よるはこ
2024-03-04 14:47:13
9346文字
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【キキララとステラ兄弟】星の子どもたち

ララとルタールステラが一緒に星を見たり、キキとクラークステラが一緒に時計を直したり、四人で仲良くしている話。ボイドラが始まる前に、こうだったらいいなを詰め込み。




【壊れた時計とお星さま】


 ララが虹色の楽しい夢からふと目を覚ますと、部屋の中はまだまっくらな真夜中でした。
 同じベッドで眠っているキキは隣でくぅくぅと安らかな寝息を立てています。そのおでこをそっと、ひとなでした後、もういちど夢の続きを見ようと寝返りをうった時でした。カーテンの隙間からもれる外の光がとても明るいことに気がついたのです。カーテンの端をつまんで、少しめくって夜空を見上げ、
「わぁ☆」
 思わず感嘆の声を上げてしまうほど星々の光がきらめいていたのでした。ララは声を上げた口をおさえて、起こしてしまったかしらと、キキの方を見ました。相変わらずキキはむにゃりと夢の中で、ララはホッと胸を撫で下ろします。
 なんだか目が覚めてしまったララは、こんなにも美しい景色を眺めずに寝てしまうのはもったいないわと思い、キキの夢を邪魔しないようにゆっくりとベッドから抜け出しました。ブランケットを肩にかけ、もこもこのルームシューズをはいて、キッチンへ向かいます。星を眺めるのなら、あたたかい飲み物がなければいけません。ララはハーブティーにするかホットはちみつレモンにするかワクワクしながら暗い廊下を歩きます。
あら?」
 キッチンの扉が少し開いて、電気の明かりが点いていました。この家にはキキとララの他に、クラークステラとルタールステラが住んでいます。クラかしら、ルタかしら、それともふたりとも起きているのかしら。不思議に思いながら、ララはゆっくりとキッチンの扉を押しました。
 ダイニングテーブルに誰かひとり、座って必死にカチャカチャとなにかをいじくりまわしています。ララは自分と似た髪色のその人の名前を小さく呼びました。
「ルタ?」
 声をかけられたルタールステラはビクリと肩を震わせてララの方を向きました。顔色があまりよくなくて、ララは少し心配になりました。
「ララ?どうしたの、こんな時間に
「ちょっと目が覚めちゃって、お星さまを眺めながら何か飲もうと思ったの☆ルタはどうしたの?」
「俺は
 ララはダイニングテーブルに近づいて椅子に座りました。机の上には時計がひとつ、壊れているのか動いていません。いつもはウォールシェルフに飾ってある小さな置き時計でした。
「落としてしまったの?」
 ルタールステラは震える指先で時計の文字盤をなでて、叱られた子どものようにかすかにうなずきました。
「落として、しまったけど
「けど?」
 震えが少しでも治るようにルタールステラの手にララは手を重ねました。ルタールステラはその小さな手に少しだけ頬がゆるんで言葉の続きを話します。
「俺も、水を飲みにここに来て、少し、悪い夢を見た後だったから時計の音が、こ、こわくて
「まぁ
「電池を取って、少しの間、秒針を止めたかっただけなのに、蓋を開ける前に落としてしまって、動かなくなって俺は
「ルタは優しいのね☆」
「え?」
 うなだれていたルタールステラはハッとしてララを見ました。つぶらな瞳が部屋中の明かりを映してキラキラと光っています。その美しさに驚く瞬間、ルタールステラは心の中の全ての不安と恐怖を忘れることができました。
「怖かったのに、一生懸命もとにもどそうとして本当に優しいわ☆そんな優しいルタに、わがまま言ってしまおうかしら☆」
 ララは戸棚からレースの敷布を取り出すと、
「壊れてしまった時計は明日、キキとクラに任せましょう☆」
 それまで少し休憩できて時計も嬉しいわきっと、と毛布をかけるように敷布を時計へ被せ、寝かしつけるようにポンポンとなでました。
「ハーブティーを淹れてもらえる?私と一緒に星を見ましょう☆カモミールがいいわ☆」
 満面の笑みで甘えるララと壊してしまった時計が見えなくなったことに胸がどんどん軽くなって、ルタールステラは分かったと言うと、慣れた手つきでハーブティーをふたり分淹れました。キッチンにやわらかなカモミールの香りが広がって、ルタールステラはそれだけでとろりと眠くなりました。落ちてしまいそうになる目蓋とグッと持ち上げて、
「お待たせ」
 と言って、ララにあたたかいカモミールティー入りのマグカップを渡しました。
「ありがとう☆さぁ星を見ましょう☆」
