ぽふむん
2025-01-11 22:50:00
3332文字
Public ワンドロ
 

凍る

#童しの版深夜の真剣物書き60分一本勝負
「不自然」「山小屋」

氷柱if

文献で読んだだけ、話で聞いただけの知識と、実際に見た、肌で感じて身につけた知識は違うという話です。
誰も雪なんて降らないと思って、大袈裟なことを言うと思っていたら……

作中にありますが、八甲田山遭難事件がモチーフです。
現実でも「教訓を活かしてないやんけ」という案件ありますよね💦

この話の中ではしのぶちゃんだけ、自分の恋心に気づいていないし、むしろ誰の目から見ても付き合ってますwww

日頃へらへらしているこの男が、今まで見た事もないような切羽詰まった表情で「15:00頃までには寺院に来て欲しい。出来れば凍傷ケア用品も多めに持ってきて」と言ってきた。
(真面目な顔になると、それなりに美男子なんだな……)
そう感じつつしのぶは警戒した。
周りでは「二人はお付き合いしている」だなんて噂しているようだが、しのぶはまだそんな仲ではないと思っている。
確かに言いよっては来るが、断じてそんな仲ではまだ無いと思う。
お互いの屋敷に通いあい、手紙のやり取りもしているが、まだそんな仲では無い……と思う。

(どうせ、またいつものちょっかいでしょうそれにしてはちょっと風変わりですが)
単なるちょっかいにしては不自然なほど、大マジメな切羽詰まった顔。
しのぶはただ黙って頷いた。
(こんなにいいお天気だもの、吹雪くわけないじゃない。大袈裟ね)
いつもとは様子が違う。不自然だとは思う。
それでも、実は心中で小馬鹿にしていた。

お供も数人連れてこいと言われたので、素直に三人娘とカナヲを連れて行くことにした……
(みんなで、美味しい茶菓子でもいただきましょう。雪を被った寒椿。さぞ綺麗でしょう♬.*゚)
この時は気ままな山寺詣の気分でいた。

そんなしのぶが、アオイを連れてくるべきだったと悔やんだのは後の話。



極楽教寺院の広間に数十名の男が集っている。
全員寒さにガクガク震えている。
雪中行軍の訓練と称し、寺院の周辺の山を巡っていた。
しかし、昼の陽気が嘘のように次第に冷え込み始め、ついにはぼたん雪が降り、風も強まり……

吹雪となった。
視野も不明瞭となり……危うく遭難しかけたところを、訓練現場近郊にいた極楽教信者達に救われたのだ。


そのような訓練を行うと事前通達があった。
途中休憩の山小屋代わりに、寺院を使わせてくれということだった。
そこまで雪深い地域の生まれ育ちでない、平野生まれ育ちのもの達は山を舐めている。

だが、現場の山育ちである童磨は天候急変の前触れを見て取っていた。
だから、今日は無謀だと、訓練の中止を進言、忠告したのに聞き入れられることはなかった。

結果は見ての通り。
あまりの惨状にしのぶは息をのんだ。
救出に向かった信者も、軽度のものながら凍傷を負ったという。
急に温めては却って危険だ。
手伝えることは三人娘とカナヲに指示し、重症度に応じて処置をしてやらねばならない。
応援を数名連れてこいと言ったのはこの為とやっと気づいた。
ダメだ
このようなこと、カナヲでは足でまといだ。
案の定戸惑って、オロオロ汗をかき固まってしまっている。
方や、三人娘は持てる知識で細々動き、分からないことは指示を仰ぐ。
「三人の邪魔です。今は万世さんと鍋でも食べていなさい」
しのぶが一喝すると、カナヲが少し嫌がる素振りを見せた。
童磨がいやなのだ。
「いいよ……嫌なら隅っこで現場の様子でも見学していれば」
童磨にまで邪魔者扱いされている……
しのぶはため息をつくと
「そうしなさい」
カナヲへの命令を変更した。


症状の重いもの達は、毛布で包み懐炉で体を温めてやる。
気つけ程度の酒を飲ましてやる。
比較的軽度の者は囲炉裏で暖を取り、童磨と共に牡丹鍋をつつきながら熱燗を飲んでいる。
「あぁ、助かったぁ……胡蝶様と万世様がいらっしゃらねばどうなったことか……
比較的軽傷だったものの一人が泣きそうな声で呟いた。
「だぁから進言したのにねぇ……今日は天気が良く暖かかった。でも、一転してドカ雪の降る前触れが見えた。
だから無茶だって……八甲田山遭難事件という前例があるというのに……現地の住民の言と、山を舐めるなよ」
童磨は呆れたように言うと、酒をついでやった。
「怖い思いをしたんだ。ゆっくり寛げばいい。ただし、いくら軽傷だったとはいえ、飲み過ぎないようにね」
穏やかに話しかけた。

