suisou06
2022-11-04 13:53:27
2280文字
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ある夜の回想

異能警察現行未通過×
通過中〜直後にふんわり書いていたもの。
今になって表に出したいな〜と思ったのでざっくり体裁を整えました。取り敢えずでまとめたので変なとこあるかも。

時間軸としてはエンドから1ヶ月後くらいです。

「徹くんは本当そういうの興味ないよねぇ」
緩いスエット姿の香織はへらりと笑いながら夕飯の煮物を箸で突いていた。
手狭なダイニングテーブルを挟んで対面に座る俺は少し憮然とした顔をしていたかもしれない。
「そういうの、ってなんだよ」
「流行りのスイーツとか、そういうの」
言いつつ今度は箸の先を付けっぱなしのテレビへと向ける。行儀が悪い、と嗜める俺の言葉はいつもながら彼女には響かないようだった。
テレビでは最近東京駅近辺に出来たスイーツ店を取り上げているようだった。さっきからその内容を完全に聞き流していた俺は、香織に促されて漸くそちらへ注意を向けた。
「そんなもん好きな奴が食えば良いだろ。俺は何が流行ってようがどうでもいい」
「だからそれ!そのスタンスだよ」
さっきからの彼女の発言の意図を計りかねて俺は眉根を顰めた。
「皿片付けて風呂入りてえから早く食え」
は〜いとのろのろ手を動かし始めた香織は、やっぱり喋る口は止められないようで、器用に白飯を頬張りながら話を続けた。
「昔から思ってたんだけど、変な所で自我が強いっていうか、頑固っていうか。新しいものを取り入れたがらないの、徹くんの長所でもあり欠点でもあるよね〜」
「またそれか。別に何も困らないんだから良いだろ」
残っていたビールまで飲み終えた俺は、やれやれと首を振りながら立ち上がった。これもまた長い付き合いの中で何百回となく繰り返された問答だ。
対する香織の答えもいつも決まっていた。
「案外、新しい世界が見えるかもよ?」
悪戯っぽく微笑む彼女の笑顔に、いつもの事の筈なのに改めて少し見惚れてしまう。認めるのは悔しいが、これが惚れた弱みというやつなんだろう。
「私は徹くんにもっと色んな世界を見て欲しいけどなー」
まるで自分はなんでも知ってるみたいな言い方だな」
「仕事人間の徹くんよりは知ってます〜」
ぷっと頬を膨らませる彼女を置いて、俺はさっさと卓上を片付け始めた。
「お前がいれば俺はそれで十分だよ」
「あ、話すり替えようとしてる!」
「馬鹿言え」
普段口が裂けてもそんな事言わない癖に、と小突かれながら食事の終わった香織の食器も片付ける。
半分は茶化して言ったが、半分は本気だ。
「十分、色んな景色見せてもらってる」
それを聞くと彼女はずい、と指を突き出して左右に振る。
「徹くんほっとくとすぐ自分の世界で完結しちゃうんだから。もし私が居なくなったら、外に連れ出してくれるような良い人見つけなよ」
いつになく真剣な声色。思わず家事の手を止めて、俺は香織は見つめた。香織が、居なくなる。そんな事考えた事も無かった。なぜ突然そんな話をするのだろう。
「なんだ急に」
問いかけると彼女はぷっと息を吹き出して、またいつものゆるりとした笑みを浮かべる。
「なーんてね。どっちかっていうと先に倒れるなら働き詰めの徹くんだろうけど」
「うるせえな」
「もー。ちょっとは羽伸ばしたりしなよ?あ、今度のお休みさっき見たカフェ行こうよ!」
ね、決まり。一方的に俺の予定を決めると「ごちそーさまでした」と元気よく立ち上がり食器を手にキッチンへ消えていく。彼女の小柄な後ろ姿は普段通りだった。終いにはいつもの鼻歌すら聴こえてくる。先程の言葉もきっと、彼女にとっては他愛もない会話に過ぎないのだろう。
それなのに、胸の内に一瞬で広がった騒めきは消せなかった。
付けっぱなしのテレビが天気予報に切り替わり、今週末は雨との予報を伝えていた。アナウンサーの声をどこか他人事のように聞きながら、ぼんやりとアイツと出かける時は傘を持って行かなければ、と頭の片隅で考えていた。





──今にして思えば、アイツは何かを予感していたのかもしれない。
彼女は昔から時々、そういう勘の様なものが働く時があった。普段ぼんやりしている癖に、妙に直感が鋭い。そういう女性だった。
果たして、あの時香織が何を考えていたのか。
今となっては分からない事だ。確かめる術はもう、どこにも無い。

自室のベランダで紫煙を吐き出しながら、それが夜風に掻き消えるのを眺めていた。

お前は、今の俺を見たらなんて言うんだろうな」

眠らない街を行き交う、遠い車のエンジン音を乗せ、風は頬を撫でていく。ベランダに返事が聞こえることはない。
俺は電子タバコの電源を落とした。灯っていた電源ランプが消えると、懐かしい記憶から一人の部屋へ引き戻される。
デジタル表示の時計は2時を少し過ぎている。床に就かなければ明日に障る。分かってはいるが気が進まなかった。
俺は溜息を吐きながら、部屋を見回す。結局1人には広すぎるこの部屋で、1年以上を過ごしてきた。
あれ以来、思い出の詰まったこの部屋を離れたいと思わなかったことはない。だが、それ以上に様々なことが立て続けに起きすぎた。新居を探す時間も、荷造りをする気力も奪われた当時の俺にはこの部屋を引き払う事も骨の折れる事だった。
そろそろ、潮時だろう。
ベッドに体を横たえ、今日になって思い出した彼女との時間を反芻する。きっとこの部屋を離れても、彼女の思い出が失われることはない。それは裏を返せばどこに居ようが彼女を忘れることができない、という事でもあるが。もう以前の様な苦痛を伴わず、過去を振り返ることができる自分自身を俺は見出していた。

仕事終わり、またあの店に立ち寄ってみても良いかもしれない。あのシフォンケーキの味は、確かに悪くはなかった。
眠りに落ちる寸前、ぼんやりとそんなことを考えた。