ちよど
2025-01-01 05:44:41
19221文字
Public わし様など
 

練習1P 12月分まとめ

#練習1P、のタグで書いていたもの。
わし様中心SS。節操なくCP混在。

■2024/12/30 No.512
ビマヨダ
「失ったのは、死に際の」

 ドゥリーヨダナが記憶の一部を失ったと風の噂で聞いた。
 同じカルデアに召喚されたなら一応は仲間だ。だと言うのにドゥリーヨダナは徹底的に俺を避け、なんとか話しかけてもよそよそしい態度を崩さなかった。
 記憶を失ったという重大な霊基異常も俺は誰にも教えてもらえなかった。──あいつと俺は因縁があると言うのに。
 だが、生前の記憶なら俺が役に立つかもしれない。
 俺はドゥリーヨダナの部屋をノックする。また冷淡な態度で迎えられるかもしれないが、その時はその時だ。
 ドアが開く。
 そこには不審そうな表情をしたドゥリーヨダナが
「ビーマではないかぁ!!」
 大声で叫んで慌ててドアを閉めようとするこいつを押さえつける。
「離せ!ゴリラ!!馬鹿ビーマ!!」
 素直な感情を叩きつけられて生き返る気がした。
 俺が掴んだこいつはカルデアで再会する前のドゥリーヨダナだ。
「はっ、なんだ。元気そうじゃねぇか」
「そうではない」
 掛けられた声はカルナ。槍を顕現させたその促しに俺はしぶしぶ手を離す。
 ドゥリーヨダナがいつものようにカルナの背後に隠れる。
 奴を庇うようにカルナは口を開いた。


■2024/12/30 No.511
わし様+弟
「俺達だって!」
※ファンタズムーンのイベントのネタバレを含みます

「この忙しいクリスマスにトンチキしないで欲しいなぁ」
 ダ・ヴィンチちゃんのため息にドゥリーヨダナは不満そうに口を曲げた。
「ライダーになったところで、ランサーに有利を取れんではないか!」
「バーサーカーが有利だとは思えんが」
 心配してついてきたカルナ(ランサー)が口を挟む。アシュヴァッターマンは自室で自主謹慎をしていた。
 彼がうっかりドゥリーヨダナにぶつかった際、等倍のダメージが発生し霊基異常が分かったわけだが、当の本人はダメージを与えるほど主を加害したことを深く反省しているのだ。律儀な男である。
「霊基異常になった心当たりは?」
「噂の配信を見ていたぐらいだがあれは魔力を持っていくだけなのだろう?」
「クラスが変わったという報告は他に受けてないなぁ」
 首を捻るダ・ヴィンチちゃんにカルナが考え込んだ。
あの奇っ怪な生き物は宝具から出てきたものらしいが」
 配信でファンタズムーンに懲らしめられていた謎の生き物は、とあるサーヴァントの宝具演出の際に事象の地平に何度も何度も叩き込まれたことを恨んで現界したらしい。
 そう、元は宝具にいた存在なのだ。あの生き物は。
 そして彼の宝具では弟達が馬に騎乗している。
「ドゥリーヨダナを拘束!99人が出てくる前に!」


■2024/12/28 No.510
現パロ アシュヨダ
「初めての宿泊」

 出迎えがない。
 それはそうだろう。これはアシュヴァッターマンひとりの宿泊だ。
 どのホテルでも上客のドゥリーヨダナと共にいないのだからオーナーが出てこないのは当然だ。
 ベルボーイもいないが忙しいのだろうか?
 アシュヴァッターマンは初めてひとりで泊まるホテルのロビーを見渡した。ネットで調べて駅近と価格で決めたビジネス?ホテルはいつもドゥリーヨダナに連れられているホテルに比べて圧倒的に小さい。
 この大きさだとひとつの階に2部屋ぐらいしか入らねぇんじゃないだろうか。
 ちょっと心配に思いながらアシュヴァッターマンはカウンターの前を素通りして狭いエレベーターに乗る。
 ドゥリーヨダナはいつも専用のラウンジでチェックインしていた。この広さならラウンジは上の階だろう。
 だが、アシュヴァッターマンがどの階を見てもラウンジは無く、廊下に小さなドアが並んでいるばかりだった。
 いつもドゥリーヨダナと共に泊まっているホテルとの違いに戸惑って、アシュヴァッターマンはとりあえずロビーに戻る。
 ちょうど小さな喫茶スペースから出てきた制服の女性に声をかけた。
「チェックインのラウンジってどこだ?」


■2024/12/27 No.509
わし様+叔父さん
「世継ぎの王子は子供の顔で笑った」

 夏は王宮が騒がしくなる。百王子達がのびのびと羽根を伸ばすからだ。
「ですので、早く。早くお帰りください」
 侍従長の嘆願にシャクニは苦笑した。
 十数年前は小国の若造がと散々この老人に馬鹿にされたものだが。百人の悪ガキ共にとうとう屈したようだ。
「はて?帰ると言われても私の故郷はガンダーラですが?」
 里帰りに行ってそのまま戻って来ない可能性を示唆すると侍従長の目に絶望が浮かぶ。
 ガンダーラはクル国から遠い。途中大きな川もあり片道ひと月はかかる。なので天候の恵まれた春から夏の間にしか往復することは出来ないのだ。
 だというのにシャクニが最近ほぼ毎年里帰りしているのは
「叔父上がいない間も私が弟たちの面倒をみておきますよ」
「スヨーダナ様!」
 長兄の登場に侍従長は目を輝かせた。
 そう、人々はシャクニではなくスヨーダナが百王子を統率しているのだと知るべきなのだ。次期国王が傀儡なのだと思われてはいろいろとやりにくくなる。
「虫の始末はしておきます。──それはそれとして。叔父上。今度のお土産を楽しみしていますから!」