しのぶは、三人娘と、医学の心得のある極楽教の信者達に指示し、症状の重いものの対応におわれている。
まずは凍傷の処置。
「ゆっくり温めてあげてくださいね。
お湯をもっと沸かしてください。お風呂ぐらいの温度でじっくりと温めて……
しのぶの切羽詰まった声が広間に響いた。



「ねぇ……少し聞いてみたい。この行軍、君たちだけで計画し、進言し、御館様の退避の指示すら拒否したと言うのは本当かい?」
童磨は手酌で熱燗を猪口につぎ、クイッと飲み干す。
信者としのぶに重傷者の看護を押し付けているのではない。
軽症とは言え精神の動揺が激しい。だから、話し相手をして心を落ち着かせていていたのだ。
「まさか!我々には柱も雲の上の存在だと言うのに。
このように指し向かいで酒を飲み、言葉を交わしていることですらありえないこと。ましてや御館様に独自の進言なんて」
軽症の隊士が驚いたように答えた。
「だろうねぇ、存在は知っていても、ご尊顔は知らず……そういう者がほとんどだろうねぇ」
童磨は、ふうむと小さく唸ってまた手酌で酒を煽った。
「酷いねぇ……平地の人間や、病弱で屋敷にこもりがちな人にはわからないかもしれないけど、山のことは山育ちの人間の言うことを聞くものだよ。
(しのぶちゃんの仕事を増やして……あの理屈バカ。だから言ったんだ)
さて君たちはゆっくりくつろぐがいい。ちょっと向こうを見てくるよ」
よいしょ
のそりと立ち上がった。
どうだい?と、しのぶの診ている隊士の顔色を覗く。
救出した時よりは、頬に赤みがさしてきているように見える。
でも……
「この人は……凍傷で足を切断しなくてはならないかも。そうせずに済むように」
しのぶの顔は青ざめている。
「処置が早かった。間に合う(やっぱしのぶちゃんショック受けてるじゃない。もう!あの腹黒おかっぱ!!凍傷を舐めるなばぁか)」
童磨は、少し酒臭い息でしのぶの耳元に囁いた。
こうすれば、いつものしのぶなら「酒臭い」と平手が飛ぶはず。
だが、今のしのぶはそんな心の余裕すらない。
しのぶは必死に処置をして回っている。
「下心でもあると思った?(そろそろ馬鹿じゃないのって言ってビンタが来てもいいはずなんだけどなぁ)」
童磨がしのぶのもみあげの部分の髪を弄りながらぽそりと呟いた。
その表情が、しのぶには、目は笑っていない癖に、口元だけ歪んだ笑顔に見えた。
「いいえ(怒って……る?)」
しのぶは身を強ばらせたが、直ぐに平静を装いそう答えた。
「嘘つき……(ありゃりゃ……こりゃ重症。大分ショック受けてるよ。参ったな。本当にあの紫バカ)
俺、君が思うよりいい加減では無いんだけどなぁ……まだ通じてないみたいだねぇ。ま、いいや」
童磨は、手をひらひら振ると、意識を取り戻した隊士に語りかけた。



しのぶはいたたまれない気持ちで童磨の背中を見つめた。
よく分からないが、胸がモヤつく。
仲が良くないと知っているカナヲを、あえて選んで連れてきたことも童磨は咎めていると思ったから。
実は、「まぁ、いいや」という言葉通り。本当に童磨はそれほど気にしていない。
どころか、強がっているだけで、実は繊細で、傷ついた隊士以上に心を痛めているしのぶを案じている。

だと言うのに、しのぶは勝手にそう思い込んだ。
地元民の……童磨の非常にレアと言える諫言を信じなかった自分を恥じた。
そんな罪悪感が、悪い妄想を呼び起こす。
いたたまれなくなり、ぎゅっと童磨の着物の裾を掴んだ。
童磨が『なんだい?』と言うように振り返り、顔を覗き込んできた。
「あいえ……なんでも」
その手を離した。
「??……疲れたのかな?もう少し頑張って。さすがしのぶちゃんだ。手当てが的確だ。あと少しで少し気が抜けるだろう(本当にもう少しだから……この調子なら多分みんな大丈夫)」
そう言って童磨は再び手を振った。
「ええ、そうですね」
そう受け答えながらも、しのぶはこの不安感の答え合わせができず戸惑う。
戸惑いながら胸を掻き抱いた。

背後に感じる「なんで?」と問い詰めるようなカナヲの視線も痛い。