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雪成はす子
2025-01-07 21:20:45
3376文字
Public
ポメガバース
猛犬注意!
🐧🐬
原作軸、寂しくなるとポメラニアン化するシャチの話
⚠ポメガバースを軸にした話です。シャチがほぼポメ化しています。また、ノベロ続編の内容にもほんの少し触れています
前半はポメ化したシャチにハートのクルーたちが手を焼かされる話、後半はいつものベタ甘なペンシャチです
無断転載・AI学習・コピペ・自作発言禁止Repost is prohibited
およそ一週間にも及ぶ潜入捜査の後、俺はポーラータング号へと帰還した。
「ただいま。これ、精査しておいてくれ」
「アイアイ」
出迎えてくれたウニに映像電伝虫や辺り一帯の海図、それから今度潰す予定の組織の見取り図を渡す。きょろ、と見回して、俺は辺りに見慣れた影がない事に気付いた。まさかと思っていると、ウニがはあ、と疲れ切ったような溜息を吐く。
「やっと帰ってくれて助かったよ、ペンギン」
「
……
という事は、今回もか」
「ああ、今回もだ。早くお前の顔を見せに行ってやれ」
ウニの言葉に、俺は帰還早々頭を抱える事となった。
キャプテン曰く、シャチは『ポメガバース』と呼ばれる体質らしい。
『ポメガバース』とは、ある一定のストレス下に置かれるとポメラニアンになってしまう体質の事だ。
動物
ソオン
系イヌイヌの実の能力とは違い、戦闘能力が変化したり人獣型があるわけでもなく、あくまでポメラニアンに変化するだけ。体のサイズが大きく変化する為、ポメラニアンになった場合はほとんどその人物はほぼ無力化されると言っていい。
「因みに今回は何日くらいで変化した?」
「三日ってところか。前より半日は延びてたんじゃないかな」
「半日延びてやっと三日かよ
……
」
はあ、と溜息を吐く。以前『生まれてこの方ペンギンと離れた事が無い』と言っていた事があったが、実際に一定時間以上シャチと離れるとシャチはポメラニアンになってしまう。ポメラニアンになった後も一応記憶は継続しているらしいが、意識の方はポメラニアンの体の方に引っ張られてしまうのだそうだ。
結果、どういう事が起こるかと言えば。
「
……
やっぱり」
ガチャ、と部屋の扉を開けると、部屋の片隅に茶色いまんまるの物体がちょこんと鎮座していた。
ふわふわの毛の中に埋もれるように、丸い耳がぴょこんと出ているのが見える。シャチと同じ毛色の、ころころと丸いポメラニアン。
「シャチ、帰ったぞ」
俺が呼びかけると、ぴくん、と耳が動いた。ぐりん、と振り返ったシャチはぎっと歯をむき出しにしてこちらを睨み、うう、と唸る。これは相当拗ねてんな、と思いながら近付いた。
「あっ!」
ぴゅん! と弾丸のようにシャチが駆け出した。小さな毛玉が転がるように、あちこち跳ねながら部屋の中を縦横無尽に駆け回る。さながら赤茶色の丸いボールがころころと跳ね回っているようだ。キャンキャンと甲高い声で吠えながら、シャチはもふもふの体の中に宿るバネを全力で使って跳ね回った。開きっぱなしだった扉に飛び込み、艦の中を縦横無尽に飛び跳ねる。
「シャチ! こら何処行くんだ!!」
シャチを呼び止めてみるが、まるで聞きやしない。倉庫から出たウニの胸に飛び込んだかと思えばクリオネの顔に盛大にダイブする。「うわっぷ!」と叫ぶクリオネを横目にジャンバールの股の下を潜り、整備をしていたハクガンの肩を借りておさげに飛び移った。そこから更に飛び出して、艦の中をころころと駆け回る。俺が何度捕獲しようとしても腕をすり抜け、絶対に捕まらないぞとばかりにぺろっと舌を出した。
「ん゙ん゙っ!」
そのあまりの可愛さに、思わずニヤけそうになる口元を必死に押さえた。他のクルーもシャチを捕獲しようと奮闘するが、誰もがニヤけそうになる顔を必死で抑え込んでいるようでまるで緊張感がない。
実際、ポメラニアンになったシャチが可愛すぎるのがいけない。艦の中を走り回る度、着地する度にふわふわの毛が弾む、着地する度にぽよんぽよんと弾む様は可愛いとしか言いようがない。ニヤけそうになる口元を押さえる俺たちを他所に、シャチはなおもぽよんぽよんと弾んでいた。
シャチを追いかけていると、不意に処置室の扉が開く。シャチは構わず扉の向こうに飛び込もうとし
―――
「ペンギン!」