■2024/12/26 No.508
わし様+妹
「遠くへ」
※紙月のネタバレが含まれます

「私の知らないところで、皆死んでた」
 アーユスのその言葉にドゥリーヨダナは自分の選択が正しかったことを確信した。
 生前、クル王族ただひとりの王女であるドゥフシャラーには縁談が山のように届いていた。その中から彼が選んだ嫁ぎ先に弟達は口々に文句を言ったものだ。曰く。
「そいつ女癖が悪いって評判だよ」
「貧乏王族じゃん」
「兄貴より弱いし」
「顔がいい訳でもないよね」
「──でも、一番ここから遠い」
 賢い末弟が指した地図に皆が長兄を見た。パーンダヴァとの戦争はもう避けられない。勝てば今まで通りだが、負ければこの場にいる兄弟達は全て死んでいるだろう。
 クル国の王女はただひとりきり。
 負ければ父は王座から追われ、ただの盲目の老人となる。パーンダヴァの慈悲で生かされるかもしれないが娘を守る力が残っているとは思えなかった。
 婚姻を行えば女は家の所有物となる。
 100人の兄弟が全ていなくなった後も距離としきたりが彼らの末の妹を守るだろう。
「なぁに、我らが勝つに決まっておる。これは念の為だ。すぐに迎えにいけばいい」
 戦場の凄惨さも醜い思惑も何も届かない場所へ。


■2024/12/26 No.507
ビマヨダ
「リモコン」

 戦闘狂な事を除けば物静かなカルナが怪しげな踊りをカクカクと踊っている。
 その背後に立つドゥリーヨダナが手元で小さな箱を動かしているとあらば、マスターのやることはひとつ!
「アルジュナオルタさん!やっておしまいなさい!!」
「待ったぁ!!わし様が何をしたというのだ!」
 令呪をかざして最強のバーサーカーを呼ぼうとしたマスターに、ドゥリーヨダナは言い募る。
「これはカルナが勝手に踊っておるだけだ」
「そうだ。勝手に体が動くだけだ」
「こら!カルナ!」
 慌てて箱を背後に隠そうとしたドゥリーヨダナにマスターは令呪を使った。
「ビーマさん!やっておしまいなさい!!」
「おうよ!!」
 強制転移されたビーマがドゥリーヨダナを見てすぐに槍を構える。
 そこに動きを止めたカルナが忠告した。
「やめておけ。それは神性を対象とした魔具だ」
 ビーマの眉が寄せられる。ターゲットは明らかにビーマだった。
 焦ったのかドゥリーヨダナは魔具を取り落とす。ガチャンと割れた音がして。
 ──ドゥリーヨダナは何故か安心した顔をした。


■2024/12/25 No.506
アシュヨダ+娘
「私はひとつあればいい」
※No.505のバージョン違い

 私の父は強欲だ。子供のようにあれもこれもと欲しがってはカルナ叔父さまやアシュヴァッターマン兄さまが後始末をしている。
「あんな父、見限っていいのに」
 アシュヴァッターマン兄さまに言うと、カルナ叔父さまと違って父に借りがない人はくすぐったそうに笑った。
「あの人のああいうところが好きなんだ」
「わし様もおまえが好きだぞ!アシュヴァッターマン!!」
 どこからか聞きつけて現れた父に抱きすくめられたアシュヴァッターマン兄さまの目に浮かんだ色。
 それをカルナ叔父さまの息子の目に見出した時、私は駆け出した。
 父と未だに仲睦まじい母の前で兄さまと慕っていた男の裏切りを訴えると母は困ったように頬に手を当てた。
「私はね。欲張りなあの人が好きなの」
「わし様もおまえが好きだぞ。バーヌマティ」
 どこからか聞きつけて現れた父に抱きすくめられて母は表情を緩めた。
 そうして母を離した父は私を抱きしめる。
「わし様はおまえも好きだぞ。ラクシュマナー」
 大きな腕に抱きすくめられて私は諦めて目を閉じた。
 本当に父は強欲だ。あの人の気持ちに気づいていて私達と同じ対応をしている。
 幼馴染でしかなかったあの人の目を思い出した。


■2024/12/25 No.505
アシュヨダ+息子
「僕はひとつあればいい」

 僕の父は強欲だ。子供のようにあれもこれもと欲しがってはカルナ叔父さんやアシュヴァッターマン兄さんが後始末をしている。
「あんな父、見限っていいんだよ」
 アシュヴァッターマン兄さんに言うと、カルナ叔父さんと違って父に借りがない人はくすぐったそうに笑った。
「あの人のああいうところが好きなんだ」
「わし様もおまえが好きだぞ!アシュヴァッターマン!!」
 どこからか聞きつけて現れた父に抱きすくめられたアシュヴァッターマン兄さんの目に浮かんだ色。
 それを僕に告白してきた女の子の目の中に見出した時、僕は駆け出した。
 父と未だに仲睦まじい母の前で彼の裏切りを訴えると母は困ったように頬に手を当てた。
「私はね。欲張りなあの人が好きなの」
「わし様もおまえが好きだぞ。バーヌマティ」
 どこからか聞きつけて現れた父に抱きすくめられて母は表情を緩めた。
 そうして母を離した父は僕を抱きしめる。
「わし様はおまえも好きだぞ。ラクシュマナ」
 大きな腕に抱きすくめられて僕は諦めて目を閉じた。
 本当に父は強欲だ。あの人の気持ちに気づいていて僕達と同じ対応をしている。
 あの女の子の目を思い出した。


■2024/12/24 No.504
カルヨダ、アシュヨダ
「プレゼントは何もない」

 そのあまりの傲慢さにマスターの少女はプレゼントのリボンを握りつぶした。
 ドゥリーヨダナからお返しにもらったプレゼントはつい数秒前までは嬉しい贈り物だったが、今は違う。
「──突き返してくるね」
 目が据わったマスターに慌てたのはカルナとアシュヴァッターマンだ。
 彼らの手には何もない。マスターと同じようにドゥリーヨダナにプレゼントを渡したというのに何のお返しもなかったのだ。
「私だけじゃなくて子供達にも渡していたのに!一番お世話になっているふたりにプレゼントを贈らないなんて!」
 憤るマスターにカウラヴァのふたりは困ったように視線を交わした。
「あのな、マスター。俺達にはこれが最高のクリスマスプレゼントなんだ」
「そうだ。今オレはこの上もなく満たされている」
 偽りではなさそうなふたりの言葉にマスターは首を傾げた。
「何も貰ってないのに?」
 その質問に彼らは口々に答える。
「疑り深いあの人が、俺達には何も対価を払わなくても大丈夫だと信用してくれたって事だからな」
「これに勝るプレゼントはない」


