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ガラシャ
2025-01-04 22:53:59
4873文字
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libido
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堕恋 ⑥
ようやく、クリスマスです…!
――
12月24日、その日和也は、日本橋の百貨店で篠宮冴子のお供をしていた。街は12月に入りすっかりクリスマスモードになっていたが、イブにも関わらず今日が本番と言わんばかりに光り輝いている。華やかなクリスマスソングを聞くと、ふと幼い頃、母と過ごした幸せなクリスマスを思い出し、気持ちが緩んでしまう。
「ごめんなさいね、和也くん。付き合わせてしまって」
「かまいませんよ、俺も暇してたし。それに、夜はおじいさんと会食もあるし」
今日はもともと、祖父との会食の日なのだ。冴子も歌舞伎を見に久しぶりに東京にでてくることになり、また異母兄に都合がつくとのことで集まることになったのだ。 身内ばかりの忘年会といったところか。
反物をいくつか購入した冴子は久しぶりということもあり、華やいだ表情をみせる。
――
昼時になり、ランチを食べにエレベーターに乗ろうとしていたときだった。
「和也」
「え?」
こんな場所で聞くはずもない声に、和也は振り返る。
――
そこにいたのは高見玲二だった。
華やかな百貨店のイルミネーションにも負けない男だ。 黒のハイネックと黒いジャケットでまとめられたコーデは人目を引いた。
そんな目立つ男が近寄ってくる。
「よお、奇遇だな」
和也に向ける顔はすっきりとした中に、どこか甘さを漂わせている。周りの客たちも吸い寄せられるように、玲二を見上げている。
「あら、高見さま。こんにちは」
和也の背から、おっとりとした声で冴子はいう。
「お買い物ですか?」
「少し用事があって」
そういって玲二は和也を見やる。確かに今日、スケジュールには冴子との買い物と夜の会食を打ちこんであったが、場所までは明記していなかったはず
…
。偶然とはいえ、何とも奇妙だ。
和也が首をかしげていると、冴子はにこやかに玲二に話しかける。
「高見さま、もしよろしかったら昼食をご一緒にいかがかしら」
「ぜひご一緒に」
百貨店からほど近いホテルで今日はランチ予定だった。
冴子の行きつけであるグランドホテルの最上階にある天ぷらの店まで3人で連れ立ってあるく。既に予約してあったが、一人増えたことにも快く対応をしてくれ、個室に通されたのだった。
玲二の口数は少ないものの、あくまで穏やかだ。和也と冴子の会話にも、口挟むことはないが、じっと聞き耳を立てているようだった。
「明日帰ってからは、年末年始の準備をしていかないとね」
「そうですね。おでんの仕込みもしていかないと」
「そうね。大鍋ださないとね。あと、餅つきの準備も。
――
そういえば、高見様、おでんはお好き?」
「きらいではないです」
「そうなのね。年末はね、うちもおでんを提供するのよ。普段は出さないんだけどね。元は従業員の賄いだったのだけど、いつしか常連さんにせがまれてね。結構好評なのよ、ね、和也君」
「もしかして、和也が作るんですか?」
「ええそうよ。和也君が毎年、作ってくれるの」
「それは愉しみですね。こいつの作る料理はうまいから」
和也との関係を示唆するような言葉も飛び出したが、冴子はあまり気にしない様子でおっとりと笑っていた。
「あ、そろそろ行かないといけないわ」
「何かご予定が?」
「冴子さんはこれからご友人と歌舞伎を見に行くんだよ」
和也が告げると、玲二が頷いた。
「よければ、お送りしますよ。ちょうど車できているので」
「そんな申し訳ないわ」
「遠慮なく。時間は余っているので。車を取ってきますので、正面玄関でお待ちを」
そういって、背を向けた玲二はエレベーターに先にのる。
「まあ、いいのかしら?」
普段は無愛想な男の思わぬ行動に、冴子は和也を見上げる。
「多分
…
」
プライベートな顔を知っている和也からしても、今日の玲二は機嫌が良い上に、サービスもよい。
