fedge
2025-01-05 03:51:37
2728文字
Public カピオロ
 

僅かな彩色

※5.3
※シュールなギャグ寄り。何でも許せる人向けです…ツッコミが足りない…

……ここから見える景色は、少し、寂しいな」

氷柱に囲われた玉座の真横にぴと、と寄り添い、座して静かに呼吸するのみの『隊長』と目線を合わせて、オロルンはぽそりと呟いた。眼下に収まるのは灰色の雲海と風化した石階段。仮面の下の眼は閉じられていて視えないだろうが、それでも、あまりにも色の無い景色。ナタの色鮮やかな風景の中で生活しているオロルンにとって、無彩色なここからの景色は、きゅっと締め付けられるような気持ちを増幅させた。

……そうだ。せっかく来ているのだし、何か育てられないか」

鮮やかな橙色の人参、瑞々しい緑色のキャベツ、太陽を詰め込んだ赤色のトマト。自宅の畑で採れる色とりどりの野菜たちが居れば、ここも鮮やかになるのではないだろうか。だがここは、環境が過酷だ。普通の野菜たちでは育つことができない。

「隊長、すまない。今日は少し早く帰る。ちょっと調べたいことができたんだ……また、明日」

思い立ったが吉日、とオロルンはすくっと立ち上がった。
顔を覗き込み、返事を期待しない言葉を投げる。玉座を後にしたオロルンは、謎煙の主の集落へと向かった。


 * * *


「ううん……寒くて、乾燥してて、高所でも育つ野菜……調べてもわからなかった」

謎煙の主の図書館を後にしたオロルンは、結局答えが見つからず、唸りながら歩いていた。
どうしたものかとふらふら集落を歩いていた、その時。どこからか聞きなれた元気な声が彼を呼び止めた。

「オロルンじゃないか!……うんうん唸って、どうしたんだ?」
「パイモン!それに、旅人のじいちゃん、ひさしぶり」
「ひさしぶり。何か考え事?」
「ああ、ちょっと野菜のことで悩んでいて……そうだ、じいちゃんなら何か心当たりがあるかもしれない。じいちゃんはナタ以外の国の植物のことに詳しかったりするか?高いところでも育つ野菜が知りたいんだ」
「高いところで……か、ちょっと待ってね」

口元に指をあてて少し考えた旅人が、野菜じゃないけど、と前置きしつつ鞄の中から袋を幾つか取り出した。白くて可愛らしい花弁の花が描かれている袋と、紫色のドレスのような花が描かれている袋がある。

「璃月の花なんだけど、どっちも崖みたいな高いところでしか育たない花なんだ。こっちが清心、こっちが琉璃袋。どちらも薬の原料になるから、食べられないことはない……苦いけれどね」
「花、か。考えていなかった。薬の素になるのか、それなら花でもいいかもしれない」
「よかったら種をあげようか?璃月の植物だから、ナタの土地に合うかはわからないけれど」
「いいのか?ありがとう、じいちゃん!」

数袋ずつ花の種を分けてもらったオロルンは、満面の笑みを浮かべていた。

「それにしても、高いところ、ってどこかに引っ越すの?」
「いや、毎日通う場所があるから、そこにも野菜を植えたいなと思ったんだ。僕の家の畑より標高が高いから、そこで育てられるものを探していた」
「なるほど!謎煙の主の周りって、確かに高所になってる細い高台が多いもんな!」

名推理だろ!と、パイモンがふふん、と自慢気な顔をする。

……とにかくありがとう、じいちゃん!助かったよ」

旅人とパイモンと別れて、謎煙の主の集落を離れ、自宅へと戻る。
今日はもう遅いか、決行は明日だ。

 * * *

「あの条件なら、ここでも育つだろう」

翌日、旅人から貰った花の種を携えて、オロルンは隊長の前に立っていた。今日も変わらず、眼前の景色に色は無い。
昨夜、自宅にある植物図鑑を、教えてもらった花の名を頼りに辿ると、どちらも載っていた。
『清心』は断崖絶壁にしか咲かない花。ぬくもりや潤いよりも、冷たくて、高い場所を好む。
『琉璃袋』は生命力旺盛で、崖の壁面に咲く花。下向きに咲くのは花の香りを守るため。

……どちらの花も、耕した地面ではなくて岩の切れ目などで育つらしい」

玉座へと続く石階段のひび割れに、等間隔に種を埋めていく。異国の花ではあるが、高所で、寒くて、断崖絶壁……と似たような、オシカナタの上空。生育条件は揃っている。

「白と紫が交互になるようにするか?いや、上が白で、下が紫で固めてもよさそうだ。隊長の目に入りやすいのは下の段だろうから、鮮やかな方がたくさん見えるように」

試行錯誤しながら花の種を植え切ったオロルンは、満足げに玉座の横に腰を下ろした。
暫くしたらきっと、ここから見える景色にも、……少しだけだけど、色が付く。

「色のついた景色を、君が喜んでくれたら、嬉しいな」

 * * *

「清心と琉璃袋を、あるだけ頼む」
「本当にあるだけ、要りますか?かなり大量になりますが……
「なんと。いつも少ししかないではないか。どれだけあるのだ」
「どちらも5キロ以上あります」

不卜廬でいつものように花を買おうとした申鶴は、普段の比ではない在庫量に目を見開いた。

「なぜ、そんなにたくさんある。希少なものではなかったのか」
「なんでも最近交流が盛んになったナタにある農家で、規模の大きい栽培をしているようで……
「なんと、璃月以外でも育つのか」

大量の花に感嘆していると、近くによく見知った二人が通りかかった。

「おーい申鶴!元気してたか?」
「久しぶり、申鶴」
「久しいな、旅人。パイモン。海灯祭を見にきたのか?」
「そうだぞ!そろそろ海灯祭の季節だからな!」
「騒がしいみたいだけど、何かあったの?」
「今は、清心と琉璃袋がナタで栽培され始めたという話をしていた」
……まさか」
「栽培の様子を撮った写真も頂いているんですよ。ほら」

不卜廬の受付……桂は、一枚の写真を取り出した。琉璃袋と清心が、石段と手前の石畳を覆い、白と紫の花が咲き誇る花の道が、氷柱の間を縫うようにできている。

「高いところ、って……あそこだったのか」
「旅人、知っているのか」
「うん、これを育ててる人を……知っている……

空は、祭が終わったらナタに一旦戻ろう、と、頭を抱えた。
ああ、こんな時、彼はどう言って彼を止めたのだろうか。


 * * *


「僕たちが育てました、って本当ならこの写真も付けたかったけど、君の許可なく配ってはいけないからな。これは僕だけのものってことで」

セルフタイマーで撮ったその写真には、紫と白の花で彩られた道の先に、寄り添って座る二人が小さく映っていた。

「君の見ている世界でも、少しは色がついたかな」

もはや定位置、と玉座の横に座り込む。脚にしなだれかかりながら、ほんの少しだけ色彩が増えた景色を眺めた。