■2024/12/24 No.503
カルヨダ
「プレゼントなのか、プレゼントなのだな」

 メリー・クリスマス!!
 ストームボーダーの中はお祝いムード一色だ。ツリーに飾りにお歌にご馳走!そしてプレゼント!!
 飾り付けられた自室でふたりきり。ドゥリーヨダナはうきうきとプレゼントを渡されるのを待っていた。
 もうとっくに子どもではないドゥリーヨダナだが彼には専属のサンタがいる。
 召喚されて初めてのクリスマスに何がもらえるかとわくわくしている彼の前でサンタカルナは首を傾げた。
「む?おまえの強欲がサンタ袋の限界を超えたというのか?」
「なんでも望むものが出てくる袋なのだろう?」
 ごそごそと白い袋の中をかきまわしているカルナを不満そうに眺めていたドゥリーヨダナだったが、ふと気がついてその両腕を広げた。
「わし様へのプレゼントならそこにおるではないか!」
 カルナが辺りを見回すがこの部屋にはふたりきりだ。
「分からんのか、鈍い男め」
 ドゥリーヨダナは目を細めた。
「お前以上にわし様を喜ばせるものなどないぞ」
 死して再び出会ったカルナが心得てドゥリーヨダナの腕の中に収まる。その細い体躯が地に伏したのをドゥリーヨダナが忘れることは決してないだろう。
 サンタの腕がドゥリーヨダナの背中にまわった。


■2024/12/23 No.502
アシュヨダ
「ふたりきり」

「象?どちらかといえば犬ってイメージ」
 マスターの言葉にアシュヴァッターマンは柔らかく微笑んだ。ソファーの反対側にはその微笑みを向けられたマスターを挟んでドゥリーヨダナが座っている。
「ん?前は犬が好きだと言っておらんかったか?」
 幼少から彼をよく知るドゥリーヨダナの言葉にマスターはアシュヴァッターマンを見た。
 アシュヴァッターマンの困ったような愛おしそうな眼差しがマスターの背後に向けられている。
 ──あ、これは惚気けられる。
 マスターの予想通りにアシュヴァッターマンはらしくなく思わせぶりに口を開いた。
「象にはいい想い出があるからな」
「ん?おまえと象のよい想い出だと?昔、誕生祝いにパレードしてやったぐらいではないか?」
 冗談交じりのドゥリーヨダナにアシュヴァッターマンは綻ぶように笑った。空気の読めるマスターはドゥリーヨダナに問いかける。
「それっていつ?」
「ドローナ教室の卒業試験の年だな」
「明らかなゴマすり!!」
 憤慨するマスターの後ろからうっとりとした声が流れる。
「あの時、俺の隣の象に旦那が乗っていて。旦那と同じ高さにいるのは世界中で俺だけだったんだ」


■2024/12/22 No.501
ビマヨダ
「違うとは言えなかった」

 そのあまりのデリカシーの無さにマスターは顔を覆った。
 クエスト90++。マスターがうっかり采配を間違えたせいで戦線は崩壊し、残るサーヴァントはひとり。
 屈辱に打ち震えるドゥリーヨダナだけである。
 唯一のアタッカーであるドゥリーヨダナを無視してサポートや絆上げ要員などを全て討ち果たしたエネミーのビーマは高らかに槍を掲げた。
「さあ!やり合おうじゃねぇか!!」
 マスターは分かる。多分エネミービーマ、略してエネビマはドゥリーヨダナと一騎打ちがしたかったのだろう。
 だがドゥリーヨダナにしてみれば宿敵がアタッカーである自分を無視して他のサポートなどの戦闘向けではない者ばかりを刈り取ったのだ。もしかすると生前の再現だと感じたかもしれない。
 槍を構えるエネビマを見る紫の瞳は水晶の冷たさをしていた。棍棒がごとんと地面に転がる。
「マスター。撤退だ。これ以上は意味がなかろう」
「そうだね」
 エネビマの体力ゲージはほとんど残っている。バフがないドゥリーヨダナに勝ち目はなかった。
「ま、待てよっ!」
 慌てたようなエネビマにドゥリーヨダナは背中を向けた。
「おまえがあんな事をしたのは戦争だったからだと思っていたが。わし様の思い違いだったようだ」


■2024/12/21 No.500
現パロ ビマヨダ
「うさぎさん模様だった」

「わざとじゃねぇんだ」
「そんな事は分かっとる」
 雨の中落とし物を探し回ってびしょびしょになった俺にドゥリーヨダナはタオルをかけてくれた。
「ちゃんと指に嵌めておけば
「それで何個指輪を潰した?」
 半神だった頃ほどではないが今の俺も力がある。拳をちょっと握りしめたら嵌めている指輪が歪むくらいに。
 頑丈と評判のチタン製ですら曲げた俺に、俺と違って力加減が上手いこいつは頑丈なチェーンに指輪を吊るしてくれたのだ。
 それも屈んだ拍子に胸元から滑り落ちそうになったのを掴もうとして引き千切ってしまったが。
 滑り落ちた指輪は跳ねて、探しても探しても見つからなかった。
 ──俺はいつもそうだ。
 大事なものを壊さないようにしても失くしてしまう。
 下を向いた俺にドゥリーヨダナはため息をついた。
「指を出せ」
 言われて左手を出すと、ドゥリーヨダナは子供用の絆創膏を薬指に巻いた。
「これなら潰れん。──毎日わし様が付け直してやろう」
 それは毎日会おうという約束。かわいい柄のそれに思わず唇を落とすと、ドゥリーヨダナの頬が赤く染まった。


