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よるはこ
2024-02-22 16:40:35
6121文字
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mp100 エミモブ
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【エミモブ】花と秋風
モブサイ男女お題 「◯◯の秋」
「花見の秋」で書きました
エミ→モブ、ふんわり生き辛いエミちゃんと空気読めなくてもふんわり他人を承認してくれる茂夫の話
興味のない男子と歩く学校の帰り道ほどつまらないものはない。
鬱陶しいほど天気の良い初秋の公園は私の胸の内などお構い無しに穏やかな風が吹いている。遠くから無邪気なこどもたちの笑い声を運んできた。
私と隣を歩く学ランの男子との会話は全くなく、お互いに無表情のまま、ジャリジャリと公園の小石を踏む足音だけが辺りに響く。
いや、無表情というのは違うかも。隣の男子の顔は気の毒になる程青ざめて汗を大量に流している。緊張してるなぁ、あまり女子と帰ったこととかないのかな。
チラッと後ろを見ると、さっきまで木や花壇の物陰に隠れて私たちを指差して笑っていた友達はもう居なかった。もう飽きてゲーセンにでも行っちゃったか。
あー、つまらない。
もし、あのジャンケンで勝ってあっちの輪の中にいて、他の友達の誰かを指差して笑ってたら私は楽しかったのかなぁ。その様子を色々と想像してみたけど、まぁ、今更どうでもいっか。
今、私は負けているんだから。
ため息をつきながら、私は彼に話しかけた。
「ごめんね、一緒に帰ってくれて」
彼は細い肩をびくりと震わせた後、いや、とかあぁ、とか不明瞭な言葉を発するばかりで会話にならない。秋の初風に掻き消されてしまいそうなほど小さな声だった。
影山茂夫くん、今日の生徒会長選挙に立候補しておきながら一言もスピーチ出来ず五分間壇上で黙り込んでた根暗男子。その時、私は居た堪れない気持ちでいっぱいになって見ていられなかったけど、他の友達にはあの何を考えてるか分からない地蔵みたいな様子が相当ウケたらしい。「あいつさーちょっとからかってやろうよ!ジャンケンして負けたやつがウソ告ね!」と新しいオモチャを見つけてとても盛り上がっていた。そして私は負けた。
「影山くん、なんでそんな緊張してるの?」
「いや
……
なんか、その
………
申し訳なくて
……
」
「なにそれ、嫌味?」
「ちがっ、そうじゃなくて
…
えと
……
」
「なんか、そんなにオドオドされるとさ、こっちも疲れちゃうから。好きでもない女子と帰ったってどうでもいいでしょ」
ほんの一時間ほど前、体育館裏で告白した私を影山くんはフッた。正直驚いた。彼女のいない中学生男子なんて女子なら好きでもなくてもがっつくものだと思ってた。だけど、影山くんは私に頭を下げて丁寧に、真面目に、誠実に断った。罰ゲームの嘘の告白だとも知らずに。
「
…
どうでも、よくなんてないよ
…
。でも、僕、こういう時どうしていいかよく分からなくて
…
、初めてで
…
、ごめん」
「
…
謝らないでよ、別に傷ついてないから」
だって嘘だもん、と口からこぼれかかってしまう。
嘘でも影山くんにフラれたなんてみんなに知られたら私が恥をかいてしまう。だから、とりあえず一緒に帰って欲しいとこっそり頼み込んで、友達を誤魔化して今に至る。
もしかして、スレてない影山くんにとって、自分がフッた女子と帰るってすごく気まずいことなのかもと今更ながら気付いた。影山くん、こんな目に合うような悪い人だっけ、可哀想だな、と他人事のように思った。
そうだ、全部他人事だ。私の気持ちじゃない。
