こゆ
2025-01-08 13:23:14
3080文字
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脊髄反射のこうふく

ケンカしてキスするペンシャチの話

ケンカップル大好き
当たり前のように二段ベッド同室のペンシャチ





※ 無断転載禁止AI学習禁止です(こゆ)



脊髄反射のこうふく


あの時さっさとキスしておけばよかった。
ベッドの上に大の字になって転がりながら、シャチは後悔していた。


思い出されるのはうんざりしたようなペンギンの顔。
ちょっと息が上がっていて、先ほどまでの言い合いの激しさを物語っていた。対峙するシャチもぜいぜいと息が整わず、次の言葉を吐き出すため肺いっぱいに空気を吸い込もうとした。
「あー、わかった」
ペンギンは一旦帽子を外して、頭を振りながらやれやれという表情。
「シャチ、キスして。それでもうこの話終わりにするから」
その言葉に、シャチは信じられないと言わんばかりに食ってかかる。
「ペンギン、譲歩してやったみたいな顔やめろって。悪いのはそっちだろ!」
「どっちが悪いとか、散々言い合ったって決着つかなかっただろ。だからキスしてくれたらこの怒りをしょうがねーから収めてやるって言ってる」
わかるか? と小馬鹿にしたような表情を浮かべるペンギンにシャチは「ふざけんな!」と叫んだ。
「だったらペンギンからしろよ! ごめんなって殊勝にキスしてくれたらおれだって考える」
「あ゛? シャチ、何どさくさに紛れて謝罪まで要求しんだよ」
信じられねえ、という顔のペンギンに噛みつきそうな勢いでシャチが吠える。
「ペンギンが謝らねーならキスもなしだろ!当たり前だろ!!」
「こっちのセリフだ馬鹿シャチ。あーあ、もう許す気なくなった。シャチから謝るまで絶対にキスしてやんねーからな」
「誰がするかよ!!」
ぷいっとお互いそっぽを向く。かわいくねえ、という呟きがペンギンの口から放たれて、シャチの怒りは余計に収まらなかった。



そもそもの発端が、すでに思い出せないくらいくだらない諍いだった。ペンギンの言う通り、どちらが悪いというものでもなかった気がする。シャチの怒りはすっかり収まっていた。しばらくの間、艦の中で仕事以外ではピリピリとしたやりとりを続けていたが、三日もしないうちにお互い元通りの態度に戻り、険悪なムードは影を潜めて、軽口も言うし笑顔も見せる。いつの間にか常に隣り合うペンギンとシャチの姿に仲間達も安心していた。目の前で繰り広がるバカップルのやりとりにいつもは砂を噛むような顔をしている面々も、仲直りしたんだな良かったな、なんて声をかけてきて。「気を使わせて悪かったな」というペンギンと仲間の会話。そうして、いつの間にか日常に戻った。


ただ、そこにはキスだけがなかった。

別に年中盛りついているわけではない。と、シャチは思っている。あくまでも自認であるが。普段から日がな一日チュッチュとキスしているわけでもない。ないはずだ。しかし、こんなに長い期間キスしなかったのは生まれてこの方初めてだと思う。おはようとかおやすみとか、ありがとうとか。そういう関係になる前からちょっとしたタイミングで降ってくるペンギンのキスがシャチは好きだった。そして、寝起きでぼんやりしている時とか帳簿に向かい眉間に皺を寄せているペンギンの隙をついて唇を奪うのも好きだった。