■2024/12/20 No.499
漁師と人魚パロ ビマヨダ
「救ってやっておるのだ」

 ここ最近、仕掛けておいた定置網にかかる魚が明らかに減った。その原因は。
「わし様なにも悪いことしておらんのにー!!」
 漁船の甲板でびったんびったん暴れるこの人魚だ。定置網の中に潜り込んで魚達を抱え込み逃がそうとしていたのを現行犯で捕まえたのだ。
人魚の肉って高く売れるらしいな」
 俺の呟きに人魚は怯えたように自身を抱きしめた。
「おまっ、おまえ!!わし様達の仲間を食べるだけではなく、この玉体も金に変えようというのかっ!」
 ああ。人間が魚を食うのは当然だ。だが、魚を仲間と呼ぶこの人魚にとってそれは許しがたいことなのだろう。
 もし俺が家族を食おうとしている者を見つけたのなら。逃がすなんていう穏当な手段は取らない。さっきからトンチキに暴れているこいつはもしかしたら優しい人魚なのかもしれねぇ。
 そう思ってしまって視線を巡らせると、波間にふたつ顔が浮かんでいるのが見えた。仲間なのだろう。
「行けよ。──他の奴に捕まるんじゃねぇぞ」
 驚いた顔の人魚を海に投げ込んでやってから数日後。俺は再び定置網であの人魚に出会った。
 あいつは両腕に抱えた魚たちを貪り食っていた。血まみれの顔がこちらを向いて、笑う。
「ああ、おまえか。わし様は悪いことはしておらん」


■2024/12/19 No.498
ビマヨダ+マスター
「テーマ曲みたいだね」

「ららら、らーら、らららららー!」
 ご機嫌なマスターの鼻歌にビーマは持っていたトレイを取り落とした。
 幸いにして空だったトレイは甲高い音を立てて床に転がる。それを見もしないでビーマはマスターに詰め寄った。
「それをどこで聞いた!?」
 普段は穏やかなビーマの剣幕にマスターは目を丸くする。
「どこって、ドゥリーヨダナが教えてくれたんだけど?」
「──あいつが?そうだな、アルジュナがこれを人に教えるはずがないな」
 夜闇のような声。鈍くはないマスターは厄ネタを引いてしまった予感に震えるが好奇心が勝った。
「生前の流行歌とかじゃなさそうだね」
 マスターが促すとビーマは首を振る。
「たいした事じゃねぇよ。──俺があいつを殺した時にガンダルヴァの奴らが奏でた曲だ」
 ビーマとドゥリーヨダナの一騎打ちの後、倒れたドゥリーヨダナに祝福の曲と花が降り注いだという。
 マスターはこの曲を教えてくれた時のドゥリーヨダナの得意げな顔を思い出した。
「マスター。この曲はな、わし様を称えて作られた曲なのだ。唯一無二なのだぞ」
 それを聞いてマスターは思ったのだ。


■2024/12/19 No.497
カルヨダ、アシュヨダ
「わからせ、ということだ」

 ドゥリーヨダナの部屋はマスタールームよりも豪華だ。
 ワンルームではなくリビングと寝室が分かれている。本人はまだ不満そうだが今そのリビングで宴をしている他のふたりは満足していた。
 広い王宮ではこんな風に身を寄せ合って飲食する事などなかったからだ。
 体格のいい男達が三人掛けのソファーにぎゅうぎゅうに座りながら、モニターで戦闘記録を眺めている。
「旦那、ちょっと油断しすぎじゃねぇか」
 サポートより先に被弾して落ちたドゥリーヨダナの様子にアシュヴァッターマンは眉を寄せる。
「無防備が過ぎる」
 カルナの評に譲ってもらった鬼の酒を舐めながらドゥリーヨダナは表情を緩めた。
「気にするな。気にするな。サーヴァントは戦闘不能になってもカルデアに帰還するだけだ」
 周回にしか出たことのないドゥリーヨダナの言葉に異聞帯を経験したふたりの表情が抜け落ちた。ドゥリーヨダナを挟んで二対の瞳が意思を確かめ合う。
 無言でカルナがドゥリーヨダナから酒を取り上げ、アシュヴァッターマンがその体を抱き上げる。
 驚いた声を上げるドゥリーヨダナをアシュヴァッターマンは珍しく無視して寝室に向かう。寝室のドアを開けたカルナが説明した。


■2024/12/18 No.496
生前カルヨダ+奥さん
「当然のことだ」

「ドゥリーヨダナと共寝するのですか?」
 友の妻の問いに身を清めたカルナは立ち止まった。その言葉に悪意が無かったからだ。
「おまえにはオレをなじる権利がある」
「愚かですね。市井の育ちはこれだから」
 次の王妃となる女は手を振って侍女を下がらせる。夜風が吹く回廊の離れたところから見守る彼女達に王族の女は背を向けた。
「口を開かないで。あの者たちは唇の動きを読みます」
 囁かれた言葉にカルナは口を閉ざした。目線だけで先を促す。
「武術に長けるあの人を殺すなら油断している時を狙うでしょう。男が一番油断する時。──それは閨の最中です」
 カルナは息を呑んだ。友の立場は知っていたが、それほどだとは思っていなかったのだ。
「スータから成り上がったあなたを殺したい者も多いでしょう。確実に刺客が来ます」
 武人の顔になったカルナを凶兆の子の妻の視線が射抜く。
「あの人はきっと何も言いません。見栄っ張りだから。──あなたを信じているから」
 そう告げて、女は支配者の顔で男を見あげた。
「アディラタの子、カルナ。最悪の場合、我が夫を守って死になさい」
 まっすぐに見つめられたカルナは頷いた。


■2024/12/17 No.495
カルヨダ
「予防接種」

「矮小なおまえにふさわしい施しを受けるがいい」
「──おまえの目の色だな」
 強欲なドゥリーヨダナに合わせたのか、赤とストロベリーとラムネのふたつのキャンディを彼は口に放り込んだ。
「おまえの蛮勇を知るものはいない」
 ふたりしかいない部屋だからこそ与えられたカルナの称賛にドゥリーヨダナは二の腕をこする。
「まったくだ。サーヴァントに予防接種など正気の沙汰ではない。これだからバーサーカーは」
 コロコロと口の中でキャンディを転がしなから器用に話すドゥリーヨダナに、カルナは目を細める。
「オレ達の時代にはなかったものだ。黙って受けたおまえに敬意を」
「ふん、周回に引っ張りだこのつよつよサーヴァントのわし様はこんなことでみっともなく取り戻したりはせん」
 見栄っ張りの友にカルナはその手を取った。棍棒を握るその手の甲をそっと撫でる。
 生前治療とはいえども王族がその玉体に傷を入れるのはありえななかった。現代に召喚されても当時の価値観が失われた訳では無い。プライドの高いドゥリーヨダナが意味のない注射を受けたその勇気をカルナは理解していた。
 宥めるために用意していたキャンディはご褒美に変わったが、それを喜んでカルナはおおきな手を両手で包んだ。


