めやぬら
2025-01-04 17:44:01
4254文字
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一彩おたおめ話

燐一(のつもり)
筆者の悪い癖が全部出た。例の如くネーミングセンスはないので、題名思いついて妥協したらPixivにあげます。

 それは、誕生日パーティーの後。
 撮影もお祝いも全て終わって、あとは部屋に戻ってプレゼントを開封するだけといったとき。両手に抱えられるだけの荷物を抱えて寮の共有ルームを通り過ぎようとしたとき、視界の端に赤の長身が見えた。水でも飲みに来たのかキッチンの方から出てきた兄の後姿に一彩は顔を輝かせて、廊下一体に響き渡るほどの声で呼びかけた。

「あっ、兄さん!」
「おぁっ!……弟くんかよ、デケェ声出すな」
「すまない、いま手が塞がっていて呼びかけるしかなかったんだよ」
「あーね……たしかにスッゲェ荷物だなァ、それ全部誕プレ?」
「うむ!沢山お祝いしてもらったんだ!」
「ふーん」
 
 燐音は興味なさげに相槌を打つが、まだ立ち去ろうとしない。それをいいことに、一彩は会話を続ける。

「今年は大きなものを幾つかもらってね。だいぶ量が多いように見えるよね」
「重くねぇの?」
「実はそれほど。聞いたところ、大きいのはぬいぐるみとかだからかな」

 燐音の視線の先にある大小さまざまな紙袋を、がさがさと揺らしてみせる。
 学校の友達も仕事の関係の人も、まだ正月が明けてすぐというのに暇を惜しんでお祝いをしに来てくれた。ユニットメンバーなんて朝からずっと一緒にいたみたいなものだ。プレゼントと共にたくさん写真も撮り、昨年に引き続いて思い出に残る時が過ごせた。

「今日からお休みの人も多いから、実家などに帰る前に顔を出してくれた知り合いもいてね。会えなかった人もメッセージをくれたり……とても嬉しかったよ」
「そりゃ良かったなァ……んで?おにーちゃんになんか用事?」
「え?」
「呼び止めたのはお前だろ」

 そういえば、とはたと気づく。浮かれた気分のまま何も考えずに声をかけてしまったが、用事などはなくただ無意味に兄を足止めしてしまった。

「あっ、ごめんなさい用はなくて……その、浮かれていて、思わず声をかけてしまった」

 笑顔から一転、きょとんとした後にあっ!と少し驚いたような顔をして慌てて弁明を始めた弟に、燐音もほんの少しだけ目を丸くして、それからからかうように笑った。

「キャハハ!ちっせぇガキかよ」
「う……バカにしないでほしいよ」
「バカになんてしてねェよ。ほら、おまえの部屋まで一緒に行ってやるから」
「え、なんで?」
「だってお前んとこの部屋、今誰もいねぇんだろ。その両手でどうやって部屋のドア開けんだよ」

 いくぞ、と迷いなく歩き始めた兄に一彩は驚いた。
 年明けのライブや催しものがあり年末年始も仕事があるため、これから正月休みという人も少なくはない。同室のひなたは今日の夜から師父という人のところでお手伝いをすると聞いていた。帰ってくるのは学校が始まる前日で、この年末はその前に冬休みの宿題をやらなきゃと躍起になって机に向かっているひなたの隣で一緒に課題をしていた年末であった。
 そしてニキはというと、明後日ごろまでどこかに泊まりがけで留守だ。食材探しの旅らしいが、詳しいことは聞けていない。ただ今日の夜行バスに乗ることは聞いていたので、今時分、もしかしたらもうすでに部屋には誰もいないかもしれなかった。

「おい、はやくしろー」

 廊下の曲がり角で律儀に待つ燐音に呼びかけられて我にかえり、一彩は慌てて駆け出した。

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 燐音に部屋の鍵を開けてもらい、ドアを支えてもらいながら入った部屋は真っ暗で、同室の二人がいないことは明らかだった。
 扉から近いところに荷物を置き部屋の電気をつけると、いつも通りの柔らかな照明がついて、余計に二人の不在を際立たせる。
 ひなたもニキも、ずっと出発を明日にするか悩んでいた。『誕生日なのに、帰ってきて誰もいなかったら寂しいでしょ』と心配してくれていたのだが、ニキたちは昼間にお祝いしてくれると言ってくれていたし、構わないから夜行ってくれていいと言ったのは一彩だ。
 寂しくないだろうと思っていたが、誰もいない広い部屋に帰ってくるのは、やっぱり少し寂しかったかもしれない。

「お、なんだこれ。デケェぬいぐるみ」
「あっ、勝手に開けないで」
「包装は開けてねェよ、抜き身で紙袋にぎゅうぎゅうにされてたから助けてやったンだろ」

 燐音は当然とばかりに部屋に入り、勝手に一彩のプレゼントを触っている。その中から救出したと自称して、ホレ、と両手サイズのくまのぬいぐるみを渡された。これはその場で包装などないままもらったもので、ほかのプレゼントの紙袋に入れていた。すこしキツイかと思ったが部屋に帰るだけなのでいいかと多少強引に詰めていたので、毛足に跡がついている。
 それを丁寧に撫で付けながら、一彩はしゃがみこんで中身を覗く燐音を眺める。

「そんなに気になる?」
「気になる気になる、弟くんがどんなプレゼント貰ってんのかなーって」
「そうだね……まだ開けていないのもあるけど、ぬいぐるみやハンカチとか……このぬいぐるみは影片先輩からなんだ。ほんとうは可愛らしい袋に入っていたんだけど、事故で破けてしまって」
「へェ、みーたんの?じゃ手作りか」
「みたいだよ。目の色がね、僕の目の色と同じなんだって」
……おーマジだ」

