ミイ
2025-01-01 20:04:23
2887文字
Public 静なつ
 

年末年始 この先もずっと。

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
2024年の書き納め、2025年の書き初めになりました。
・静なつです。
・静留さんの誕生日に書いたお話(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=23626822
の続きになります。
・大人になって同棲している二人の年末年始のお話です。

「なつき」
「ん。ありがとう、静留」

 いつもならもうとっくにベッドにいる時間だが、今日は二人揃って居間のこたつでゆっくりと過ごしていた。何か話すわけでもなく、ただ隣にいるだけで満たされるようになったのは、いつの頃からだろう。

 静留が持ってきてくれた湯呑みから、緑茶を飲むと、なつきは一つ、ため息をこぼした。満たされたようなそれを、静留は受け止め、微笑む。

「ん。うまいな」
「そう。今日から新しいのに変えたんよ。なつきが気に入ってくらはってよかった」 

 なつきは、急須を傾けて、自分の湯呑みにお茶を淹れる静留の右手を見る。そこには、少し前、静留の誕生日に贈った指輪が、室内灯を反射して光っていた。

 視線を少し下に落とせば、自分の右手の薬指にも、同じものがはまっている。今、二人が使っている湯呑みだって、夫婦湯呑として売ってあったものだ。

 茶碗や部屋着、小物やアクセサリー。お揃いや、色違い、セットが少しずつ増えていく。

 それが嬉しいことだなんて、なつきは静留と出会うまで、思ったことなどなかった。

 形あるものは、いつか壊れてしまう。それなら、大切なものなんて、作らない方がマシだ。

 母を亡くし、ひとりぼっちになったあの日から、ずっとそう思って生きてきた。だから物をもらっても、思い入れができる前に捨てて、失うことがないように。これ以上悲しまないで済むようにと、自分で自分を守ってきたつもりだった。

 だけど。

……おまえ、そんなものもとってたのか」

 大掃除の時に出てきた、自分が中等部の頃、静留にあげたお菓子の包装紙。それから、適当な紙に書いた置き手紙。その他もろもろ。

「なつきにもろうたんやさかい。捨てるもんなんてないんやもん」

 くすくすと笑う静留に、なつきはため息をついて、苦笑いを浮かべた。

「包装紙なんかもとってるのは思ってなかったなあ」
……なつきかて、とったはるやないの」
「え」
「うちのあげた下着と包み。あないに大事にしてくらはって……
「み、見たのか!?」
「大掃除やし、あそこは静留に任せる、言うてましたし」
「あ、あれは! その……気に入ってた、から」

 そう。あの頃から、少しずつそれは狂い始めたのだ。いくら拒絶しても、拒んでも、辛くあたっても。にこにこと笑みをたたえたまま、自分の中に踏み込んでくる存在。

 藤乃静留。

 彼女はなつきにとって、未知の、そしていつしか、なににも変え難い存在になっていた。

 いらないと何度も言ったのに、勢いで受け取ってしまったそれ。いつも通り、ゴミ箱に捨てようと思ったのに。次の日の朝、その包みはごちゃごちゃとものが並ぶ机の上に置いてあった。

 そしてそういったものは、少しずつ、なつきでも気づかないくらい少しずつ、増えていった。

 どうしてか、なんて考える暇はあの頃はなかったけれど、今ならわかる。

 もうすでに、大切になっていたのだ。あの頃は認められなかったけど、今なら、わかる。

 大切な人からもらったものを捨てられないなんて、ごく普通のこと。そんなことに気づけなかったなんて、あの頃はそれほど切羽詰まっていたのかもしれない。

「なつき? なにわろてはるん?」
「いや、昔の私は鈍感すぎるな、と」
「今かてなつきは鈍感どすえ」
「ぐっ……返す言葉もないが」 

 揶揄うように笑う静留の瞳を、逸らさないようにとじっと見つめる。自分を見とめて細まる紅が、何よりも愛おしい。

「静留」
「なつき?」
「今年も、私のそばにいてくれてありがとう。来年もよろしく頼む」
…………
「静留?」
……来年もあんたのそばにおってええんやって思たら、なんや嬉しゅうなってしもて」

 堪忍。

 そんなことを言いながら、目尻に浮かんだ物を拭う静留。

 ……またこいつは、勝手に不安になる。

 自分でも、前よりは気持ちを伝えられるようになったと思う。だけど、それでも、静留の不安を全部は拭いきれないのが、悔しくてたまらない。

……静留」
…………
「静留、こっち見て」
「いやや」
「静留」

 焦らせないように。また彼女が不安になってしまわないように優しく、彼女の名前を呼んでいれば、ようやくゆるゆると上がった顔。驚くほど冷えた頬を両の手のひらで包み込み、額をこつんと突き当てる。

「私は別に、おまえといてやってる、わけじゃないんだからな」
————っ」
「私が、おまえといたいんだ」

 なあ、静留。

「私はお前が好きだ」
…………うちも」
「うちも?」
……いけず」
「あははっ。かわいいやつだな静留は」

 ようやく体温を取り戻してきたほっぺたを、ぐにぐにとてのひらでこねれば、静留はむぅっと頬を膨らませ、ぐい、となつきの方に体を寄せてきた。

「ぉわっ」
……ちょお、調子乗りすぎなんやないの?」
「ちょ、静留?」

 とん、と胸の辺りを押されて、カーペットの上に倒れ込む。さらり、と顔の横に流れてくる亜麻色の髪。自分の名前を言祝ぐ艶やかな唇に、目を吸い込まれる。動くこともできず、見惚れたまま静留に包み込まれていれば、なつきの好きな甘い香りが漂ってくる。

……年越すまで我慢しなあかんって思てましたけど、もうええわ」

 普段は何が起ころうともにこにこと笑っている静留だが、こんなにも余裕がない声に、笑みの消えた表情で呟かれれば、なつきの背筋にぞくりと甘い痺れが走る。

「し、静留っ! そばもまだだし、それに」
「なつき?」
「な、なんだ」
……なつきは、したないん?」
「おま……それは、反則だろう……

 熱い。熱くて、たまらない。なつきは耳の端どころか、首まで全部真っ赤に染め上げて、顔を逸らして手首のあたりで顔を隠す。

 しばらくしてからそっと、腕の隙間から静留に視線をやれば、彼女は嬉しそうに微笑んでいて。そんな様子に、なつきの頬も自然と緩んでいく。

「静留」

 名前を呼べば、その紅に、自分の色が必ず映る。だから彼女の名前を呼ぶのが好きなのだと気づいたのは、割と最近のこと。

……なつき」
「私は静留のことを……愛してる」
……うちも、なつきのこと愛してます」

 無意識のうちにからめた指には、やはり同じ色の光が宿っていた。愛おしげに指で撫でていれば、それに気づいた静留が、なつきの顔にキスを降らせてくる。負けじと静留の鼻の頭に噛みつけば、目を丸くして、ふわりと目尻が緩んで、そして……
 
 ◇◇◇
 
……もう、年明けてるじゃないか」
「堪忍。なつきがかいらしかったさかい。我慢できひんかったんよ」
…………むぅ。……その、今年も、よろしく頼む」
「ええ。うちも、よろしく頼みます」

 なつきが時計を手にとって見たときには、すでに年が明けていた。去年もこんな感じだったような、と顔を見合わせて。二人がくすくすと幸せを帯びた瞳で笑い合ったのは、また別のお話。