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もろ餅
2025-01-05 22:34:35
1532文字
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向日葵と紫陽花
「本気だから」
なんて、燦々と咲き誇る背丈ほどの向日葵を圧倒しながら告げる表情は、普段からは想像もつかないくらい真剣なのに、視界の端に映っている握りしめた拳は微かに震えている。隠された小胆さが垣間見えてつい吹き出してしまった。
「な、何笑ってんだよ
…
」
あ、その顔も珍しい。
今日は珍しい表情がたくさん見れる日だ。腹を抱えて笑う俺を姿を見て、朔夜さんはへそを曲げた。だって笑い泣きということにしないと、プロポーズされたことが嬉しくて泣いたなんて言ったら、アンタはいつもように揶揄うだろうから。
笑い止まない俺を見て拍子抜けしたのか、朔夜さんは頭をがしがしと掻きながら「雰囲気ぶち壊しだろ」と大袈裟に溜息を吐いた。
「
……
ふ、んはははっ!おい、流石に笑いすぎだぞお前」
そして、くしゃりと笑った。
その笑顔が太陽よりも眩しくて、向日葵よりも綺麗だと思った。朔夜さんの綻んだ笑顔は惚れた要因でもあり、何よりも大好きな俺だけの宝物。
緊張の糸が解け、辺りの雰囲気が柔らかくなる。うん、これでいい。重苦しい空気なんて俺ららしくないからな。
何かを悩んだ後、諦めたようにはにかみながら俺の手を取り地面に膝を着いた。
「お前のせいでこんな空気になっちゃったけどさ、」
するり、と温かいものが通される感覚。
「さっき言ったこと、マジだから」
嵌められたリング状の金属は本来の冷たさを失っていた。この人どんだけ握ってたんだよ。あーもう、こんなの笑い泣きじゃ隠せねぇじゃん。
左手の薬指で輝き続けるそれに視線を落としたことで、一粒の涙が零れた。
「これ、返す」
そう言いながら差し出された小さな金属を見て、顔が歪むのを感じる。対照的にへらりと笑うメルトの表情にいつものあどけなさは無く、後ろで咲き満ちる紫陽花に攫われてしまいそうなほど脆い。
見るに耐えなくなって視線を足元の水溜まりに落とした。
目の前のそれを黙って受け取ろうとして、不意に触れてしまった手先があまりにも冷たいもんだから、同じように頭も冷めていく。
「
…
ごめん」
叩きつけるように降り注ぐ雨の音はバカみたいに煩ぇのに、消え入りそうな声はやけにハッキリと聞こえた。頭が割れそうなほど痛い。ここ最近は気温の変化が激しくてよく偏頭痛に悩んでいたが、今日のは警告音のようにガンガンと響いて比にならない。
言いたいことはたんまりとあるのに、口は堅く結って開かない。アイツなりに考えて出した結果を否定する資格など、俺にあるわけ無いと思ったから。
「
…
すげぇ、楽しかった」
…
そんなの、俺だってそうだ。
初めて誰かを本気で好きになった。自然と女遊びをやめていた。お前とお忍びデートがしたくて、普段は選ばない服を買った。朔夜さんの料理が食べたいって言うから、空いてる時間には料理の腕を磨いた。ダブルベットを新調したのに毎回密着するもんだから、シングルでよかったじゃんと2人で笑い合った。
全部が当たり前のように感じていたけど、今じゃ到底手の届かない存在になっちまった。
フラッシュバックする思い出が荊棘のように纏わりついて離れない。
「じゃあな、
……
鴨志田さん。」
後ろを向いたアイツの髪は、前に紫陽花みたいで綺麗だと褒めた時から何一つ変わっていなかった。
元々、相手は未成年で6歳下なうえに、男同士という弊害だらけの関係だった。そんなリスキーを犯してまで恋愛するなんて俺らしくない。
だから、これでよかったんだ。
メルトの瞳から静かに溢れる涙に俺は見て見ぬふりをして、手中の金属を握り隠した。
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