■2024/12/16 No.494
生前ビマさん+次男
「インチキに決まっておるだろう!馬鹿者!」

「ああ、アビマニュ」
 たゆたう煙の向こうの人影にドラウパディーが膝をついた。噂を聞いてこっそりとふたりで訪ねたのは死者に会えるマントラを知るバラモン。その男が微笑む。
「さあ、彼の手を取って」
 見間違えようもない甥が俺を見て嬉しそうに笑う。幼い頃そのままの表情につられるように足を踏み出した俺は、突き飛ばされて振り向いた。
 あり得るはずのない声。いや、この場だからこそ。
 宿敵の姿を探した視界に刃が光る。
「ドラウパディー!!」
 妻に振り下ろされた短剣をなんとか掴んだ俺に男は忌々しそうに顔を歪めた。
「ドゥリーヨダナの信奉者はみんな殺したはずだ」
 俺の言葉にバラモンは握りしめたままの短剣に視線を落とした。
「遊びだとあの方々は笑っておられました。一人娘を犯して殺した男にこれでトドメを刺せと」
まっとうなバラモンに人殺しをさせたのか」
 悪趣味な趣向に眉を顰めると男は俺を見て、妻を見た。
「私の娘の敵討ちをしてくれた王子の胸を裂いた男よ、血で髪を洗った女よ。呪われるがいい」
 それ以上の呪詛を塞ぐために俺はまた血を流した。憎しみは終わらない。ならどうしてあいつの声がしたのだろう。


■2024/12/15 No.493
わし様+ビマさん
「へぇ、なら俺とおまえで試してみるか?」

 ドゥリーヨダナはご機嫌だった。
 管制室にロングソファーを持ち込んで、横になってポテチをつまみながらモニター越しに戦闘を観戦している。
「いっけーっ!カルナ!!そこだぁあああ!!」
 その歓声が聞こるはずがないが、モニターの向こうでサンタカルナがエネミーのビーマを宝具でふっ飛ばした。
「やったあ!!」
 大喜びするドゥリーヨダナにダ・ヴィンチちゃんが苦笑する。
「うちわでももってこようか?」
「うちわ?」
「旦那。現代では応援にうちわを使うらしいぜ」
 説明したのはお菓子や飲み物を給仕していたアシュヴァッターマンだ。こちらもドゥリーヨダナがビーマとの戦闘に出なくなったので顔色が明るい。
「周回にも出なくてよいし、カルナがビーマをボコボコにするのを眺めて飲む酒は美味い!!」
「アシュヴァッターマン!!」
 ドゥリーヨダナが関わると途端ダメになる青年は怒られてバツが悪そうに俯いた。それを見上げてドゥリーヨダナが笑う。
「気にするな。カルナの勝利はわし様の勝利。つまりビーマがわし様に無様に負けたということだ。わはははは!」
 大笑いするドゥリーヨダナの背後。


■2024/12/14 No.492
アシュヨダ
「あ、眠れないかも」

「レイシフトからお帰りのドゥリーヨダナくん、お連れの方が管制室でお待ちです」
「わし様は迷子か!!」
 管制室に怒鳴り込んだドゥリーヨダナはお通夜のような雰囲気に息を呑んだ。
 その中心、スタッフに囲まれてしゃがみ込んでいるのは赤い髪の青年だ。管制室のモニターを見て全てを察したドゥリーヨダナはあえてにこやかに両腕を広げた。
「アシュヴァッターマン、出迎えはないのか?」
 青ざめたアシュヴァッターマンが顔をあげる。目線で促してやるとかわいい年下の戦士はドゥリーヨダナの胸に飛び込んできた。
「旦那、だんなぁ」
「おー、よしよし。わし様はこの通りちゃんと帰ってきたぞ。サーヴァントだからな怪我ひとつしておらんだろう?」
 こくこくと頷く青年はモニター越しにビーマによってドゥリーヨダナが戦闘不能に陥るところを見てしまったのだろう。わし様は悪くない。そうだ!
「わし様、今晩はこやつと一緒にいてやりたいのだ」
 まだうなだれているアシュヴァッターマンを抱いて切々と訴えると、ダ・ヴィンチちゃんは軽く片眉を上げた。
しょうがないなぁ。ドゥリーヨダナは今晩は周回を休むとマスターに伝えておくよ」
 腕の中の恋人がきゅっとわし様の服を掴んだ。


■2024/12/14 No.491
わし様+マスター
「おう!行って来い!」
※クリスマスイベントのネタバレが含まれます。

「打倒!ビーマセーナ!!」
 周回からボロボロになって帰ってきたマスターが拳を振り上げるのを見て、ドゥリーヨダナは厨房から運ばれたおにぎりを頬張った。疲れた時に塩むすびは効く。
 夜遅くに食堂になだれ込んだ、マスター、ドゥリーヨダナ、サンタカルナ達に用意されていたおむすびと味噌汁は染みた。
「策はあるのか?本物のマダコを見せつけてやるとか?」
「やめてやれ、食材を見る目がねぇってのは料理人にとって恥だ」
 厨房からの声にドゥリーヨダナは知らんふりして隣のカルナの口元をわざとらしく拭ってやる。口いっぱいにおにぎりを頬張っていたサンタカルナが何か言いたげにもごもごしているのを眺めて、マスターの目が据わる。
「カルナさん。とりあえず聖杯!レベル100まで!」
 ドンドンドンとどこからともなく積み上げられた聖杯にカルナが目を丸くする。最近急に聖杯が増えたと聞くが無駄遣いが過ぎるのではないだろうか?
「コマンドコードは、秩序、男性、サーヴァント、神性特攻でいいかな?」
「狙い撃ちだな」
「コマンドカードとアペンドスキルは適時投入。このチャンス楽しませてもらおうじゃねぇか!」
 誰かの口調の真似に厨房から声が掛けられる。


