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zxzx1231
2025-01-10 03:42:05
5972文字
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隣の芝生の気も知らないで(仮題)
学パロのカブミス。生徒×生徒です。
ミルシリルがカブルーの義姉になってる。
もうすっかり習慣化した朝の迎えは、彼の部屋のドアを叩くところから始まる。
ノックを二回。反応がないのはいつものことで、カブルーは気に留めることなくドアノブを掴んで部屋に入った。
名前を呼ぶ声にもピクリとも反応しないのもいつも通りである。
特に朝に強いわけではない。というかどちらかと言えば朝に弱いカブルーがこうして毎朝健気に眠い目を擦りながら彼の人の家に上がりこみ、部屋にまでわざわざ踏み込むのには理由がある。
―――
同じく、というかそれ以上に朝に弱い隣の家の幼馴染を起こすためである。
まったく音が聞こえていない様子のミスルンがベッドで直立の姿勢のまま綺麗に寝入っている。
「
…………
」
よくシーツすら乱さず眠れるものである。寝ている間、ほとんど寝返りを打っていないのかもしれない。すうすうと寝息を立てているミスルンに近づいてその顔を見る。
二重の線が引かれた右瞼とくぼんだ左の瞼。義眼が横のサイドテーブルの台座に置かれている。薄く開いた口から覗く小さな歯が幼げで、カブルーは視線をそっと外すと、ベッドに膝を乗せた。
手を伸ばして、眠る彼の頭上の緑色の遮光カーテンをからからと引けば、朝の眩い陽の光が彼の白い顔に落ちる。痛みを訴えるように一瞬で彼の顔が歪んで、彼の喉からぐずるような声が上がった。
「まぶしい」と体を捻る彼の体から問答無用で布団を剥ぎ取ると、カブルーは団子虫のように背中を丸める彼の脇に手を入れてマットレスの上に上半身を起き上がらせる。
「ほら朝ですよ、朝!起きてください」
「うん
…
」
「シャツと、ズボンと
…
あれ、靴下どこだ?しまう場所変えました?」
「下から、二番目
……
」
クローゼットを開け、取り出した服を彼の座るベッドへ投げていく。目を擦りながらあくびをする彼に「ベルトは?」と聞けば、眠たげな顔のまま重い瞬きを二回したあと、「多分、脱衣所にある
…
」と答えがかえってきた。
風呂に入る時にでも外してそのままにしてしまったのかもしれない。服、着替えててくださいね、と声を掛けて一階へ降り、脱衣所を見渡せば黒いベルトがタオル掛けに掛かっているのを発見する。顔を上げて、脱衣所に掛けられている時計を見れば、あと十五分ほどで家を出なければいけなかった。急いで階段を駆け上がり再び彼の部屋のドアを開ける。
「ベルト、取ってきました」とカブルーに「うん」と返事を返すミスルンはだが、寝間着をやっと脱いだ状態だった。
「もう無理だ、諦めろ。今日は休む」と言うのに、「諦めないで!」といつかのCMの女優の決めセリフを放って、彼の前に立つ。
シャツを羽織らせて、上から一個ずつ急いで止めていく。髪の毛は後で整えてやろう、まずは服を着せて、そしたら顔を
…
と算段を立てていれば、ミスルンが寝ぐせもそのままに鼻を鳴らして笑う。
「
…
ちょっと、何笑ってるんですか」
「お前が、必死なのが可笑しくて」
「
…………
」
誰のためにそうしてるのか分かっているのか。無言のまま、ギュと強くネクタイを首に結んでやれば、鶏の首を絞めたような声でミスルンが鳴いた。
結局今日もバタバタとしてしまった。
バスに乗り、彼の口にパンを突っ込んで、水筒に入れたコーヒーを少しずつ飲ませながらカブルーもあくびをする。目じりに滲んだ水分を指で取っていれば、こてん、と小さな頭がカブルーの肩に乗った。
「寝る」
「もう口にパン入ってないですか」
「入ってない、寝る」
「本当に?口あけてください」
あ、と瞼を降ろしたまま口を開けるミスルンに、カブルーはすべて分かり切ったように溜息をつく。
「舌で隠してるでしょ」
「
…………
」
「分かってるんですよ、やり口は」
「
…………
」
ジトリとした目がカブルーを見たあと、咀嚼を緩慢に何度か繰り返すと、ゴクリと喉が動いた。
今度は舌もきちんと上げて、また同じように口を開けた後、カブルーの頷きを確認するとそのまま瞼を閉じてしまった。
すうすうと立てる寝息が静かで心地よい。バスの中は暖房が暖かいし、なによりこの揺れ具合が抜群にきいた。
アラームを設定して、カブルーもミスルンと同様に睡魔に清く負けることにする。
窓側に座らせたミスルンのほうには寄りかかるまいと出来るだけ頭を逸らしたが、何度かの車内の揺れのあと、ミスルンの頭の上にカブルーの頭も重なった。
#
《いつものところで待っている》