俺の名を呼ばれたのと同時に、俺に何かを投げつけられた。キャッチしたそれは前の航海で手に入れた、とある島の記念コインだ。同時に青い空間が辺りに広がり、キャプテンが腕を掲げる。
「シャンブルス」
次の瞬間、手の中の記念コインはもふもふのポメラニアンに変わっていた。
「ヒャィンッ!」
シャチが叫んで腕から抜け出そうとするが、そうはさせまいと腕を回す。ぎゅっと抱きしめて「ただいま」と耳元で囁くと、やっとシャチの興奮が少し治まった。俺の胸に顔を埋め、すんすんを鼻を鳴らしている。シャチを抱えて頭を撫でながら、俺は周りのクルーへと頭を下げた。
「悪い、迷惑かけたな」
「全くだ。ったく毎回騒がせやがって」
「捕獲できて良かったな」
「俺も一時はどうなるかと思った。
……
キャプテンのお陰で助かりました」
「いつもの事だから気にするな。それより早くシャチを元の姿に戻してやれ」
「アイアイ、キャプテン」
気遣う視線を投げかけるキャプテンの横を通り過ぎ、俺は自分たちの部屋へと急いだ。
腕の中のシャチをさすりながら、部屋のドアを閉める。二段ベッドに凭れて座り、ゆっくり体を揺らした。
「シャチ、まだ拗ねてんの?」
呼びかけても、シャチは俺の胸に顔を埋めたままだ。ふう、とひとつ息を吐き、シャチの体をさする。
もふもふの体は、シャチの髪そのままの手触りだ。毛先まで手入れの行き届いた、滑らかで艶のあるシャチの髪。その髪と同じ感触を撫でていると、ふっと昔の記憶が思い出されてくる。
物心ついた時からずっと、シャチの髪を撫でるのが好きだった。自分の硬い髪質とは違う、柔らかくてふわふわの髪。大きくなってからは頭を撫でる機会も減ったけれど、時折撫でるシャチの髪はやっぱり柔らかくてふわふわで、手のひらに心地良い感触を与えてくれる。
指で梳くように、ふわふわの毛を撫でる。時折安心させるように、ぽんぽんと背中を優しく叩いた。
「
……
一週間、長かったよな。俺も、お前に会えなくて寂しかったよ」
シャチからの返事はない。ぽんぽんと、また背中を叩く。
「寂しい思いをさせちまってごめんな、シャチ」
背中を叩きながら、シャチの耳元にそっと囁いた。と、不意にぽん! と何かが弾けるような音と共に体にずしりと重量が加わる。小さなポメラニアンの体ではなく、昔と比べてずっと大きくなった体が目の前にあった。俺の足の間に挟まったまま、シャチは三角座りをした膝の上に顔を埋めてぐす、と鼻を啜る。
「
……
もういいよ。任務だってのは最初から分かってたんだしさ。勝手に俺が拗ねちまっただけだし」
「でも、寂しい思いをさせたのは本当だろ?」
「だからといってさあ、毎回こんなの嫌だろ? あの姿になった俺ってすげえ面倒臭えし。
……
俺だって、こんな体質ヤだよ。でもコントロールできねえし、おれ、もう、どうしたらいいか
……
」
「泣いてんのか?」
「
……
泣いてねえし」
ぐす、とまたシャチが鼻を鳴らす。俺は背中から包むようにシャチを抱き締めた。
「俺はあの姿のシャチも好きだよ。可愛いし」
「可愛いだけじゃん。戦闘だって役に立たねえしよ」
「それにさ、お前って口では絶対寂しいって言わねえだろ? 口で言わねえからあの姿になるんじゃねえかと思うんだけど」
「そこまでは知らねえよ。でも、やっぱりその
……
あんまり長期の任務だと、隣が空いてて落ち着かねえからさ
……
」
俯いたまま、シャチは消え入りそうな声でそう言った。ふわふわの髪から覗く耳は真っ赤で、俺は思わず苦笑してしまう。
物心ついた時からずっと一緒の幼馴染は、どうしてこうも寂しがり屋なのだろうか。
寂しがり屋で可愛い、俺の大事な幼馴染。たったひとりの、かけがえのない俺の相棒。
ぎゅっとシャチを抱く手に力を籠める。真っ赤になったままのシャチの耳に、俺はそっと唇を寄せた。
「次は一緒の任務にして貰おっか」
「
……
そうすんのが一番かなあ」
「ほんと、お前って俺がいねえと駄目なんだなあ」
「うるせえよ」
と拗ねたようにシャチは言うが、シャチの口角がほんの少しだけ上がっていた。良かった、と俺はぽんぽんとシャチの体を叩く。ふと、目の前にポメラニアンの体と同じ、シャチのふわふわの髪があった。帽子を取り、シャチの頭を梳くように撫でる。
昔からずっと変わらないふわふわの感触に、俺は思わずふふ、と笑みを零した。
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