■2024/12/13 No.490
カルヨダ
「ダメだよ」

 管制室にサンタカルナがドゥリーヨダナを連れてきたのでマスターは目を疑った。
「誰も怒ってないよ?」
「謝罪が必要だとは」
 カルナが手を引いているドゥリーヨダナを振り返る。今回は身に覚えのない人悪のカリスマは慌てて首を振った。
「そちらが呼んだのではないのか?」
 問いかけにスタッフ達は顔を見合わせ、カルナを見た。
「今回のイベント。親子の絆が求められていると聞く」
「予想だよ。予想。外れることもありえる」
 ダ・ヴィンチちゃんの言葉にカルナはドゥリーヨダナと繋いでいた手を掲げた。
「オレとこれは義理とは言え親子だ」
 カルナの堂々とした宣言にマシュが頷いた。
「確かカルナさんはドゥリーヨダナさんの手でクル王家に養子として迎え入れられたんでしたね」
「まあ、息子の方が年上とか昔は稀によくあることだよ」
「え、カルナさんが年上なの!?」
 驚いたマスターがふたりを見比べる。どう見ても、その
「わし様の貫禄には年齢など関係ないということだ」
 ふふふん、と胸を張るドゥリーヨダナの手を繋いだままカルナはダ・ヴィンチちゃんを見つめた。
 その千の言葉より雄弁な眼差しに少女は首を振る。
「つまりは特異点に連れていきたいとの事だね」


■2024/12/12 No.489
わし様+キャストリアとオベくん
「わし様は休みが欲しかっただけだ!!」

「メンテ!それは自由と解放の言葉!」
 ドゥリーヨダナの朗々とした宣言にキャストリアが続く。
「メンテ!それは休日と
 上手い言い回しが思いつかず言い淀んだ彼女に、白い服を着たオベロンがグラスを軽く上げた。
「そこは憩いとかなんとかそれらしい事を言っておけばいいんじゃないかな?」
「さすが演劇生まれのサーヴァントは違うな」
あまり褒めないでくれる?」
 王族の評価にオベロンは赤いワインを喉に流し込んだ。
 宴である。ドゥリーヨダナ、キャストリア、オベロン。周回地獄メンバーによる慰労会は突然のメンテで大喜びしたドゥリーヨダナによって彼の部屋で開催された。
 彼らのマスターは戦闘が苦手だ。どのくらい苦手かというと無策で突っ込んだオベロンの幕間に二度と行かなくなったぐらいに苦手なのだ。なので脳筋でも確実に勝てるこのメンバーに休みはなかった。
 オベロンがカナッペを摘む。酒よりも食べ物のキャストリアは上質なスモークサーモンをかじっている。
 しばらく無言の時が流れた。ゆっくり食事を取れるのは何ヶ月ぶりだろうか。
「ドゥリーヨダナ!やってくれたね!!」
 その空間に突然飛び込んできたのは、ダ・ヴィンチちゃんだ。その手にはメンテのお知らせの紙が握られている。


■2024/12/10 No.488
ビマヨダ+食堂メンバー
「それがあいつのやり口なんだ」

「でも、あの子ってかわいいじゃない?」
 食器を片付けて戻ってきたビーマの珍しい愚痴にブーディカがそう答えた。
 エミヤが頷く。水音がカチャカチャと流れた。大量の洗い物に女性は手が荒れるだろうと自ら皿洗いを始めた弓兵は洗い終わった大皿をブーディカに渡す。
「宮廷育ちと聞くが、なかなか感情が分かりやすい御仁だ」
 大皿を受け取ったブーディカが丁寧に拭きビーマの手の上に積んでいく。そのビーマはあからさまに顔をしかめた。
「ろくでなしだぞ。あいつは」
「注文は多かったでちゅが的外れなものではありまちぇんでした」
 小さなテーブルでノートを広げ明日の献立を考えていた紅閻魔が顔を上げた。
「ビーフシチュー、五目炊き込みご飯、酢豚、おでん、なんでも食べまちゅね」
「必ず食べてから文句を言うんだよねー」
「手放しで喜んで貰えるのも料理人冥利に尽きるが、的確に批評されなければ上達はない」
 宿敵への擁護に唸るビーマの手にブーディカが最後の食器を乗せる。
「顔をちゃんと見てみるといいよ。分かりやすいからさ」
「あいつの顔なんて見飽きてる。それに」


■2024/12/09 No.487
カルジナ+カルヨダ
「ふたりなら待てるから」

 カルデアから全てのサンタがいなくなって、一番嘆いたのは子供達ではなく──。
「かぁるなぁああ!どうしてわし様を置いていったのだ!」
 トラウマを抉られたドゥリーヨダナであった。子供のようにわんわんと泣き、周回も食事も拒否する有様。
 なまじ心情が分かるアシュヴァッターマンは泣きわめくドゥリーヨダナの周りでおろおろするばかり。
 そんな情けない状況を引っ叩いたのは、インドの女神──とは厳密には言えないガネーシャ神だった。
「カルデアのサーヴァントなんだからまた会えるでしょ!はい、顔を拭く!お鼻ちーんして』
「ちーん」
 座り込んで幼児のように鼻をかむ大柄な成人男性の頭を彼女は撫でた。
「カルナさんは事情もなくいなくなる人じゃないっスよ。それに強いから何があっても帰ってくるだろうし」
 彼女の声が少し震えたのをアシュヴァッターマンは気づいた。だが彼は雪道で起こった悲劇を知らない。それを知るカルナは不在だった。
「わし様のカルナは強いのだ。まず負けたことがないのだ」
 自分に言い聞かせるようなドゥリーヨダナの言葉にジナコは彼の隣に腰を下ろした。ゲーム機を差し出す。
「カルナさんが帰ってくるまで一緒に遊んであげてもいいっスよ」


