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よるはこ
2024-02-22 16:28:43
2082文字
Public
mp100 徳神
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【徳神】傑作と失敗作の話
飴玉口移し、神樹編の飴玉とは関係ない感じです。
毎週月曜日の生徒会会議が終わった後、神室から相談があると言って呼び止められた。
俺たち以外の生徒が出払った頃、神室は学ランのポケットから一個の飴玉のような変な色をしたものを取り出した。
「なんだこれは」
「今朝、登校途中に神さまから貰ったんだ。宇宙でできた飴玉だって」
「これが宇宙?なんでまた
…
」
「46億年かけて新しいの作ったけど失敗したからあげる、って言ってた」
「見切りを付けるにはまだ早すぎると思うが」
「僕もそう思ったんだけど反論する前に放り投げられてさ、慌てて掴んでる間に居なくなってた」
「神さまは逃げ足も速いのか」
「なんか捨てちゃうのも忍びないし、とりあえず徳川に話してみようと思ったんだ」
その飴玉を窓の日に透かしてみた。透明なセロファン紙を捩じっただけの簡素な包みだ。
包まれている球体は濃い藍色をして、中にきらきらと光る小さな粒がいくつも動き混ざり合っていた。
およそ口の中に入れてもいいような色はしていなかった。
本当に食べ物なのだろうか。
「
…
こんなに綺麗なのに失敗作、なんだねぇ
…
」
神室がさみしい顔をして呟く。
また、親や兄の嫌な言葉を思い出しているようだ。神さまもよりにもよってなぜ神室に失敗作を押し付け処分したのだろう。空気が読めないにもほどがある。
「せっかく貰ったんだ。食べないのか?」
「えっ!宇宙だよ!ポケットに入れてるだけでも今日一日中落ち着かなかったのに食べるなんてとんでもないよ」
「しかし、このまま腐らせるのもどうかと思うが」
宇宙に賞味期限があるのかどうかは知らないが、今それを神室と議論しても答えは永遠に出ないような気がした。
「じゃあ、俺が毒見しよう」
「へっ?」
驚く神室の声を聞きながらセロファンのねじりを解くと中身を口に放り込んだ。
「と、徳川っ!?大丈夫!?ビックバン起きたりしない!?」
やかましく叫ぶ神室を落ち着かせようと口の中の宇宙を思いっ切り噛み砕いてみた。案外、普通の飴玉らしい脆い音がしただけで特に何も起きなかった。
砕けた飴を舌で転がして味わう。今までに感じたことのない味だ。たぶん甘いという部類に入るかもしれない。
星の棘が少しチクチクするがすぐにさらりと溶ける。
46億歳の若い星は口どけが良く、さりさりと爽やかな音がした。
「今まで食べたことない味だが、大丈夫そうな
…
気がする
…
」
「キミにしては歯切れが悪いな
…
でも良かった、爆発か何か起こるんじゃないかって冷や冷やしたよ。食べても大丈夫なら僕も食べてみたかったなぁ」
「食うか?」
「え?でも僕一個しかもらってないよ」
中々みられない神室のきょとんとした顔を両手で挟むと了承も取らないまま口づけた。動揺したらしく逃げるように引けた腰にも腕を回す。そのまま強く抱き締めた。
薄く目を開けると、顔をこれでもかと言うほど真っ赤にして目蓋をギュッっとつむる神室が居た。
あまりにも可愛くてずっとこのまま眺めていたいと思ったが、口の中の飴はどんどん溶けていく。無くなってしまう前に、飴玉の破片で一番大きい物を唇に押しつけた。素直に開く口から熱い息が漏れる。ちゃんと受け取れたことを確認して神室を解放した。
「驚いた
…
キミも映画みたいなことするんだ」
「嫌だったか?」
「
…
馬鹿」
短い悪態をついた舌はもごもごと飴を味わうことに専念した。恥ずかしさでしかめていた顔がすぐにぱっと明るくなる。
「あ、美味しい」
目尻を下げてニコニコと笑った。最近の神室は表情が豊かで次々と変わる。見ていて本当に飽きない。
殊更に笑顔は眩しく、俺の頭を揺さぶる程だ。
これが失敗作など、全く持ってありえないと俺は思った。
「宇宙としては失敗だったとしても、飴としては傑作だと思う」
「うん、そうだねぇ、僕も美味しいと思うよ」
駄目だ、いまいち伝わっていない。いや、今のは遠回しに言う自分が悪い。もっと直接的にお前は失敗作なんかじゃないと言うべきだろう。言葉にしようとするが照れが手強くて中々言い出せず、悶々と悩んでいると神室が学ランの袖を摘まんで俺の腕を引いた。
「ねぇ、徳川
…
」
「なんだ」
「えっと
…
」
笑顔から一転して耳や首や額まで赤くなっている。飴玉のようにきらきらした目を潤ませて俺を見上げていた。
「さっきの、もう一回
…
いいかな
…
」
子犬と子猫とハムスターをいっぺんに見たような気分だ。胸が押しつぶされそうなほどの多幸感とこのまま抱き潰したい衝動をなんとか押し殺して、優しく神室の頬に手を当てた。
俺の手のひらに頬をすり寄せてへにゃりと笑う神室は幸福そのものの表情をしていた。
目が眩む。
この表情を俺が作り上げたという事実にさきほど悩んでいたことが飴玉のように溶かされてしまった。神室もそうだろうか、辛いことや悩み事も俺の言葉や手で溶かせているだろうか。
手の中の表情は言葉なしにそうだと肯定していた。
神室のことを幸せにできている充足を感じつつ、46億年の時間を互いの舌で溶かし合った。
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