冴子と連れ立ち玄関に向かうと、和也にとっては見なれた愛車がホテルのロータリーに滑り込んできた。
「どうぞ」
玲二は運転席から出て、後部座席の扉を開けて冴子を誘導する。
「ありがとう」
こういったスマートな仕草は、流石は高級クラブのホストと言いうべきか。自分の個性を失わないまま、相手に合わせている。
和也も続いて後部座席に座ろうとすると、その前にバタンと玲二が扉を閉める。
「お前は、助手席だろ」
「
……
」
玲二の愛車に同乗するとき、確かに和也はいつも助手席だ。でも今日は冴子もいるし
…
そう思っているのは和也だけで、助手席の扉を玲二は空けた。
和也が渋々乗り込むと、扉が閉められる。
玲二も運転席に乗り込むと、エンジンがかかり、オーディオも起動する。と同時に、車を発進させるが、ふと耳に届いた曲に和也は驚く。
「この曲」
「ダウンロードしといた」
「そっか
…
」
和也の好きな海外アーティストの曲だった。玲二とふたりで出かけた際、街中でふと流れてきた曲に足をとめてしまい、訝んだ玲二に説明した覚えがある。
冴子のことが気になり、さりげなく振り向くが、冴子は笑顔を見せる。
「和也君、好きよね、この曲。
――
そういえば、来日公演あるんでしょ?見に行かないの?」
高校生の時からよく聞いていたこともあり、冴子もしっかりと覚えている。
「まあ、日が合えば
…
」
実はすでにSNSで情報を掴んでいる。行きたい気持ちはあるが、その頃には新生活を送っていることもあり躊躇っている。
「なら一緒に行こうぜ。チケット取ってやるから」
「いや、別にそこまでは」
「それがいいわ。高見様、是非ともお願いします。和也君ったら、私たちに遠慮して自分のことを後回しにしてしまうのよ。本当、優しい子だから
…
」
『優しい子』
…
なぜか、大人たちの和也への評価はこれらしい。和也自身は自分が優しいとは全く思ってないのだが
…
。
「確かに。和也は『お優しい』ですからね」
玲二は意味ありげに和也をみやる。
和也はむっとする。玲二の『おやさしい』は和也を揶揄しているのだ。思わず睨みつけると、玲二はふっと笑う。
クリスマスイブながらも意外と道は混んでいない。10分ほどで目的地に着いた。
「じゃあ、和也君、夜にね。高見様、ありがとうございました」
「こちらこそ、ランチごちそうさまでした」
歌舞伎座のロータリ
―
で冴子は降りる。
「さ、俺たちはホテルいくか」
「え?」
「まだ、時間はあるんだろ?ホテルデートしようぜ。それに、デザートも食べねえとな」
玲二は再びハンドルを握り、車を走らせる。玲二の車で流れていく街の様子を眺めていると、まもなく都内でも屈指の高級ホテルについた。そこのスイートルームに通され、まもなくアフタヌーンティーセットが運ばれてくる。
玲二はこのホテルの泊まるらしく、シャンパンを注文していた。
運ばれてきたものは軽食が多かった。和也も好きなチーズケーキが積まれていることに気付き、早速皿に取り分ける。
「今日は身内と忘年会だろ?」
冴子におごってもらったランチは上品だが、食べたりなかったようだ。玲二はサンドイッチやローストビーフなど、腹を満たすものを食べている。
「そう、おじいさん主催で」
そうかと玲二は言った後、すっと和也に視線を合わせてきた。
「そろそろ、お前のじいさんに会わせてくれてもいいだろ?」
「えっと、それは
…
」
孫のセフレを紹介されて喜ぶ祖父などいるのだろうか。何人かの愛人と未だに関係があるらしいので、肉体関係は否定しないかもしれないが、孫の相手が同姓とは思いもしないだろう。
いや、そもそも玲二の目的はそちらではないか。玲二と和也のビジネスパートナーにと異母兄である明人は望んでいたし、そこに祖父の意志が反映されていたとしたら。
――
将を射んと欲すればまず馬を射よ
…
というではないか。
「つまんねえこと考えてじゃねえぞ、和也。ビジネスパートナーはあくまでおまけだ」
「なら、別におじいさんに言わなくても
…
」
「なんで?森島家に、俺はお前のパートナーだって知らせた方がいいだろ?」
高見家ではなぜか和也は受け入れられているが、和也の方はそうもいかない
…
。いうならば、森島家本家にとって和也は完全に部外者であり、歓迎されてなのだ。わざわざ、玲二の不名誉になることは告げなくてもいいのではないか?
