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よるはこ
2024-02-22 20:11:39
1618文字
Public
mp100 ムサモブ
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【ムサモブ】目標の背中
モ二期10話に向けて書いたさわやかな話
規則正しくて心地いい揺れを感じて僕は目を覚ました。
視界いっぱいに白色が広がっている。なんだろうこれ、布かな。土埃と汗とひなたの匂いがする。
そうだ、これは体操服の匂いだ。僕はまた部活のランニングの途中で倒れちゃったんだ。そういえば気を失う直前にムサシ部長の肩に担がれたような気がする。たぶん、目の前の体操服はムサシ部長ので、今、僕は部室へ運ばれている途中なんだろう。
僕の体は部長の右肩にぐったりと全体重を預けていて、指一本も動かせなかった。疲れで声すら出ない。転んで擦りむいた膝がヒリヒリと痛い。もし立てたとしてもまともに歩ける気がしなかった。
仕方がない。申し訳ないけどこのままムサシ部長に運んでもらおう。
部活中に倒れるの、いったい何回目だろうな。その度に僕はこうやってムサシ部長に運ばれている。もしかして
…
僕、迷惑かけてるんじゃないかな。そうだったらどうしよう。
いっぱい頑張っているけど、『運動のできる男子』になるにはまだまだ遠いみたいだ。
体を動かさないでいると後ろ向きなことを考えてしまう。僕は嫌な気持ちから逃げるように、またぎゅっと目を閉じた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。
目を閉じているとムサシ先輩の足音が耳に響く。大きな足がゆっくりと地面を踏む音を聞いてるとなんだか落ち着いてくる。足 音を聞いてるだけなのに不思議だな。昔、父さんにおぶってもらった時のような懐かしい感じがする。背中に当てられたムサシ 先輩の手のひらと午後の日差しがぽかぽかとあたたかい。
今まで超能力でカエルや犬やトラックや自分すら浮かばせたり運んだりしてきたけど、ちゃんと手に持って運ばれると、こんなにも安心するんだな。
これから先は大事なもの全部自分の手で運べるようにもっと強くなりたい。
ぐったりしながら色々考えている内にいつの間にか学校に帰り着いたようだ。
「あら、影山くん今日も倒れたの?」
「影山先輩またすか、俺水持ってきますね」
「ムサシ先輩、毎日影山のこと運んで大変っすね〜」
「俺と一緒で運動向いてないんすよ影山」
扉をがらりと開けた音の後に脳電部のメンバーの声が次々と聞こえた。ムサシ部長は僕を床に下ろす。ひんやりとした床があついほっぺたに当たって気持ちよかった。
「俺は大変だと思ったことはないぞ犬川」
はるか頭上からムサシ部長の声が降ってきた。僕は薄く目を開けて部長を見上げる。
「今日の影山は昨日より長く俺たちについて来たんだ。毎日影山を学校まで送っている俺がよく知ってる。日々長くなっていく帰りの道を歩くたびに俺は影山がちゃんと肉体を改造できているんだと実感するんだ。悪くないぞ」
ムサシ部長越しに部室の電灯が光っているせいか、今話している言葉が嬉しいからか、部長がいつも以上にかっこよく見えた。
「それに限界まで走り抜くなんて中々できることじゃない。継続していけば影山はどこまでも走れるようになる」
「部長」
力を振りしぼって僕は声を出す。
「ありがとう
…
ございます
…
部長
…
。僕
……
まだ、がんばれま
……
す
…
」
息も絶え絶えになんとか部長にお礼を言った。でも何回言っても足りないような気がした。
「無理するなよ、影山」
待ってるからな。と部長は笑うと部室を出て行った。
僕は猿田くんから差し出された水を飲んで、すぐに部長の背中を追いかけようと立ち上がる。けれど、やっぱりそのままべしゃりと床に崩れ落ちてしまった。
「もーなにやってるのよ」
犬川くんとトメさんに支えられてイスに座りながら僕は思う。
やっぱり『運動のできる男子』はまだまだ遠い。だけど、遠いだけならいつかはたどり着ける気がする。
それに追いかける先の、目標にムサシ部長がいるということがとても、安心するような前向きな気持ちになって、疲れで体が動かなくても全然悪い気分にはならなかった。
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