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あけみ
2025-01-07 22:20:46
2997文字
Public
忍
【忍】期待と不安と予算案と【団きり】
17年前に書いた団蔵ときり丸の話。
読めるように少し修正しております。
懐かしくて、こちらで供与。
「会計を手伝ってくれたらさ、図書委員会の予算を増やしてあげる」
俺にまかせとけとでも言うような自信たっぷりの言葉に、きり丸は目を細めながら持っていた10㎏のそろばんを団蔵の足元へ落とす。
「う、うっぎゃああ!!」
そろばんは団蔵の左足に落ち、団蔵は転がるようにして足をおさえた。そろばんで受けた衝撃は言葉では言い表せないもので、床の上でのたうちまわる。その様子にきり丸はフン、と鼻先で笑った。そうして苦しむ団蔵を見下ろし、ハの字に眉をひそめて言い放つ。
「だいじょうぶか? 団蔵?」
「う
……
ひ、酷いよ、きり丸。わざと落としただろっ」
目に涙を浮かべながら団蔵は言ったが、きり丸からすればその非は団蔵にあるように思えた。
「お前が実行不可能なことを軽々しく言うから」
きり丸はふいっと顔を背け、目の前の数字に眉を寄せた。
そんなきり丸を横目で見ながら団蔵は体をおこし、のそっと立ち上がる。
「実行不可能かな?」
左足はまだ鈍い痛みを発し、団蔵の眉を歪ませた。
お気楽な団蔵の言葉にきり丸はため息をつく。
「潮江先輩がそんなこと、承知するわけないだろ」
他の委員会予算を一年生が勝手に増やしたり減らしたりできないことは、少し考えればすぐにわかることだ。なのに団蔵は自分が管理する帳簿の決算がまだできていないことで、きり丸を手伝わせそのお礼に図書委員の予算を増やすなんて約束をする。
「だいたい、こうやってこっそりお前の帳簿を手伝ってやってんだからさ」
夜中に会計委員会が使う教室へ忍び込み、団蔵ときり丸はそろばんをはじいている。こんなところを先生や特に会計委員長の潮江文次郎に見つかったら、きり丸までそろばんを持って校庭ランニングをさせられるだろう。そんなことは絶対やらない。タダで走るなんて考えられないことだった。
きり丸は床に転がっているそろばんを拾い上げ、机に置いた。(そろばんを10キロにする意味が分からない)と、愚痴をこぼしながら。
「お礼なら確実に支払えるものにしろよ。食堂のタダ券二枚とかさ」
団蔵のきたない文字で書かれた数字の配列に眉を寄せながら、きり丸はそろばんをはじきだす。「タダ券五枚だな」と付け加えながら慣れた手つきで指を動かしていった。
その隣で団蔵が同じようにそろばんをはじく。
「だけど、この間の予算会議で図書委員会の予算を減らされただろ? 中在家先輩も怒ってたし、すごく悪いことをしたなと思って」
団蔵の申し訳なさ気な言葉に、きり丸はくすりと笑んだ。
「団蔵が悪いわけじゃないだろ」
「
……
きり丸も怒ってたじゃないか」
「ム。当たり前だろ! 何だかんだ言いながら図書室を多く利用してるのは潮江先輩だからな! し・か・も、返却してない本がまだ五冊残ってるんだぜ! 次の予算会議はそろそろ血を見るかもな」
ニンマリときり丸が笑うと団蔵が「う」と身を引いた。最近、図書委員としての働きが身についてきたきり丸も長次と同じように怒りをあらわしていた。
「だ、だから! 予算をどうにかしてあげようと」
「できないことはしない! ほら、かなり片付いたぜ。タダ券十枚な!」
「えーっタダ券二枚って言ったじゃないか!」
「なら五枚にまけてやるから図書委員の予算のことは考えるな!」
きり丸はそう言って、予算の話題を切り離す。出来上がった帳簿を団蔵に渡した。
「ちぇっ、結局タダ券五枚を渡すことになっちゃったな」