ペンギンとキスがしたい。

したいならすればいい、とは思う。おそらくペンギンは拒まないだろう。ちゃんと受け止めて、同じ分だけ返してくれる。ただ間違いなく、勝ち誇った顔をされる。これがシャチを思い止まらせる要因のすべてだった。キスするタイミングだけが迷子になってしまったと思っていたが、この状況すらケンカの延長なのではないかと思えてくる。
「とうとう我慢できなくなったんだ」
みたいな顔をされるのがどうにも耐え難く恥ずかしい。キスがしたいという欲求と、ペンギンにキスをしたいと思ってるんだろうなと思われることが不服だ。
ペンギンからキスしてくれれば。そうしたら、大人な態度で受け入れるのに。決して「勝った」という顔を見せず、かわいく恥じらったように微笑んでやるイメトレは完璧にできているのに。
「あー!もう!」
叫んでジタバタしていると、顔の上に影が落ちた。
「ただいま、シャチ。何暴れてるんだ?」
ペンギンが部屋に入ってきたことも気づかなかった。おかえり、と返しながら「ん、」と手を伸ばす。
「ペンギン、起こして」
「ははっ、甘えただな」
呆れたように笑いながら、ぐんと腕が引っ張り上げられる。上体が起こされた反動で、ペンギンの顔にぐっと近付いた。少しだけ乾燥している唇が目前に迫り、思わず息を呑む。ごくり、と喉が鳴ったのが自分でもわかった。あと少し伸び上がれば容易く唇がくっついてしまう距離。

「ほら、おれたち明日当番違うんだから、ちゃんと上で寝ろよ」
そう言ってパッと身体が離され、焦がれていた熱が遠ざかった。明日ペンギンは半番で、シャチは遅番だ。知ってる。しかし。

いや、今キスするタイミングだったじゃん。

「っていうかシャチ髪の毛ちょっと濡れてる。ちゃんと拭け風邪ひく」
小言と一緒に手が伸びてきて、肩にかけていたタオルが取り上げられた。サングラスを外して、そのままわしゃわしゃと強すぎない力加減で髪がかき回され、水気を拭き取られていく。心地よさにうっとりしていると、ペンギンの唇が目に入った。逸らそうとしても、どうしてもそこに目が行ってしまう。もう限界だ、と思った。
手を伸ばして、ペンギンの目を覆う。鼻が触れそうなほどに顔を近付けると、何事かと悟ったペンギンが「おい見えねーだろ!」と暴れた。
「だってペンギン、絶対腹立つ顔すンじゃん!ムカつくから見せたくない」
「シャチのキス顔見たい。さっき途中までしか見てねーし」
「あァ!?ペンギン、やっぱさっきのわざと……!? もう!ずっとキスしなかったのもぜってーわざとだろ!!」
ペンギンの目を覆っていた手で頭を掴みギリギリと締め上げると、ペンギンは顔を歪めて身をよじった。
「だってさァ、キスしたくてうずうずしてるシャチ、めちゃくちゃかわいい顔してたから……ははっ、ほら今もどんどん顔赤くなってってかわいい。なァ、手離して。キスしてくれんだろ?」
「わざと……やっぱり!ありえねェ……っ! おれがどんな思いで……! 馬鹿!」
「ごめんシャチ、ごめんな? ほら仲直りのキスしよ?」
目を細めて、わざとらしくべぇっとペンギンが舌を差しだした。それをシャチは怒りと恥ずかしさの勢いにまかせてがぶりと噛みつく。唇同士が間違っても触れないように歯だけでガジガジと。その仕草は怒りに満ちていた、はずだった。
ペンギンは流石に若干の痛みを覚えたが、大人しくその攻撃を甘んじた。シャチが辛抱たまらなくなるまでもう少しであることを知っている。次第に歯にこめる力が弱まり、シャチの舌がそろりの伸びて、ペンギンの舌に当たる。その無自覚の衝動にシャチ本人がびくっと震えて、そしてすぐに離そうとしたけどペンギンに頭をガッチリと掴まれて、そのままシャチの開いた歯の間から舌がぬるりとやってきた。

「ン、……ァ、」
抵抗虚しくふたりの舌が重なり、密着して、擦れあった。
「シャチ、キスして、」
唇を離してそう告げたペンギンの口から、唾液が糸を引いた。シャチはゆるゆると顔を上げてわけもわからずペンギンの唇の端に吸いついた。ひと雫も落としてはいけない気がして。
何度も角度を変え、貪るように激しいキスをする。それは、止まらない。シャチの焦点がだんだんぶれて薄い膜がはり、瞳も身体も蕩けて、そして静かにシーツに沈んだ。