嘘をついて臆病な男子を騙している罪悪感とか。
友達に笑われている惨めな気持ちとか。
この世の何より自分自身がつまらないこととか。
周りの空気を読んで、そういう嫌な気持ちを持たないように、考えないように、見ないようにしている。自分の気持ちなんて無いフリをし続けている。だけど、所詮フリはフリだ。
ほんのりとした嫌な気持ちは埃のように少しずつ少しずつ胸の中に降り積もっていく。
俯いた影山くんの綺麗な白い頬が私を責めているようで、見ているだけでもなんだか辛い。
一週間付き合う罰ゲームだったけれど、もうネタばらししてしまおう。
早く、この場から逃げ出したかった。
「あのさ、嘘なんだよね」
そう言った瞬間、一際強い秋風が吹き荒んだ。私のつぶやきは影山くんの耳に届くことなく彼方へ吹き飛んでしまったらしい。
「あ」
呑気そうな影山くんの声がその証拠だ。影山くんは公園の花壇に歩み寄るとその場に屈んだ。
「どうしたの?あ」
よく手入れされた公園の花壇には、やわらかな糸状の緑葉の中に一輪だけ、ぽつんとピンク色の花が咲いていた。
「わぁ、まだ秋になったばかりなのに、もうコスモスが咲いてる。かわいー」
あまりの可愛さに、私も影山くんの隣に屈んでそう言った。
「へぇ、この花こすもすって言うんだ」
「えっ、知らなかったの?」
「うん。秋によく見る花だなぁって思ってた」
影山くんは花に癒されて落ち着いたのか、さっきとは打って変わってスムーズに会話ができた。ほんの少しだけ上がった彼の口角を見ていると胸の中のぼんやりとした嫌な気持ちが薄らいだ。
「あのね、コスモスって漢字でこう書くんだよ」
地面に落ちていた小枝を拾って土に『秋桜』と書く。私は花の漢字が好きだ。誰にも内緒で書いている小説にもよく登場させる。
けれど書き終わった瞬間、少し後悔した。
こうやって知識をひけらかすことはあまり好まれない。友達にも同じようなことをしてウザがられた苦い思い出がある。
小枝を捨てて恐る恐る影山くんを見た。
「そうなんだ。物知りなんだね、すごいなぁ」
こういう反応は初めてだった。裏表のない影山くんの言葉は嘘やお世辞の気配が全くなくて、ちょっと照れてしまう。
「別に
…
国語だけだよ」
「こすもすって漢字で秋の桜って書くんだ。綺麗だなぁ」
「うん、私もそう思う」
そこで私と影山くんの会話は終了した。沈黙とともに鳥のさえずりや梢の葉擦れの音が頭上に降りる。友達と違って全く話しが盛り上がらない。でもさっきほど、気まずさやつまらなさみたいな嫌な感じはしなかった。
可愛いピンクの秋桜が秋風にゆらゆらと揺れているのをしばらく二人で眺めた。
「早く咲きすぎちゃったね。一輪だけ咲いてても寂しそう
……
」
思わずポツリと呟いた。こういうセンチメンタルなことを言うのも嫌がられたなぁと思い出しながら、私は秋桜から影山くんへ視線を移して彼の反応を伺う。
影山くんはぼんやりした無表情のままだった。私の呟きに対して、怪訝な顔をしたり、変な目で見たりしなかったのは嬉しかった。でも正直、もっと気の利いたこと言えないのかなと思ったりはした。
影山くんはゆっくりとした仕草で秋桜の方を向いて、そっと指差した。
また強い風が吹き始める。今日はやけに風が吹く。揺れる梢から差し込む木漏れ日が影山くんの手を彼方此方から照らしていた。その手がなんだか妙にキラキラと輝いて見える。まるで発光してるようだ。
ふと影山くんが指差す花壇の方を見るとピンクの花の隣に、もう一輪白い秋桜が寄り添うように咲いていた。
突然現れた花に私は目を見張る。
「ねぇ影山くん!見て!もうひとつ花咲いてたよ!風に吹かれて隠れてたのが出てきたのかな?」
「
…
うん、そうかもね」
そう言いながら、影山くんは指を差した時と同じようにそっと手を下ろした。
「あ、
……