これから華々しい人生を送るだろう美貌の男に対し、和也は思った。
「和也。俺たちの関係をなんだと思ってるんだ?」
「
……
」
――
セフレだろ?
と和也が返すと、玲二は怒り狂いそうだ。プライベートな部分をしり、少しは玲二の扱いになれがとはいえ、本気で気分を損ねた玲二を宥めるのは難儀だった。
肉体関係がある前提でこの関係は続いているのに、他に言いようがないではないか。
玲二は和也を凝視している。答えを聞きたいと、その目は語っていた。
「
――
それにいつになったら、あの家に越してくるんだ」
「だからそれは、おいおい」
…
正直、息が詰まる。玲二はそう、高倉別荘でであった日から、そんな目で和也をじっと見つめている。
夜のベッドの中でも、和也の痴態を見逃すまいと、瞬きもせず
…
。
黒曜石のような双眸は少しでも和也に変化があれば、見とがめる。それが玲二の執着の深さを表すようで、和也はいつも気が抜けなかった。
和也は気を逸らすように、フォークを口に持っていく。
「あ、このバスチーおいしい」
和也はチーズケーキが好きだった。母との思い出にあるのはスフレチーズケーキだったが、ベイクドも好きだしレアチーズケーキも好きだ。
「お前も食べるか?」
和也がフォークを差し出すと、玲二はあきれ顔になる。
「全くお前は
…
。
――
ちっ、先に惚れた方が負けってこういうことかよ」
玲二はちっと舌打ちをし、ぼそぼそとつぶやいたかと思うと、じっと和也を見つめ差しだされたフォークをパクりと食べる。甘いものは苦手な玲二らしくしかめっ面をし、手に持ったシャンパンを飲み干した。
そして再びシャンパングラスに酒を注ぎ入れる。
「そういえば、年末年始はうちで泊まるんだろ?」
「ああ。仕事納めしたら真っ先にな」
「気を付けろよ。雪の予報出てるから」
「ちゃんとスタッドレスタイヤにしてあるから、心配すんな」
シャンパンが入ったグラスを持ち、玲二は和也の隣に座る。何とか話題はそらせられたようだ。先ほどまでの真摯な眦ではなかった。
「ほら、お前も飲めよ」
「ん
…
」
しゅわしゅわと口の中で弾ける。和也がその甘さに誘われるまま飲み干すと、再び口づけられる。飲み干すと、玲二の舌が入り込んできた。
いよいよ深いキスになり、玲二は横抱きに抱き上げられる。いくら体格差と体重差があるとはいえ、こうも軽々抱き上げられるのは癪に障る。
玲二の肩越しにテーブルを見ると、アフタヌーンティーセットがそのままだ。
「デザート!デザートは?俺まだバスチーがっ」
バスクチーズケーキの他にも、チーズケーキもあるのに。
折角注文したのに、また半分は残っている。
「ああ?俺よりバスチーかよっ。仕方ねえな」
玲二が渋々といった声を出したので、和也はほっと溜息をつく。このまま迫られて、いいようにされてしまったら、夜に響く。
だが玲二の足は止まらなかった。
「ま、二人で運動したらまた腹がすくだろうから、その時食べようぜ」
「んんん
…
!!」
素直じゃないくせに余計なおしゃべりをする唇をふさがれて、寝室にいざなわれる。
ベッドに横たえられて、上から玲二が伸し掛かってくる。
「久しぶりだな、こうしてお前を見るのも」
――
12月に入ってからほぼ会うことがなかった。和也も玲二もスケジュールが本当に会わず、3週間前高見家に訪れたのが最後の逢瀬だったのだ。
白い柔らかなニットを腕から抜かれ、インナーシャツも脱がされてしまうと和也は肌寒さに小さく震えた。だが、すぐに覆いかぶさってきた熱さが心地よかった。
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