ばんりさん、と名前を呼んで腕を抱いた。そのまま顔を擦り付けると、なに、どうしたの、と苦笑される。回ったアルコールがわたしの脳を柔らかくして、普段なら躊躇うような行為も簡単にできた。とにかく体温を、万理さんの存在を強く感じたくて、めちゃくちゃな体勢で縋り付く。
甘やかすみたいに頭や腕が撫でられ、その優しい手付きに一段と熱くなった顔が勝手に緩んだ。好き、と言葉にするともうそれ以外のことが考えられなくなり、わたしを脅かしていたはずの何もかもが消失する。ここには確かな安寧しかない。好き、大好きだよと繰り返すと、万さんがわたしの顔に手を当てて、どこか心配そうな視線が向けられる。
「顔あつ……これ、熱ないよね? お水飲まないから……」
「ん〜……ふふ、ばんりさん」
ほら、とグラスに入った水が差し出され、受け取ろうと思うものの万理さんの腕を離したくなかった。この貴重な一秒を、失いたくない。
「のませて……」
「うん。持ってるから、口つけて」
「そうじゃなくて……くち」
ずっと微睡みの中にいるような気分だった。ふわふわと定まらない頭で、だからこそ今だけは全て酔いのせいにして万理さんに甘えてしまいたかった。これはきっと悪いことで、いい顔はされはいかもしれないけれど、それでも、自分を見失っているときしか素直に委ねられないことを今だけは黙って許していてほしい。
「ね、ばんりさんがのませて……」
不安と期待で声が揺らいだ。言ってから後悔する。けれど、嘘だよごめんね困らせて冗談だから、と言葉にする前に、万理さんに口付けられた。直接喉に流し込まれた冷たい水はわたしを正気に返すことはなく、むしろ内側を溶かしていくように体内で煮立っていく。
「……これでいい?」
自分で望んだことが呆気なく叶えられる、この幸福のなかで、どうやったら正気でいられるのだろう。呆れたような、子供をあやすような顔。それでいて声色に愛しさが滲んでいることを勘違いだと思いたくはなくて、夢を引き延ばすみたいにして、もっととねだる。
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