■2024/12/09 No.486
わし様+マスター
「そういうところ」

「姫プレイはよくないよ」
「おまえほどではないと思うがぁ?」
 カルデアで流行っているネットゲームをしながらのマスターとドゥリーヨダナの会話である。
 マスターがサーヴァントから素材を貢がれるのは今に始まったことではない。厳密に言えば日々のクエストも戦利品を得てくるのはサーヴァントだ。
 そして、まあ予想通りとは言えドゥリーヨダナはカルナとアシュヴァッターマンから貢がれていた。
 元々真面目はふたりである。ドゥリーヨダナが来る前からこつこつとレベル上げをしていた彼らに貢がれて、ドゥリーヨダナはあっという間にランクを上げていた。
「円卓連中も、十二勇士の連中もお互いにやりくりしているというではないか。まあボイラー室横は同士討ちをしているらしいが。サムライこわぁい」
「そのサムライの末裔が横にいるんだけど?」
「サムライはショーグンに貢ぐものだろう?そのレアアイテムをちょっと分けてくれてもいいではないか?」
「将軍は王族じゃないよ。いつまでもアイテム頼りだと
 マスターの手が止まった。
「んー?アイテム頼りだと?」
 問い返すドゥリーヨダナの成果は決してアイテムだけでは成し得ないものだった。爆速でランクが上がった事を納得出来るくらいに。マスターはため息をつく。


■2024/12/07 No.485
動物パロ ビマヨダ
「恩返しに来てやったぞ」

「先日助けられた猫だ。したくないが恩返しに来たぞ」
 そう言って我が家でふんぞり返っている珍しい紫色の長毛種は確かに先日車にひかれかけていたのを助けた猫だ。
 だが、この猫。恩返しに来たと言いながら何もしない。それどころか飯を寄越せ(高級ネコ缶か俺の手作りしか食べない)、ブラッシングしろ(長毛種なので手間がかかる)、撫でろ(俺も仕事があるんだが)と手間ばかりかかる。
 それとは別に最近は庭に動物らしき死体がいくつも転がるようになり気味が悪い。
 こいつが原因ではないのか。
「ああ忙しい、忙しい。鶴の奴が助けられたら恩返しするものだと言うからわし様がこのような下賤な仕事をしてやっておるのだ。土下座して感謝するように」
 そうほざく猫を捕まえて、近所の公園に置いてきた。
 猫は戻ってこなかった。
 わがままな鳴き声も聞こえない静かな夜。こんこんと庭に続く窓を叩く音がする。それが割れた。
 あの馬鹿猫!!と飛び起きる。ベッドから出るより先に黒い影達が俺に飛びかかってきた。
 俺の体中を押さえつけながら影達は笑う。『奴らがやっといなくなった』と。
 ──ああ、あいつは本当に俺を守っていたのだ。
 動けない俺に獰猛な口がいくつも開かれる。そこに猫の鳴き声が響いた。


■2024/12/06 No.484
わし様+マスター
「世界を救うというものは」

 ドゥリーヨダナは気まぐれだ。
 周回は嫌がって駄々をこねるのに、特異点にレイシフトする時はどこから聞きつけたのか必ず管制室にやってきて連れて行けと駄々をこねる。──どちらにしても駄々をこねられているのでは?マスターは訝しんだ。
 ともかく、その成人男性駄々こねチャンピオンは微小特異点で楽しそうに戦っている。殴る蹴る宝具を放つの大活躍だ。いつも周回でもあれくらいのやる気を見せて欲しい。
 その様子を付き添いのカルナさんが小さな子供を見守る保護者の瞳で何度も頷いている。
 同じくアシュヴァッターマンは汗を拭いたり(サーヴァントは汗をかかない)、カルデアから持ち出したエミヤ特製ジュースを飲ませたり(サーヴァントは喉が渇いたりしない)とサポートしている。
 もともと大したことの無い特異点だ。マスターが限界まで育て上げたドゥリーヨダナはすぐに黒幕を突き止めた。
 歩み出ようとしたマスターを遮って、ドゥリーヨダナが胸を張り、とうとうと口上を述べる。そのドゥリーヨダナと両側に控えたカルナとアシュヴァッターマンの背中を見ながらマスターは有名な時代劇のシーンを思い出していた。
 あっという間に戦闘にもならない蹂躙が終わる。ドゥリーヨダナが晴れやかに振り返った。
「楽しいものだな!」


■2024/12/05 No.483
生前カルヨダ
「その男は生涯彼に仕えた」

 殴打の音が響く。
 血は穢れ。王族の前で下賤な血を流すわけにはいかぬ。よってこれはわし様の前で行える罰としては妥当な物だ。
「お許しください!ドゥリーヨダナ様、どうかお許しください!」
 打ち据えられた罪人の懇願を聞き取ってわし様は手近な侍従に視線を流した。彼はすぐに読み取って歩み出る。
「おまえごときが誰に許されて尊き方の名を呼ぶのか」
 ごきり、と音がして罪人が悲鳴を上げる。そこに奴隷に先導されたカルナが駆けつけてきた。
「ドゥリーヨダナ、何事だ」
「どうせ聞いているのだろう?不逞の輩に折檻しておる」
 珍しくカルナがあからさまに顔を歪めた。そして躊躇いなく膝をつく。
「我が友よ。御者の息子たるオレが同じ事を言ってもおまえはオレを罰したことはない」
 あからさまな嘆願にわし様は眉を寄せた。
「おまえはおまえとコレが同じモノだと言うのか」
「オレがおまえに見出されなければそこで打ち据えられているのはオレだったろう」
 ありえそうな仮定にわし様は手を軽く上げた。殴打が止む。わし様はカルナだったかもしれない罪人を見下ろした。
「おまえは侮辱したカルナに助けられた。次はおまえがカルナを助けるがいい」


