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よるはこ
2024-02-22 16:23:10
2411文字
Public
mp100 神徳
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【神徳】鬼の額にも桜
右徳川ワンドロワンライ「入学」、神室と徳川の入学式での出会いを捏造。
【一目惚れ同士の話】という題名で発表したものです。中身は一緒。
塩中学校入学式の日の空は春らしく爽やかに晴れ渡っていた。
桜の花びらが混じる強い風の中、僕ら入学生たちは写真撮影の為にグラウンドへ来ていた。
撮影は1クラスずつ桜の木の下で行われる。その間に待たされている生徒たちは小学校が一緒だったらしいグループとそれぞれ塊になっておしゃべりしていた。
僕はと言うと特に知り合いらしい知り合いも居なかったので一人で鉄棒にもたれかかり、適当に時間を潰していた。
暇だ。けだるい。
周りの生徒たちはこれから始まる中学校生活に希望と期待しかないらしく、眼がキラキラと輝いている。眩しくてあてられそうだ。溜息をついて早く教室に戻りたいと思っていると、はしゃいだ声に混じって小さなひそひそ声が聞こえてきた。
「ねぇ、あの男子めっちゃ顔怖くね?」
「鬼みてぇだ
…
こえー」
「本当に少し前までランドセル背負ってたやつかよ
…
」
ひそひそした声はざわざわと広がり僕の耳にまで届いた。
いつもならこういった噂の渦中には興味はなかったが、その時の僕は本当に暇だった。
のちに生徒会長になるためにこういった場で少しでも大衆の好感度を上げといても損はないだろう。そんな軽い気持ちでその鬼のようだと呼ばれている彼を探した。
「ねぇ、キミ、どうしたんだい?」
生徒たちの目線の先、一人で立っている男子生徒に声をかけた。
前髪をきっちりと七三に分け、左右に撫でつけている。一目見ただけで優等生だとわかる。
しかしその髪型の下は鬼のように眉間にしわを寄せ、威圧感がとてつもなかった。本当に12歳なのだろうか。
「
…
誰だ
…
」
「僕?僕は神室。キミの名前は?」
「
……
徳川
…
」
「徳川か、ねぇ徳川、キミなんていうか、顔色がすごいけど具合でも悪いのかい?」
「
…
いや
…
」
「なんなら先生に言ってキミのクラスの撮影を先に済ませるようにお願いするけれど」
「
……
ぅ
…
」
「ん?」
「
…
」
俯いて黙ってしまった。喋るのがあまり得意ではないのだろうか。
あいかわらず眉間にしわを寄せている。半径3メートルの空気が重い。
どうしたものかと黙り込んでしまった徳川の顔を眺めていると、前髪と額の隙間になにかピンク色のものがちらついた。
それがなんなのか考えるより先に手が動いてしまった。どうせ何を言ってもこいつは黙っているのだろう。僕は了承も得ないまま彼へ手を伸ばした。
「あっ」
僕の指が額に触れてそのピンク色の何かを摘まんだ瞬間、堅牢堅固な鬼の顔はふいに崩れた。
困った眉尻を下げ、目を丸め、薄く唇を開く。初々しい12歳の男子生徒が突如として現れた。
その変貌に僕は目を奪われてしまった。誰だろうこいつは、と馬鹿なことを思ってしまったものだ。
鬼の顔と12歳の顔、その変わりざまと、変えてしまったのは僕の指一つだという事実に妙な高揚感を覚えた。
「勝手にごめんね。ほら桜の花びらがついてたからさ」
もうすっかりうろたえている徳川の目の前にさきほど摘まんだものを見せた。
きれいな桜の花びらはすぐに風に吹かれどこかへ飛んで行ってしまった。
「もしかしてキミ、緊張してるだけ?」
困ったようにあちこち向いていた視線が僕を見る。人見知りなのだろうか。
「周りみんな、知り合い同士で話してて、一人だと思ったら、顔が少し強張ってしまって
…
」
あれで少しなのか。
「よかったらさ、一緒に話さない?僕も一人で暇だったんだ」
「俺、あまり楽しい話はできないんだが
…
」
「いいよ、同級生なんだからそんなに気負わないで、楽に話そう」
それから少しだけだが徳川と話をした。
たしかに徳川は口数の多い方ではなかった。けれど会話の返答は決して鈍くはなく、12歳にしてはとても聡明でほんの短い間に徳川の頭の良さがうかがえた。
「神室のおかげで緊張がたいぶ解れた。
……
ありがとう」
そう言ってほころんだ徳川の顔に僕はすっかり恋に落ちてしまった。
二年前の入学式、それが僕と徳川との出会いだった。
「あれからもう二年経つんだな」
そう言ったのは、生徒会に入って人見知りを克服し、最近僕と付き合い始めた恋人の徳川だ。
目線の先には今年入学してきた新入生たちが恒例の写真撮影をしているところだった。
「そうだねぇ、時がたつのは早いよ。僕たちもう受験生だよ」
「
……
神室は、その
…
」
「ん?どうしたの徳川?」
久しぶりに徳川の歯切れが悪い。こういう時の徳川は照れている時でからかい時だ。おもわず口角が上がる。
「俺のことをいつ、好きになったんだ?」
視線はあいかわらず外を向いたままでこっちを見てくれない。けれど耳の上の部分がほんのりピンク色に染まっているのを僕は見逃さなかった。可愛いなぁと思いながらも少しいじわるすることにした。
「人に聞く前にまず自分からだよ、徳川」
「
…
俺は、その、うぅ」
「ほら、ちゃんと僕を見て言って?」
「
…
一目惚れだった」
「うんうん、嬉しいなぁ、それで?もっと詳しく」
「うっ
…
顔が怖いせいで遠巻きにされていた俺に話しかけてくれて、前髪のゴミも取ってくれて、正直ドキドキして
…
話するのも楽しくて
…
それで」
「うふふふふ」
「
…
もう満足か」
「うん、はぁ~久しぶりに照れてる顔の徳川が見れて満足だよ。可愛いな~」
「
…
それでお前は」
「あれ、僕も言うなんて言ったっけ?」
「なっ!」
「また次の機会にね」
「神室!お前という奴は!」
「楽しみはとっといたほうがいいでしょ、ね」
僕は徳川の頬を両手で包む。まだぎこちなく目を閉じる徳川の綺麗な顔をじっと見た。
もし、僕も同じだよと教えたら徳川はどんな顔をするだろう。想像もできない。
きっといままで見せたこともない新しい表情を見せてくれるに違いない。どんな顔の徳川でも惚れてしまう自信があった。
「好きだよ徳川」
そう言ってあの日あの時、桜の花びらがついていた額に口づけた。
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