そうLINEが届くのに、カブルーは《分かりました もうすぐ着きます》と手早くスマホを片手で操作して返事を返すと、後ろポケットにスマホをしまう。
手に持っているのは自分を溺愛している義姉の手作りの弁当である。ミスルンと共に行動を共にすることをよく思っていないようではあるが、溺愛する己に嫌われたくないという思いが強いのか、それとも事故ですっかり様相を変えたミスルンに思うところがあるのかもしれない。どちらにせよ優しい人だ。一緒に食べなさい、と差し出される中身にはいつもカブルーの分とは別に、サンドイッチが添えられている。
校舎をこっそりと抜け出し、カブルーは近くの公園へと早足で向かう。どちらの学校からも三分程度の距離にあるその場所は公園と言っても遊具という遊具は鉄棒くらいなもので、後はインクの掠れた丸い椅子がぽつんと並んでいる。
ベンチも無く、端に立てられた街灯を固定するためのアスファルトの部分に座っている彼に「お待たせしました」と声を掛けてその横に座る。
彼との間に弁当の入ったトートバッグを置いて、その中からサンドイッチを取り出して渡せば、「うん」と頷いて拙い手つきでラップを剥いていく。
彼が持っていたコンビニの袋の中身を覗けば、中にはゼリーとカフェオレが横になって倒れていた。昨日と同じ取り合わせに眉を上げる。
彼は兄との二人暮らしだが、その両方とも家事は壊滅的だ。雇った手伝いの人間が時折来ているが、やってもらっているのは洗濯や掃除のみだという。
どちらも方向性は異なるが、どこか隙のある兄弟である。そのせいか過去に雇っていた手伝いの人間に食事に『混ぜ物』をされて、それ以降二人の食事は基本的に外食か、出来合いのものを買って食べている。
「お兄さんは今日間に合いましたかね」
「知らない。遅れたんじゃないのか。いつものことだ」
ちなみに彼の兄は彼の学校で保健室の先生をしている。傷をつくると必然的に兄のところへ行かなければいけないので、怪我に気を付けるようになったのはいいことだ。
「本当、だんだん寒くなりますね。ミスルンさんもなかなか起きないし」
「最終的に起きている」
「俺が起こしてるんですよ。いつかは一人で起きられるようにならないと。困りますよ、ほら大学とか。時間だって俺と合わなくなるでしょう」
「
………
」
「なんですか、その目。口で言わないと分からないですからね」
甘えないでくださいと突き放すように言ってみれば、ムとカフェオレのカップに刺したストローを咥えながらミスルンが口端を曲げた。
「お前は最近冷たい」
体育座りのまま、こちらを見上げるミスルンの視線はこちらをなじるようだった。
「夜も、最近こない」
「
…
勉強があるんです」
「そんなの私が教えてやると言っている」
「あなたの勉強があるでしょう?生徒会の仕事も最近忙しいみたいじゃないですか」
「勉強は授業を聞いていれば分かる。生徒会の仕事も他に任せておけばいい」
「フラメラさんが怒りますよ」
「あいつはいつも怒っている」
ふうと飲み物を飲み切った彼に、来る途中に自販機で買ってきた湯たんぽ代わりの紅茶を渡す。
いつのまにか十一月である。紅葉もすっかり見頃を過ぎて、葉を落とした枝が風景に馴染みつつある。そろそろ骨に染みるような寒さがすぐそこまで迫ってきていた。
ミスルンがため息をつく。
「お前が来ないと夜眠れないのに」
すん、と鼻をならしたのは寒さからか。膝にのせた腕に顔の半分を埋めて、そう瞼を閉じて呟くように言う彼に、カブルーはグと口を閉じる。
「
…
拗ねちゃってもう」
手元で再生していた動画をミスルンに寄せて、カブルーは殊更に明るく声を上げる。
「ほら観てください、これ。カピバラ、寒いの苦手なんですって。なんかあなたに似てません?無愛想な感じとか」
「似てない。うるさい」
#
キリキリと刺すような寒さの空気が肌に痛い。そこに更に風まで吹いているのだからどうかしている。
新学期用のノートを一緒に買いに行ってほしいと電話がきたのは友人たちとファミレスで軽い新年会と洒落込んでいた時のことだ。カブルーは、会話に盛り上がる友人たちにあっさり急な予定が入ったと両手を合わせて謝って店を出た。
約束の時間通り現れたミスルンの鼻先はすっかり赤くなっている。
「もう、防寒ちゃんとしてきてって言ったじゃないですか」
そう自分のマフラーを外してぐるぐるに巻く。丈の長いマフラーを彼の首に何周もすると、小さい彼の顔が半分埋まった。
上目でこちらを見上げるミスルンは「うん」とも言わず、カブルーの顔をじっとみている。それに何かあるのかと首を傾げていれば、不意に口が開く。
「お前が面倒をみるから、私が何も出来なくなる」
「おい、感謝くらいしろ」
マフラーの端をギュと強く左右に引っ張れば、グエ、とミスルンが喉の絞まる音を出した。
彼の昔を知っている。彼がどうしていまの体質になってしまったのかも。
最初は彼が何も拒否しないことをいいことに祭り上げられたのかと思っていた生徒会だったが、彼が慕われている様子を見るにそうでもないらしい。