いつの間にかお礼の枚数がすり替えられ、団蔵は釈然としない様子で懐からきり丸に食堂のタダ券を渡す。
「あのさ、
……
」
団蔵がくれたタダ券を受け取り、きり丸はずっと思っていたことを口にする。
「団蔵って、時々できもしないことをできるって言うよな。それさ、やめた方がいいぜ」
「なんで?」
「
……
」
予算のことだけではなかった。今まで団蔵の自信たっぷりに発言する言葉は、いつでもきり丸の胸をくすぐったく撫でていった。悪い気はしないのだ。そして期待してしまう。期待したら、裏切られるだろ? きり丸はどんな相手でも期待はしない。期待してガッカリするのは自分だ。そんなものに心を揺さぶられるのは無駄だと思った。
黙りこんだきり丸に、団蔵は何かを決心したようにスッと立ち上がった。
「よし、有言実行だってところを見せてやるよ!」
「え?」
きり丸は団蔵に顔を向ける。そこにはいつもの自信たっぷりに微笑んだ彼がいた。
「ぼくはきり丸を裏切らない」
「!」
ほら、これだ。どうしてこうやってはっきりと言葉を放つのだろう。きり丸はムっと唇を結んだ。
「お前の力で図書委員会の予算が増えるわけないだろ。校庭ランニングだけじゃ済まされないぞ」
「大丈夫だって。今夜はありがとな、あとは片付けるからきり丸は部屋に戻っていいよ」
「おい、団蔵」
「いいからいいから、任せろって」
何を任せるというのか。きり丸は「もう、勝手にしろ」と言い踵を返す。タダ券五枚でいいと言ったのに、なぜ己に期待させるような言葉を投げるのだろう。きり丸はろうそくの灯りに照らされる廊下をじっと見つめながら自身の長屋に戻って行った。
七日後。
驚いたことに、図書委員会の予算が元に戻された。いや、元あった予算より増えている。
潮江文次郎が直々に図書室に出向き、中在家長次に予算を見せ頭を下げたのだから本物だった。長次ときり丸は目を丸めた。
「団蔵の友を思いやる熱意に感動した」
文次郎はそう言って、五冊の本を返却し図書室を去ったのだ。すぐにきり丸は眉を寄せる。
「中在家先輩、おれ用事を思い出したんで行っていいですか?」
そう言って、すぐに団蔵の部屋へ向かった。
「おい、団蔵っ」
戸を開けて踏み出すと、そこには疲れ果てた団蔵が床に倒れている。まるで、武者修行から帰って来たように服が汚れ、所々破れており、大きなそろばんを背負っていた。いつもの倍以上の重さがあるそろばんだろう。
「団蔵! しっかりしろ!!」
きり丸が驚いて声をかけ寄りかかる。文次郎にどんな無茶な修行を課せられたのか、想像に難しくない。
駆け寄ったきり丸の手を握りながら団蔵はニカッと満足げに笑って体を起こした。
「な、言っただろ? ぼくは有言実行なんだ」
ここ七日間、文次郎に何度も頭を下げたという。それだけではなく、文次郎が課す忍者の体力づくりを他の者以上にこなしていたのだ。疲れ果てた団蔵を目の前に、きり丸は大きなため息をついた。
「
……
馬鹿だろ。なんでそこまでするんだよ」
こんなになるまでするようなことじゃないのに。自分はそこまでさせるようなことをしたつもりはない。せいぜい、食堂のタダ券五枚程度のことをしただけだった。なのに。
「期待、してもらいたいから」
「
……
」
団蔵は微笑んできり丸を見つめた。その笑顔を見て、きり丸も微笑み返す。
期待してもいいっと言ってくれる友の言葉が、どんなに自分の心を軽くしてくれるのかきっと目の前の彼にはわからない。きり丸は「馬鹿だなー」と呟きながら団蔵と笑いあった。
次の日には団蔵に予算相談を持ちかける忍たまが大勢やってきたが、団蔵は全て断った。
当たり前である。
期待されるのはきり丸だけでいいのだから。
完
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