに通すと、少しお待ちくださいと中に引っ込んでいった。
 椅子に腰掛けながら、ごくっと唾を飲む。視界に入るのはテーブルの上の“何か”のパウチだ。
 
(これって、これって――絶対、“そういう”店だ……!)
 勘右衛門め、何がいいことあるよ絶対、だ!知ってるんだこれ何かの中身は間違いなくローションだ、勃たなくなってからありとあらゆるAVを漁った兵助にわからない訳がない。

 あの夜、勘右衛門からあのチラシをもらって兵助はしばらくそれを放置していた。
 思い出したのは一昨日の金曜日、やっぱり残業続きでくたくたになって、もう早く帰って飯食って寝たいとしか考えられなくて、駅を降りて家までの道をとぼとぼ歩くその途中。家の鍵を探しているときにあのチラシが兵助の手に触れた。
 親友が真剣な顔で行け、行ったらいいことあるからとかなんとか言ってたことが思い出されて、それで、――そう、それで、家に帰って、この店が自宅からほど近いところにあったところも後押しして、深夜のテンションも手伝って、予約をボタンをポチッと押してしまった、のだ。
朝起きたら、コース名の先頭には“性感”と書いてあった。誤字の可能性もあるしなと現実逃避していたが、この部屋の様子からすると誤字ではなかったようだ。終わった。

(今からでもキャンセル?とか……)
 いや無理だ――深夜のテンションでキャンセルが基本的に不可能な、この店で一番高額な数日に渡って施術するとかなんとかのすぺしゃる全身コースを頼んだのだ、もちろんその時は冒頭の性感の文字は見えてなかった――今からそれをキャンセルなんてしたらまずお金が戻ってくることはないだろうし、そもそもの料金が、深夜だとか酒が入ってないと決められないくらい高い。
 今からキャンセルした場合の料金って一体いくらになるんだろう。額からだらだら汗は出るのに口はカラカラに乾いて、どうにかなりそうだ。
 ああこのまま適当にそういうお姉さんをあてがわれて、でも勃たなくてコイツなんのためにこんなところ来たんだよって顔されて、無駄に高額なお金を支払うはめに――だめだ目眩がしてきた。

「くくちさん、お待たせしましたー」
「っは、はい……
 もう頭は暗黒色一色で、だからその男――竹谷が戻ってきたのにもすぐには気づかなかった。はっとして顔を上げたら、にこやかな笑顔と目が合う。
 あたふたと居住まいを正した兵助を見て竹谷はにこーっと、やっぱり人好きのする顔で笑った。
……緊張されてます?」
「え?いや……
 緊張するに決まってるだろうがそもそも美容院すら得意じゃないし、いまから男としてのプライドが木っ端微塵になり財布も軽くなる予定なのに。
 こんなことになるなら前々から夢見ていた幻の豆腐をお取り寄せしておけばよかった。いやでもあれは、ここよりも高くてちょっとお値段的に手が出る代物ではないし。そんなどうでもいいことばかりぐるぐる考えてしまう。
 俯いて、視界に彼の顔が映らない代わりに白い開襟シャツから覗く、ガタイのいい胸元がいやに目に入る。
「そんなに緊張しなくていいですよ、俺こう見えてマッサージうまいんで」
「はあ。…………え?」
 あっけらかんと言われてふと疑問が生まれる。そういうえっちなお姉さんがするんじゃなくて、この男――竹谷がするのか?文頭に性感がつくマッサージを?俺に?
目を白黒させる兵助の正面、竹谷は気にも留めない様子でくくちって、久々に知るって書くんですねー珍しいですね?とかなんとか言っている。
 答える気にもなれなくて視線を下げたまま黙っていると、不意に目の前に影が落ちる。
 はたと顔を上げると、竹谷の顔がすぐそこにあった。顔の彫りの深さとかそういうのまでわかる距離だった。目をそらせず、彼も兵助の顔から視線を外さない。彼はにこやかな顔をふと誠実なものに変え、兵助の両手を握りこんできた。
「っな、何ですか……
 最初に感じたのはその熱さだ。それとも自分が緊張で冷え切っているのだろうか。
 竹谷は兵助を上目づかいに見つめ、あのですねと口を開いた。
「久々知さんが嫌がることは絶対しないので」
「へ」
「もし俺相手じゃどうしても無理だーってなったらすぐに言ってくださいね。無理強いとか絶対しないんで」
 そんな不安そうな声出さなくてもだいじょぶです、と竹谷は握った手にぎゅうと力を込めた。
「時間をかけてやっていきましょう。このコースですが期間、回数は無制限です。お客様――久々知さんが満足するまで、が契約内容ですので」
………はい」