 クッションを床に敷いて窓の前に座ります。カーテンを開け放つと、白ざらめや雪の結晶や水晶の粒を黒鳥の羽根の上に目いっぱい散らしたような夜空でした。星座の一筋をなぞるだけでもシャラシャラと音が鳴りそうです。
「星って毎晩見ているのに、見上げる度にどうしてこんなに綺麗なの?って驚いてしまうわ☆」
「俺も、占星術で意味を読み解く前に見惚れてしまう時があるよ」
 お互いに微笑みあって、星を眺めながらハーブティーを飲みます。あたたまって顔色の良くなったルタールステラを、ララは嬉しそうに見上げました。
「ルタは星の歌を聴いたことあるかしら☆」
「星の歌?」
「そう、雲のうえの音楽会でゆめの音ときぼうの音も鳴り響くのよ☆とっても素敵なの!こんど、四人で聴きに行きましょう☆」
 明るい声でララが言う『こんど』の言葉にルタールステラは胸がキュッと締め付けられるように苦しくなりました。ルタールステラは未来を恐れていました。正確にはいつか訪れるであろう別れの未来を。ララもキキもクラもいなくなって自分ひとりきり、そんな夢をルタールステラはたまに見てしまうのでした。そんな未来が絶対に訪れない確証なんて、どこにもないのです。そしてそれは明日、訪れるのかもしれないと、ルタールステラはいつも恐れていました。
 このまま夜が明けなければいいのにと、ルタールステラはそう願わずにはいられませんでした。みんな楽しい夢を見続けていて、空は美しい星で満ちていて、ずっとずっと平穏な夜のまま。そうしたら怖がらなくてすむのに、とルタールステラは悪い夢を見て真夜中に目覚めるたびに思っていました。そして、そう願ってしまうこと自体、なんて自分勝手なんだろうと罪悪感も覚えていました。主たちを守る騎士なのに情けないと自分を責めてもいました。
「ゆめときぼうってどんな音色なんだろう。聴いてみたいな」
 声が震えないように、つとめて明るく答えました。明日が怖くてもそれ以上にララとキキとクラに笑顔でいて欲しかったのです。もうこれ以上、ララに心配かけないように笑顔を作りました。
「じゃあ明日、キキとクラが起きたらいつ行くか決めましょう☆ふふ、早く明日が来ないかしら☆楽しみだわ☆」
うん」
 空になったマグカップをコトリと置いて、ララはルタールステラの手を握って、あのねルタと静かに向き合いました。
「怖くてもいいのよ☆」
 その言葉にルタールステラは胸の苦しいところを直接ふれられたような心地がして上手く返事することが出来ませんでした。息をのむことしかできなくなったのです。ララは言葉でルタールステラの心をなでるように、ゆっくり声をつむぎます。
「私も怖くてたまらない時があるの☆キキの隣にいても涙が出てしまうくらい☆」
「それでもね、キキがずっとそばにいてくれるって信じてるから大丈夫だって思えるの☆」
「ルタが未来を怖がっていても、クラと私とキキがずっとそばにいて、ルタの分も未来を信じているから☆だから、ちょっと怖くても安心して欲しいわ☆」
 ルタールステラの目からホロリと涙がこぼれて頬を伝います。そのあたたかさでルタールステラは自分が泣いてしまっていることに気づきました。手で拭おうにも、まずはララが握ってくれた手をほどかないといけません。そんなことを、ルタールステラは決して出来ませんでした。
「我慢しないで、ルタ
 ララはやわらかく微笑みかけます。
 涙はただただ流れ続け、泣いてしまってごめんと、ルタールステラは謝ろうとしました。けれど口から出た言葉は全然違う本音の言葉でした。
「怖い怖いよ、すごく……
 騎士なのに弱音を吐いてしまったことが恥ずかしくてルタールステラはうつむいてしまいます。
「大丈夫大丈夫よ、ルタ
 ララは肩のブランケットを外してルタールステラの頭を隠すように包んでから、ぎゅっと抱きしめました。
「明日が来て、太陽が登って、空の星がひとつ残らず見えなくなっても、私たちはずっと輝く星の子たちなのよ☆だから大丈夫☆」
 ルタールステラは泣き続けました。泣きながら、嗚咽まじりにララごめんとありがとうララと何度も言って、ララはお礼も謝ることもしなくていいのにと思いながらも、その言葉ひとつひとつにいいのよルタ、どういたしましてルタと返しました。どれだけ言葉を尽くしても繊細なルタは怖がって傷ついてしまうことをララは知っていました。
 ララはひたすらルタールステラの頭をなでて祈りました。
 どうかルタの不安や恐れが少しでもなくなりますように。
 どうか傷つきやすいルタが心穏やかに夜を過ごせますように。
 どうか私のしあわせをはんぶんこできますように。
 頭をなでるたび、繰り返し繰り返し、ララはそう祈り続けました。

