ミイ
2025-01-01 15:15:14
1764文字
Public 静なつ
 

Sakiさんお名前ss

年末のお名前ss企画。
Sakiさんのお名前をお借りしてお話を書きました。
・静なつです。
・大人になった二人の年始のお話です。

「静留、準備できたぞ」
「はばかりさんどした。ほな、行きましょか」

 自然と伸ばされた手を、握る。自分のよりも少し冷えた手をなつきはきゅっと優しく包み込んだ。

……ぉわ、冷えるなぁ」
「そうやねぇ」
「静留、寒くないか?」
「ええ。こう見えて、振袖、あったかいんよ。中にいろいろ着てますし。あっ、確かめてみはる?」
……ったくおまえは」

 静留のためにあつらえられた、と言っていた藤色の振袖。似合う、素敵だ、以外の言葉が浮かばなくなるほど、静留によく似合っていた。

 冷たい風にふわふわと揺れる、綺麗にセットされた髪。静留の亜麻色のそれに添えられたかんざしは、以前なつきが送った物だ。

 夏。浴衣を着ると言っていたけど静留に、かんざしを贈ってからというもの、静留は和装をするときは、必ずそれを、身につけてくれる。

 たまには他のものも、と言ったこともあるが「うちはこれがええんやもん」と子供みたいな口調で駄々をこねる静留に、なつきは苦笑いを浮かべたものだ。また新しいものでも贈ろうか、と考えていれば、「……今度一緒に買い物行きます?」と、何もかも見透かしたような表情に、なつきはさらに、笑みを深めるのだった。

「階段、気をつけて」
「おおきにな、なつき」

 静留の一歩先(Saki)を、なつきはゆっくりと歩く。一人で歩く時よりもだいぶ、歩調を落として。静留を気遣うように、ぎこちなく手を添えて。

 そんな不器用ながらも真面目な優しさが嬉しくて、静留はふわりと笑みを浮かべた。

「静留?」
「ふふ。なんやうち、お姫さんみたいやなぁって」
「はは。じゃあ私はさしずめ静留の従者ってとこか?」

 そりゃあいい、なんてなつきが笑っていた時。

 一歩。

 二人の間に開いていた隙間を埋めて、静留はなつきの耳元で囁いた。

「うちがお姫さんなら、なつきもうちのお姫さんどす」
————っ!」
「あら、危ない」

 ぶわり、と顔に熱が集まり、一瞬バランスを崩してしまったなつきを、静留がくすくすと笑いながら支える。

……おまえ、わざとだろう」
「なんのことやろ」

 すました顔で言う静留に、なつきはむっとした表情を作った。

「ふふ。堪忍な。なつきがえらいかいらしゅうて」
…………
「そない拗ねんと。そや。京都帰ったら、なつきもうちと振袖着ぃひん?」
「え?」
「あっちにもたくさんありますし……なつきに似合うの、仕立ててもらうのもええなあ」
「いや、私は」
「うちがなつきと着たいんよ。……あかん?」

 普段はあまりなにも欲しがらない恋人が、こうも上目遣いで愛らしく頼んでくるのだから。そんなのなつきに断れるはずもなく。

「あかんく……ない」
「おおきに。腕がなりますなぁ。うちも気張らなあかんね」
「いや、そこまで気合を入れなくても……
「好きな人の晴れ姿、いうもんに気合い入れへんなんていつ気合い入れますのん?」
……わかった。好きにして……いや、その時は私も一緒に選ぶからな」
「え?」

「その……いつも任せてばかりだし……和装にもちょっと興味があったんだ。あっ、静留のこと、信頼してないわけじゃないんだぞ!? おまえに任せてれば間違いないとは思うが……その……

 熱くなる頬を指でかけば、静留は紅い瞳を丸くして、次いで柔らかく、愛おしげに細める。

「嬉しいわあ」

 静留と出会うまで、着物やら振袖やらには興味はなかった。だけど気がつけば、いつからかそういったものが自然と視界に入るようになっていて。かんざしや、和風の小物まで。店頭に並ぶ、今まで気づかなかったものに気づくようになった。それはきっと、それらが好きな人の好きなものだから、だとなつきは思う。

「いろいろ、教えてくれ。私はまだわからないものだらけだから」
「もちろん。一からぜーんぶ、教えたります」
……おてやわらかにたのむ。……おい、目が笑ってないぞ!? 静留!?」

 ふふ、と楽しそうに微笑む恋人を見ながら、なつきは笑みを浮かべる。

 静留が笑ってくれる。それが一番、なつきの望むことだから。

 今年も、いい年になりそうだ。 雲ひとつない青空を見上げて、なつきは穏やかな笑みを浮かべていた。