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ゆきち
2023-03-04 16:57:08
2819文字
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第4回 菊杉1weekドロライ お題:撫でる ※893パロ
第4回 菊杉1weekドロライ お題:撫でる
参加させて頂きます。長くなったのでべったーで。全年齢です。
企画への参加のためあちこち書きたいところをかなり削り、各描写を減らしております。所々皆さんの菊杉脳で補完してくださったらありがたいです!
春の雨が夜更けになってもアスファルトを激しく叩きつけている。
高級クラブの重厚なドアがゆっくり開き、中から男達が出てきた。
大きな蝙蝠傘をさした男が紋付を着た人物に寄り添い、濡れないよう庇いながらハザードをたくセンチュリーへと近づいていく。
違う男が後部座席のドアを開けようとしたとき、バシャバシャと水を弾く激しい足音がした。
足音の主と、紋付姿の男の目が合う。
立ちはだかった男は手に拳銃を持っていた。
直後、パンパン、という乾いた音が鳴り響く。
車を取り囲むように立っていた男たちが次々と怒号を上げ、身を翻し逃げていく男の背中めがけて発砲した。
数発の銃声がしたところで女性の悲鳴が上がる。
「叔父貴っ! 早くこっちへ!」
狙われた男は肩を抱かれ舎弟や側近の盾から身を隠して車の後部座席へ押し込まれた。歩道にいた一般人が傘を捨てて車道に飛び出したため、けたたましいクラクションがあちこちで鳴り響く。
「早く車を出せッ! 早くッ!」
センチュリーがホイルスピンを起こしながら走り去ると同時に、その場にいた男たち全員が撃った男を追いかけた。
ザアザアと激しく地を打つ雨音をかき分け、いくつもの足音が追いかけてくる。
杉元佐一は撃たれた肩をかばいながら通行人を避け、迫りくる追手から逃げていた。
(肩が熱い)
ピストルで撃ち抜かれた肩が熱く痛む。片手で強く押さえながら走るのは、体力に自信のある杉元でも苦しい。
狭い路地から路地へと逃げ、飲食店の裏口に飛び込む。勝手にバックヤードを抜けて表から出てみたがそこへも真っ黒なスーツ姿の追手たちが迫っていた。
「チッ!」
舌打ちをしてもう一度路地に逃げ込んだが、足元がふらつき始め、思うように体が動かない。
(ちくしょう! ちくしょう!)
悔しさに顔を歪ませ倒れようとした体を誰かに支えられた気がしたが、その先はもう何もかもわからなくなった。
目が覚めると、知らない場所で寝ていた。
カーテンは開け放たれており、容赦なしに陽光が入ってくる。
杉元は飛び起きて、ベッド脇の椅子に座る男に話しかけた。
「おい、あんた誰だ?」
「起きて一番に言うことか? ありがとうございます、だろうが」
男は読んでいた新聞をバサバサさせながら折りたたみ、サイドテーブルに放り投げる。
「敵かもしれねえ」
口ではそう言うが、杉元から見て男は敵ではないらしいことは薄々感じていた。
何か証拠がある訳でもない
――
勘というやつだ。
「敵がわざわざお前を自分ちに運んで傷の手当てして体洗ってやって着替えさせて自分のベッドに寝せるか?」
「
……
何かその、情報を、聞き出して
…
とか」
「ぶッ」
杉元が言い終わらないうちに男は鼻息を吹いて笑った。
杉元も、バカなことを言っているなと思う。
「何が情報だよ、何も知らされてねえんだろうが」
男の言う通りだった。
杉元はいくら叩こうが何も出ない、ただの鉄砲玉だ。
男はそれきり黙ると、リモコンを手に取ってテレビをつけた。
ワイドショーの司会者が映像とパネルを使って事件を取り上げている。
画面の右上には「K藤会のトップが路上で襲撃され死亡!抗争か?私怨か?」と物々しい見出しが躍っていた。
『おそらく犯人はこのあたりに身を隠していたと思われ~既にその身柄は渋谷署に移されており~動機の解明が待たれ~』
「死んだのか
……
俺が撃った弾、当たってたんだ。
――
ていうか、犯人捕まったって
…
いったいどういう事だ?」
撃ったのは間違いなく自分だ。報道されている犯人とは誰のことなのか。杉元はワケがわからない。
「お前の撃った弾は当たってねえよ」
「えッ?」
ヘタクソが!
男はそう言うと再びリモコンを手に取ってテレビを消した。
「どういうことだよ! だって死んだんだろ?」
「撃ったのは俺んとこの奴だ。百年にひとりかふたりしかいねえような、凄腕のスナイパー。そして捕まったのは」
――
その替え玉だがな。
「
………
替え玉?」
「そいつはもう別の仕事で東欧に飛んだ。忙しいんだよ」
「
――
じゃあこの替え玉は」
「心配するな、いい弁護士をつけてやるし、刑期と引き換えに借金もチャラにしてやった。お前と同じように、病気の家族がいる奴さ」
杉元はびくりとして、無駄な事だと分かっていながらベッドの端へと飛びのく。
「なんでそんなことまで知ってんだよ!」
「
……
さっきからアホなことばかり言うんだな。まあそこが可愛いけど」
「
……
!」
「ったく、事を面倒にするなよ。お前があそこでくたばったり捕まったりすると、俺らが困る」
この男は誰なのだろう。
意識が遠のく寸前、誰かに体を預けたのを憶えている。
遠くのほうでたくさん足音がしたことも。
追手は確実に自分を追い詰めようとしていた。
捕まって殺されるんだと悟った。
自分の撃った弾が相手を貫いたかどうかも確認しないで逃げてしまい、情けない。
金は前金でもらってあるし、ヘマをしたらその金を返さねばならないどころか、自分の身だって
――
。
覚悟はできていたはずなのに、いざ銃を構えると体が震えた。
ぐるぐると巡る思考を遮るように、男がまた口を開いた。
「お前、もう行くところないんだろ」
「
……
」
「仕事はやり遂げたんだから、金はお前の懐に入った。でももう表には出れねえぞ」
「
……
わかってるよ」
「じゃあ俺んとこに来い。飯食わしてやる」
この仕事を受けた時から、二度と普通の生活に戻れないだろうことは覚悟した。
それどころか生きて返って来れるかどうかもわからなかった。
どうせ失くしたかもしれない命なら、飯だけでも食えたほうがいいかもしれない。
ホントか嘘か、わからないけれど。
何かあれば、この男をどうにかしてでもまた逃げてやる
――
杉元はそう思いながら男の目を見つめ返していた。
彫りが深く、落ち着いた表情だ。
かすかに煙草の香りがする。
言っていることが嘘なのか本当なのかもわからない。
けれど不思議と安らぐような。
裏にいくつも癖を持つ男の特徴だ。
「杉元佐一は昨日死んだんだ」
杉元自身がいまそう思ったところだった。
もらった金で梅ちゃんの目が治る。
親友の喜ぶ顔が目に浮かんだ。
最後の挨拶は済ませてきたし、思い残すことは無い。
「じゃあ、新しい名前を付けてください」
「いいのか? 自分の名前、そう簡単に捨てちまうもんじゃねえぞ」
「俺は昨日死んだんでしょ。じゃあ名前も捨てなきゃ」
「
……
そうか。そうだなぁ」
凶暴なノラ犬って感じだが、まだ幼さが抜けねえ坊ちゃんてとこだな。
ノラ坊にしよう。
男はそう言うと、真っ直ぐ見つめ返してくる杉元の頭をそっと撫で、菊田と名乗った。
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