 やがて嗚咽が小さくなり、ブランケットの下の頭がコクリコクリと揺れ出しました。あら大変とララは慌てて部屋中のクッションを集めて床に敷き、ルタールステラをゆっくりと寝かせました。次に毛布も持ってきてかけてあげます。頭に被せたブランケットをめくると、
「あらあら拭いてあげなくちゃ
 どれだけ怖がっていたのか、頬にいくつもの涙の跡が痛々しく残っています。あたたかい濡れタオルで拭いてあげると、疲れ切って、それでいて安心した顔のルタールステラが寝息を立てていました。その顔を見ていたララもあくびをひとつして、ルタールステラと同じ毛布に入ります。
「おやすみ、ルタ。良い夢を☆」
 そうささやいて、目を閉じたのでした。

 寄り添って眠るふたりに、ほしあかりは絶えず降り注いでいましたが、やがて空は傾いてルタールステラの恐れていた朝が来ます。
 それでも今だけは、ふたりお揃いの虹色の楽しい夢を見て、ルタールステラは心から安堵の笑みを浮かべていたのでした。
 


☆ ☆



 キキとクラークステラの発明室にはあらゆる便利な工具と部品が揃っていました。カッター機、研磨機、ハンダゴテ、電動ドライバー等が安全装置をしっかり付けたまま作業台の上に並べられています。
 壁一面には様々なサイズのレンチとスパナがかけられ、数百種類のネジ歯車ボルトナット等の金属部品が几帳面にサイズ分けされ、ラベリングしたたくさんの引き出しの中へ丁寧にしまわれています。
 その隣の棚にはペンキやオイルや硬化樹脂、遮光面や樹脂を扱う時のマスク、粉塵防止マスク、多用多種の手袋と軍手、ゴムエプロン、安全靴、大量の不織布ウエス等がしまわれています。
 この部屋で作業するふたりは決してお喋りではなく、むしろ言葉少なでした。けれど、手の延長になる工具や言葉の代わりの部品の数の多さがふたりの繋がりをより強いものにしていました。
 果てしない数の工具と部品、それら全てを把握している二人はピタリと息の合った作業を進めていきます。
 キキがあの部品が欲しいなと顔をあげると、クラがはい、とサイズのピッタリ合ったネジをトレイに入れて差し出してキキは満面の笑みでありがと〜☆と言います。逆にクラがあのレンチが欲しいなと顔をあげると、キキがはい☆とプレセット型トルクレンチを手渡してありがとう、とクラが短くお礼を言います。
 互いを見るよりも工作物を見ることが多いふたりでしたが、こうしてお礼を言って視線が合う瞬間、発明が思い通りに上手くいくと確信めいた心地良い刺激を感じてニッと笑い合うのでした。
 今日の工作はララとルタールステラから依頼された壊れた時計の修理、ララからはこっそり「もっと楽しい時計を作って欲しい」でした。キキとクラークステラは大きな作業台に模造紙を広げ、あぁでもないこうでもないと二本のペンを走らせます。そして目標とする設計図が出来上がるとふたりで黙々とそこに至るまで手を動かし始めました。設計図通りに出来たとしても、実際に動かしてみると理想と全く違うなんてことはままあります。ふたりは「この動かし方楽しいかな?」「うーんどうだろう」と言い合いながら組み立てていきました。
 しばらく作業し続けて、少し休憩しよ〜と言ってキキは背伸びをしました。クラークステラも持っていた時計用の細いドライバーを机に置いて息を吐きます。そして、少し申し訳なさそうに自分の主におずおずと相談を持ちかけました。