ごめんね、こんな事でテンション上げて。私おかしいよね
…
」
「えっ、そ、そんな!おかしくない!おかしくないよ!」
わたわたと首をふって焦る影山くんを見て思わず私は笑った。やっぱり影山くんは何を考えてるのか分からない感じだけど、もしかしたらただのあがり症で気を遣ったり空気呼んだりするのが苦手なだけの良い人なのかもしれない。
「ねぇ、影山くん」
私はとても浅ましいことをしている。
友達に言われたからって優しい人に嘘をついてる。その上、今からその優しさにつけ込んで甘えようとしている。
「私さ、花が咲くくらいで喜んだり、友達とゲーセン行くよりひとりで本を読んでる方が楽しかったり、テストに出るわけでもない漢字をたくさん知ってたりするの、おかしいってよく言われるんだけど」
でも、嬉しかった。
思ったことをそのまま口にしても、私のことを変な目で見なかった。
それが、本当に嬉しくて私の胸の内の一部をさらけ出して、預けたいとまで思った。いや、預けたいなんてやさしい言い方じゃなく、押し付けたいかな。
「影山くんはどう思う?」
浅ましいと分かっていても、誰かに『そんなことないよ』って言って欲しかった。
たとえ、今日話したばかりの男子でも。嘘をついた相手でも。
「全然。おかしくないと思うよ」
影山くんらしい無愛想で素っ気ない返事だ。でも、その答えに胸の中が軽くなっていく。
「そう、ありがと」
今、頬を撫でる秋風が実際に私の胸の埃を飛ばしていってくれるような気分だった。
無いフリをして散々目を背けてきた自分の気持ちはやっぱり承認されたがっている。寂しいと感じている。
変わらなくちゃ。
少し、いやかなり怖いけど、多分、このままじゃいけない気がする。
私は立ち上がって影山くんに向き直った。
さっきまで全然興味なかったはずなのに、早く帰りたかったはずなのに、今はもっと影山くんと話しをしてみたくなった。
「ねぇ影山くん、明日も一緒に帰ってよ!」
「えぇっ!?明日は部活が
…
」
「いいじゃん!迎えに行くからね」
それから私達は色んな話をしながら、ゆっくりと公園を抜けて川沿いの道を通って帰った。
影山くんの家の前で私達は別れる。
「バイバイ影山くん。あ、そうだ」
そういえば、影山くんから一度も名前を呼ばれなかった。振り返った彼にもう一つ厚かましいお願いをした。
「明日から私のこと、エミって呼んでよ」
相変わらず、私は影山くんに嘘をついたままだけど、少なくともつまらないと感じることはなくなった。
この日がいつまで続くか分からないけれど、たぶん私の手で終わらせることになるんだろうけど、いつか優しい彼を傷付けることになるんだろうけど、影山くんと帰る明日の放課後が楽しみになった。
私は変わりたい。そう思えるキッカケになった影山くんに頭の中で感謝したり謝ったりしながら、私は一人の家路を歩いた。
影山君が超能力者だと知って数週間経った。私はまた、影山君を帰り道に誘った。
あれから友達だと思ってたあの人たちからハブられたり、新しく小説を見せ合える友達ができたり、また小説を書き始めたり色々な事が変わって忙しくしているうちにすっかり秋が深まった。
あの日歩いた公園をまた二人で並んで歩く。木々が鮮やかな夕陽色に色づいて、風は冬の気配を含ませて冷たく吹いている。
「あのね、新しく小説を書いたの。また影山君に読んで欲しくて
…
」
鞄から原稿用紙の束を取り出して彼に渡した。
「わぁ、ありがとう。エミさん」
「今回は長編だから帰ってゆっくり読んでほしいな」
「うん、分かった」
受け取った私の小説を丁寧に鞄にしまう影山君に私は問い掛ける。
「影山君ってすごい超能力者なのになんで普段からあんまり使わないの?」
「あまり日常で必要ないから。あ、でも除霊のバイトで使ってるよ」
「除霊?本屋で?」
