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よるはこ
2024-02-22 20:16:05
5651文字
Public
mp100 徳神
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【徳神】かいだんのむかでさん
有名な怪談コピペネタ、徳川に破ァ!させる為だけの話
神室がひたすらホラーな目に会いますがハッピーエンドです。
──ねぇねぇ、『かいだんのむかでさん』って怖い話知ってる?
──うわ、それめっちゃなついね、小学校の時すごい流行ってた怪談じゃん
──えー、あたし知らなーい。何それどんな怪談?ちょっと涼みたいから聞かせてよー
──えっとね、『かいだんのむかでさん』っていうのは階段に現れる幽霊なの。生きていた頃は、走るのがなによりも好きな子で、将来は徒競走の選手になるって一生懸命努力して頑張ってたんだって。勉強も友だち付き合いも遊ぶのも何もかも犠牲にして走り続けて、大会の賞とかたくさん貰って、将来有望だった。でもある日、その子は階段から落ちて大事な足を骨折しちゃったんだ。しかも治りが悪くて今まで通りに早く走れなくなったの。人生のほとんどを走ることに捧げてきたその子は走れなくなって、自分の不運に耐えられなくて、絶望して、ジサツしたの。それからね、その学校で階段を降りると転んで怪我する子が増えていったんだって。怪我した子はみんな口を揃えて「階段を降りてたら何かに足を引っ張られた」って言ったらしいの。最初はちょっと擦り傷ができる程度だったのがだんだんと酷くなって、何針か縫うほどの切り傷とか骨折する子も出てきて、そしてとうとう、その階段の踊り場で足がちぎられる事件が起きたんだ。
──ひゃー!こわーい!
──てかお前、怪談語るの上手くね?怪談ライブできるじゃん
──もぅ、茶化さないでよ、最後まで聞いて。それでね、足をちぎられた子は生きてたんだけどよっぽど怖い目にあったせいか、何があったのかまともに喋れなかった。生徒たちの間では死んだあの子がちぎったんだとか、動かなくなった自分の足の代わりに他の子からとって自分の体に付けてる、なんて噂が広まったの。最初は幽霊なんて信じてなかった先生たちも、全然犯人が捕まらないし、生徒たちも異常に怖がるから気休めでお祓いしたんだって。それからその階段で怪我する子はピタリといなくなった。でもお祓いした人が言うには「あの子をこの学校から追い出すことしかできなかった。もしかしたら他の場所の階段を転々と移動しているかもしれない」って。今頃、もうたくさんの人から足をちぎって、たくさんの足を体につけて『百足』みたいになっている
…
。それが『かいだんのむかでさん』の由来ってわけ!階段を歩く時、特に降りる時は「むかでさんに出会いませんように」ってお祈りしてから降りないといけないよ。出会ったら最後、足をちぎってとられちゃうからね
…
※ ※ ※
放課後、下校しようと階段を降りていた僕は、ふと何か変な気配を感じて思わず立ち止まった。
「あれ?」
立ち止まると同時に、一体何に対して変なものを感じたのか分からなくなってしまった。
目の前はいたって普通の二階の廊下だった。振り返れば踊り場の掲示板に、生徒会が貼った風紀の向上に取り組むポスターや連絡事項や学校新聞なんかが貼ってある。
今日の僕は生徒会の予定もないし、三階の教室から一階の昇降口へ、階段を降りて向かおうとしている。
どこもおかしいところなんてない。
いつも通りの学校だ。
なのに何故かむずむずと居心地の悪さを感じる。
なんだろうこの違和感は。
僕は手すりを掴んでいない方の手で目頭を揉んだ。疲れてるみたいだ、早く帰ろう。ため息をついて階段を降りる。
そういえば、小学校の頃に階段にまつわる怖い話が流行ったな。なんていう話だっけ、
……
忘れてしまった。『階段の怪談』なんて言って笑ってる奴もいたような気がする。くだらないなぁなんて思いながら僕は階段を降りて、
「
…
え?」
目の前の光景に息を飲んだ。
そこは二階の廊下だった。たった今、二階から降りたはずなのに。
すぐに振り返って掲示板を確認する。さっき見たばかりの掲示物が全く同じ位置に寸分違わず貼ってある。
「
…
ははっ、僕は相当疲れてるみたいだ
…
」
自分に言い聞かせるように独り言を呟いて震える足で丁寧に階段を降りた。そうしないと転げ落ちてしまいそうだったからだ。
ゆっくりと階段を降りて、踊り場からそっと階下をのぞく。
「うっ、
……
そだろ
………
」
のぞいた階段の下は二階の廊下だった。ゾッと鳥肌が立ってすぐに目を逸らしてしまう。そうすると嫌でも僕が降りてきた階段の上を見上げる形になった。そこには僕が先程歩いた二階が階下の二階と瓜二つで広がっている。