「ねぇ、キキ
「ん?」
 キキは時計用微小歯車を手のひらで転がして遊ぶのをやめてクラークステラの顔を見ます。
「どうしたの?クラ☆」
 神妙な面持ちのクラークステラはキキではなくどこか彼方へ視線を向けていました。作りかけの時計でも設計図でも工具でも部品でもなく、ここにはいない誰かを見つめているのでした。
「ルタから見て僕って頼りないかな?」
「んー?」
 キキはどうしてそう思うの?と首を傾げてクラークステラの言葉の続きを待ちます。
「僕があらゆることからルタとキキとララを守るって約束してるのに、たまに夜中、ひとりで怖がっていることがあるんだ。昨日の夜もそうだった」
「そうだったんだ
「でも僕がそれを知ってるって分かったら、ルタ、もっと隠すから知らないふりしてる。ルタは何を怖がっているんだろう」
「うん
「ルタから悩みを打ち明けてくれるのを待ってるんだけど、今朝もいつも通りにおはようって言って、なんでもない顔してる。僕がもっともっともっと、強くならなきゃ、ルタは安心できないのかな
「うーん
 キキは人差し指をくちもとに当てて目蓋を閉じて考えこみました。ルタールステラが何か思い詰めていそうなことはキキもなんとなく察していました。ララが寂しくて泣きそうになる顔と同じ表情を時々しているのです。それなのにルタールステラはキキが自分のことを見ていると気付くと、いつだってなんでもないような顔で取り繕うのでした。
 ララに相談してみましたが、ララは信じて待ちましょうと少しさみしそうに言って、いつも通りに過ごしています。ララがそういうならキキもルタールステラのことを信じようと思いました。ルタールステラの幸福を祈って毎日を元気に過ごすことが、キキが出来る一番のことだと思ったのです。
 キキは目蓋を開けてクラークステラの目をじっと見つめました。
「ルタが何を怖がってるのかは、僕もよく分からないや
 その言葉を聞いて、そっかとクラークステラは少し眉尻を下げます。キキはでもねと言って、作業台の上で力なく置かれていたクラークステラの手を握ります。
「クラは、今のクラのままでいいよ☆」
 手を握る力強さのままキキは言いました。
「僕だってララのこと全部知ってるわけじゃない☆たまにケンカもするし、おこったりおこられたりもする☆それでも、僕はララといるときが一番幸せで、ララも僕といるときが一番幸せなんだ☆今までもこれからもずっとずっとずっと一緒☆クラとルタもそうでしょ?」
 クラークステラはキキの真っ直ぐな言葉と気持ちに圧倒されながらもコクリと頷きました。
「それだけ分かっていればいいんじゃないかな☆だから無理しないで、今のままのクラでいてね☆」
「いいのかな全部知ってなくても、強くなくても、一番だって言って」
「いいよぉ☆だってずっと一緒だもの☆」
そっか」
 クラークステラはキキの頼もしい手をぎゅっと握りかえしました。
「キキはすごい。なんでも知ってる」
「えー?なんでもは知らないよぉ☆」
 そう言いつつもキキは照れ笑いを隠せません。
「ううん、知ってる。ララの一番の幸福がキキ自身だってことを知ってる。僕もルタの幸せが僕だって、もっと知りたいな」
「大丈夫☆だって
 二人は目を合わせます。何もかも上手くいく予感のまま、口を開きました。
「「ずっと一緒だから」」
 寸分違わず合わさった声にキキとクラークステラは目をぱちくりさせながら笑いました。