「あ、それは
…
ごめん嘘なんだ。本当は本屋じゃなくて悪霊退治したりするバイトで、本当のこと言ったら気味悪がられるかもと思って
…
」
ふぅん、影山君も見栄で嘘つくんだ。意外だけど私に対して見栄を張りたいと思ってくれたことはちょっと嬉しいと思った。どうでもいい相手に見栄なんて張らないもんね。
「別にいいよ、私はもっと酷い嘘、影山君についてたし。でもいいなぁ超能力。幽霊も退治できるんだ」
影山君が超能力で復元してくれた原稿用紙は机の引き出しの奥に大事にしまってある。
秋風に舞い上がった花弁みたいな紙屑が一つ残らず影山君の手に集まっていく光景を、私は今でも鮮明に覚えている。
絶対に、一生忘れられない思い出だ。
いつか、あんな情景を書いてみたいな。
「そうかな。僕は超能力使えるより、エミさんみたいにおもしろい話を考えて書ける方がずっとすごいと思う」
相変わらず影山君の言葉にはお世辞がない。しかも本物の超能力者が言うから説得力が全然違う。
顔に熱が集まっていく。とても生々しくて、すごく恥ずかしい。
「ね、ねぇ!ここの花壇覚えてる?」
赤くなっているであろう顔を隠すようにして、あの花壇を指差した。あの時二輪しか咲いていなかった寂しい花壇は、今やピンクや白に加えて黄、赤、橙のカラフルな秋桜が溢れんばかりに咲き誇っている。大きな大きな花束みたいだ。
「へっ!?」
素っ頓狂な声を上げて影山君の視線があちこちに泳ぐ。
「
…
もしかして覚えてない?」
図星を突かれた影山君は身体を震わせながら目を閉じて、しばらくウーンと唸り声をあげた。やがて瞼を開けて、
「
……
ごめん
…
」
ペコリとまるい頭を下げた。
「ふーん、忘れちゃったんだ。影山君サイテー」
かなりショックを受けたようで声もなく口をパクパクさせている。まるで金魚みたいだ。そんな影山君を横目に、
「じゃあ、この場所は二人の思い出の場所じゃなくて、私だけの思い出の場所になっちゃったな。ふふ」
私は笑った。影山君は私が怒っているのか笑っているのかよく分からないみたいで顔中にハテナマークが浮かべている。
「申し訳ないって思ってる?」
私が意地悪に聞くと影山君はブンブンと音を立てて頷く。
いつだったか、ゴミを捨てに焼却炉前に行った時、影山君と高嶺さんを見かけた。結構親しげに話していた。あの学校一の美人と影山君が知り合いだったことにも驚いたけど、今にも天に昇りそうなほど笑っていた影山君に心底腹が立った自分自身にも驚いた。
高嶺さんがライバルかぁ。あの子の隣に並んだら私なんか玉ねぎに見えちゃうんじゃないかな。かなりキツイ。
その後もつい目で影山君を追っていたら新聞部の米里さんや三年の先輩とも話していた。口ではモテモテじゃんかと茶化したけど内心穏やかじゃなかった。
しかも私、一回フラれてるんだよなぁ。
でも、まだ諦めたくない。影山君の一番になりたい。この気持ちだって大切にしたい。
「じゃあ、これから私が書いた小説全部読んで。一番の読者になって。この先ずっと。いい?」
私ってこんな重いこと言うような女子だったんだな。新しい発見だ。
「そんな、僕なんかでいいのかな」
影山君じゃなきゃダメだよ。なんて、いつか言える日が来るといいな。
「うん!じゃあ約束ね。今度は忘れないでよ」
いつか私の物語だけで、彼の表情を崩してみたい。心を動かしてみたい。一生忘れられない思い出の中に私の小説を刻み込みたい。
季節は正しく変わっていくけれど、私はちゃんと変われただろうか。
冷たい木枯らしの風が吹いて、影山君が小さくクシャミした。
「へへ、失敬」
色とりどりの秋桜を背景に照れ笑いする影山君があまりにも可愛くて私もつられて笑った。
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