意味の分からなさに目が眩むのを必死に堪えながら、階段を降りた。上に戻っても仕方がない。同じ場所でもとりあえず下に降りなければ。
とにかく誰か、誰かいないだろうか。
今は誰でもいいから助けを求めたかった。
「だ、だれか
…
誰かいないか!?ねぇ!?」
僕の叫び声は校舎内にむなしく響いた。静かだ
…
静かすぎる
…
。まだ校内には部活生徒がいるはずだ。なのに居残り生徒の話し声も吹奏楽の演奏も運動部の掛け声も、なにも聞こえない。
しぃんと静まり返った廊下で僕の呼吸音だけが嫌なほど耳についた。
異様な空間に閉じ込められている。
そうだ、僕がさっき感じた違和感は、これだ。急に学校から全部の音が消え去ったんだ。いや、もしかしたら消えたのは、よく分からない空間に入ってしまったのは。
僕の方だ。
「なんで
…
なんでだよ
……
。どうして僕だけ
…
」
渡り廊下へのドアや教室のドアに片っ端から手をかける。他の出口を探さなければ。
……
開かない。どこも鍵はかかっていないのに。
叩いてみてもビクともしない。まるでドアの形をしたコンクリートの壁みたいだ。
夕陽の差す窓から外を見る。中庭にはひとひとり居ない。人どころか鳥も虫も生き物の気配が全くない。中庭の木の葉も夕暮れの雲もピタリと止まって微動だにしない様子はあまりにも作り物めいて不気味だ。あまり外を見ないように窓を調べた。
窓も鍵がかかっていないのに開かない。一歩引いて顔をかばいながら、硝子を破る勢いで思いっきり鞄をぶつけてみた。やっぱり、ドア同様ヒビ一つ入らなかった。
学校の二階から出られない。いや、もし出られたとしても街や家にだって誰もいない可能性がある。ここは普通の世界じゃない。
不安と孤独で胃がキリキリと締め付けられる。吐き気がこみ上げてきた。
大丈夫
…
大丈夫だ
…
。入れたのならキッカケさえあれば出られる、元の学校へ戻れるはずだ。そう自分で自分を励ます。
根拠もないし方法も分からないけれど絶対に諦めたくはない。こんな場所で発狂や飢え死にはごめんだ。
考えろ。考えるんだ。
僕は階段を降りていただけで異界に入ってしまった。それなら逆に階段を昇ってみたらどうだろうか。
「でも
…
もし違ってたら
…
ううん、とにかく確認するんだ
……
」
僕はまた階段の方へ戻った。本来なら三階へ続くはずの階段を見上げる。これであっさり元の世界へ戻れたら万々歳だ。何事も試してみなければ分からない。
僕はゆっくり深呼吸し、意を決して足を踏み出そうとした。
その時、不意にどこからか足音が聞こえた。
かすかな音だった。思わず息を潜めて耳をすますと、確かに自分以外の誰かの足音だった。
コツ
……
コツ
……
コツ
……
僕以外にも誰か人がいる。不謹慎ながら僕は少し安心してしまった。こんな意味の分からないところにたったひとりぼっちでいるより、他に誰か生きている人がいる方がずっと心強かった。僕と同じように迷い込んだ生徒だろうか
…
それとも
…
。
足音は上の階から聞こえてくる。
どんどん足音は大きくなって近づいてくる。
でも、なんだろう。なんだか妙な足音だ。
ぺた
……
ぺた
……
ぺた
……
コツ
……
コツ
……
コツ
……
ザリ
……
ザリ
……
ザリ
……
ずる
……
ずる
……
ずる
……
すごく、ものすごくたくさんの足音が同時に聞こえる。でも気配というか布切れの音や息遣いなんかが足音相応に聞こえない。
まるで、一人なのにたくさんの足で踏みならしているような
…
。
階段を見上げて、誰かいるのかいと声をかけようとした瞬間、その影が踊り場の壁に映るのを見てしまった。
足音の主は頭から足が生えていた。
頭だけじゃない。肩にも腹にも首にも肘にも胸にも腰にも背中にも無数の人間の足が生えていた。
至る所に生えたたくさんの足がそれぞれ歩くような動きをしている。
ぺた
……
ぺた
……
ぺた
……
コツ
……
コツ
……
コツ
……
ザリ
……
ザリ
……
ザリ
……
ずる
……
ずる
……
ずる
……
僕は気がついたら階段を駆け下りていた。あの化け物の影を見て叫んだのかもしれない。それもよく分からないくらい死に物狂いで階段を走った。
いくら降りても延々に二階にしかいけないと分かっていても、あいつに捕まったらなにもかも終わりだという危機感だけが僕を突き動かしていた。
あの化け物の影が頭にこびりついて離れない。駄目だ、駄目だ。いまは逃げることに集中しなければ。
それでも僕は無数の足の影がそれぞれ奇妙にうごめいている様子を頭の中で何度も繰り返し思い出してしまい、そうしてやっと『かいだんのむかでさん』の話を思い出したのだった。
いくら階段を降りても階段を降りても階段を降りても階段を降りても階段を降りても階段を降りても階段を降りても降り続けてもずっと誰もいない二階のままだ。
とうとう僕の体力が限界を迎えた。
