ミリメートル
2025-01-03 00:26:29
1523文字
Public スケ荼
 

スケ荼SS🦴

スケプティックさんがムニャムニャ言っています

 荼毘という男が、その身を灼きながら力を振るうことに躊躇いがないものだから、きっと自分の命や健康状態に頓着がないのだと思った。
 何かスケールの大きいことを企てているのは予感している。きっと、この国を滅茶苦茶にして、混沌の渦に陥れてくれるのであろう。
 そんな計画も、強すぎる炎も、この青年の身の丈に合ったものなのだろうか。

 計画は何も知らされていないわりに順調に進んでいると思う。貸し出していたビデオカメラや三脚が手元に返ってきたとき、荼毘は大層ご機嫌な様子だった。
 似合わないハミングなんかも歌っていたが、薄着から覗いた身体はボロボロで、その痛ましい傷に眉根を寄せていたら、何か勘違いした荼毘は「見苦しいものを見せてごめんなぁ」とハミングをやめてしまった。
 そんなつもりはないのだが、ここで弁明をすると言い訳やおべっかと捉えられてしまうのだろうか。
 いいか。別に。俺は誤解を誤解のまま放置することが耐え難い性質なんだ。荼毘の、きっと感情的なことを考えているくせにヘラヘラしている態度など、知ったことではない。
「貴様みたいな、己を顧みない働き方をするやつが一番厄介なんだ。ワーカホリックがぶっ倒れたとき、そいつのリスケをするのはぶっ倒れてないやつらなんだぞ」
 今度は荼毘の眉間がぎゅっとする番だった。「分かんねぇ言葉で話すんじゃねーよ」とのことで、まったくチンピラを相手に話すのは骨が折れる。
「今、貴様に代わりはいないのだから、土壇場でぶっ倒れないよう、ご自愛しろという話がしたいんだ」
 チンピラにも分かるよう噛み砕いたつもりだったのに、荼毘は「ごじあい」などと復唱しながら、鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をしていた。
 その表情がなんだかあどけなくて、やはり若いんだろうな。きっと真っ当な育ち方をしていれば、どこにでもいる、口も態度も悪いけれど妙に懐っこいところがある、ふつうの若者だったんだろう。
 こんなたらればに意味などなく、ヴィランになるような人生を歩んでいたから、こうして俺なんかに説教を受けているのだ。
……お前、なんなんだよ。イライラしていたかと思えば、急に機嫌良くなって。叱ったらすっきりしたか?」
「私がモラハラ上司みたいなことを言うな」
「モラハラ上司ではない、は無理があるだろ」
「私は正しいことしか言わない。不服ならリ・デストロ……死柄木弔にでも告げ口すればいい。それもまたご自愛、自分の身の安全を守る術なんだぞ」
……結局何が言いてぇのかよく分からなかったが、俺がイカれたら困るってことか?」
「概ねその通りだな」
「ふぅん。じゃあ明日のVIOLETの訓練、休暇を頂くから氷野郎に言っておいてくれ」
「大馬鹿者、私は貴様のマネージャーではないんだぞ、何でもかんでも任せやがって……
「さっきの、俺の代わりがないってやつ、結構ときめいたぜ。スケプティック。ハハ。じゃあな、ああこういうときは、お先に失礼しますって言うんだっけ?」
「ハ?」
 そういうことにやり甲斐を感じるタイプだったとは。見様見真似でも挨拶が出来るのか。私が戸惑っている内に、荼毘はあのやけにひらひらしたコートを翻して立ち去ってしまった。
 ハミングが聴こえる。あいつの機嫌の方が、よっぽど掴みにくいのではないだろうか。

 返ってきたビデオカメラをやっと確認したら、バッテリーの充電が切れかけている状態だったので、明日はあれを呼び出して、「人から借りたものを大事に」というつまらない道徳の授業を開いてやろうと思う。
 チンピラ、特に、社会経験がまるでなさそうで態度が最悪な荼毘を相手にするのは、本当に骨が折れることだ。


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