 一彩の腕の中で大人しく抱かれるくまを覗き込んだ燐音は、最初そのクマの目の色は黒だと思っていた。だが部屋の光がちゃんと入ると、目の奥は黒だが虹彩に当たるであろう部分は深めの青色で、ふわふわの毛足で見えなかったが外側の縁取り部分は澄んだ水色。毛の色も少し赤みがかった茶色で、正真正銘一彩のために作られたのだろうと分かる。
 
「流石器用だな、足の裏に刺繍まであるわ」
「えっ、そうなの……本当だ、これは僕の名前か」
「うわっ、お前もっと丁寧に持てよ」

 足裏の刺繍を見るために燐音が指さした片足を掴み、問答無用でくまを逆さ吊りにした一彩。燐音はそれを嗜めて抱き直させ、ため息をついた。

「せっかく作ってもらったモンだろ」
「う、うむ……どうもこういうものの扱いは難しいな」
「藍ちゃんとかに教えてもらえば?」
「教えてもらったけど、藍良の持ち方だと持ち運んだりするのに不向きなんだ。でもそうだね、先輩の手作りなのだから大切にしなければね」

 そう言って自身と同じようなくるくるふわふわのくまの頭を撫で、自分の机の隅に座らせた。机の上には人から貰った雑貨が並べられており、段々とスペースがなくなってきている。もうこの際だ、今日もらったもの全部開けて、細々した置き物などは一緒に置いてしまおう。そして写真を撮って大切に見返し、贈ってくれた人に見せるのだ。
 大人しく鎮座させたくまの周りのスペースを空け、他のものも開封しようと部屋の広いところへプレゼントを移動させていた燐音の元へ舞い戻る。燐音はどうやらプレゼントのゆく末を全部見届けるつもりらしく、座り込んで紙袋の店名を一々確認していた。

「はァ〜、なかなかのもん貰ってんじゃん」
「そうなの?あ、それは桃李くんからのものだ。これは確か天祥院先輩から」
「さっすが〜セレブ様は違うねェ」
「これは守沢先輩からだよ!」
「なんこれ……DVD?」
「特撮のおすすめなんだって。この間の鑑賞会で面白かったシリーズのものをくれたんだ!」
「お前特撮とか好きだっけ」
「好きというか……色々勉強になるかな」
「へ〜」

 これは?あれは?と兄が次から次へと差し出してくるプレゼントを、一つ一つ丁寧に出しながら説明する。聞いてくれるのが嬉しくてつい話が止まらず、最後これ、と兄から渡された小さな化粧箱を見て驚いて口が止まり、ようやく自分が話しっぱなしになっていたのに気づいた。
 それは、今日一日、一回も見たことがないものだった。

「これ、は……
「これは?誰から?」

 誰からと言われても、そもそもこんなプレゼントを渡された記憶がない。失礼になるから渡し主と贈り物は覚えるようにしていたのに、まさか抜けがあるとも思えない。困惑したまま箱をじっと眺めてみても、差出人の名前も書いておらず、メッセージカードさえ添えられていない。

「えっと」
「まさか忘れちった?」
「忘れたというか……そもそもこんなプレゼント、渡された覚えがない……ねぇ兄さん、これどこに」

 あったの、と言おうとして兄の顔を見たら、心底楽しそうにニヤついていた。からかって人の反応を見て楽しむときの顔だ。
 そういえば今日、まだこの人からは貰ってない。

……これっ、もしかして兄さんから?」

 もはや確定している贈り主を訊ねると、燐音は堪えきれないかのように笑い出す。

「ふっ、はは、あははは!」
「なっ、なぜ笑うんだ!」
「はははっ、だってェ、弟くんの反応が絵に描いたみたいな典型でさァ……ンな驚いた顔しなくてもいいだろ」

 肩を揺らして笑い、その勢いのままぐしゃぐしゃと髪をかきまわされる。

「わっ、ちょっ」
「お兄ちゃんからもプレゼントあること、忘れんなよな」
……ウム」
「ま、プレゼント被ってなかったみてェで良かったわ」
「まさかその確認のために部屋へ?」
「いや……

 一彩の頭に手を置いたまま、違うともそうだとも言わずに口籠る燐音を見上げる。だがもごもごと煮え切らない態度は意外にすぐ終わり、今度は優しく頭を撫でられた。

……今日、部屋誰もいないってニキから聞いてさ」
「うん?ウム」
「プレゼント渡すタイミングなかなか無かったし、丁度いいかって……
「そうなんだね」

 誕生日は忙しい。祝われる方も結構多忙になる。ちゃんと祝える時間は前もって主役と話をしてスケジュールを押さえておくか、あとはプライベートの時間くらいしかない。そしてその中でも二人きりになれるなんて、ほとんどないのだ。だから燐音がニキから部屋の不在状況を聞いた時、ここしかないと思った。素直でない自覚がある燐音は、人前で盛大に素直に祝うことなどきっと出来ない。なら、二人きりになればいい。

「一彩」

 一彩は期待に目を輝かせて、燐音を見つめる。だってこのあとはきっと、お約束の言葉を言ってもらえるはずなのだから。その眼差しを眩しく照れ臭く思いながら、燐音はそれ以上の愛しさと祝福の気持ちを込めて、お決まりの言葉を口にした。

「誕生日おめでとう」
「っ、うん!ありがとう!」