タロイモ
2025-01-07 01:34:21
1697文字
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取るに足りない/輝くばかりの

ワンドロで書いたやつ。パー(→←)バソ。
dbi後に一緒にお茶するようになった二人の話。
パー卿がとてもオロカモノです。


 貴方にとっては、きっと取るに足りない事だったのだろうと思う。

 思えば、目で追うようになったのは何時からのことだっただろう。
 マスターの異聞帯での記録を見た時からか。
 夏の休暇に共に赴いてからだっただろうか。
 それが切欠で、一緒にお茶をするようになってからだろうか。
 特異点で、危ない所を助けられてからだろうか。

 貴方はとても眩しくて、笑ってサヨナラが言える人で。
 貴方はとても気が利いて、皆を俯瞰で見て誰かのために動いていて。
 貴方はとても楽しくて、話下手の私を掬い上げてくれて。
 貴方はとてもスマートで、気取られない優しさと強さで私を助けてくれて。

 今ではどれが最初だったのかなんて、思い出せない。けれど、どれも記憶にしっかり残っているのは確かで。
 スタートラインが分からない代わりに、記録という軌跡だけは頭の中に刻まれていて。
 そして、それを今振り返ると、何故だかその全てが輝いて見えて。ただの轍だった、進んできた道筋が光って見えて。
 ――つまるところ、私はいつの間にか貴方との時を、貴方に纏わる思い出を、宝石のように、大事な宝物のように、大切にしていたのです。

 穏やかな午後、いつもの自室での、静かなティータイムの時間。
 目の前でカップを傾けていたはずの客人――円卓の白銀の騎士は、目の前で跪き、突然そう宣った。
 一世一代の告白とばかりに思いの丈をぶつけて来た青年は、潤む瞳でこちらを見上げてくる。どんな海の青とも違う、どこまでも遠く美しい、真冬の蒼穹ような眼差しに射抜かれて、バーソロミュー・ロバーツはうっかり目眩を感じていた。あぁ、この空に落ちて行きそうだ。
 だって、それはそうだろう?
 この清き愚者と呼ばれる聖槍の守り手は、いま何と言った?
 まるで乙女に愛を希う騎士のような台詞を吐かなかったか?
サー・パーシヴァル。貴殿は今、何と?」
 恐る恐る問えば、騎士はバーソロミューの浅黒く節立った右の手を取り、それを彼の額に寄せた。
「迂遠な言い回し、礼を欠くこととは存じていますが、どうかご容赦いただきたく。この気持ちを、私は上手く伝える術を知りません……全く私は愚か者です。この気持ちが何であるか、私自身にも知り得ないのです」
 それはまるで、敬虔な信徒が祈りを捧げるようで、自分のような悪徳の限りを尽くした者には全く勿体ない美しい仕草だった。バーソロミューは、口をカラカラにしつつも、動きにくい唇を動かした。
つ、まり。貴方は、知らぬ間に私を目で追っていて、」
「はい」
「気が付いたら私と過ごした時間が大切になっていて、」
「はい」
「その気持ちが何であるか、分からないと」
はい」
 嘘だろ、とバーソロミューは叫び出したかったが、目の前の打ち捨てられた子犬のような顔をした男に、そんな言葉をかけられるほど非情ではなかった。しかし、そこまで情がある方でもない。なかった。そのはずなのだが。
 そんな気持ちはまやかしだ、さっさと突き返してしまえ、と理性が騒ぐ。警鐘を鳴らしている。今ここで否定しなければ、お前はきっと後悔するぞと計算機のような自分が頭の中で喚いている。
 そんな事は分かっている。分かってはいるのだと本能が叫ぶ。
 海賊のくせに、金銀財宝には焦がれなかった心は、何故だか今ひどく高鳴っていた。その理由を、バーソロミューは愚者ではないので知っていた。分かってしまった。理性は全く認めたがらないが。
「パーシヴァル、」
 騎士の名を呼ぶ。銀糸の髪が揺れ、白亜の彫刻のように美しい顔が顕になる。縋るような表情をして、でも精悍さを損なわない不思議な男だと思った。
 あぁ、今から自分は罪深いことをする。心の中で神に謝罪しながら、バーソロミューはパーシヴァルの頬に左手を添えた。
「そういう気持ちを、きっと愛と呼ぶんだよ」
 驚きに大きく見開かれた目を、してやったりと眺めてから。
 バーソロミューは、形の良い唇に、自らのそれをそっと重ねた。

 それが清き愚か者を、愛と熱情に目覚めさせるとは知らずに。