■2024/12/05 No.482
生前アシュヨダ
「そういうところも好きなんだ」

 眼の前で槍を交差されて俺は足を止めた。
「ここから先はカウラヴァの王宮です」
 扉を守る衛士の言葉に先に行っていたヴィカルナが振り返る。だが、
「パーンダヴァ派のドローナ師の息子を通すわけにはいきません」
 そう言われてヴィカルナは口を閉ざした。
 当たり前だ、父の言葉は絶対である。そういうしきたりだ。もし俺が親父にカウラヴァの情報を盗んでこいと命じていれば俺に拒否権はない。
 いつもは分かっていたのに忘れていた。カウラヴァでは俺は部外者だ。黙って引き返そうとしたその時。
「待て待て待てー!!」
 絶妙なタイミングで王宮から現れた旦那が眩しく見えて俺は目を細めた。
「アシュヴァッターマンはわし様の友だ!父が誰であろうと関係ない。わし様はアシュヴァッターマンを信頼しておる。アシュヴァッターマンもわし様が好きだよなぁ?」
「ああ、俺はあんたが好きだぜ。旦那」
 慌てて槍を上げた衛士の間を通った旦那が俺の肩を組む。俺をカウラヴァに取り込んでいると知らしめる分かりやすいパフォーマンスだ。
 小狡い旦那はこうなるのが分かっていてタイミングを測っていたのだろう。でも俺が認められた事に違いはなく。


■2024/12/04 No.481
アシュヨダ
「若いおまえには分かるまい」

 セックスも好きだけど、俺は旦那のベッドで転がるのが好きだ。ふかふかの枕に顔を埋めると旦那の匂いで頭の中がいっぱいになる。
「アシュヴァッターマン、」
 呆れたような声に俺は顔を上げて寝室に帰ってきた旦那を見上げた。
「旦那、またシャンプー変えたのか?」
 問いかけると旦那は呆れたように息を吐く。
 最近、旦那の香りは3日と空けずに彩りが変わる。最初は新しい恋人が出来たのかと思ったが、旦那は恋人は見せびらかすタイプなのでそれはない。(俺の時は一ヶ月ぐらいカルデア中を連れ回されて自慢された)
 だからこれは旦那のいつもの飽き性だろう。
「旦那、カルデアの物資も多くねぇんだ。あまり使い込むと怒られるぜ。そうでなくてもこのところ新宿のアーチャーと仲がいいって警戒されてんだからさ」
「シャンプーぐらいの素材は稼いでおる。バーの教授とは同士なだけだ」
「同士?」
 しまった、という顔をした旦那に俺は体を起こした。
「悪のカリスマと何の志を同じくしてんだ?旦那?」
 ろくでもない企みは早めに知っておくに限る。詰め寄った俺に旦那は目を逸らせた。
デオドラントだ」


■2024/12/03 No.480
アシュヨダ
「おまえだったな」

 アシュヴァッターマンはわし様が寝ている時は触れようとしない。
 事後どろどろになった後もわし様が眠っていればそのまま放置して、わし様が起きてから風呂に連れて行く。
「ここは寝ている間にいろいろな場所を清めておくのがびーえる仕草というものではないのか?」
「びいえる???」
 刑部姫のところで読んだ本に書いてあった知識を披露するとアシュヴァッターマンは目を丸くした。
「知らんのか?受けとか攻めとか?リバとか?」
……戦術書か何かか?」
 うーむ。こやつ脳筋仲間とばかり遊んでおったな。知識は力だ。幅広い知識は交友関係を広げるのに役に立つ。例えば図書館の秘密の部屋を借りれるようになったり。恋人とのまぐあいに新しい技術を導入出来たり。
「ともかくだ、わし様が寝落ちした時は目が覚めるまでにわし様の体をぴかぴかに拭いて綺麗にしておけ」
「からだを、拭く」
 些細なはずの要求にアシュヴァッターマンは青ざめた。
「アシュヴァッターマン?」
……あなたの体をもう一度清めろとおっしゃるのですか?我が王よ」
 泣き出しそうな顔にわし様は悟った。あの時、わし様は血と泥に塗れて死んだ。それを清めてくれたのは。


■2024/12/02 No.479
カルヨダ+アシュくん
「その恐怖が答えだ」

「ドゥリーヨダナが口をきいてくれない」
「そりゃそうだろ。俺だって旦那が同じ事をしたらいい気はしねぇよ」
 カルナとドゥリーヨダナの諍いの相談を受けたアシュヴァッターマンは自身の髪をかきまわした。擁護出来ない。
 アシュヴァッターマンの部屋の小さなテーブルに並べられた茶器は2つ。対面に座ったふたりのサーヴァントにここにいないドゥリーヨダナ好みのお茶の香りが届く。
 カルナが息を吐いた。
「生前、いつもやっていた事だ」
「あの時とは状況が違うな」
「カルデアではサーヴァントは退去するだけだ」
 言い募るカルナにアシュヴァッターマンは手の中で優美な茶器をまわした。どう説明すれば分かるだろうか。
マスターにも怒られただろ?」
「あの時マスターは安全な場所にいた」
「そういう問題じゃねぇんだ」
 優先順位の話をし始めたカルナにアシュヴァッターマンはため息をついた。これは荒療治をしないと無理かもしれない。
「カルナ。想像してみてくれ。もし逆の立場になったらどうする?」
「ありえない。──あれがオレを庇うなど。ない。はずだ」
 途切れがちなカルナの言葉に彼は語りかけた。


■2024/12/01 No.478
アシュヨダ
ちょっとだけ待ってくれ」

「サーヴァントお悩み相談室〜!つよつよ富豪王族があなたの悩みを解決します♥」
 そう書かれた案内を持ってアシュヴァッターマンがドゥリーヨダナの部屋から出て行って1秒後。ノックの音がした。
「要件は?」
「こちらで悩みを相談出来ると聞いて」
 ドゥリーヨダナの問いに答えて部屋に入って来たのは出て行ったばかりのアシュヴァッターマンだ。彼はするするとドゥリーヨダナの前の椅子に座り口を開いた。
「実はずっと悩みがあって、」
「ほうほう」
 アシュヴァッターマンの手の中に握り込まれた案内の紙に気づかない振りをしてドゥリーヨダナは身を乗り出した。
「好きな人がいるんだが、ずっと子供扱いされてんだ」
「おまえほどの戦士がか?」
「子供の頃からの付き合いのせいかもしれねぇ。どうしたら男として見てもらえる?」
 真剣な表情にドゥリーヨダナは考え込む振りをする。
「そこは強く抱きしめて熱いキスと愛の言葉だろう」
 アシュヴァッターマンが立ち上がったのでドゥリーヨダナも立ち上がった。硬い腕がドゥリーヨダナの背中にまわされて、ぬくもりが伝わる。
「キスはしないのか?」


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