踊り場で足がもつれて倒れこむように転んでしまう。
もう立てない。走れない。
いやだ
…
あんな化け物に捕まりたくない
…
這ってでも逃げなければ
…
。
息も整わないまま踊り場の壁に手をついて立ち上がろうとするが、すっかり腰が抜けて立てそうにない。
ぺた
……
ぺた
……
ぺた
……
コツ
……
コツ
……
コツ
……
ザリ
……
ザリ
……
ザリ
……
ずる
……
ずる
……
ずる
……
階上からたくさんの不快な足音を立てて化け物が近づいてくる。血の気が引く。冷や汗が止まらない。
近づくにつれて両足の付け根がギリギリと何かが食い込むように痛み出した。
痛い。
痛い痛い痛い。
抵抗することすら出来ず、僕は瞼を閉じて痛みに耐えるしかなかった。
このまま足をちぎられてしまうのだろうか。
……
嫌だ
………
怖い
…………
たすけて
…………
。
その時だった。
「破ァーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
突然踊り場の壁が爆発した。弾け飛んだ壁と共に化け物が階段の上の方へ吹っ飛んでいった。突然のことに呆気に取られていると、瓦礫がガラガラと音を立てて転がり、穴が空いた向こう側から聞き覚えのある大声が響いた。
「神室ォ!!!!無事かっ!!!!!!」
白い土埃を裂くようにひとりの黒い影が穴から現れる。その声の主は、僕が一番信頼している人物だった。
「と
…
くが、わ
……
ど、して
…
」
情けないほど震えた声だ。足が痛くてまともにしゃべることができない。
「大丈夫かっ!?どこか怪我してるのか!?」
肩を抱き起こされて顔を覗き込まれる。そして僕の足を見て苦々しく眉をひそめると、何かが食い込んで痛む場所へ手をかざした。その瞬間すぅっと痛みが引いた。すごい、まるで魔法みたいだ。
「実家で呪いの解き方を教わったばかりでよかった
…
」
そういえば以前、徳川の実家は寺だと聞いた気がする。魔法ではなく仏の力のようだ。僕のことを見つけてくれたし、やはり寺生まれだとこういった霊感が桁違いで強いのだろうか。
「よくも俺の親友を
……
」
徳川の手が力強く僕の肩を抱いた。すっぽりと彼の腕に包まれて僕は顔が熱くなってしまうのが分かった。いやいや、こんな時になんで嬉しくなってるんだ僕は。はしたないじゃないか。
徳川は鬼のような形相でもう片方の手の中に、青白い炎の球体を作り出した。それは音を立てて大きく渦巻いていく。徳川は怒りをぶつけるように瓦礫まみれのあの化け物へ、叫びながら球体を放った。
「破ァーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
化け物も音のない学校も、全てまばゆいひかりに包まれていく。あまりのまぶしさに視界が真っ白に塗りつぶされて、そのまま意識が遠のいていった。
※ ※ ※
気がつくと僕は階段の踊り場に倒れていた。すぐそばには心配そうな顔で僕を見つめている徳川がいる。滅多に見ることのできない弱々しい表情をしていて、なんだか珍しいものを見て得したなぁなんて僕はぼんやりと思った。
「あれ?僕
……
」
ここには音があふれている。肉体改造部のハツラツな掛け声、吹奏楽の音楽、生徒たちの笑い声が遠くから混じり合って階段に響いている。失って初めて気がついた学校の、日常の音だ。
「戻って
…
これた?」
「あぁ、立てるか?」
「
…
ごめん、無理かも
…
」
体はどこも痛くはない。でも全体的に、特に足がとてつもなく重い。多分恐怖にかられて走り続けていた疲労がドッとのしかかっているんだろう。体を起こす事すら出来なかった。徳川はそうか、と言ってごそごそと僕の肩や膝の下へ手を差し入れ、軽々と僕を持ち上げた。
「ちょっ、ちょっと!何してるんだよ!」
「む
…
ただの横抱きだが?とりあえず保健室に行くか」
いや、これどう見ても一般的に見てお姫様抱っこじゃないか。猛烈に恥ずかしい。廊下でクラスメイトとすれ違ったらどうするんだよ。
でも、どうせ文句を言って降ろしてもらっても自力では立てっこないのは分かっていた。大人しく徳川の腕に身を預けることにした。
「ごめん、今日はキミにたくさん迷惑かけちゃって
…
」
「そんな訳無いだろう、神室が無事で本当に良かった
…
」
徳川の安堵を含んだ低い声に、張り詰めていた緊張の糸がやっと全て緩んだ。
もう絶対に大丈夫だという気持ちや彼への返しきれないほどの感謝の気持ちが両目から流れ出して止まらない。己の情けなさを隠そうと、あたたかい徳川の胸に顔を押し当てた。
「
………
ありがと
…
」
やっぱり寺生まれってすごい。僕は改めてそう思った。
それから『かいだんのむかでさん』の噂はぱったり途絶えた。
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