☆ ☆ ☆



【お星さまと待ち遠しい明日】


 リビングのテーブルに、四人は様々な表情で座っていました。ララはワクワクとした満面の笑みで。その向かいに座るキキは得意気な笑顔で。その隣のクラークステラは早く褒めてほしい目線をまっすぐ兄に向けて。見つめられているルタールステラは弟の熱視線に少し照れたような困った笑みを浮かべていました。
「コホン。それでは、新しい時計のお披露目会を開始します☆」
 咳払いをしてキキがそう言うと、クラークステラは机の下から布を被せたトレイを持ち上げてララとルタールステラの前に置きました。
「それでは、オープン☆」
 キキは覆い被さっていた布をめくります。その下から新しい置き時計が現れました。
「あら☆」
「わぁ
 ララとルタールステラはそれぞれ感嘆の声を上げ拍手をします。小さくシンプルな形だった置き時計は可愛らしいカラーリングに塗装されふわふわのわたに縁取られ、色とりどりのちいさな星で飾り付けされています。秒針は規則正しく動いているのにカチカチとした硬い音は全く聞こえませんでした。ルタールステラが生まれ変わった時計に見入っていることに、ララとキキとクラークステラは視線を合わせ、ニコッと笑い合いました。
「色々仕掛けも作りました☆」
「僕たち、頑張ったよね」
「ねー☆」
 クラークステラが時計の後ろのネジを回して時間を早めます。短針が夜の寝る時間を指すと文字盤を縁取っていたわたがモコモコと動いて、まるでお布団をかけるように時計を包みました。そして小さな星は夜の瞬く星のようにチカチカと光りだします。ルタールステラは目を見張ります。
「わぁすごい!」
「このお布団みたいなわた、やわらかさを表現するために春のわた雲や雨上がりの絹雲を使うか迷ったけど、やっぱり丈夫さを考えて真夏の入道雲の先の部分を丁寧にほぐしてあしらえてみたよ」
 クラークステラは驚く兄に説明できるのがよほど楽しいのか、いつもはすまし顔でキツく結んでいる口を必死に動かします。
「この光る星のカケラはこの前、僕たちが星釣りでとって時計用のビーズに加工したのをララが縫ってくれたんだ」
「え?ララも一緒に作ったんだ
「わたに縫いつけただけよ☆時計も夜までずっと働いて可哀想だって思っていたから、夜になったらお布団を被って休んだ方がいいと思うわ☆」
「ララ!ナイスアイデア☆」
 そっか、三人で、作ったんだ、でも仕方ないか。俺は機械が苦手だし。とルタールステラが寂しさを感じてしょんぼりと落ち込もうとした時でした。
「でもねルタ、まだ完成してない。この時計が完成するにはルタの力も必要なんだ。手伝ってくれる?」
 三人が口をそろえてお願い!と言います。ルタールステラはまだ自分にも手伝える部分があることが嬉しくて、
「俺に出来ることならなんでもするよ」
 と机から身を乗り出しました。
「この寝てる時計に耳をすませてみて」
 弟が差し出した時計にルタールステラは耳を向けます。
 お布団を被った時計はくぅくぅと寝息を立てています。なんて可愛らしい、どこかで聞いたことがある寝息だなとルタールステラは思っていると、
「それ、僕の寝息☆」
「キキの寝息!?」
「録音したんだ」
「録音したの!?」
「録音機能と時間に合わせて再生機能をつけてみたよ☆朝の時間になると
