2025-01-10 23:30:30
2641文字
Public WJ封神演義二次創作作品
 

【超仙人万来2025冬 サンプル】夢繰

pixivから移行予定につき、サンプル文もこちらに掲載。超仙人万来2025冬にて再版します。
「女媧の歴史操作が、本編で語られた人たち以外にも及んでいた可能性」を主題にした考察論文その2。その3が出るかは不明。
道徳が中心ですが、慈航、黄竜、普賢、文殊、霊宝、懼留孫、道行もひょこひょこ出てます。

序章 前触れ


 元始天尊が出て行った会議室に、パタン、と扉の閉まる音が響く。
 ほとんど間髪入れない形で、ふわぁあああ、と押し殺すことをやめたあくびが、慈航道人の口から出た。
「どうしたんだ、今日もずっと眠そうだったじゃないか」
 隣に座っていた道徳真君は、心配そうに声をかけた。
 もともと、道徳とよく似て夜明けと共に起き、日が沈むと共に寝支度を始めるような生活をしており、ましてや今は弟子を持たない自由の身。仕事に追われているわけでもなく、徹夜とはほど遠いはずだが、と訝しむ道徳に対し、慈航は大きくため息をついて、「最近寝付きが悪くて」とこぼした。
「寝た、と思ったら数時間で起きちまうんだよ。下手すると数十分で飛び起きる。なんかいやな夢を見た気がするんだが、内容を全然覚えてなくて、逆にこれが気持ち悪い」
 仙人、しかも十二仙ほどの実力者ともなれば、霊気の乱れや歪みを無意識に感じ取り、夢に見ることもたまにある。だが、慈航道人はそういった類いのものではないと否定した。黄竜真人も、困ったように眉をひそめる。
「実は俺も、不意に頭痛に襲われたり、金縛りに遭ったりして困っている」
 黄竜と慈航の洞府は隣同士だ、その周辺で何らかの異変が起きているのではないか、と二人で探し回ったりもしたが、この一ヶ月、めぼしい成果はないという。
「今は俺たち、弟子がいないからいいけどよぉ、まったく、十二仙ともあろうものが情けないぜ」
 前日もほとんど眠れていないんだ、とほとほと困った顔で慈航は机に突っ伏した。
 もし、自分が今フリーなら二人の手助けをしてあげたい、とは思ったが、いかんせん現在、道徳は文字通りまだまだ子供の弟子を一人、洞府に抱えている。留守番のできない年齢ではないものの、好奇心旺盛ではあるし、青峯山は崑崙の中でも比較的外側に位置する山。野良の妖怪が飛んでくることもあるし、弟子がそれなりのいい身分の家出身ということもあって、武芸の一通りを教え込むまではあまり一人にしておきたくない。なお、本日は洞主の頼みで、白鶴童子が留守を預かってくれている。
「おやおや、慈航も黄竜も困っておるのかのう」
 とぼとぼと近付いてきたのは懼留孫だった。十二仙会議のあとはいつも別室に移って、二次会の茶飲み会議をしているメンバーの一人である。てっきり既に移動したのかと思いきや、茶飲み仲間の霊宝と共にまだ会議室に残っているようだった。
「わしの所に寝不足によく効く良い茶があるぞい。うちの弟子が少々うるさいかもしれんが、寄っていかんか?」
「今日の二次会は玉鼎がおらぬ故、少々物足りんでのぅ。たまには違う顔ぶれと交えて飲むのも楽しいものじゃ」
 ふぉっふぉ、と霊宝が逞しい髭を揺らして笑う。そういえば玉鼎は、用事があるからと会議が終わると同時に、元始天尊よりも先に席を立っていた。
「楊戩が人間界から帰ってきているんでちゅ。久々の休暇に、玉鼎もかまい倒してあげたくて仕方ないんでちゅね」
 道行がふよふよと浮いて近付いてきた。黄竜に、どんな頭痛がするのかと聞いて尻尾を揺らしている。黄竜は、そういえば道行が近年取った弟子の出稽古をしているのだと話していた。出稽古に支障があると彼らも困るだろう。
「雲中子に頼るのは最後の最後にしたいよな」
「あいつの薬は効果てきめんだが、副作用と心理的なトラウマも同じくらい凄いからな」
 気が付くと実験台にされかねない、と慈航は背筋を震わせた。雲中子への口利きなら、同じく生体分野を研究する太乙真人か、なんだかんだ洞府が(道徳規準で)近いところにある道徳真君が手っ取り早い。だが、慈航と黄竜の現在の解決どころは、さすがにそこまで切羽詰まったものではなさそうであった。
「雲中子の薬よか、ジジィたちの茶の方がマシだろうな。行くか、黄竜」
「ああ、茶で解決するとは思えないが、取り急ぎ体力の回復と精神の安寧は必要だろう」
 これ以上酷くなる前に、と二人は年寄り方の仙人たちに続く。大変そうだなぁ、と道徳は見送って、その日はそれで何事もなく平和に終わったのだった。

(中略)

「じゃあ、慈航たちがこうなっているのも、金鰲からの攻撃の可能性が」
「いや、そうではないぞい」
 もっと、早く話してやらねばならなかったのう、と言ったのは霊宝だった。いつもはおしゃべりな道行天尊が、口数少なく少し元気のなさげな表情で、ふよふよと飛びながら大きな丸盆を運んでくる。
 どういうことだ、と道徳が聞けば、霊宝は逆に道徳に、変な夢は見るか、と聞いた。
「夢?……いや、そんな、慈航みたいな夢は」
「些細なことでも構わんぞい。……いや、もしかしたらおぬしは口止めされておるかのう」
 普賢はどうじゃ、と尋ねられて、しかし彼はうーん、と首をかしげたあと、覚えがない、と否定した。
「霊宝は、あるの?」
「ふぉっ、ふぉっ。……惨い夢じゃった」
 準備ができたでちゅよ、と道行が言う。いつの間にか、置かれた丸盆の上に水が注ぎ入れられ、その水面に一枚の見慣れない霊符が浮いていた。
 何を、と道徳が言うと、霊宝は背中に背負っていた落魂鐘を構え、少々覚悟がいるものを見ることになるやもしれぬ、と忠告した。
「慈航、水面に手をかざしてはくれんかの。それで、道徳よ、ふらついては危ないので、体を少し支えてやってくれ」
 これでいいか、と慈航がおずおずと手の平を水面に向ける。道徳も、軽く両肩を持って支えると、霊宝は普賢に目をつむっていた方がいい、と言った。
……もしかして、封神計画と関係がある?それなら、僕は見ておかなきゃいけない」
「そうか。ふむ、確かに若年だからと言って除け者にするのは良くなかったのう。太公望が中心に立っておるし、おぬしの弟子もいずれ計画に参戦する身。大変失礼をした」
「ううん、気にしないで。僕も、計画の『裏側』についてはある程度聞いているから。たぶん、望ちゃんより詳しいんじゃないかな」
 だから僕は十二仙になったんだし、と、さらりととんでもないことを普賢真人が言う。戸惑う道徳をよそに、霊宝は何もかも悟ったような顔で笑みを浮かべると、落魂鐘を霊符の真上にかざして、ゆっくりとそれを揺らした。
 からん、からん。重く響く鐘の音の波動が、霊符を通して水面に波を作る。二重、三重と輪を作りながら広がる波が慈航のかざした手の指先に届いたとき、世界が暗転した。



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