 その真剣な眼差しに、思わずこくんと頷く。頷いて、しまった。
不安か、――はたまた、胸の底で蠢くよくわからない何かでざわわっと産毛が波打つ。それが恐怖や緊張ではなく期待していたのだと兵助が気づくのは、もっと後のことになるのだが。

 じゃあはじめましょうか、と竹谷は快活な声を弾ませた。
ここで施術台――ベッドにでも連れ込まれていたら兵助は死ぬ気でNoを出しキャンセル料を払っていたのだろうが、竹谷は兵助をリビングの椅子に座らせたまま、彼自身も座ったままだった。

「シャツ、失礼しますね」
 断って兵助のシャツを丁寧に肘のあたりまでたくし上げていく。下にはタオルが敷かれていて、なんだか健康診断の時の採血みたいだ。

「久々知さん、触られるのとか得意じゃない……ですよね?どうしてまたこの店へ?」

「えーっと、友人の紹介で……?気分、変えろって言われて、変えたくて……
「へえ、そうなんですか!――まだ、嫌じゃないですか?」
「あ、はい、やじゃないです……」

 竹谷は言いながら例のパウチの封を開ける。甘い匂いが広がった。兵助の腕の方にとろとろした中身を垂らす。
 
(そういうアレじゃなかったんだこれ……)
 性行為の時に使うローションではなく、マッサージオイルの類いらしい。先走った自分がなんとなく恥ずかしくなる。
 竹谷はその太い指を器用に使って兵助の腕から手までにオイルを塗りこんでいく。見た目に反して丁寧な手つきだ。
 指の一本一本の根元から先端まで、液体を浸透させるようにふにふにと指をつまむように揉まれてなんだかぼーっとしてきた。
「お仕事、何されてるんですか?」

「SEです」

「わかります、そういう顔してますもん」

「あ、ありがとうございます……?」
「はは、なんでお礼なんですか」

 あ、俺別に敬語じゃなくていいですよ!と竹谷がへにゃりと相好を崩す。なんだか眩しい。兵助は目を眇めながら頷いた。
「じゃあ、その」
「はい」
「竹谷さんも、敬語は……いいですよ」
「え?あ、そう?え、久々知さんいくつ、ですか?」
「今年で二十四です」

「一個下だ」

「いや俺早生まれなんで、……そしたら同じ学年ですね」
「おおー!偶然!」
 何がそんなに嬉しいのだろうか、竹谷は目をまん丸にしてにこにこしている。すごいですねえー!と左手でぎゅっと兵助の手を握って、右手は変わらず肘を揉み、さすり上げた。
「こーやって、」
「っ、」
「こっちの手でぎゅっとしてるとしっかり刺激与えられるんだけど……痛くない?」
「へ、平気です」

「あ、敬語になっちゃった」
 たかが腕を触られているだけなのに妙に胸の音がうるさい、顔が火照る。
 竹谷の手は手首まで降りてきて、今度は兵助の右手の指と指を絡ませるように手全体をぎゅうぎゅう揉んでいく。入り混じる体温がなんだか、熱い。大きくて分厚くてあたたかくて、その温度に兵助の皮膚が溶かされていくみたいだ。

「久々知さんの手って――
 いわゆる恋人繋ぎの形で絡まされる指と指、それを竹谷のもう片方の腕がそうっと包みこむ。
「頑張る、頑張ってる、手ですね。応援したくなる」
 かちあった薄茶色の双眸に己の驚いた顔が映りこんだ。なんだか変な汗が背中にじわりと滲むのを感じて、兵助は慌てて視線を逸らそうとする。
 が、それは竹谷のまっすぐすぎる視線のせいでうまくいかず――にこーっと蕩けるような、いや人を溶かすような笑顔を至近距離でお見舞いされた。顔がさらに熱くなったのは言うまでもない。
 プシューッと頭から煙を出しそうな兵助をよそに、竹谷はその手を握って離さない。それどころかにぎにぎと力を込められて、くすぐったいような気持ちいいような感覚がじんわり伝わった。
 
(なんなんだ……なんなんだこの人――!)

「じゃあ、また都合のいい日に予約を。待ってます、久々知さん」

……はい」
 自分でもよく聞こえないくらい尻すぼみな返事を返す。竹谷はその間も兵助の瞳をじっと見据えていて、目を逸らす隙を与えられなかった。
 なんとかお願いしますと呟いてこれまた最後まで優しく微笑まれたまま店を出たところでようやくふっと肩の力が抜けた、疲労感。でも、いつものような重いものじゃない。
(いろいろありすぎて疲れた、けど――なんか、良かったな……
 帰路の足取りは行きよりずっと軽かった。