ぐるさん
2025-01-05 00:06:51
2094文字
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1.4ふみりかワンドロ 【勘違い】

ふみりかワンドロライ(@ fmrk_1draw)さんの2025.1.4お題をお借りしました。

「ん?」

 ある日、ハウスの廊下を歩いていると、理解の部屋の前で見慣れない段ボール箱を見つけた。

 近づいてみると、その箱はガムテープ等で封がされている様子はなく、上から覗けば簡単に箱の中身が確認できた。

「これ、理解の部屋の……

 箱の中身は理解の部屋に置いてある本やインテリア類で、それらが段ボールの中にきっちりと詰まっている。

 まるで、この箱を動かしたり運んだりしても、中の物がビクともしないような入れ方に、嫌な予感が走る。

 慌てて目の前のドアを開けると、随分と荷物の減った、ガランとした部屋が目に飛び込む。

……っ!」

 書斎机や本棚、ベットといった大きな家具はまだ残っているものの、荷物の大部分が消えた、まるで今からこの部屋を、家を出ていく準備をしている様子が信じられず、思わずその場で立ち尽くす。

「こんなの聞いてないよ理解……

 零れた言葉は、赤いカーペットが消えたグレーの床に吸い込まれる。

 色々な事があったけど、何とか思いを告げて、理解も同じ気持ちで、これからだと思ってたのに。

 本当は、黙ってここから居なくなりたい位嫌だったのだろうか。でも、何も言わないのはどうなんだよ理解。嘘でも一度了承した事なら、せめて何か一言くれよ。

 鬱々と考え込んでいると、不意に後ろからドアを開く音が聞こえた。

「理解!」

 急いで振り返ると、部屋に戻ってきた理解が俺に声をかけようとしている所だった。

「ふみやさん、一体こんな所で何を……
「理解」
「ふみやさん?」
「答えろ理解」
「えっ」
「どうして何も言ってくれなかった」
「ん?一体何の話で……
「どうして黙って出ていこうとしてるんだよ理解!!」

 とぼけたフリをする理解を強引に壁に押し付け両目を見つめるが、理解はそれでも未だにポカンとした表情を浮かべている。

 こんなにこちらが感情を顕にしているのに、反応の薄い理解の様子に苛立ちを通り越して悲しみを感じ始める。

 そうか、もう理解にとって俺はその位の人間だったのか。二十五年分の愛、受け止める気満々だったのにな、俺。

「ふみやさん」

 全然まだまだ足りないし、何だったらこっちの十九年分もぶつける予定だったんだけどな……

「ふみやさん!」

 気づけば、いつもの間にか項垂れてしまった俺の顔を、理解が両手で包んでいつもの目線に戻していた。

「理解……

「ふみやさん。あのね、一体何があったのかは分からないですけどね、理解はどこにも行きません」
「え……?」
「この家の皆さんを、ふみやさんを、黙って置いていくなんて、私はしません」

 ハッキリと告げる理解の瞳はあまりにも真っ直ぐで、綺麗で、そこには少しの嘘も感じられなかった。

「でも、それなら何で……
「ふみやさん?」
「何でこの部屋、こんなに物が無いんだ?」

 理解がこの家を出る訳ではない事は分かった。でも、それなら余計に今の部屋の状況は異質だった。

「あぁ、それは大掃除の真っ最中だからですね」
「え、大掃除?」
「えぇ」

 あっさりと答える理解をジッと見つめるが、目を逸らすどころかこちらを見つめ返すあたり、多分本当らしい。

「せっかくなので去年よりも念入りにやろうと思いまして、とりあえず本棚や机の清掃がしやすいように箱に入れて廊下に置かせて頂いてます」
「えぇ……その割には中身が動かない位ギチギチに詰まってたけど……?」
「だって適当に入れたら秩序が乱れるでしょう」
「ちなみにカーペットとかカーテンが無いのは……?」
「大掃除と聞いて駆けつけた依央利さんに依頼しました」 
「何で」
……依央利さんの手腕を疑うつもりは全く無いのですが、どうしても部屋の内装の配置は自分でやりたかったといか、やってもらっても結局自分で直しそうな気がしたので……でも、来て下さったのに何も無いのも何かアレで……
「あーね……

 理解の話を聞くごとに、部屋の前で段ボールを見つけてからの事が全て己の勘違いだった事が分かり、へなへなと体から力が抜けていく。

「ちょっ、ふみやさん!?」

 思わず座り込んだ俺に、理解が心配そうにしゃがんで視線を合わせる。

「あぁいや、大丈夫……安心して力抜けただけ……
「でも」
「お前が黙って居なくなるんじゃないかと思って、焦っちゃった」
……もう、私はそんなに薄情な人間じゃありません」
「疑ってごめん。理解」

 目の前の身体を引き寄せぎゅっと抱き締めると、同じように抱き締め返される。

「いいえ。こちらこそ、紛らわしい真似をしてしまってすみませんでした」

 伝わる温もりにじわりと涙が滲む。勘違いだったとは言え、理解が居なくなるかもしれないという事に、自分でも思ったより背筋が冷えていたようだ。

「理解」
「ん?何でしょう?」
「ずっと、傍に居てくれよ」
「えぇ、勿論です」

 遮るものが外された窓から差し込む日差しは、俺たち二人をいつまでも見守っていた。