カブルーが心配することはおそらく何もない。彼は一人でもきっとうまくやれる。周りが彼を一人にしない。彼の飾り気のない言動は周囲をひやひやさせることだってある。でもそれが却って愛着を持たせることもあるのだろう。
最近は彼が誰に好かれているだとか、誰に告白されただとかそういう話ばかり耳に入ってくる。誰に指示されたわけでもないだろうに、面白おかしそうに「そういう話」ばかり彼の取り巻きたちはこぞってカブルーに耳打ちするのだ。
正直、そんな話全然聞きたくないと思う。
彼を朝起こす時だって、彼と昼を取る時だって、いつだってカブルーは彼を学校なんて戻してやりたくなかった。ずっとあの殺風景な部屋にいてカブルーを待っていてくれればいいとさえ思う時もある。
自分の知らないところへやりたくない。自分のためだけにいてほしい。彼の笑顔が好きなのに、こんなの全然優しくない。いい人間でいたいのに、彼の前では全然そうなれなかった。
正しいことと親切なこと。選ぶならいつだって後者でありたいのに。
おい、と言われて顔を上げる。
「転ぶぞ」
そう言われて、「あ、すみません」と現実に引き戻された。五冊で一セットのノートのセットを三個。買いすぎでは?と思ったが、彼はこれをなんと一ヶ月で使い切ってしまうのである。
購入した三セットのうち、ニセットはカブルーが持って、残りの一セットをミスルンが持っている。
「新学期、始まりますね」
「うん」
「また起こしいきますから」
「うん」
「ちゃんと起きてくださいよ」
「
…
うん」
そんな他愛のないことを話しながら歩いていれば、いつのまにか家の前まできていた。彼が家に入ったのを見送ったら、カブルーも自分の家へ戻る。そうしたらまた明日から彼を毎朝起こしにいく生活が始まるのだ。だけれど、今日はなかなかミスルンが家に戻らない。マフラーを返してもらったから、空いた首元が心許ない。寒いだろうに。早く床暖の効いた暖かい家に入ってほしい。風邪を引いたら長引くのだ。一度肺炎にまでなった時など苦しそうで可哀想でたまらなかった。
「どうかしましたか」
「
……………
」
カブルーの声に、ミスルンが一度瞼を深く閉じた。瞑想でもするかのような静かな沈黙。
数秒、そして一分。まさか寝たのか?とカブルーが手を彼の顔の前に翳そうとした頃合いである。突如として目をカッと開けたミスルンがカブルーの胸ぐらを両手で掴む。
「えっ?なに、は?」
そこからはスローモーションのようだった。
後ろに足を引くカブルーを追いかけてミスルンの体がカブルーにより掛かる。手の離されたノートの入った袋はアスファルトに呆気なく落ちて、その音に気を取られているうちに口に少し湿った感触が押し付けられた。
時間にしてそう長くなかったはずだ。だけど、合わさった唇同士から熱がジワジワと全身に広がって、それが頭に回ったころ、カブルーは絶句した。
―――
キスされている。
瞬きもせずに合わせられた視線が離れて、胸ぐらを掴まれていた手も離される。しれっとした顔をして立つミスルンに対して、カブルーは「な、な、な」と衝撃で二の句も継げない。
数歩後方によろけて口元を覆えば、またしれっとした様子のミスルンがしれっとした口調で「お前がさっさと言わないから」と言ってのけた。
「どうせ兄さんが何か言ってたんだろう。聞く必要ない。あいつに何が分かる」
カブルーは額を抑えて唸る。半分図星で半分外れだった。欲の欠けた彼の体質に付け入る真似はしたくなかったのもあるし、弟を見る視線に混じる不埒な空気を感じ取った彼の兄に「思春期、終わってからね」と優しく諭されていた。
「
…
俺、かなり嫉妬深いし、たぶんかなり性格悪い方ですよ」
両手で顔を抑えれば、ミスルンが可笑しそうに口元に手を添えて笑う。なんだそれかわいい。頬が赤くてかわいいし、口の中に見える歯が小さくてかわいい。もう一回キスしたい。それ以上のことも。まるでダムが決壊してしまったようだ。堰き止められていたものが一気に湧き出してくる。
ミスルンはカブルーのそんな下心なんかしったこっちゃないように、片眉を下げて悪い顔をしてみせた。
「そんなの、お前だけじゃない」
両手がカブルーの襟をつかんでまた顔が近づく。
相手から来たのなら拒まなくていいですよね、お兄さん。と背徳感の中、免罪符のようにカブルーは瞼を閉じる。
今度はカブルーの手も彼の腰に回って、ずっとキスがしやすくなった。こんな道端で、それも二人の家の前で。でもなんか、そんなのどうでもよかった。だってカブルーはこれがずっとしたくてしたくて堪らなかったのだ。
何度か口を触れ合わせて、息つく彼としばし鼻先を合わせていれば、ふと頬に冷たい感触があたって空を見る。
初雪だった。
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