 クラークステラがまたネジを回します。やがてお布団のわたがもくもくと元にもどり文字盤が表れ、みんなが朝起きる時間を指していました。
「う〜ん、おはよぉ〜☆むにゃ
 またキキの声が時計から鳴りました。ゆるゆるに間延びした朝の挨拶でした。
「もうキキったら☆まだ半分寝ぼけているじゃない☆」
「いいんだよララ。可愛いから」
「うん、可愛すぎるよキキ。永久保存しなくちゃ」
「えへへ〜☆」
 照れ笑いするキキを横目に、もう甘やかしちゃってと姉らしいことを言いつつもララは笑います。
「これから全員でたくさんのおはようを吹き込みます☆」
 クラークステラはボタンをセットしてルタールステラの前に時計を差し出しました。
「じゃあルタ!おはようって言って」
「う、うん」
 ルタールステラは丁寧に真新しい時計を受け取ります。なんだか改まって言うの照れるなぁと思いつつもルタールステラは咳払いをします。
 三人がニコニコしながら、そして物音を立てないようにジッとしてルタールステラを見ています。その光景に吹き出してしまいそうになるのを我慢して、ルタールステラはゆっくり息を吸います。
 目を閉じて、三人の平穏で、健やかで、幸福で、焼けたトーストの匂いのする朝を思い浮かべながら、ルタールステラは時計へ向けて、喉を震わせました。
「おはよう」
 晴れた陽射しが差し込む朝によく似合う挨拶でした。一拍置いた後、三人は口々にルタールステラを褒め称えました。
「すごいルタ。完璧なおはようだった」
「わー、とてもやさしい挨拶だね☆」
「ほんと☆きっと気持ちよく目が覚めるわ☆」
 こんなにおはようを褒められることがあったでしょうか。ルタールステラはくすぐったい気持ちで、自分の声が込められた時計を大切になでました。昨日は壊してしまってごめんと心の中で謝りながら。
「もっともっとたくさん、色んな挨拶を録音して明日からランダムで流れるようにするよ!ワクワクするね☆」
 ララとクラークステラは誕生日や記念日には特別な挨拶を入れましょう、そうしようとカレンダーを持ってきて睨めっこし始めます。季節の挨拶を考えようとキキが紙とペンを持って机に置きます。賑やかになるテーブルの上をルタールステラは眩しそうに眺めました。

「明日が楽しみだな」

 そう澱みなく言えた自分に対してルタールステラは驚き、胸にそっと手を当てました。明日が怖い気持ちもまだそこにあります。けれど今言った、明日が楽しみも心の底からわいて出た本当の気持ちでした。心臓が、心が、戸惑うようにゆれて、それでも明日へのときめきがキラキラとあふれてとまりませんでした。
 ふと、隣に座っているララに手を握られ、目を合わせます。言葉はなくとも、その瞳から幸福の祈りがほしあかりのように注がれます。ルタールステラはありがとうと言う代わりにとびっきりたおやかに微笑みかえしました。
 二人のその様子を、キキとクラークステラは安堵の笑顔で見つめていました。

 四人の星の子どもたちが暮らす家の中は笑い声と幸福の祈りが満ち満ちています。
 夜空の星のようにキラキラと、窓から光があふれているのでした。


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